第35話 雷童

「さてユピィ、どうしよっか?」

 取り敢えず上空に飛んでみると見渡す限り魔蝗で森が覆われている。

 雪が積もっているから真っ黒という訳じゃない。不気味さは少し薄れたけどその数に圧倒される。

 これは全部倒すのは大変だな。でもどこかワクワクしてる自分がいる。


 上空にいる分には安全だ。

 体の大きくなった魔蝗たちに飛行能力はもうないからね。


 あ、でも先に障壁の穴を塞がなきゃ。

「【形成:障へ——」


 進化個体たちが新たに開けた穴を塞ごうとしたら、テオ師匠から止められた。

「こっちはこっちで訓練がてら戦うから穴は残しとけ」


 訓練? 実戦じゃなくて?


 でもテオ師匠がそう言うなら、開けたままで大丈夫ってことだ。

 戦力分析の結果問題ないと判断したってことだからね。


 そうだな。

 僕も訓練だと思って、色々ためしてみよう。


 取り敢えず、【纏雷】かな。

 走り回るだけでもガンガン倒せると思う。

 あまりに危険なため【纏雷】状態で体当たりは訓練で禁止されている。でも魔蝗相手なら思う存分やってもいいよね。


 あ、ダメだ。

 危ない危ない。


 走り回っているうちに僕の髪の毛が一本でも抜けて、それが食べられたら……。


 うん、近接戦闘はだめだね。

 となると遠距離攻撃か……。


 あれ? 僕何か遠距離攻撃の手段持ってたっけ?


 うーん。何かを【形成】して飛ばすくらいしか思いつかない。

 【雷鳴剣】飛ばしてみようか?


 ちょっと検定の時みたいに頭が痛くならないか心配だけど……他に思いつかないしやってみるか。


「【雷鳴剣】!!」


 剣を形成して、【纏雷】で雷を纏わせる。


——バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ——


 魔力が雷と化し、剣の周囲の空気が弾けて音が鳴る。

 検定の時は巨大な【雷鳴剣】を作って頭が痛くなっちゃったけど、今作ったのは普通サイズの剣。


 このサイズであれば頭は痛くならなかった。

 この剣を魔蝗の群れに向けて飛ばす。


——ドドドドドドドドドォォォォォォォォォン!!!——


「んんん……?」

 予想外の出来事に【雷鳴剣】を消す。


 一応、遠距離攻撃は出来た。一応は。

 【雷鳴剣】は何の抵抗もなく魔蝗を切り裂いていった。そこまでは予想通り。


 でも……思ってたのと違った。音がね。


 切り裂いて倒してるハズなのに死体は勢いよく弾け飛んでるんだよね。

 こんな風に激しく吹き飛ぶようなことは今まで無かったんだけどなぁ。


 こう、スパパパパンって切れていくのを予想してたんだけど……、まいっか。こっちの方が沢山倒せてるし。


 何だろう……雪のせい?


 ただ、思ったよりは沢山倒せたけど全然減った気がしない。魔蝗が多すぎる。

 もっと効率よく倒せないかな?


「形は別に剣じゃなくてもいいか」


 剣の要素で倒してるというよりは雷の要素で倒してる感じだもんね。


 それなら剣の形じゃなくてもいいし、大きくなくてもいい。

 効率良くいくなら質より量だね!


 イメージしたのは小さな矢じり。

 多分このサイズなら沢山作っても大丈夫だろう。


「【雷鳴剣】」


——バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ——

——ババチババチバチバババチバチババチババチババチバチババババチ——

——ババババチバババチバババババチバチババババババチバババババチ——


 雷鳴……剣ではないけど、矢じりを増やしていく。

 10個……20個……これどんどん増やせるな。


 よし。どんどん作ろう。50個……60個……。


 うん。余裕余裕。もっと作ろう。80個……。


 全然大丈夫。100個……。


 まだいける。120個……。


 ズキン!


「ぐあっ」

 頭にガツンと衝撃が走る。


 慌てて矢じりの数を100個くらいまで減らす。


「はぁ、はぁ」

 頭の中が焼けるように熱い。

 これは何度経験しても慣れない。


 でもまぁ、100個もあれば十分だろう。

 むしろ100個もの矢じりをちゃんと操作できるかどうかが問題かも。


 まぁ、何事も練習あるのみだよね。

 【形成】で作った物の操作は今まで散々やってきたし、数が増えても何とかなるでしょ。たぶん。


 100個の矢じりを適当に間隔を空けて一列に並べる。

 やってみたら案外簡単にできた。

 一つ一つをバラバラに操作するのは大変なので、全体を一塊として扱ってみた。すると泥を手で捏ねるような感覚で、むしろそれよりも簡単に僕の意志に従って矢じりの群れは一列横隊になった。


 そして並べた後はもっと簡単だ。


「【同調】」


 全部の矢じりを同調させれば全ての矢じりに同じ動きをさせることが出来る。


 上空から矢じりを降ろし、地面から少し浮かせる。

 あとはこれを前に……


——ドガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァン!!!——


 へっ??


 どわぁああああああ!!


 ここまで熱風が押し寄せて来てきた。

 ナニコレ?


 本当にどういうこと?

 障壁付近の魔蝗が吹き飛んでいる。


 ……。


 ……。


 ……。


 やっちまった?


