7F 我ら昇降機の不良達! 2

 おぉはぁよぅございまぁすっ。皆さんっ、おぉはぁよぅございまぁすっ。凝り性のギャル氏がケープを仕立て上げるのに深夜まで掛かった結果、蒸気都市に発つ朝しか動けないたった一度のチャンス。


 狙うは朝の登校時間か朝食の時間である。早朝の『王女の冠ビーレジーナの倶楽部ハウスの談話室で学園の敷地図を広げながらギャル氏と二人。異世界風サンドイッチを朝食として口に詰め込みながら、目を向ける先では、青騎士装備のギャル氏が同じようにサンドイッチをむしゃむしゃしている。


「青騎士殿までおまけで要りますかな?」

「いるっしょ、ほらこれ、最新版のアリムレ大陸の旅行本に今回の盗賊祭りの勝者の写真でカップルコンテストの写真使われてんし」

「ほんまや」


 それがし達が予選通過したのに本戦全く出れなかったやつね。盗賊祭り中は最後ゴタゴタして写真を撮る暇なかったのか知らないが、もう少しマシな写真はなかったのだろうか。黒騎士の格好第三者目線で見た時の不審者感が半端じゃない。人族かも分からんはこれ。


「いやぁ、アレだわ。外から見た時アリムレ大陸み強過ぎだわこの格好。アリムレ大陸ではよかったけどちょっち寒いし、改造してぇ〜。いいデザインないかなぁ? あーしもソレガシみたいにセーラー服に脱着できんの足したいわ。すれば学校にも着て行けんし、スカイらーくって感じ、マジ飛翔天使の羽だわ」

「まぁそれがしは改造学ランの上に機械人形ゴーレム背負ってケープ羽織ってるだけですからな。連合会議は一〇八の島々から人が集まるそうですし、見てみては?」

「それな。ソレガシもそろそろまた学ラン改造しよ? とりま蒸気都市行くんなら蒸気都市感足そうよ」

「ギャル氏も武侠都市風味にしてみては? それがしとギャル氏の場合もう大分目立ってて眷属の特徴隠す意味薄いですからな」

「それは良きかも。また左肩出そっかなぁ、どよ?」

「悪くないかと。それがしも見慣れてますし、ギャル氏と言えば左肩出し。武神の眷属の看板とその日の下着の色を自ら掲げるという謎胆力こそが」

「殴っておけまる?」

「本当にすまなかったと思うっ」

「おはー……っ⁉︎ ……ってレンレンとソレガシね。びっくりしたっ」


 ギャル氏のケープ制作に付き合いそれがしとギャル氏は談話室で一晩過ごしたが、割り当てられていた女子部屋からクララ様が二番目に起きてきたので挨拶する。


 一番目はマロニー殿。一応今は『女王の冠ビーレジーナ』で使用人をやっている為、それがし達にサンドイッチを作ってくれた後すぐに出て行ってしまった。


 クララ様はテーブルを挟み立っているそれがし達の横を通り過ぎ暖炉前に座ると、迷う事もなくストレッチを始める。


「朝の日課ですかな?」

「まぁね、ラジオ体操の代わりみたいなものよ。にしてもソレガシマジで一瞬誰か分からないからねそれ。レンレンと並ぶと美女と怪人って感じ」

「しずぽよさぁ、ソレガシとも話してたんだけど新しい制服の改造どうする? そろそろファンタジー風の完成目指したいんだよね。ソレガシみたいな脱着式で揃えない?」

「あー……賛成だけど、私はソレガシみたいな蛮カラ風はパスかな。ただ肌の露出はちょっと増やしてもいいかも。眷属の特典的に肌晒してないと特典の利点がゴミ屑化待ったなしだから」

「クララ様も会長化ですかな?」

「痴女と一緒にしないで。踏むよ?」

「本当にすまなかったと思うっ」

「おぅ、おはよッ⁉︎ ……ってソレガシかっ、一瞬マジでビビったぁ、盗賊祭りみたいに盗賊でも襲って来たのかとっ」


 男子部屋から一番に起きて来たグレー氏が一瞬肩を跳ね上げ構えるもすぐに手を下ろす。盗賊祭り中商人の一団に同行しロドネー卿と砂漠都市に来たと言っていたが、盗賊に襲われるとかやる事やっていたらしい。深度十一の眷属魔法とか使ってたし、地味にダルちゃんやギャル氏に次いでパーティー内で深度高い可能性まである。


「おはよあられくん! 昨日はお疲れみたいだったけど大丈夫?」

「昨日はちょっとな、サンキュー志津栗しずくりさん。それでなんの話ししてたんだ?」

「新しい制服の改造案みたいな? グレーはなんか学ランの改造にリクエストある?」

「お、俺もか? そだなぁ……エスキモー的な? 俺こう見えて寒がりで」

「それでよくぞっとしたいなんて言えますなお主……」


 綿毛みたいな頭髪と同じでモフモフ好きなのか? 面がいいだけに何着てもグレー氏には似合いそうで羨ましい。それがしとか派手な格好したら絶対服に着られる。リングピアスを揺らしながら寄って来るグレー氏と軽く拳を打ち付け合い、机に広げている学院の敷地図をグレー氏は覗き込むと親指で顎を摩った。


