氷の勇者と棺の酒場の女主人
よっぱらいたー
第1話 最後の棺を受け入れた。(保管料は国費)
~料理とお酒で幸せなひと時を~
灯火亭の女将ヴァインはそう思って必死で働き、とんとん拍子で繁盛店に。大修道院からは酒蔵の鍵を預けられた。新年の宴には王城に招かれ、宮廷楽師や料理人に交じって腕を磨いた。王の覚えめでたく、店は王室御用達となった。
水平線に浮かぶ夕日のような力強い色の髪、命の輝きをともす丸く大きな目。腕は筋肉質で、
食材や酒の納入含めた御用聞きなどを行っていたところに加え、「公にできない国の依頼」なども斡旋するようになる。お金と信用が得られるので、ヴァインは何でもやった。人を募る。独立5年目の時に受けた仕事、その中の一つがこの「勇者」の対応だった。
~こうやったらうまくいくよ~
勇者は幼い見た目に反して超人的な力をもつ。しかし人としての倫理とか規範とか、そういうものを全く気にしない。
悪い人じゃないんだけど、目的のために手段は選ばない。なのに熱狂的な信者がいて、進んで命をなげうつ者までいる。復活させてもらえる保証もないのにだ。
ここは灯火亭。
世界に危機が訪れたその時、勇者がここで仲間を募った由緒ある酒場。
多くの冒険者が旅立っていった。
そしてほぼみんな、漏れなく帰ってきた。棺桶に入って。
「毎度のことなんだけどね勇者クン。復活の奇跡のお金が足りないのは分かるよ。高いし。だからと言って、持ってこられてもウチも困るんだよね。」
勇者クン、と呼ばれた少年は悪びれもせず、酒場の女将にお辞儀をした。お願いします。だそうだ。違う。それじゃない。
女将も慣れたもので、宿舎側入り口から来た棺桶の蓋を手際よく開き、防腐処理の灰をふりかけ、魔除けの香草を敷き詰めていく。まさか給仕にこんなことをやらせるわけにはいかない。
「今回は何?帰ってくるなりすごい臭いだねコレ。ええ、腐毒の魔女?こういう時はさぁ、お外から呼んでくれると助かるんだよねぇ。犬が狙ってたから無理?なに、あと二人?みーえーてーまーすっ!」
無茶苦茶な勇者ではあるが、実際必ず結果を出してきた。
・近隣の化けガエルと人食いウサギ退治。(薬草忘れて一人目)
・
・大帝国の暗黒闘技場で皇帝の協力をとりつけ(獣人と殴り合いの末三人目)
・古代文明の王墓への砂漠越え(盗賊に襲われ四人目)
etc,etc...(その他もろもろ)
多くの犠牲を払った。しかしそのたび同行した冒険者たちにこう言われては仕方ない。
「必要で、最小限の犠牲でした。」
南の僻地から旅立ち、世界中を旅した。そしてすべてのワザワイが在るという、極北の地に至る。そこで腐毒の魔女に出遭い、危うく全滅しかけたという。
しかしその全ての旅で、
「それにしても勇者クンは成人して旅立ち、今年で三年目。うちは全部で30人処理したから、1年に10人ペース!戦争に比べれば死者数は微々たるものだけど、平和だった王都で人気の酒場、毎月のように新しい棺桶の住人のお世話をするのは、ちょーっとあたしの人生設計に入ってなかったわ。まいったね!」
灯火亭の女将ヴァインのぼやきは止まらない。
一通りの処理が終わり、祝福の呪歌をかける。「まだ迎えに来ないでください」と、死の女神に猶予を乞う歌だ。最初の棺が納められたその日から毎日、ヴァインと給仕たちは欠かすことなく歌い続けた。いるときは、勇者も一緒に歌う。最初からやけに歌のうまい子だった。
ミルクを飲む勇者、カウンターの中で腕組みする女将。いつもなら次の仲間を紹介するところだが、今回は様子が違う。女将が口を開く。
そしてゆっくり、はっきり、大きい声でこう言った。
「これ以上の犠牲は許容できません。私が行きます。私があなたと旅をする、最後の一人です。」
女将は心を痛めていた。この店で出会った冒険者が、変わり果てた姿で帰ってくることに。
勇者と目が合う。いいよ、とうなずく。
この態度に、普通なら怒りがわいたり、不安を感じる事もあるだろう、しかしヴァインの心はもう決まっていた。ゆえに揺らがない。
依頼だからとこれ以上彼から逃げるのは、やめよう。
氷の勇者と棺の酒場の女主人 よっぱらいたー @48writer
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