ザリザリ
静香
第一夜 大学2年生 Uさんの話
これは私が、中学生浪人をした時の話です。
私は中3の時入りたい高校の受験に失敗し、
その高校に入る為にもう一度受験する事を
選びました。
これは、そんな私が受験本番前日に体験した
話です。
私は朝から何故かとても頭が痛く、母に
少し寝てくると言ってベッドに入りました。
頭痛からか、私は変な夢を見ました。
それは、ある写真を燃やす夢でした。
中央には白無垢姿の美しい花嫁がいました。
白黒の写真で、何故か全員ニコリともせず
精気の無い顔で私に視線を向けていました。
自分の知らない人達の写る写真にどこか
薄寒さを感じながら目を開けました。
しかし、目を開けたはずなのに体が動かない
のです。
金縛りはよくある事でしたが、今回の
金縛りはどうしてだか息が苦しいくらいの
重圧感がありました。
早く終わらないかな、と思っていると
窓の外に人影が見えました。
窓の外は事務所に続く通路になっていて
そこは父しか通らないのですが、
窓の外に何人もの影がありました。
「この子で間違いないのか」
「早く用意しないと」
「間に合わなくなるぞ」
ザワザワと、何か話をしていました。
その時点で私は怖すぎて震えていましたが
金縛りのせいだと思い部屋に視線を戻した時
息が詰まり、心臓がバクッと脈打ちました
私のベッドの横に、白無垢姿の女がいました
虚で真っ黒な瞳をこちらに向けて、
白く繊細な手を私に伸ばしました。
「行こうね」
彼女はか細く高い声でそう呟きました
まるで赤子に囁く様な言葉遣いでした。
体は動かず、声も出ない私の頬に
その女の氷の様に冷たい指先が触れました。
その時、ドアの向こうから母の声がしました
「U、具合どう?」
女は顔を上げて、ドアの方を見ました
私は声を出して答えようとしますが、
どうしても声が出ません。
すると、目の前の女は私の方を顔だけ
振り向かせ、ニタリと不気味な笑みを
浮かべて私を見ました。
180度首を捻った状態で女は、
「大丈夫…もう少し休む」
と私の声で母に答えたのです。
そのあまりに不気味な姿に、私は体を必死で
動して逃げ出そうともがきました。
しかしお歯黒の覗く笑みを微動だにさせず
女は再度私の眼前に来ました。
よく見ると、虚に見えた目の中に、目玉は
無く、真っ黒な歯は所々腐り落ちてました。
「イこゥネ」
さっきとは異なる、AIの様な声で言いました
女は私の手首を真っ黒の歯で噛みました。
その時、窓の外から飼っていた犬の鳴く声が
聞こえました。
その瞬間女はスッと消え金縛りも解けました
私は呆然とベッドに座り、大声で叫びました
母と姉が飛んできて、私の話を聞いて
2人とも混乱した様子でした。
その時母と姉には、私は想像力や感受性が
豊かで、受験のストレスで夢を見たんだと
自分に言い聞かせるように言われました。
しかし、手首には何の逃れようもないほど
クッキリと歯の跡が残っていました。
数年後、中学からの友達にこの話をした時
友達に言われた言葉に二度ゾッとしました。
「…それさ、家庭科のH美じゃね?」
家庭科のH美というのは、私たちが中学に
在学している時家庭科の授業を担当していた
H美という先生のことです。
私はH美とものすごく仲が悪く、在学中
H美から毎日文句を言われていました。
あまりにもしつこく文句を言われる事に
耐えかね、私はある日彼女に言葉を返して
しまいました。
彼女はまるで烈火の如く怒り狂い、私も
引くに引けず、強い言葉を返しました。
そして売り言葉に買い言葉で、彼女は私の
家族のことまで悪く言い始めました。
私は怒りのあまり、目の前にあった
人形をケースごと地面に叩きつけました。
授業中でも埃を見つければ払ったりするその
人形をH美が大切にしてる事は知ってました。
H美は怒りのあまり叫び、泣き、大騒ぎして
他の先生に止められ、出て行きました。
それから卒業するまで、一度も彼女の姿を
見ることはありませんでした。
「H美って、なんであの人が?」
あれからもう何年も経った。
H美の事も友人が口にするまで忘れてた
「Uは知らないと思うけどさ…あの人卒業式
来てたんだよ。」
友達はタバコの火を点けながら言った
「成人式も来てた」
タバコを咥え深く息を吸い込み、
居酒屋の暗めの明かりにゆっくり煙を吐く
「…あんたの事、死ぬほど恨めしそうな顔で
ずっと見てた。まぁ、卒業式も成人式も中に
入れなくてつまみ出されてたけどね」
「…H美って…今は…」
「生きてるよ。今も教師やってる。」
私は、またあの花嫁が自分を迎えに来る
ような気がした。
次は逃げられない。何故かそう思った。
今私は地元から随分離れた場所で彼氏と
一緒に暮らしているのですが、
いつまたあの夢を見るかとビクビクしてます。
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