(中)宇納間工多は悩みを解決したい。
第06話「時間をおいてから見直すと世界変わる話。」
宇納間はある日、ふと気になったことがあった。
二か月近くが経過したが、この会社の分からないところが沢山ある。
彼は見たことがなかったのだ。
学園のメサイア発売以前、ここイージスプラントが制作していたという萌え系恋愛ゲーム。その内容とやらを。
「おっ、どうしたんだ? そんなの持って」
仕事場のソファーにて、以前の作品を手に持ちながらボーっとしていた宇納間の後ろから急に声がかけられる。
「そんな、って……一応、先輩たちが作ったゲームだぞ」
上渡川の発言に対し、宇納間は軽く注意する。
「それ、売れ行きあんまりよろしくなかったらしいぜ」
注意されようが、パッケージで叩かれようが、彼女は前言を撤回するつもりないらしい。
「あと、お前も一応ってなんだ。やってすらいない癖に」
「うっ」
ぐうの音も出なかった。
「おっ、また懐かしいモノを」
「あったなぁ! 今とは真反対で懐かしいね!」
一仕事終えた大淀と谷川も弁当箱片手に対面のソファーに腰掛ける。随分と過去形であるが、忘れ去られる程にこの作品の結果は散々だったのか。
「何処で見つけたんだい?」
弁当箱をくるんだナプキンをほどきながら、大淀は上目遣いで聞いてくる。
「本棚です。たまたま見かけたから抜き取ってきました。どんな作品だったか気になったので」
パッケージを見る限りでは、何処にでもあるありふれた恋愛ゲームである。
金髪ツインテールのツンデレお嬢様、黒髪ロングのハチャメチャ生徒会長、天然不思議っ子のおかっぱロリ、安産型のポニーテール幼馴染など……その辺のライトノベルとやらでも見かけそうなヒロインたちがパッケージを飾っている。
タイトルは『高橋さん、何やってるんですか!』である。
おそらく、この高橋さんというのがこの物語の主人公というわけか。内容からして、ドタバタのラブコメディと予想する。
「それを描いた人曰く、プレイした人をビックリ仰天させるという意味で殴り書きしたロックな作品とのことだぜ」
「もしかして、最後にヒロインからナイフでメッタ刺しにされる展開あるとか?」
「お前は過激・予想外=殺人という方程式どうにかならんのか」
人を殺める以外に人を驚かせる方法がないのかと、上渡川も流石にドン引く。
「んで、なんでびっくりする? このゲーム?」
「“サイバーSFアクション”なんだよ。そのゲーム」
「ビックリ。パッケージ精いっぱいの詐欺じゃん」
どこからどう見てもラブコメのパッケージなのに内容はまさかのSFバトルアクション。近未来ファンタジーだったのである。
「割となくね? そういうゲーム」
しかし、冷静に考えてみれば、こういった外見のゲームで実は中身がそういう内容なのは割と多かったりする。
パッケージなんて要は作品の華を飾るキャラクター達を宣伝するようなモノ。ただのバトルものだったり、維新ものだったりしても……ヒロインがそれっぽい場所を陣取って、可愛らしくポーズをしているものは割とある。
「まぁ、そういった意味で話題を呼んだところまではよかったんだが……ストーリーが酷評されちまったんだよなぁ~。レビューも速攻で☆2の嵐だったし」
その作品の結果に谷川も苦笑いをしている。
「ツイッターも酷いことになってたな。動画サイトでも、こういったゲームのプレイ動画は発売一か月前後くらいは著作権問題で削除されるというのに……この有様なのか、親会社もスルーして、動画の公開を見送ったりと涙が出そうだったよ」
数か月の頑張りは一瞬で塵になった。片方は照れくさそうに笑う三谷、その横では涙ながらに訴える芝居をする大淀の姿。
今となっては面白い過去であったと笑っている二人であるが、ツイッターや動画サイトで散々荒れていたと考えると、二か月前までは笑えない冗談だったのかもしれない。
「中には“返金しろや!”と捨てアカウント使ってまでリプする奴もいたな……全く、発売直後のエロゲなんて言うなれば、ちょっと高めなガチャみたいなものだというのに。買った以上、余ほどのバグとかボリューム詐欺でも返品出来ないのだから、勝手な奴らだよ、買った貴様らが悪い」
