第10話 タンガラーダ

 何か必殺技を作りたい。竹が利用できるかどうかは分からないが、何かヒントになればと思っている。セシリアは午後から依頼を1つこなすらしい。川から用水路への取水口に住みついたトゲトカゲの討伐だ。近くだし、Eランクの簡単なものらしい。


 午後は、必殺技を開発するために、村を出て森添いの空き地へ向かった。念のため短槍も持って行く。空き地には誰もいなかった。竹を取り出してみたものの、何か考えがあるわけではないので、とりあえず落ちている枯れ枝をあちこちに刺して的を作る。


 もう6mくらいの距離なら外さない。狙いも一瞬でつく。対人戦なら相当攪乱できる。服が燃え出せば圧倒的に有利になるはずだ。燃え出す場所によっては相手をパニック状態に出来るはずだ。服じゃなくても髪の毛だって良いし。1対1なら巧くいきそうだ。


 竹を使ってみよう。竹の切り口のところに「ウォーター」を使って水を出す。中心を竹の中にすると竹の切り口から節まで水で埋まる。余った水は切り口から噴き出すように地面にこぼれた。


 使えるかもと思い、竹の切り口にやっと入るくらいの丸い石を拾い竹に入れ、節の方まで深く入れる。そして、節と石の間を狙って、「ウォーター」、石は見事に飛んだ。およそ3mほど。何回か石を変えながら試してみたが、空気を圧縮して爆発させるほどの威力は出なかった。失敗だ。


 MPが回復するまで休んで、次は、節と節の間の密閉された空間を狙って、「ウォーター」。竹は割れた、割れて水が噴き出した。ただそれだけだった。「ファイアー」も試してみた、こちらのほうが威力があった。空気の膨張率のほうが大きいのだ。「パン」という音がしてはじけただけでとても殺傷力までは期待できなかった。


 石の中心に水を出したり、火を付けるのは出来なかった。せめて火薬でもあれば遠くから火を付け爆発させることが出来るのだが、この世界には無いらしい。精神的に疲れたので、バンガローに帰ることにした。


 帰ると、アルトが優しく迎えてくれた、癒される。カーラは、ギルドに行きマスターに冒険者の心得を聞いているらしい。マスターも良い暇つぶしになっていることだろう。セシリアはまだ帰ってきていない。


 アルトが突然、抱きついてきた。ビックリしていると、アルトは、「ごめんなさい」といって夕食の準備をしに竈の方に向かっていった。アルトは一番年上でお母さん的な立場になっている。だけどまだ18才、日本にいるときの僕と一緒の年だ。とても大人とは言えない、この世界でも同じだろう。もう少し、気持ちを考えてやらないと。


 カーラが帰ってきた。

「ただいま、ねえねえ、マスターってレベル21でAランクなんだって。凄いでしょ。この村の出身だから引退して、この村でギルドマスターやっているんだって。キングベアや地竜もやっつけたことがあるらしいよ」

「暇そうに座っている姿からは想像が出来ないけど、この村の守り神みたいな人なんだろうな」

「そうそう、奥さんもいるんだって、会えなかったけど、相当美人らしいよ」


 とりとめもない話をぐだぐだしていると、セシリアが帰ってきた。

「ただいま戻りました。はいこれ」

と銀貨6枚と銅貨数十枚を渡してきた。さすがランクが上だけのことはある、僕の倍額だ。

「いいよ、自分で使いなよ」と言うと、

「そういうわけには行きません。ご主人様の奴隷ですから」

と譲らない。僕もお金をあまり持ちたくないからアルトに頼むことにしたいが、さっきのこともあるし、頼みにくい。

「分かった」と言って受け取ることにする。


 どこを拠点にするかを決めないといけない。それで夕食時に話し合った。

「この村は依頼が少ないです。ご主人様のレベル上げにも苦労しそうです。もっと依頼の多い町に行くべきです」

「どうせなら、都会がいいと思います。タンガラーダがここモンテロ伯爵領で一番大きい都市なのでそこに行きませんか」

と、アルトが発言すると、セシリアも、

「冒険者が2人もいるんだから、お金は稼げるので何とかなると思います。武器や防具も揃えられるし」

「もうすぐ冒険者は3人になるよ。あたしも数に入れておいて」

と3人は乗り気だ。


 反対する理由も無いので、

「よし、タンガラーダに行こう。でも、せめてFランクになるまで待って。見習いじゃ恥ずかしい」


 次の日、一角うさぎ2匹の討伐と、はぐれ大コウモリ3匹の討伐依頼を受け、南の草原へと向かう。大コウモリは、羽を燃やすと地面に落ち簡単に討伐を終えた、調子に乗って4匹かたづけた。


 それに対して一角うさぎは動きが速くて苦労した。角を突き出して向かってくるので、槍を突き出したまま「ファイアー」を体の下に出すも一瞬で通り過ぎるために熱さを感じていないようだ。角は何とか防いだが、体当たりされて体のあちこちが痛い。1匹目は逃がしてしまった。


 しばらく休み、また一角うさぎを見つけた。風下から近づき、左後ろ足のアキレス腱のあたりに「ファイアー」、これで動きを鈍くすることができた。あとは槍で突き刺して終わり。この作戦で2匹の討伐を終えた。


