第15話「平面も立体になれば、見えないものが見えてくるという話。」


「どうだ~? いいの見つかったか~?」

「いや、まだっす」


 リサイクルショップ。全国チェーンではあるが、この都会でもあまり店舗を見かけない川沿いの小さなお店にやってきているのは工多と上渡川の二人。


「ああ、あった。こういうのをっと」


 そして、もう一人は会社の先輩である谷川を含めた三人だ。

 彼らはリサイクルショップの“人形コーナー”を浅くっている。



 彼らがここへやってきた理由は資料となる人形集めのようだ。

 

 人間の絵を描いているのは主に奈津菜と槇峰の二人ではある……が、二人ばかりに任せるわけにもいかない。


 練習用として、幾つかフィギュアを購入しているようである。


「必要なものは揃えたな、っと」

「「はーい」」


 谷川の発言から、工多と上渡川の二人は手を止めた。

 資料となる人形は一通り集めた。これにてミッションは完了である。



「うーん、遠出してそれなりに代物を発見できたのはいいものの……参った、ちょっと時間余ったな」


 時計を確認すると、会社に戻るには予定よりも時間が早い。

 途中で昼食を挟むことを視野に入れてはいたが、それ込みでもやはり時間が余ってしまう。


「あんまり、ここへ来ることもないし……ちょっと私用で漁ってみようかね?」

「おっ、サボリっすか?」

「うるせぇな~。バレなきゃサボりじゃないんだよ」


 実際、これだけ時間が余ってるのなら少しくらい暇しても問題ない。


「……それにしても、最近こんなお店見なくなりましたよね。子供の頃は結構あったような記憶があるのに」

「まっ、今はネット通販やオークションとかで何でも買える時代だからな~。家から動かずに商品を手に出来る方法が広まった結果、こういうお店の役も減って来ちまったんだろうな」


 昔こそ、古本やら昔のゲームやらはこうして、リサイクルショップなどで購入することも多く、子供の頃に親と一緒に誕生日プレゼントの購入やらで連れてこられた記憶がある。


「ネット、か……いつか人間はその便利さ故に堕落を続け、何れは衰退化した人間達による没落とした時代がやってくるんだろうな」


「リサイクルショップの経済状況一つで、後先不安な未来を描いた新作を作るんじゃないよ」


 次回作のタイトルにもなりそうな予感がした谷川はマイナスな言葉を慎むようにとかれに告げた。



「おっと、フィギュア発見」

 谷川は早速、箱入りのフィギュアコーナーを漁り始めた。


「レアなフィギュアはこういうオンボロなリサイクルショップだと、安い値段で売ったりしてるからな。割と油断ならないんだぜ」


「通販だと高いやつですよね。たまに見かけますよ」


「ネットに詳しくない奴とかは、こういうお店に売ったりしちゃうもんよ。かなりボッタくられるのに勿体ない……まっ、すぐお金が欲しかったり。手続きが面倒だったりするんだろうけどさ」


「そうやって、大淀さんに部屋のコレクションアイテムを勝手に売られたりしてるんですね」


「アイツは俺のオカンか何かか」


 生憎だが、交際こそしているが同棲はしていない。そもそも、肉体言語による説教こそ多いが、他人のコレクションを勝手に金にするような鬼畜の所業だけはしないという事を谷川は釘を刺しておいた。



「……って、ん!? んんんッ!?」

 棚を漁っていると、谷川は目の色を変えて何かしらの箱を取り出した。

「こ、こ、これはァアアアアー!?」

 谷川の表情。それはまるで“古代遺跡の奥地でお宝を見つけた何とかジョーンズ”なみのワクワクとする表情。


「なんだ、このボロフィギュア?」


 ……見た感じ、ちょっと古めの水着フィギュアである。

 作りも大して良いわけじゃない。上渡川にとっては、そのフィギュアはジャンクコーナーに置いてあったガラクタにしか見えないわけである。


「谷川さん、そのフィギュアって」

「あぁ、工多も知らないのか……まぁ、かなりマニアックなゲーム作品だったし、フィギュアもこれ一つだったからなぁ~」


 話によれば、谷川が遊んでいたというゲームのキャラクターのフィギュアらしい。しかもフィギュアとしてグッズ展開されたのは唯一それだけのようである。



「おいおい嘘だろ、これを2000円って……」

「本来なら幾らするんっすか?」

「ああ、こいつはな……」


 谷川はその商品と同じものを検索し、そのプレミア価格を二人に見せつける。



「「……ッ!?」」


 二人は思わず目を見開いた。

 

 その数字は五桁。貼られている値札の二十倍以上の値段である。



「買いにきまってるだろ! こんなの!?」

「……へぇ、こんなのがねぇ」


 上渡川はそっと谷川からフィギュアを受け取り、それといって出来もよろしくないフィギュアをじっと眺め続けていた。


「……コイツをオークションに出せば、金儲けできるんじゃね?」

「締め上げるぞ、上渡川」


 そういう人間が大量に表れたからこそ、オークションやら通販やらに闇が見えるようになったのだと谷川は彼女の額を突いた。


「ほら、返せよ」

「はいはい」


 上渡川はフィギュアの箱を彼に返そうとした。





「……ねぇ、知ってます?」

 そんな中、様子を見ていた工多が急に口を開く。

「中古シールの貼られたフィギュア。特に水着とか露出の多い衣装を着たフィギュアでよくある事なんですけど……」

 それは何気ない豆知識のようなものだった。


「アルコールとか特殊な液体でそのフィギュアを拭いてみると……“何かをかけられた”跡みたいなのが出てくるんですよ。蝋燭の蝋みたいなものなんですけどね……中古、水着の女性。まぁ、何をかけたかって言えば、それは、」


「ひぃぎゃぁああああああああーーーーッ!?」



 上渡川は思わず箱を地面に投げ捨てた。



「俺のお宝ガァアアアアアアーーーッ!?」


 ぺしゃんこになった箱。崩れ落ちる谷川。


 ……何気ない一言が。

 上渡川と谷川の心を、強く抉る結果となった。

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