「それで参謀殿? 作戦は決まったのか?」

「ポポロの登校中か朝食の時を狙おうかと、ギャル氏と共に凸ですぞ」

「おぅ、なら朝食の時がベストと見た。朝食の時なら幼王様以外にも全員揃ってるだろうし、見せつける的な意味だとその方がいいだろ。一応は昨日できなかった出立の挨拶って意味もあるんだろ? どうだ兄弟ブラザー?」

「他の方への迷惑も……いや、この際考えなくていいですな別に」

「おはようござい……ま、す、わ? え? あえ? ちょちょ……」


 女性陣三番目の起床者はゆかりん氏か。クララ様より早いと思っていたが、昨日夜遅くまで本を読んでいただけに少しばかり起きるのが遅れたらしい。体育祭前とか毎朝五時から走ってるぐらいだからな。前日に一度機械人形ゴーレムは見せているが、装備状態だと流石に気付かないらしく、兜を脱ごうとしたところで勢いよくゆかりん氏が肉迫してくる。


「〜〜〜〜ッ、素敵ですわ素敵ですわ! 未来版オペラ座の怪人? 中はソレガシさんですの⁉︎ はぁ〜ヤバイですわ〜……わたくし様もドレスで隣に並びたいですの‼︎ ソレガシさん今度演劇部の舞台に参加なさいません? 舞台で是非とも使いたい! ソレガシさんが作りましたのよね? 動きますのよね?」

「…………鋼鉄の腕でそれがしと握手!」

「きゃああああっ‼︎ しますわしますわっ‼︎ はぁ〜今日はわたくし様の誕生日だったかしら? もうソレガシさんたらわたくし様をそんなに喜ばせないでくださいまし! 絶対今度演劇部に」

「あかぁぁぁぁぁぁああああんッ‼︎」


 女子部屋の扉を蹴り開ける勢いでりなっち氏が談話室に飛び出してくる。普段被っているキャップ帽は流石に被っておらず、寝癖の付いた頭でふらふらとりなっち氏はそれがし達の前を通り過ぎ、壁に当たると方向を変えてふらふらと歩き続け、それがしの前でヨタヨタ足を止めると虚空に向けて人差し指を突きつけた。


「体育祭でうちら青組が勝ったんやからダーリンは軽音部やよ! ただでさえ人魚姫さんにダーリン寝取られ気味やのに演劇部には寝取らせんえ! んぅ、ふぁあっ、ん? なんの話やったっけ? ……ん? ……ん⁉︎ うぇ⁉︎ なんやドえろうゴツいのおる⁉︎ ダーリンどこ⁉︎ まさかそいつダーリンを食べッ⁉︎ いややぁ⁉︎」

「朝から元気ですなぁりなっち氏……」


 格好は一度パンクなのに、壁際まで足早に後退るりなっち氏の姿に肩をすくめて兜を脱げば、ヘロヘロとりなっち氏は床にへたり込む。リアクション大会なら優勝だ。幽霊でも見たかのように腰を抜かしたまま空に手を泳がせるりなっち氏の手を鋼鉄の腕を伸ばし掴み引き起こせば、ゆかりん氏が頬に手を当て身を捩る先で、再び勢いよく女子部屋に繋がる扉が開いた。


「朝飯ぞね⁉︎ 献立はなんちや‼︎ あてが茶碗には山と盛れ‼︎」

「風ちゃん会長殿……」


 間違いない。りなっち氏の『食べッ⁉︎』に反応したな。りなっち氏よりも盛大に跳ねまくっている長い髪の寝癖を振って談話室の中を見回すと、それがしとギャル氏に目を止め、歯を数度カチ鳴らし床を蹴って跳び上がる。


「げに豪勢な朝飯じゃき‼︎ いただくぜよ‼︎」

「寝ぼけてるんですよなッ⁉︎ そうだと言ってッ⁉︎ 風ちゃん⁉︎ 風ちゃんやめれ⁉︎」

「えぇ〜? なにを意地悪言うぞねぇ? レン、ヤマがケチぞな」

「いや、アンタあーしごと巻き込もうとしてたよね? 生徒会長ならもっとしっかりしろし、脳味噌あんだよね?」

「はぁ? あてはこれでも一年時の年度末試験学年七位ぜよ?」

「ふ、ふ〜ん……」


 ギャル氏に致命傷与えてんじゃねえッ。口閉じちゃっただろうがッ。ただ良かったッ、セーフだセーフッ。それがしの方が一つ上だわッ。危なかったッ。流石にこの生徒会長よりもテストの点数悪いとか精神が保たな……あっ、あぁッ。


