第16話 思い出

「……眠れなかった……」



今日、彼・陸が経つ。

アイツとも今日でお別れ。


ふと外を見る。




「……雨……本当に今日行っちゃうんだよね…」




時間は刻一刻と過ぎて行く。




「………………」



―――・―――・―――・―――・


「斐音さん……」



―――・―――・――・―――・―――・


「すみません……後、どれ位かかりますか?」


「今日は、いつもより渋滞してるから、ハッキリとした事は言えないねーー。いつもなら、もう空港についているんだけど……」





そう ――――



本来なら、既に空港についていてもおかしくない時間なのだ。


今日は何故か交通量が多いと、私も薄々気付いていた。


急いでいる時は、何かしら物事がスムーズにいかない気がするように、本当何かのトラブルがない限り、今日もスムーズにいっていない感じだ。


原因が分からないからこそ、焦ってしまう。





「あの……私、荷物を預けた状態で先にタクシーから降ります。連絡先を渡しておきますので空港に着いたら連絡下さい。その時に、タクシー代払います!」


「お客さんは、それで大丈夫なのかい?」

「はい。時間内に、どうしても会わないといけない人がいるので……」

「そうか。じゃあ、後で連絡するよ」

「はい、お願いします!」






無理かもしれない


もう会えないかもしれない


だけど


これだけは伝えたい




『あなたが好き』




もし逢う事が出来たら



私は


あなたに


人生の全てを


捧げる想いで


あなたについていきたい


そう思った







「陸…」




私は彼との思い出が


まるで


走馬灯のように


駆け巡る




『あんたの酒癖、辞めた方が良いんじゃねーの? 超タチ悪すぎ』




初対面で言われた一言


初めて行った部屋


2回目ドキドキした瞬間


初めて交わしたキス



いつも顔を合わせていた


あなたとのお見合い


初めて出掛けたドライブ


体の関係になりそうだった


あの日




あなたといる時間が


気付いたら多くて


あなたの存在は


私の心の中にあった






空港に着いた私




だけど…………




彼の姿は…………




なかった…………






「……陸に……逢いたかった……」



「………………」



「……陸……」




私はゆっくりと崩れ落ちるように座り込んでいく





グイッ

誰かが私の腕を掴みすっぽりと包み込むように抱きしめられた。



「大丈夫ですか?」

「すみません……大丈夫……」




キスされた。



≪えっ?≫



唇が離れる。



「大丈夫って感じじゃなかったですよ。斐音さん」



ドキン



「……陸……?」

「こんなに濡れて風邪引きますよ」

「……ごめん…陸……」

「えっ? 斐音さん?」



抱きしめられた体が離れる。




「……私…あなたが……好き……」

「えっ?」

「私…陸が好きなの!」



私達は見つめ合う。



「それを…言いたかった……」



グイッ

抱きしめる陸。




ドキン




「やっと素直になってくれた」

「…陸…?」

「俺も好きだよ。斐音の事」




ドキン


≪呼び捨て≫



「結婚前提で付き合ってくれるよな?」


「それは…。あれ?……でも…一緒に行くはずだったお見合い相手の人は……?」


「斐音さん以外いませんよ」


「えっ!?」



すると、もう一度キスをする陸。


そのキスは長く私も目を閉じた。


唇が離れ、私を見つめる陸。




「俺が計画的に全部仕掛けたんですよ。斐音さんの想い、薄々気付いていたので斐音さんを信じて試させて頂きました」


「えっ!? 試すって……酷いっ!」

「素直にならない斐音が、悪いんじゃん!」

「だって……」


「まあ、過去に色々あったみたいだし、それ踏まえた上で斐音の事……全てもらうから。俺の計画も詳しく話してやるよ。ところで荷物はどうしたの?」


「ここに間に合うようにつくはずなんだけど、渋滞で間に合わなくて私だけタクシーから降りて走ってきた」


「だからか…」


「空港についたら連絡して貰うようにしている」


「そっか」



そして、タクシーの運転手から連絡が入り荷物を取りに向かう。




「すみません」

「いいえ。こちらこそ、すみません。遅くなってしまって」

「タクシー代、おいくらですか?」

「いいえ、大丈夫です」

「えっ?」


「斐音」

「陸」

「タクシー代は全てこっちの会社持ちになります。経費から落とされますので払わなくても大丈夫です」


「えっ!?」


「荷物は以上になります」と、タクシーの運転手


「あ、すみません。ありがとうございます」


と、私達。



「斐音は、俺の婚約者なんだから。会社の推薦であり、お金の方は心配しなくても全て会社(こっち)持ち。斐音は、俺の傍にいれば良いの。仕事のパートナーと人生のパートナーとして」


「陸…」


「取り合えず、会社には状況を話していますので、明日経ちます。近くのホテルに予約取りました。移動しましょう」



私達は近くのホテルに移動した。



そして、今日までの陸の計画を聞いた。

私が知らない間に陸が動いてくれた事を。



そして、陸に私の恋愛の過去を話した。



陸は


『俺には全て委ねて良いから。俺達はずっと一緒で人生のパートナーも含まれた関係だから。俺…斐音に一目惚れしていたんだ。初めて会ったあの日から』



そう言われた。



私達は1つになり、次の日、日本を経った。



私の左手の薬指には


彼からもらった


指環をはめて ――――





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恋のサイコロゲーム ハル @haru4649

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