第3話

 気持ちを上に、視線を下に。

 はあっと息をかけていき、僕の両手は温まる。

 けれどふところは空っぽだ。どれだけ竹があろうとも、それを切り出す道具がない。だからなんにも作れなかった。

『しゃんとしろよ。落ち込んでるひまがあるか?』

 もう、兄さんったら。わかってるさ。

 僕にあるのは想いだけ。燃えども尽きぬ恋心。

 君への愛を伝えられるなら、僕はいくらでも目をこらそう。

 気持ちを前に、視線を上に。そして竹林を背に。

 僕はふたたびなだらかな丘へと足を踏み出す。

 ……空は変わらずきれいだな。

『そんなに上を向いたって、ここじゃハリー彗星は見えないぞ』

 ねえ兄さん。ハリーは今どの方角へ進んでいるの?

『南……かな』

 南ってどっち?

『今こうして進んでいる方向だな。もしかすると、お前が見上げるあの星々のいずれかがハリー彗星かもしれない』

 ふうん。でも、丘の向こうはここと違って雲がどんよりしてるね。

 これじゃこの丘を登ってもハリーは見つけられないよ……。

『どうだろうな』

 なにさ、その言い方。

『あれは丘じゃない、山だよ』

 山?

『まっすぐ引かれた地平線が丘のように見せているだけで、あれはうんと高い山なのさ。――雲よりもな』

 本当に!? よし、次の目的地はあの山のてっぺんだ!

『お前に登り切れるかな?』

 もう! 誰よりも身軽な旅人になれるって僕に言ったの、兄さんじゃないか。

 なんだか少し寒いだけ。疲れてないからへっちゃらだよ。

 だって僕の胸はハリーへの熱情であふれてるんだもん。

『……間に合うといいな』

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