 朝っぱらから急激にクララ様とギャル氏の顔色が悪くなっている。ギャル氏の髪色と同じく青々しい。あぁ、引き起こしていたりなっち氏の膝が崩れ落ちてるッ。耐えられなかったんだッ、元の世界、異世界関係なく服を破り脱ぐ本能で生きる痴女よりテストの点数が悪いという現実にッ。


「これはぁ? 夢なんかぁ? 早く起きなぁ」

「りなっち氏しっかりッ! カンニングで十五位のりなっち氏ぃぃぃぃッ!……グレー氏は平気そうですな?」

「俺は学年五位だったぜ」

「オーホッホッ! わたくし様は」

「はいはい学年三位学年三位」

「ソレガシはなんで平気そうな顔してんしッ‼︎」

それがし学年六位ですがなにか? あれぇ? ギャル氏はぁ?」

「ハァァァァッ⁉︎ ドヤ顔ドチャクソムカツキングダムッッッ‼︎」


 いやぁ気分いいわ‼︎ 晴れやか‼︎ かつてこれ程までにギャル氏にマウント取れた事があっただろうか? いや、ないッ。転がれ転がれ絨毯の上をッ! 地平線まで大草原ッ‼︎ ギャル氏に加えてクララ様まで……あれ? クララ様ストレッチの体勢のまま身動ぎ一つしなくね?


「あられくんどころかっ、ソレガシより、下……っ、私がゴミ屑だったってわけね……カモンリサイクルショップっ」

「えっ、そっち?」


 会長殿よりそれがしより下な事がショックなの? 珍しくクララ様の言語野まで瀕死だしっ、なにそれはっ。多分クララ様よりそれがしの方が精神ダメージでかいんだけど? それがしの事果てしない馬鹿だと思ってたの?


 愕然としていると男子部屋の扉がゆっくりと開く。取手に手を掛けたままぶら下がるように地に崩れているまっちー氏の姿。扉が開き切ると同時に取手から腕を落とし僅かに痙攣する。なにこれ怖いっ。


「ソレガシどころか葡萄原ぶどうはらにまで負けていたとはな……ふふっ、見事だライバル達っ、こぞって俺のしかばねを越えて行くとは、な? だがっ、まだだっ、酢橘すだち文太ぶんたに負けていなければまだ希望が」

「酢橘って確か学年二位だろ?」

「俺の葬儀は豪華にしてくれ……っ、ガクッ」

「まっちー氏ぃぃぃぃッ⁉︎ ガクッてリアルで言う奴はじめて見ましたぞ⁉︎」

「トドメはしっかり刺してやらないと可哀想だからな」


 グレー氏容赦ねえなッ。まっちー氏に何か恨みでもあんの? 体育祭の前から何度も絡まれてたらしいからな、溜まってる何かがあるんだろう……。


 そんな中、早朝から寝起きなのに永眠ごっこに忙しいまっちー氏の横で女子部屋の扉が開くと、欠伸混じりにずみー氏が姿を現し、まっちー氏を踏み渡りながら暖炉のソファーの前まで歩いてくる。ずみー氏も容赦ねえな……。


 会長殿より更に寝癖が天元突破し覇王樹サボテンのようになっている髪を掻きながら、ずみー氏は死屍累々な談話室を見回すとソファーの上に横になり寝息を立て始めた。そしてグレー氏が崩れ落ちる。


「天使の寝顔だ……ッ、もう悔いはないッ、見てくれこの指の震えをッ、なんでだろうなッ、暖かさも冷たさもッ、感じないんだッ」

「お主隠す気ないですな⁉︎ なんでお主が一番ダメージ受けてんですかなマジで⁉︎」

「しずぽよぉぉぉぉッ⁉︎ しっかりしろし⁉︎」

「あらあらしずぽよさんたら、ストレッチで白目など剥いてはいけませんわよ? もう少し体を鍛えませんと」

「ゆかりん氏それ違う」


 多分体は関係ないわ。心の方の問題だわ。ってか朝から死体出過ぎなんだよ‼︎ ここは地獄か? 陽も上りきらない内に四人夢ではない別の世界に旅立ってんだけど⁉︎ 最後に女子部屋から顔を覗かせたダルちゃんは、少しの間談話室を眺めると「めんどくさー」と、気怠い魔法の言葉を残して扉を閉め女子部屋に戻ってしまう始末。


「あぁもう作戦の準備開始ですぞ‼︎ ポポロに挨拶したら『雲舟』の港に行かねばならないのですからな‼︎」

「なにぃ⁉︎ ヤマァ⁉︎ まだ朝飯食ってないぜよ⁉︎」

「朝飯はなし‼︎」

「なん……っ、じゃてっ?」


 あっ、会長殿も崩れ落ちた。会長殿は……会長殿は崩れ落ちててくれた方が平和でいいな。

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