第二夜 大学3年生 Kさんの話



「ねぇ、Kちゃん数学の授業の時私の席に


来なかった?授業中にいきなり。」


高校生の時起こった怪奇事件、


事の始まりは、クラスで仲のよい友人の


Hがこんな事を言ってきたのが始まりだった


Hはよくこんな不思議な事を言っては


友達や家族、教師達を困惑させた。


当人に全く悪気は無いため、Kもいつもの


事だと思って適当に流した。


その後は何事も無く一日が終わり、


いつも通りHと一緒に帰った。


その翌日、Kは家に帰ると珍しく


Hから電話がかかってきていた。


かけ直してみると、Hは


「K、今日○○駅のホームにいなかった?」


○○駅とは、今はもう使われていない


廃線の通った駅の事だった。


学校と私の家の間くらいにある駅だが


私の通学路とは全く違う場所にあり、


そんな所に私が用があるはずもない。


私は見間違いだ、とHに言った。


Hは不思議そうにしていたが、


まぁそうかもとあまり深く考えてなかった


翌日、夜の9時半頃またHから連絡があった


「ねぇ…今日さ…○○プールにいたよね」


私とHの家は、電車で1時間近くかかるほど


離れており、学校が終わってからそんなに


遠くに行けるほど時間が無いのだ。


それにその日はHから電話があったその


時間まで、ずっと塾にいたのだ。


「見間違いだって、私じゃない…」


「絶対に、Kだった…」


その○○プールというのは、私とHの


家のちょうど中間地点にある駅だった。


当時は冬で、夏以外は使われないため


閉鎖されており、人が入れないように


なっているにも関わらず、Hはそんな


場所で私を見たと言ってきた。


さすがに怖くなった私は、Hに嫌がらせに


してはタチが悪いと非難した。


Hは深刻そうな声色で


「…私さ…電車の中から、○○プールを


見た時にKが見えたのね?で、昨日○○駅で


見かけた時も、バスの中から見えたのよ。


おかしくない?どうしてか、絶対に視界に


入る場所にいるんだよね…」


その話を聞いて、私はゾッとした。


言われてみれば、○○駅にも○○プールにも


Hが用があって行ったとは思えない。


私は薄寒いものを感じてその日は電話を


切った。


翌日、Hからの連絡は無かったが、その


翌日に朝から私の席に来た。


「…昨日は…?」


私の言葉に、Hは震えるほど怯えていた


Hが駅から自分の家に帰っていると


歩道橋の階段下に私が立ってたらしかった。


もちろん私は、Hの最寄駅には行ってない


Hはその私を走って追いかけたが、歩道橋を


渡り反対側の道に降りたときにはもう


どこにもいなかったと行った。


その時、Hはあることに気がついたのだ


「だんだん、私の家に近づいてるの。


表情も、数学の授業の時はニコニコして


笑ってたのに、昨日は怒ってる顔だった」


怯えて泣きながら話すHに、Kは少しだけ


自分も泣きそうになってしまった。


明日には恐らく、家の前まで来るだろう


Kは、心当たりをHに白状した


そこまで一気に話すと、Kさんはコーヒーを


飲んで喉の渇きを潤した。


私は取材用のメモを取りながら息を飲んだ


「白状した、とは何を?」


「…まぁ、実はその時Hに対して色々と葛藤


というか、嫉妬みたいなのがあったのよ。


その時人に呪いのやり方を吹き込まれたの」


「呪い、ですか…」


「そう。実際その呪いが効いたのかどうか


わからないけど、Hにそうやって色々な


災難が起こったのよ。」


「それで今、Hさんは…」


「K、またその話してるの?」


ウェイトレスの若い女性が突然声をかけた


私が驚いていると、目の前のKさんと


ウェイトレスの女性がいたずらっぽく笑う


「今でもこうやって会うくらい仲良いです。


その時ちゃんと自分の気持ちを伝えたら、


Hは受け入れてくれたました。その日から、


もう一人の私も現れなかったですし」


「なるほど、ビックリしたぁ」


はぁ、と安堵のため息を漏らす私に


HとKはクスクスと笑った。


「ちなみに、呪いをKさんに教えたのは


誰だったんですか?」


「あー…それが実は、Hに会う前仲が


よかったNという名前の友達でした。


中学から仲がよかったので、Hに対して


私を取られたと怒ったんでしょうね。


そのあと彼女、不登校になった上に


両親の会社が倒産して、彼氏にも振られて


今は引きこもりになったみたいです」


その瞬間、わずかだが、Hの笑顔に悪意が


混ざったような気がした。


そこまで取材をした後私は帰りのバスに


揺られながらある事を思った。


もしこれが全て、Hの計画だったら?


もしかしてHはNに対して


"呪い返し"をしたんじゃないだろうか


Nと同じく、Kさんという媒体を通して


Kさんを取られないために、Nが自分を


呪うよう仕向けて、そしてKを上手く


使いこなした。


バスの揺れで、私は現実に引き戻された。


真相はいつだって、当人達だけが


知っているものだ。


外で女子高生達の笑い声が響く、


穏やかな午後のことだった。





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ザリザリ 静香 @sizuka0812

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