お題「ツイッターが止まったー」
SNS。ソーシャルネットワーキングサービス。
そう言われても、ピンと来ない。
いろいろなサービスが始まって終わっていく。
付き合いではじめて、なんとなく空気を読んでみて、一つ二つ、真似事のように投稿して、儀式のように色が変わるボタンを押す押す押す。
何が楽しい?
現代の苦行だろ。
和歌とか俳句を考えていればよかった時代が懐かしい。どちらも作れるわけではないけれど。
そんなんだから、僕はツイッターに興味はない。
ただし、好きな漫画家がそこにいるのなら、話が変わってくる。
好きな小説家がそこにいるのなら、だいぶ話が違う。
それはもちろん、始めるさツイッター。
フォローするさ、次から次へ。
返ってこないの知っていつつ、フォローさせていただきますと、不慣れな挨拶のリプライだってしてしまうに決まっているさ。
そうして、テキトーに撮った雲の写真をアイコンにして、僕のツイッターは始まった。
♪♪♪
あー。
『ツイッターが止まったー……』
ツイートボタンを押す。
1.2.3……。エラーメッセージ。
『ツイートできない事をツイートしようとした』
1.2.3……。エラーメッセージ。
電車に揺られながらお約束を二度ほど繰り返す。
クジラが現れなかったのが、少し寂しい。
これはもしかして、割合的には「古参」になっているのだろうか。
いや、まさか、長続きしない三日坊主の帝王と名乗れるほどの僕がそんなわけはないだろう。
ニュース記事をさらさらと読み飛ばしながら、そういえば今日はあの作家さんの曜日だ。
投稿されるのは、今日はどんな新作かなぁなどと、開けないツイッターを再読み込みしてしまう。
くるくると読み込み待ちを眺め、今度はメールをチェックする。
返信漏れは、無いよな。
そうしてまた、昨日届いたたった2文字のDMが目に入り、顔が熱くなる。
ツイッターで知り合って、同じ漫画好きな、三度会った事のある、女性。
長続きしないはずのツイッターは細々と毎日呟いている。
インターネットで出会うなんて恐ろしいと思っていたはずなのに、ツイッターで知り合ってから男女関わらずにもう何人と会ったかわからない。
好きな漫画、好きな小説、好きなアニメ、好きな歌、好きなテレビ、好きな映画、好きなゲーム。
無数の「好き」をきっかけに、いつの間にか知り合って、もっと知りたくなる。
何度も読み返して返信したはずのDMを、またもう一度、読み返してしまう。
──今度の新作映画、一緒に行きません? それで、そのまま感想会しましょー!
そんなDMに、唐変木はさささっと返す。
『りょーかい! じゃあ、あの映画だと他に丸さんと角さん呼ぶ感じ?』
一時間、二時間、三時間。
その間、彼女のTLはアニメの実況だったり、アニメ観ながらの片手間イベントマラソンだったり流れている。
返信が、無い。
もしかして、もしかすると、もしかしますか。
目をつぶり、深呼吸。
平安時代のご先祖様も、短歌を詠む時はこんな心境だっただろうか。
DMを送れずに、ツイートしてみたりして。
『勘違いかもしれないけれど、返信を間違えた
気がするので、ちょっとDM送り直してもいいですか』
リプライも付けずに、届かないかもしれないけれど、根性無しにはギリギリの一歩。
普通は、読まれる事も無い、ありふれた、ノイズのような言葉。
こんなツイート、意味が届くのは、たった一人だけ。
ちょうど、アニメのエンディングが終わり、CM、次回予告、エンドカード。
一分、二分、三分……ぽわん♪
ツイートの下、ハートのマークの横に、数字が現れる。
♡1
誰かを確認する必要などない。
たぶん、きっと、間違いない。
なんなら勘違いで、いい。
全く関係ない誰かの、手違いでもいい。
僕は確かに、背中を押されたのだ。
送ったDMを3秒で消して、散々考えた新しい返信を送り直す。
『映画、行きます! 行きましょう! 二人きりで、行きませんか?』
普段は散々な日本語でやりとりをしてるくせに、焦って丁寧語になっているの、我ながら笑えるな。
『りょ』
3秒でDMが返ってきて、僕は声にならない声とともに盛大な溜め息をついたのだった。
♪♪♪
電車から降りて、スマホはポケットに。
待ち合わせ場所まで、時間には余裕がある。
止まったままのツイッター。
足早になる僕。
今日こそは、DM以外の連絡手段をゲットしたいのだ。
了
2020.10.16
習作練習帳 風薙流音♪ @windcreator
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