第02話「君達にとっては贅沢な話かもしれないが、彼にとっては窮屈な話。(1/2)」


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 皆さん、こんにちは。

 私は“槙峰穣まきみねみのり”といいます。


 ……セーター着てた人。と言えばわかりやすいでしょうか?



 はい、いきなり話が始まってしまったので何が何なのか分からない状態だと思います。


 実際、私もよく分からない哲学と自録伝を二時間ほど聞かされて混乱中の身なのです。どうリアクションするべきか、困っちゃいました。


 そんな話はともかく、まずは企業の紹介をさせてください。


 ここは、ゲームブランド・“イージスプラント”。

 目の前の男の子の発言から察すると思いますが……そうです、結構エッチなゲームを作ってる会社なのです。概要を話すのは少し恥ずかしいものがありますね。


 会社としてはまだそこまで大きくはなく、ゲームの販売もコミケを通じた販売のみと、まだ本格的なフルプライスのゲーム作りに至るまでは費用も設備も完全には伴っていない小さな会社です。


 都会のド真ん中の小さな企業ビルをお借りして活動しています。


 とまあ、規模自体はとても小さい会社で、作っているメンバーもそれほど多くなく、私を含めて六人。しかし、腕は確かな面々であると“それぞれ”が自負しています。はい。


 そうです。自負です。自称です。察してください。


 飛ばず鳴かずを繰り返していたこのグループ。設立して三年近くが経ちましたが……。


 今年、転機が訪れたのです。

 ここ、イージスプラントでついに“ヒット作”が生まれたのです。


 それを作ったのが___



「……はぁ、厨デッキ乙」


 今、あそこで仕事をほったらかし、スマートフォンのアプリゲームに没頭している男の子。


「楽しい? へぇ、楽しいんだ。くっだらな」


 名前は【宇納間工多うなまこうた】。


「一生、壁で〇ナってろ」


 年齢は21歳。髪の毛がそこらの男性よりも長く。前髪も目が隠れてしまうほどに長いのです。それ以外に外見の特徴はほぼない。


 何処にでもいるような“反抗的な男の子”。


「ちっ、なんで来ねぇんだよ……手遅れになっても知らんぞ……はぁ? そこでそれ引く? ねぇわ。マジで」


 高校を卒業後、なぁなぁでパソコンの専門学校へ入学し、その最中でウェブ小説の存在を知り、試しにネット小説を公開し始める。


 最初は二次創作の小説を投稿していたそうですが、それがかなりの高評価を貰ったようで、そこから自信がついたのか、小説家を目指すようになったようです。


「おい、お前煽れる立場かよ。運ゲーの雑魚乙」


 当然、親の反対が強かったらしく、無難に事務職についたらどうだと言われたそうですが……彼はその反対を押し切って、都会へとやってきました。


「はぁ~、くっだらな」


 ライトノベル作家を夢見てアルバイト生活を続けていたという宇納間君。


 しかし、これは運命の悪戯かどうか分かりませんが、彼は出版社にて小説を出すよりも前に……“アダルトゲームの会社で大ヒット作”を産むという珍業を成し遂げてしまったのです。



「次の打ちあわせまで時間あるな……よし」



 そして、その作品の内容がこれまた……非常に鮮烈なものでした。


「種火周回するか」

「仕事しようよ!?」


 私は思わず、宇納間君に指摘を入れてしまいました。

 というか、携帯電話とよくもそんなに会話出来るなと感心すら覚えました。



「おおっ……槙峰さん。いたんですか?」

「ずっと工多君の仕事を見ていたよ!?」


 宇納間君自身、この会社にやってきたことは快く思っていない様子。

 彼はライトノベルにてヒット小説を出したいという夢があったようです。しかし、彼はその舞台に足を踏む直前に、この世界へと引きずり込まれてしまいました。


 彼はこんな場所からとっとと出て行って、もう一度出版社に出向きたいと考えているご様子。


 しかし、ヒット作品を生み出してしまった彼はこの会社にとってはある意味でのキーパーソン。そう簡単には会社も手放したくないのか、必死に交渉などを続けて、彼もなぁなぁでココに残っているようです。



「打ちあわせ前に、作品とか確認しなくていいの?」


「……大丈夫ですよ。ちゃんと昨日の夜に何度も見直したし、ミスもありませんでした。あとは向こうの趣味に合うかどうかの身勝手な会議だけなんですから、せめて気を紛らわせるためにゲームくらいさせてください」


 私たちの会社の若きエースとなった宇納間工多君。

 彼がやってきたのは……一年前の事でした。



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