第8話 冒険者登録

 ケンプ村を出た僕たちは、まず東に向かいトリニダの森を完全に抜ける。そして南に森沿いの道を進む。

 セシリアは、緑のキュロットに、黄緑のシャツとジャケット。カーラとアルトは、黒と灰色の服を着ている、喪に服しているのか地味にまとめている、だが若者の格好には違いない。僕は作務衣、どうも年寄り臭い。せめて色でも真っ黒なら良かったのに薄い青だ。


 途中、アルトが行商の馬車からパンを仕入れてきた。パンは少しパサパサしているものの味はよかった。この世界の味覚も日本とあまり変わらないかもしれない、ひと安心だ。


 歩いている間、相手を交代しながらいろいろと話しているが、女3人で話している時間が一番長いようだ。それでも気を遣ってくれるのか、僕とも話してくれる。いろいろとこの世界のことを聞いてみる。


 まずは貨幣価値について、貨幣は銅貨、銀貨、金貨がある、もっと上があるそうだが3人は見たことがないという、銅貨1枚を1マールというらしい。円に換算すると銅貨が10円、銀貨が千円、金貨が10万円くらいだろう。生活に関する物価は安く、冒険者の装備は高いらしい。ほぼ、ファンタジーの世界の定番だ。魔素はステータスの経験値1につき銅貨10枚、経験値1はゴブリン1匹倒して得られる経験値ということだ。


 ゴブリンメイジやアーマードゴブリンは8、ゴブリンロードは150らしい。凄い奴を倒したんだなと思わず笑みが出る。ちなみに、ワイバーン級になると100万くらいの経験値になるらしい。それはさておき、今の経験値は230だから2300マール、銀貨23枚分だ。


 経験値や魔素は、魔物を倒した者の体を通してギルドカードに移るものらしい。パーティーで魔物を倒すとその貢献度に応じて分配されるということだ、神様が分けているらしい。さすがファンタジーの世界だ。


 レベルは、経験値1で1になり、経験値を積むことによって上がっていく。2倍になるごとにレベルアップするので、上になればなるほどレベルアップに必要な経験値は多くなっていく。セシリアは3か月で12になったらしいが、僕は1日で8になった。

「普通はゴブリンロードなんてレベル10以上にならないと相手にしませんし、ゴブリンの集団見たら単独なら逃げるのが当たり前なんです。レベル10になるのは512の経験値でなれますが、12になるためには2048の経験値が必要です。レベル20で約50万、30になるには5億の経験値を稼がないといけません」

「ちなみに、今までの最高レベルは?」

「伝説や神話には30レベルを超える人が出てきますが、今のメルカーディア王国の最高はレベル27の近衛隊長ユージン様だと言われています」


「ギルドランクは?」

「登録するとGランクになります。ギルドへの貢献ポイントでレベルが上がります。これもレベルが上がるほど貢献ポイントが多く必要になります。上下2つのレベルの依頼まで受けられます。パーティーの場合は、そのパーティの最高レベルの人のランクとなります。パーティの場合は4つ上のレベルまで依頼を受けることができます」


 他にも、1日は24時間、1年は360日、1週は6日で、季節はあるが、それほど気温の差は無いようだ。雨は、雨期が春の終わりに1か月、秋の終わりに1週間あり、それ以外はほとんど降らないそうだ。月は複雑で、黒帝龍の月から始まり蠍の月まで16の月がある。一番長い『黒帝龍の月』は60日、一番短い『魚』の月は6日と月の長さがバラバラ。ちなみに、僕がこの世界に来たのは黒帝龍の30日、今日は31日だ。週は、赤月、黄月、白月、緑月、青月、黒月と月の輝きの色の変化どおりで黒月といわれる月が出ない日が休みと考えて良いらしい。翻訳上は、1年は360日、1日は24時間、1時間は60分、1分は60秒と日本と同じ設定でありがたい。しかし、1秒が本当に日本の1秒と同じ長さなのかは分からない。体感的には同じで問題ないと思うのだが。


 馬車とは何台か出会ったものの、すれ違う人もほとんど無く、話しているうちに、ガビー村に着いた。ガビー村はケンプ村の倍くらいの大きめの村だ。村は柵で囲まれているが、特に検問は無くすんなりと入ることができた。門を入ってすぐの家が冒険者ギルドの建物だった。


 冒険者ギルドに入ると、奥にはカウンターがあり、そこには厳ついおじさんが1人、依頼用だろう掲示板には数枚の紙が貼ってある。暇そうなおじさんに声をかけることにした、こんなのが一番辛い、お願いセシリアと目で合図する。セシリアは仕方ないなあとおじさんに声をかけた。


「マスター、新規登録と再発行をお願いします」

あの人ギルドマスターだったんだ、と思いながらカウンターに近づき頭を下げる。

「後ろの2人は登録しないんだな。登録には銀貨1枚、再発行は銀貨10枚だ。持ってるか?」

「魔素で払えますか?」

「おう、じゃあ登録は坊主か、水晶に手を当てて『ステータス』と言ってくれ、それで登録もできるし、魔素もカードに移る、おっ、230だな、ずいぶんため込んだもんだ。再発行はお嬢ちゃんか、はい水晶に手を当てて『ステータス』」

水晶には、ステータスが現れ、そして消えていった。こんなんで登録できるのか、この世界の魔法って凄いんだなと感心していると、

「はい、カード。紛失したカードに残っていた魔素は破棄されたからそのつもりで、お嬢ちゃんにも魔素46くらい入っていたぞ、お金は坊主の方にまとめて渡す」


 奴隷ということが分かったので現金は僕に渡すんだなと思いながらカードと銀貨16枚と銅貨60枚を受け取る。

宿代くらい残ったかな。

「お勧めの宿はありますか?」

「安い方が良いのなら、4人で泊まれるバンガローがあるけど、食事は付かないが1泊で銀貨3枚でいい。ギルドのものだから丈夫さだけは保証するよ、竈もあるし、料理くらいはできる」

アルトがうなずくのを見て、

「それでお願いします」といって、銀貨を3枚渡し、鍵を受け取る。


 バンガローは狭いが、思ったより清潔で、ベッドは4つあり、テーブルも付いていた。荷物を降ろし、女性陣は買い物へ、僕は村を出て、誰もいないところで魔法の特訓をした。バンガローに帰ると食事ができていた。この世界に来て初めてのまともな食事だ。アルトは料理が得意というだけあって、野菜が中心の献立だったが、とても美味しかった。


 食べたらもうすることがないし、疲れていたので寝ることにした。ベッドは4つあるので問題は無いだろうと思っているとセシリアが僕のベッドに入ってきた。

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