第02話「君達にとっては贅沢な話かもしれないが、彼にとっては窮屈な話。(2/2)」


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「はーい、というわけで、新しいシナリオライターの宇納間工多君でーす」


 それはある日の事、グループのリーダーが彼を連れてきたのです。


 数週間前、この会社にもシナリオライターはいたのですが、鳴かず飛ばすの日々が続き心が折れてしまったのか、突如姿を消したのです。


 簡単な話、失踪です。


 結果、ゲーム会社でシナリオライター不在という緊急事態が発生していました。


 ネットの方でもシナリオライターを募集するかどうかを話し合い、どうしたものかと混乱を極めていた時期なのですが……そんな時、救世主の如く、彼が現れたのです。


「……」


 だけど、その救世主。

 “凄く複雑な表情”をしていたけどね。


 その時の工多君の表情に浮かび上がる嫌悪感はどれほど凄かったものか。

 『友達の家に遊びに行く』と親に嘘つかれ、歯医者に連れてこられた子供なんかとは比べ物にならない顔。


「騙された……」


 なんか物騒な一言も口にしてたんだよね。


「これが都会……アポイントセールスだったか? いや、或いはキャッチセールだったか……油断した」


 契約云々の話はどうか分からないけど、セールスではないと思うよ。だから、そうやって指を咥えてそっぽを向くのは辞めてくれないかな。


「エロもの書いたら、非エロに復帰しづらいじゃん……どうしよ」


 エロ作家も普通にエロくない漫画描いてるよ。偏見やめようね。

 

 とまあ、色々事情があったらしく、ライトノベル作家を所望していた宇納間君はイージスプラントのシナリオライターとしてスカウトされたわけ。


 ……勿論、リーダーも苦肉の策で彼を連れてきたわけではない。


 素人も同然の人材を連れてきたところで、大ヒットを記録するような面白いゲームが作れるはずがない。しっかりと腕を見据えて、彼を連れてきたのです。



 そう、この宇納間工多君。

 文章力、起承転結。その点に関してはまだまだ未成熟な面は強かったわけですが……“才能”は確かにあったのです。



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 現にこうして、彼はイージスプラントの名を世に知らしめることに成功しました。


 今、ガラスのテーブルに置かれている一つのゲーム。


 その名は【学園のメサイア】。

 ウチのゲームの今までの作品。一作目、二作目はそこら中にありふれた恋愛ゲームだったのですが、満を持して発売されたこの三作目は……今までの内容を全否定するかのような、“凌辱系”のバイオレンス作品だったのです。


 主人公は何処にでもいるようないじめられっ子。


 そんな少年が“精神干渉”の能力を身に着け、片っ端から復讐をするために……学園の男性教師や男子生徒を精神負荷で廃人同然に追い込み、逆に女性教師や女子生徒は洗脳により一方的に強姦する。


 そして、力に溺れ、徐々に歯止めが利かなくなり、退くに退けなくなっていく主人公……友人も親も主人公の事を否定し、次第に物語は最悪の結末へと向かっていく“最恐”のストーリー。もっと悪く言えば、胸糞悪いお話なのです。


 正直、私もドン引きした。ビックリするくらい主人公に救いがなくて。



「……新作、私も読んでいい?」


「別にいいですけど」


 他人からみれば、間違いなく人を選ぶ内容のゲーム。ルートによっては殺人などのスプラッター要素まで出てくるわで散々な内容なんだけど……ネットや口コミでの評価にて、このゲームはただの凌辱ゲームじゃないと噂が広がったのです。


「ふんふん、ほうほう……」


 追い詰められていく主人公。主人公のためを思ってはいるものの方法が見つからず苦悩する友達と親。そして、主人公をここまで追いやった面々の末路。


 ドロドロでありながらも、ドラマなどでもよく見かけるストーリーが展開され続け、引き込まれる人も多かった、とのことです。


「ふむふむ」


 そこには確かな人間ドラマがある。と四つ星と五つ星が大量に残されていました。

 ですが、やはり注意書きには“グロ注意”や“精神的に疲れている人はプレイ非推薦”と厳重な注意が書き詰められていましたが。


「ほうほう」


 発売されてヒットしてから二か月。何故、普通のお話が書きたかった彼がこんな物語を描いたのかは分かりません。



「うん!」



 ですが、私は彼の作風に対し、堂々と言い切れます。




「どうでした?」








「私には無理かな!」


 生理的に無理な気持ち悪さだと。私は笑顔でページを閉じました。

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