第9話 初めての依頼

 セシリアがまた体をピッタリとくっつけてくる。おいおいどうすればいいんだと思っていると、カーラのすすり泣きが聞こえてきた。カーラもアルトのベッドに潜り込んでいるらしい。辛く寂しい気持ちを考えてやらないといけなかった。何も失っていないのは僕だけだし。いや、僕も日本での生活を失ってはいるのだが。


 セシリアの気持ちを思いやり、腕を回し、そっと力を込めて抱きしめてやる。セシリアもギュッと力を込めて返してきた。今日はこのまま添い寝だな。と諦めて、今後のことを考えてみようと思う。


 生きていく上でも、セシリアのご両親を救出するためにも何か必殺技が必要だ。火と水と遠距離操作、これの組合せで必殺技を編み出さなければならない。せめて火や水がセシリアの放ったウォーターボールくらいの大きさがあればと思う。ライターの火とコップ1杯の水で何ができるんだろう、相手を攪乱するくらいにしかならないかもしれない。でも、考えろ、何かあるはずだ、・・・。


 あたりは少し明るくなっている。もう朝なのか、セシリアはまだ隣で眠っている。

「知らない天井だ」

この台詞は譲れない、1回は言っておかないと。セシリアが目を覚ましそうだ、寝たふりをしよう。セシリアは目を覚まし、あたりを見回し、そっと顔を近づけてくる、僕は緊張しながらじっと待つ、やった!唇がくっついた。


「おはようございます、ご主人様」

「おはよう」

「起きていらっしゃいましたよね」とにっこり笑うセシリア。

さすがにばれていたか。でも、それで良いことにしよう。


 カーラはまだ寝ている、涙のあとが見える。

「カーラ起きて」、セシリアがカーラを起こし身支度をさせる。

「もう2、3日ここに泊まろう。今後の計画も立てなきゃいけないし。この村が良いところなら、ここを拠点にしても良いし」

「そうですね。特に行きたいところは無いし、ご主人様のレベル上げもしないといけないし」

「じゃあ、朝食の後にギルドに行ってくる。できれば依頼も受けたいし」


 アルトは早く起きていたみたいで、朝食の準備はほとんどできていた。朝食は、パンと野菜のスープだ。量は多く、食べきれないかと思ったが、みんなよく食べて残らなかった。アルトは今日ここを離れると思ったのかお弁当も作っていた。肉の薄切りとレタスみたいな野菜を挟んだサンドイッチだ。


 3人は掃除をしながら、何か買わないといけないものがあるか確認するらしいので、ギルドには1人で行く。ギルドは道路を隔てた正面にあるので迷うことはない。ギルドに入るとマスターがいた。

「おはようございます。朝、早いですね」と挨拶すると、

「おう」と返事を返してくれた。人見知りモードが少し解消された。


 連泊することを告げ、2日分の宿泊費、銀貨6枚を渡す。そして掲示板に向かう。セシリアとはレベル差があるので1つ差になるまでは1人で依頼をこなすほうが良いはずだ。見習いレベルのGランクは、貢献ポイント10で卒業できるそうで、初心者レベルのFとなる。貢献ポイントは累積され、20でEになり、中級者のDになるには50ポイント必要になる。同じレベルの依頼をこなすと3ポイント、1つ下は1、1つ上なら5、2つ上なら10の貢献ポイントが獲得できる。失敗すると-5、連続失敗は-10ポイントとなる。パーティーの場合はもっと厳しいらしい。


 依頼は同時に2つまで受けられるとのことなので、Gランクのゴブリン3匹の討伐と白ヨモギの10株採取をはがしてマスターに渡す。

「ゴブリンロードを倒したらしいが、1人だとゴブリン5匹の集団がいたら近寄るなよ、命は1つしかないんだからな、それにお前が死ぬと奴隷の彼女も生きていけないんだからな、忘れるなよ」

「わかりました」と言ってうなずく。

「これが、白ヨモギだ。森側の門を出て少し坂をのぼると小川がある。そこにあるはずだ。似たような草は無いからすぐ分かる。取り尽くすと生えてこなくなるから10株しか取るなよ、低レベルだが魔物もうろうろしているので気をつけろ。それから、ゴブリンの討伐証明部位は左耳だ」

