6F 我ら昇降機の不良達!
陽が傾き夜となり、場所を移して『
一先ず暫定的に『
そんな倶楽部ハウスの談話室の暖炉の前で、新たな
「……ソレガシぃ、皆の意見纏めた第八八案どよこれ?」
「……『元の世界に帰り隊、
最早パーティー名じゃなくて謎文章だわ。大分難航してますねこれは。まっちー氏とゆかりん氏の自己主張が強い事と会長殿がお腹空いてる事だけは分かった。真ん中にある異世界ダンス部バンド絵画教室劇団ってなんだよ。なにするのか逆に気になるわ。何でもかんでも足せばいいってもんじゃねえな、引き算の美学を学べ定期。
「ここまでくると逆にエモくね?」
「などとギャル氏は供述しており、クララ様はどう思われますかな?」
「エモいと思うわ」
やべえ……普段冷静にツッコミをくれるクララ様まで座礁期間長過ぎて脳死状態だ。一々パーティー名催促された時これ言わなきゃならないんだぞ? 誰も覚えられんわ。会長殿に限っては今思ってる事だけだぞ。ほら今だって使用人として付いて来てくれたマロニー殿からお菓子貰って「肉がいいぞな」とか言ってんぞ? 第八九案の時はそれが入るな多分。
「全然決まんないわ、安定の迷宮入りなんだけど?」
「だからダルちゃん案でいいでしょうと」
「ふっ、閃いたぜ。
「前半の
「ダルちぃ新しい案なんかない〜?」
「めんどくさー」
「ソレガシさん、眷属魔法の学術書などはないかしら? 魔法の基礎はもう読み終わりましたわ。大戦の歴史のような本もあると嬉しいですわね」
「眷属魔法のことは眷属だけの秘密な部分が多くて本になってないんですよなぁ、大戦の歴史も各大陸毎に都合よく書かれたどうなってんだこりゃ本しかないですぞ」
「構いませんわ。見比べて精査すれば本筋は見えましてよ」
「二人とも勉強してないで真面目にやってー」
「ギャル氏は寧ろゆかりん氏見習え常考」
ずみー氏から一番異世界適性低いんじゃね? と言われていたゆかりん氏が逆に一番しっかりしてる問題。やっぱ色眼鏡はよくないな。
暖炉前のソファーではサイドテーブルに積まれた本を眼鏡を掛けたゆかりん氏が読み漁っており、その隣では相変わらずずみー氏がスケッチブックにペンを走らせ、クララ様がファッション雑誌を読んでいる。まっちー氏も本を見ているがグラビア雑誌(異世界にもあるんだな……)だし……それを時折見させられているグレー氏は珍しくお疲れなのか椅子に深く沈み込んでいる始末。
会長殿は空腹を紛わす為かうたた寝してるし、りなっち氏は新しい曲でも思いついたのかずっとギターを手に楽譜を書いている。ダルちゃんはマロニー殿とお話できて楽しそうだが、はっきり言ってもう真面目にパーティー名考えてるのギャル氏だけだぞ。
「レンレンこの服エモくない?」
「いいね! スリットエグたん過ぎっ、下着もろ見えっしょこれ!」
別に真面目でもなかったわ……。パーティー名決まらな過ぎてギャル氏も目移りしてんじゃねえか普通にッ。
そんな談話室を見回しため息を吐けば、それを散らすかのように倶楽部ハウスに玄関のドアベルの鳴らされる音が響く。誰が来たか見に動くマロニー殿の背を目で追いながら、
顔から少し血の気が引く中、来訪者がソロ姫様でない事を祈ったが、そんな心配は杞憂に終わった。戻って来たマロニー殿の後から談話室に顔を覗かせたのは白銀の頭髪。短かな髪を振る小さな人影を目に口端が緩む。
「ソレガシ!」
「久し振りですなポポロ」
「うむ!元気そうな顔を見れて安心したぞ!トート姫から明日には蒸気都市に発つと聞いてな! 慌てて来たのだが会えて良かったぞ! どうじゃ? 学院のローブ似合っておるかの?」
「ええとても」
これ見よがしに学院のローブを
「学院にもトート姫が口聞きを?」
「いや、ヒラール王様だ! 王とはどういうものか勉強になったぞ!とは言え学院に編入する試験は受けたがの、余にかかればそのくらい余裕ぞ! 褒めろソレガシ!」
「ポポロって頭良かったんですな、お見事」
王族貴族のコネがなければ入学は難しいらしいのに、論文認められて招かれたダルちゃん宜しく、
「ソレガシも忙しいようでゆっくり話したいのだが残念だ」
「お互い様でしょう。魔法都市も内紛は終わったそうですが」
「うむ。今は四大貴族の当主達が整備しておる。魔神の眷属としてではなく、
「それは要らんて」