「「大淀さん、その発言、絶対外に漏らさないようにしてくださいね」」
その愚痴が顧客に伝わったら、おそらくこのゲーム会社は爆撃されるだろう。色々な意味で。宇納間と上渡川は入念に釘を刺した。
「……ふむふむ。なるほど」
だが実際、彼女の言う通り、レビューを見る限りでは酷評されているのはストーリーであり、ゲームのプログラムには多少の文章誤植とキャラの位置にズレがある程度のバグのみ。ボリュームも8000円前後に相応しい長さだったりと、そこに不満がある者はいない。
だが、そのつまらないストーリー故に、無駄なボリュームが響いたという意見もあったようであるが。
「ゲームの内容を粗方纏めてくれた動画がサイトに出てるから、これを見るといいよ。良い点とダメな点が一斉に出てくるから。KO●Yって言うんだけど」
「それ、取ったら、一生ネットの晒し者になるやつじゃないっすか」
谷川は携帯を片手に、その動画を表示させてくる。笑いながら。
「アンタもアンタで、なんで他人事みたいに笑ってるんですか」
そちらの会社の失態ですよと言いたいのだが、そんなのはガチレスと叩かれるのがオチであろうかと考える事にした。
……動画の長さは二十分。見れない長さではないのでサクっと見る事に。
__。
____。
______。
見た。
「どうだった?」
「凄いっすね」
「でしょ?」
「“でしょ?”じゃねーんだよ。じゃぁ、なんで発表したんだよ」
まずいと思ったのなら修正しろやクソ野郎。それくらいの罵詈雑言はぶつけても罰は当たらなそうな感じがした宇納間であった。
とりあえず、動画を見た感じ。ご都合主義などとにかく酷いという評価。
主人公とヒロインの言ってることも支離滅裂で会話が成立していない。なんというか、見ていて気持ち悪いし、居心地悪い内容だった。
「当時は行けると思ったのさ」
「上渡川さんもどうして、こんな作品にOK出したんですか」
作品の見方にはそれなりに自信があるという上渡川も、何故、このような出来にゴーサインを出したのかが疑問となる。
「当時バタバタしていてな。発表一発目のゲームでいきなり延期になったら不安がられるだろう。だが、今となっては強く反省しているよ。こうなるくらいなら延期してでもチェックするべきだったって」
要は事を急ぎ過ぎたのが原因だったようだ。ある程度の矛盾やご都合展開はスルーした結果、無法地帯のストーリーが出来上がってしまったようである。
「二本目のゲームは反省を生かして長めの期間をおいて作ったんだけどさぁ……今度は普通って評価で終わったんだよ。正直、出した時期が悪かったとも思ってる」
「その言い方、おそらく同時期に凄い作品が世に出回ってしまったみたいな言い方ですけど、タイトルは何ですか?」
「(※携帯機器移植も決定された有名タイトルのため自主規制)」
「あ、あぁ~」
それは仕方ない。と言わんばかりの表情で宇納間は納得した。
出すタイミングが完全に悪かった。二作目は見た感じ、出来は遥かに良くなっているのだが、同時期に出た作品の出来のせいで『ようやく土俵に立った』の評価で終わったようだ。
「とまあ、こんな感じで当時は散々だったのだよ。君の作品のおかげで、信頼を得たのは実に幸運だった。感謝してるよ」
「……」
宇納間は同時、少し困惑もしていた。
自分が書いた、あのバイオレンス作品がここまで評価されてしまう程に……それほどまでに、以前の作品は酷かったというのだろうか。
所詮、未プレイの身に、全ては分からない。
「大淀さん、これ、ちょっとプレイしてみてもいいですか?」
「大丈夫? 時間の無駄だよ?」
製作者側の警告とは到底思えない。
「まぁ、動画が全てを物語っているのだが……いいだろう。隣の部屋のテストプレイ用パソコンを使いたまえ。業務用では絶対に起動しないようにね」
記念すべき一作目を手に、宇納間は隣の部屋へと移動した。
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