白い草はギザギザで分かりやすかった。さすがGレベルの依頼だ。


 バンガローに帰り、依頼を受けたことを3人に告げると、セシリアが、

「私も行きます」と準備を始めたので、

「これは僕の初めての依頼だし、1人でやれるよ。Gレベルの依頼なんだから大丈夫。それよりこの村の治安のほうが心配なので、セシリアは2人を守っていて欲しい」

と答えた。セシリアは、それでも行きたがったが、何とか説得した。

「弁当を持って行く」とアルトにいうと、

「近くなら帰ってきて食べてください。そのほうが安心できます」

と言われたので、短槍とナイフとコップ、薬草とゴブリンの左耳を入れる袋を持って出発した。


 西側の門を抜け、森に入る。坂を上り小川に出たところでゴブリンに出会う。1匹だけだったので、正々堂々と一騎打ち。槍で一突きすると簡単に殺せた。ナイフと槍では相手にならなかった。実力の差なのか武器の差なのかは分からないが、僕も少しは強くなっているはずだ、レベル8だし。


 白ヨモギは簡単に見つかった。10株だけ取り、袋に詰める。これであとゴブリン2匹で依頼達成だ。もう少し上のほうに行ってみよう。坂を上っていくと竹藪があった。何か武器に使えないかなと、直径3cmくらいの細い竹を50cmくらいに切り、袋に入れておく。今、考えつく使い方は水鉄砲くらいだけど威力があれば石か何か飛ばせるかもしれない。


 後ろでガサッと音がする。ゴブリンだ。アーマードゴブリンが1匹とゴブリンが2匹。アーマードゴブリンが突っ込んで来るので、「ウォーター」、目の前に水を出す。コップ1杯の水だが、それに顔を突っ込んでビックリして立ち止まったところに、右耳めがけて「ファイアー」、耳が焼け思わず体を捻る。その隙を逃さず槍で一突き。アーマードゴブリンを倒したところで、あとはゴブリン2匹だけ、槍を振り回し、倒すのに成功する。


 依頼達成だ。2時間はかかっていないと思うので、昼食にも間に合うだろう。とりあえず帰ろう。他の魔物には出会わず村に着く。村に帰ると、あたりまえかもしれないが、けっこう人がいた。みんな人が良さそうに見える。治安は良さそうだ。挨拶をかわすだけで急ぎ足でギルドへ向かう。報告するためにギルドに入る。やはりマスターが暇そうにカウンターに座っている。本当に暇そうだ。


「終わりました」と言って、薬草10株とゴブリンの左耳を4枚渡す。

「依頼はゴブリンの耳3枚だから1枚は捨ててくれ、薬草は確かに10株。じゃあ、カードを出して」

カードを出すと、

「魔素が11溜まっているから、それも換金する。依頼達成料が銀貨2枚と、魔素が銀貨1枚と銅貨10枚、合わせて銀貨3枚と銅貨10枚だ、確かめろ」

「ありがとうございます」

と受け取るとマスターは、

「この近くは、はぐれたゴブリンだけしかいないはずだが、アーマードゴブリンまでいるとは、ちょっと問題だな」

とつぶやいている。返事の必要はなさそうだ。貢献ポイントは6になった。


 バンガローに帰ると、セシリアとカーラが木の枝で作った木剣で戦っていた。どうやらカーラに剣を教えているらしい。

「ただいま」

「お帰りなさい、ご主人様、依頼はうまくいきました?」

と言うセシリアに対し、にっこりうなずく。カーラは、こっちを見ずに隙ありとセシリアに打ち込む。セシリアは余裕でかわし、カーラの手首を打つ。『カラン』と音がして試合終了。カーラの舌打ちが聞こえたようだ。


 あらためて、

「ただいま、剣の稽古をしていたの?」

「はい、15になったら冒険者になるんで」とカーラ、

「15才の誕生日はいつ?」と聞くと、

「赤龍の1日、2か月後です」、いつなのか分からないので、

「セシリアは?」と、セシリアにも聞いてみる。

「鰐の16日です。3か月前です」と答える。

1か月の長さは月によって変わるので3か月前といっても意味はないのかなと聞いてみると、龍の月の長さの30日、5週間を便宜上1月というそうだ。僕には分かりやすいので安心した。


 昼食のとき、アルトにも誕生日を聞いたが、狼の13日だそうだ。よく分からん。

「昼からも依頼を受けられるのですか?」

とアルトが聞いてくるので、

「いや、昼からは魔法の練習をしたい。なにか必殺技を作りたいし」

と竹を取り出す。

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