第20話 アポカリプス・イブー2
あなたが
指折り数える彼女から目線を外して、身体を起こす。怪物たちがはけて澄んだ空、視界の奥に広く鎮座していた巨大な風の帯がゆっくりと薄くなっていく。
桃色の
惑星『
「私たちは突き止めた、世界の終わりまで。けれど遅すぎた。
ほら、あれが。そう言って、立ち上がったシルダリアが指をさす
しかし、直後に遠く見えるそれの表面を火が覆った。急造のために不出来な部分があったのか、宇宙機は大きく月に重なる高さまでくると、獣の鳴くような音を立てて炸裂してしまった。
世界を滅ぼす大災害の群れ。紅く染まっていく翼と共に思い返す。頻度の上がっていた
明日のいまごろには世界が終わり、俺たちは全員死ぬ。そんな頭のおかしいふざけた話があるらしい。俺の理解を置き去りにして、夜の中天に座した月はゆっくりと傾き始める。
シルダリア、彼女の計画にあった強行軍の速度でいえば、俺たちはいまごろ
いいえ、私も馬鹿よ。思ったより早かったの。
次からは、一日ずつで別の州に渡りましょう。レーグルさんにも、この
いつか聞いた言葉が脳内で反芻される。世界の滅亡について知っていて、ここに至るまで教えてくれなかったシルダリアに怒りは湧かなかった。彼女をしてどうしようもないものを伝えられても、きっと何もできなかっただろうから。
仰向けになりながら、俺は平凡にも自分の半生のことについて思い返した。失った家族とこれから失われる全員のことが頭に浮かび、翼がさらに濃く紅く染まる。上バイコヌールが墜落した。みんなで
涙は流れない。結局何ものにもなれず、何ものをも守れず、何もなせないらしい空虚なこの人生は、あまりに冷たく乾いているばかりだった。もはや喉まで迫って首を絞めようかという虚無の紅色を纏うと、地面が俄かに揺れはじめ、シルダリアが飛び立った。紫電を放つ日輪にも似て円状に並ぶ八枚の
「私は私の星に従う。諦めていない。私に一日を与えることがどういうことか、こんな世界を作った性悪な神様に教えてやる。あなたはどうするの」
――必要ならみんな終わらせてあげるけれど。
強い視線で俺を睨んだあと、彼女は
見上げて、シルダリアと目が合う。俺は二人を、きっと彼女は
降りてきてくれ、四人で
「やだ、アコウギ格好いい。最高よ、結婚しましょう。空は好きになった?」
「もし、心からそう思えるようになったら、お願いするよ」
夜明け前、眼下に波に呑まれて爆炎を上げる
「……そうか、オレは、立派な配管工にはなれなかったな」
空を往く。地平の彼方から日が生まれ、昇る。この一回。今日の夜明けが、人類の見る最後の朝日だ。辿り着いた
「あれ、
鬱蒼として無限に続くかに思える森の上をいくらか進み、特殊な地形が眼前に現れてきたところで、シルダリアが驚いたように口にする。彼女が言ったことには、ここから先は第五禁足地。禁足地には侵入を制限される理由がある。
しかし、俺たちの眼前、平らな頂に低い雲を冠する山の周りには何の影もない。ただ透明で澄みわたった空気が満ちているだけだ。日の出る方角に移動したこともあって、もう太陽は中天に座している。飛空はかなりの時間にわたり、疲労の限界に近かった。この辺りを旋回して、着陸可能な場所を探そう。シルダリアに提案し、最後の力を振り絞り、全てが見下ろせる高度まで飛び上がる。
「何……これ……」
そして、それは、視えた。
衝撃のために俺とヘンダーソンは何も言うことができず、驚いて口を開けたのはシルダリアだけだった。第五禁足地、人類未踏の岩山の上。そこには、円形に並べられ、眩く点滅する
機能している。俺たち現人類の黎明以来、世界の至るところに散らばって存在し、その正体が知られないままやっとのことで基準単位や最新軍事兵器の砲弾として利用されるしかなかった旧時代の構造物が、数多く、恐らく正規のやり方で機能している。
混乱する頭を振って、もっと注意深く目を向ける。
唖然とする全員。およそ数十秒の沈黙を不審に思って神輿からそっと顔を出した黒髪の小さな少女は、眼下の建物のなかにそびえ立つ研究施設や宇宙機の射場などを目にすると、はっと全てを思い出したような口調で、こうつぶやいた。
「――つくばだ」
空を嫌う人たち 第五章 旅の終わりへの島 ――了
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