 ま、いっか。

 難しく考えるのはやめとこう。


 分かんないものは分かんないからね。


「行けっ!」


 矢じりを一気に前に押し出す。


——ドガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァン!!!——

——ドガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァン!!!——

——ドガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァン!!!——

——ドガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァン!!!——

——ドガガガガガガガガガガガガガガガガガァァァァァァァァン!!!——


 100個もの矢じりが突き進むと爆発を巻き起こし、目の前の魔蝗が吹き飛ばされていた。


「うん。スッキリした!」




 アイザックは知る由もないが、雷の温度は3万度にも達する。

 それは地面や魔蝗に積もった雪(および雪が解けた水)を瞬時に蒸発させ、水蒸気爆発を起こしていた。

 しかし、爆発はそれだけに留まらない。

 そのあまりの高温は気体となった水分子を熱分解により水素と酸素に分解し、水素爆鳴気に至らせていた。

 連続して水素爆発を起こしていたのである。

 

 


 ははは。

 いい感じで吹き飛ばせたけど。


 雷ってヤバいね!


 狩りで使うと肉がダメになっちゃいそうだから扱いが難しそうだけど、殲滅が目的の今のような状況にはうってつけだ。


 100個の矢じりもによる攻撃はかなり広い範囲に及んだ。ただ、間隔が適当だったからかちょいちょい生き残っている魔蝗もいる。


 これを個別に倒すのはそれまた手間だよね。

 出来れば漏れなく殲滅したい。


 次は矢じりじゃなくて長い糸みたいなのを形成してみようか?

 うん。いいかもしれない。


 いや、ちょっとまてよ。


 むしろ【雷鳴剣】じゃなくて【纏雷】だけでもいいんじゃないか?


 要は雷の及ぶ範囲を自分の周りだけじゃなくて広範囲に広げればいいだけだ。


 何かを形成する必要はない。

 

「ふう」


 魔力を体の外に放出する。

 重力を反転させたときみたいに魔力を溜めて攻撃範囲を広げるつもりだ。


 何が起こるか期待に胸をワクワクさせている自分がいる。


 雷系スキルの攻撃的な活用は危険も大きくて今までは思う存分試せなかったからね。

 極少量の【纏雷】を皆に掛けてトレーニングに活用するくらいしか出来なかった。


 でも今は違う。

 魔蝗には悪いけどどうなるか楽しみだね。


 自分が放出した魔力は思ったように動かせる。


 糸を形成する代わりに、魔力を糸状にして網の目のように張り巡らせる。そうすることで範囲をさらに広げた。

 時間をかけて目に見える範囲を魔力で覆っていった。




「テオ師匠、大将は上でなにやってんだ? さっきはスゲー攻撃したと思ったのに、じーっとして動かねぇぞ」

「マロウ······、おんしにゃ分からんか? 先の攻撃とは比べ物にならん魔力が練り上げられとる」

「ウソだろ? 有り得ねぇよ。さっきのだって戦術級の威力は十分あったぞ! それ以上って······戦略級か? それだと大将が王級ってことになっちまうぞ?」

「かっかっか、知らなんだのか? あの小僧っ子がよう発動しとる【命の息吹】、ありゃあ王級の術じゃて」

「なにぃ? そうだったのか!?」

「しかも、教皇とて月に一度使えるかどうかという代物よ。小僧っ子が如何に人外か推し測れるじゃろう?」

「と、とんでもねぇな······」

「王級の術をポンポン発動させる小僧っ子が、魔力を練り上げとる······。一体どれほどの威力となるのか想像もつかんのう」

「師匠もとんでもない奴を弟子にしちまったな」

「全くじゃて、冷や汗が止まらんわい」




――ゾクッ――


 いよいよ【纏雷】を発動させようと思った瞬間に悪寒が走る。

 直感的に体が警告しているのが分かった。


 【纏雷】を使用しちゃいけない。

 今使えば頭痛じゃ済まない。


 そんな気がした。


 思えば、僕が使えるスキルの中でも【纏雷】の術式はかなり複雑だ。そして消費する魔力も多い。


 よく考えたら不思議なスキルだよね。ものすごく熱い雷を纏っているのに体は平気だし、身体能力が著しく向上する。何より自然だとすぐに消える雷を纏い続けられる。

 単に雷を発生させるだけのスキルじゃないんだよね。


 地下水を組み上げるために重力を反転させた時と違って、体の外に放出した魔力を使っても頭痛がすると直感が言っている。

 でも、それと同時に魔力を雷に変換することは可能だと確信めいた感覚もある。


 そう、多分できる。


 僕がやりたいことは魔蝗を倒すことだから、別に雷を纏う必要はないし、身体を強化する必要もない。


 単に雷を生み出せればいい。


 ちょっと確認してみよう。


 指先に魔力を集めて、この魔力に段階的に【纏雷】を発動させる。

 術式の内容は全く解んないけど、どの段階で魔力を雷に変換しているかくらいは分かる。


――バチン――


――バチン――


――バチン――


 ふむふむ。なるほど。意識してゆっくりと3回発動して確認した。術式を大まかに5つに分けたとしたらその3番目で魔力が雷に変わっていた。


 つまり、その部分だけ抜き出せば単純に魔力を雷に変換できるはずだよね。


 ちょっとやってみよう。


――バチン――


 うぉ、お、お。

 痛い! 痺れた!


 これ間近でやっちゃいけないやつだ。


 でも、出来たね。


 うん。

 行けそう。


 感覚的なものだけど、雷を発生させるだけなら頭が痛くなりそうな感じはしない。

 地面とは距離も離れてるし大丈夫でしょう。


 スキルの名前はどうしようかな?

 まぁ、これは後でみんなで考えよう。


「とりあえず、いけぇ!!!」


――ドガッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!――


 !!!


 !!!


 !!!


 大変なことになりました。

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星降りの子 外波鳥 @SOHARINA

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