第22話「強い奴の背に、弱い奴は集るという話。」


「工多くん! 今日仕事終わりに私と付き合ってくれるかな!?」

「……ゲーム、ですよね」


 わかり切ってはいるが工多は返事した。槇峰からの誘いを。


「そう! それ! 実は取りに行きたいアイテムがあるんだけど、私のレベルじゃ全然だめで……工多君のキャラだったら、一掃してくれるから!」

「まぁ、いいですけど」


 数日前。オンラインゲーム“M.V.P.s”にて悲惨な事件を起こしてしまった工多ではあったが、あの後も社員メンバーとは何度か一緒にプレイする機会があった。


 その中でも、何度も工多とプレイしたがるのは槇峰だった。

 槇峰は見ての通りゲームはあまり得意ではない。本人も下手の横好きだと口にしている。。


 工多と違って性能とか戦略とか全く考えずに、見た目の好きなジョブや装備をかき集めている。しかし、レベルがそう高くない彼女は救いの手を工多にゆだねていたというわけなのだ。


 協力してもらえることを喜ぶ槇峰。頼られるのは嬉しい事ではあるが、ちょっとばかり都合よくつかわれているような気もして呆れる工多。


「……なんというか」


 それを遠目に、上渡川は思った。



「ゲーセンによくいる姫に遊ばれている可愛そうな男子に見えなくもないな、アレ」

「『まぁ? 困ってるなら、別にいいけど?』的なアピールがそれを更に醸し出しているな」


 谷川もセットで。随分とド失礼な感想ではあったが、実際そう見えてしまうのだから仕方ない。


 槇峰の天然姫ムーブを注意してやるべきか。或いは面白いから眺めているべきか。大いに迷うべき点ではある。


 ……だが、決まり切っている。見ている方が面白いに決まっている。


 安全圏からペチャクチャ言えるから楽しくて仕方ないし、被害も少ない。断然後者を二人は選別した。


「いつもお世話になってるから……いつかお礼しないといけないね」

「あー、いいですよ。気にしないでください。よかれと思ってやってることですから」


 槇峰の気持ちに対して、工多は気持ちだけで充分であると答える。

 勿論、キザったらしい男のセリフらしさはない。ライトノベルに登場しそうな、無関心系クールぶった主人公系な塩対応で。


(ウソだな。絶対下心あってやってるぞ)

(“頼られるという事への幸福感と充実感”。それをご褒美にいただきますという下心が見え見えだぞ、宇納間)


 煎餅をかじりながら、上渡川と大淀の二人は工多達の観察を続ける。


「そうだ! 折角だし、何人か誘おうよ! 姫城さんとか、」

「それだけはやめてください」


 工多、即答で提案を拒否。


((あれはガチだな))


 例の事件がある。姫城とゲームで目を合わさえるのは気まずいのだろう。


「じゃあ! 終わった後、連絡するね!」

「はい……では、先に失礼します」


 仕事を一足先に追えた工多は荷物を纏めて仕事場のテーブルから離れていった。社員全員に挨拶を告げた後、いつもと変わらない背中を見せて去っていく。




「……ははっ、やれやれ」


 姫ムーブ、だとか。偽善、だとか。

 結局は見映えの問題。個人差で生じる、目に映るモノと価値観と見え方の違いだ。本人たちに実際そんな気持ちがあるのかどうかは分からない。工多が姫城とあのゲームをやりたくないという気持ちは間違いなく正解だとは思うが。


「こうして良い子ぶって上の立場になろうとする……男って言うのは、欲望に正直なもんだよ。ホント」


 上渡川も荷物をまとめた。

 残業が残っているが完全無視。工多が去って数秒後に、彼女も職場を出ていった。




「……人を遠目で見ながら、適当に点数着けて自分の立場の保身を計って、欲を満たそうとするお前よりはマシだと思うがな」


「お前も大概だぞ。和希」


 去っていく上渡川を見て一言の谷川。その後ろでこれまた一言の大淀。その場に沢山人がいれば無限に続きそうな永久機関は、どうしても人類の間で発生してしまうものだ。

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