 依頼終了の報告しに村に戻り、銀貨3枚と銅貨40枚を受け取り、ランクがFになったのを確認した。

「あと経験値1でレベルアップするぞ、ゴブリン1匹倒してこい」

とマスターから言われ、森に入り1匹倒す、これでレベル9になった。

「あす朝タンガラーダに出発します、いろいろとありがとうございました」

と挨拶しておく。

「そうか、タンガラーダは良い街だ。これからも頑張れよ。あの娘たちのためにもな。1つ注意しておく、奴隷の扱いは主人の勝手だが良い待遇にしているのを認めない奴らも多い。特に言葉使いなんかは、人前では主人と奴隷の節度を守ったほうが彼女のためだ。エルフの奴隷だし」

「でも見た目には分からないでしょう?」

「ギルドでは分かる。街に入るときの検問でもな。エルフだと隠しきれないだろう。奴隷と分かっても、というより隷属の首輪の奴隷だから他の奴にはどうにもならないし、手を出せない。だが扱い方が良すぎたり、悪すぎたりすると異端視されるぞ」

「分かりました。隷属の首輪以外の奴隷もいるのですか?」

「犯罪奴隷と借金奴隷だ。こいつらは期限付きの奴隷だ。拘束具を付けたり、暴力で言うことをきかせる。売り買いも自由に出来る。隷属の首輪の奴隷には期限はない。魔法で制約を受け、強く命令されると逆らえない。主人を変えることが出来ないため、売り買いも出来ない」

「気をつけます。ありがとうございました」


 次の朝、鍵を返して、タンガラーダへ向かう。朝はもちろん、いつものようにセシリアに起こしてもらった。タンガラーダへは乗合馬車が朝と夕で2往復するとのことで利用した。距離は馬車で2時間くらいだ、料金は50マール、4人で銀貨2枚だった。小高いうっそうとした山、森や草原が点在する田舎道だが、広く充分整備されている。メルカーディア王国を東西につなぐラウニオン街道というらしい。


 昼前にはタンガラーダに着いた。城壁で囲まれた都市であり、当然のように検問がある。アルトとカーラは教会発行の身分証明書があるし、僕とセシリアは冒険者カードがあるので問題なく通ることが出来た。ただ、アルトたちは村のことを聞かれ、セシリアは奴隷であることを言葉で確認された、覚悟はしていたようだがショックだったようだ。


 冒険者ギルドに行き、ガビー村から来たこと、拠点をここに移したいことを告げた。ついでにお勧めの宿を聞き、ギルドから100mくらい北の治安の良い場所にある「光の森の泉亭」という宿を選んだ。


 元気の良い女将さんが説明してくれた。

「1泊2食付きで1人銀貨5枚だよ。朝食は昼までならいつでもいいし、夕食は日の入りから3時間までは食べられるから依頼で少しくらい遅くなっても食べられるよ、井戸は自由に使って良いけど、洗濯は別料金だからね」

「さすが都会、高いね」とカーラ。

「大丈夫です」と、冒険者ギルドで掲示板をじっくり見ていたセシリア、やる気満々だ。

「とりあえず1泊で」と銀貨20枚渡す。

「サービスだ、今から部屋使ってもいいよ。明日の昼までね」


 残りは銀貨2枚と銅貨65枚。金欠だ。そうだ、赤い宝石みたいなのがついた杖があった。あれを売ろう。冒険者ギルドの近くに武器屋があったはずだ。そこへ売りに行こう。さっそく武器屋に行くことに、もちろん交渉役はセシリアだ。

「火の杖ですね。金貨3枚で引き取りますよ」

高っ! いきなり銀貨300枚かよ、って何で銀貨に換算してるんだろう。

「最低でも、金貨10枚くらいはするんじゃないですか?」

いいぞ、セシリア、がんばれ!

「それは売値の話です。買い取りとなると、手入れが悪いし、金貨4枚がせいぜいですね」

ここで、僕が、

「ここで武器を買うから、金貨5枚で」

というと、武器屋はにっこり笑って、

「では5枚で、最低でも金貨3枚分くらいは買って下さいね」

セシリアは、あきれた顔をして笑っていた。うっ、失敗したか。


 でも、武器も必要だ。特にセシリアは、片手剣と盾を使いたいらしいし、皮の鎧も欲しい。それをセットで買った。皮の鎧は僕の分も買った。僕の武器は鉄の短槍だ、サービスで磨いでもらった。魔法付きや魔石付きの武器や防具は極端に高いらしい、魔法付きのものは買えないけど、それなりのものをセシリアが選んでくれた、支払いは金貨4枚だった。これで、とりあえずの準備はできた。ゴブリンメイジ様々だ。武器や防具と金貨1枚を受け取って宿に帰る。


 残った金貨1枚は、アルトに預けた。さっそく稼ぎに行かないといけない。セシリアと2人で冒険者ギルドへと急ぐ。1日に最低でも宿代である銀貨20枚は稼がないとやっていけない。ランク差があるので個別で依頼を受けることにした。セシリアはランクDの灰色熊討伐を選んだ、前に倒した経験があるらしい。僕は考えがあって、僕のランクより1つ上のランクEのオオトカゲ討伐を選んだ。成功すれば魔素も含めてセシリアは銀貨20枚、僕は銀貨8枚と銅貨20枚になる。宿代は出る計算だ。

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異世界はバラ色に 里中 圭 @trapezius

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