手のひらを掲げポポロの言葉を遮れば「えー⁉︎」と叫ばれるが、そんなホイホイ駄菓子みたいな感覚で
盗賊祭りは魔法都市以上にポポロ=キレスタールの契機であったらしい。魔神の眷属至上主義が打ち壊れ何を掴んだのか気になるが、それを聞くのは野暮であろうか。
「それでは余はなにもやれぬぞ……助けて貰ったのに……」
「別に見返りが欲しくてやったわけでもないですからな。ポポロが元気でより良い夢の為に進んでいるのならそれで十分。ポポロが悪人ではないと別にもう知ってますしな」
「む、むぅ……それは……余は……むぅ……ソレガシは今はなにをしておるのだ?」
なんとも歯切れの悪いポポロに首を傾げながらも、新たな
「前回連戦の中で腕が全て一度捥げてどうしようもなくなりましたからな。射撃兵装や鋼鉄の拳以外の腕をもう一組増やすのと、『
「おぉ! これはソレガシの
「言い方よ」
「い、いやだが、うむっ、頭に体に尻尾があるしの……」
「それは草。頭に体に尻尾とか…………頭に体に尻尾とかッ⁉︎」
「ど、どうしたソレガシ⁉︎」
「頭に体に尻尾かッ‼︎ でかしたポポロッ‼︎ それでいきましょうぞそれでッ‼︎」
頭に体に尻尾かなるほどね! わちゃわちゃとポポロに頭を撫でてノートに向き直る。腕六本収納して背負うのは大きさも増えるし厳しいが、一度自立して動ける
カメラ機能搭載の兜を頭部に、盾としての機能も持つ胴体の下に尻尾のような収納庫を付ければいい。魔法筒の腕も鋼鉄の腕もデザインし直しだな。規格は揃え同じような形にしなければ歩かせづらい。腕一組毎に『
自立稼働と背負い武器化する機能を携えた自立可変
「ずみー氏! タランチュラっぽい蜘蛛の絵とか描けますかな? その絵を元に図面に起こしますぞ! 折角蒸気都市に行くのですから、少しばかり無理してみましょうぞ!」
「任せろ同志〜! めちゃんこ怖くてかっこいいの描いちゃうぜ〜! ね! ね! この背中の円い部分にさ、あちきが絵描いてもいい? あちき達冒険者パーティーの紋章とかさ、あってもいいと思っちゃうんだよね!」
「いいじゃんそれ! 眷属の紋章でもなくあーしらの紋章ってわけね! ずみーったらサスガダファミリア! ありよりのありだって!」
ずみー氏が素早くスケッチブックにリアルな蜘蛛の絵を描きクララ様やギャル氏が引いているのを他所に、壁の掛け時計をポポロは見上げると「あっ」と声を上げてパタパタと身を
「もう少しゆっくり話したかったですけどなぁ、門限なら仕方ないですかな?」
名残惜しくポポロの去って行った玄関に繋がる扉を見つめ呟けば、「門限まではまだ時間あるよ」とダルちゃんに言われ目を
「
「なぜそうなるのですか? ソレガシ卿は自信があるんだかないんだか分かりづらい方ですね。学院に来てキレスタール王にご友人ができるとお思いですか? ウトピア財団が目立ってはおりますが、魔神の眷属の力が奪われた責任が都市を治めている王族に向くのは仕方なきことです。久し振りの唯一のご友人との再会に舞い上がったはいいものの、意地悪してこられる者に対して盗賊祭りの勝者で結果として
「……マロニー殿は使用人なのに口軽過ぎませんかな? お主
「嫌いではないですよ? 好きでもないですが」
一言余計だわ。魔法都市でもダルちゃんのこと勝手に喋るわ、ポポロの事も勝手に喋るわ、猫は気紛れと言いはするが、ちょっとこの使用人自由過ぎやしませんかダルちゃん? どこの界隈で有名なのか知らないが、いじめっ子に対して
魔法都市のした事は許される事ではないかもしれないが、その責任を王であろうとまだ幼いポポロに全責任を取れというのはあまりに無慈悲。何より魔神の眷属消失したのはポポロの所為じゃないし、
「マロニー殿、
「えぇ、その通りです」
「ギャル氏、アリムレ大陸で使っていたケープってありましたかな? なければ簡単でいいので作って欲しいのですがな」
「ん?それはオケだけど、どうすんの?」
「黒騎士来訪ですぞ。蒸気都市に発つ前にポポロの為に一肌脱ぐとしましょうぞ!」
友人が虐められているなんて聞かされて黙っている
「嘘やんね? ダーリンてショタコンなん?」
「お主は
りなっち氏、一度じっくりお話ししよ? りなっち氏の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます