四章 ニアグラツクエスチョン

G ビーレジーナ

 中央大陸ガルタ、世界の中心と呼ばれる『世界都市イージー』に座す『マフラブ魔法学院』。


 通称『学院』と呼ばれるこの場所は、遥か昔は魔法研究の為の聖地であったそうで、魔法を極めんと種族の垣根を越えて集まった魔法の玄人達の研究機関があったとか。


 その後長い歴史の中で危険な魔法を監視し取り締まると共に、魔法、魔法具の特許や、普及、魔法開発などを生業とする魔法省と、高度な魔法技術等を学べる学院に別れたそうな。


 とは言えそれも大戦前の話であり、今や学院は各々国や一族を背負う王族貴族の社交場とそう変わらない。多くが次期国王や当主。毎日が社交界と変わらない気を遣う事を強要される気遣い地獄だ。


 さて、それがしがもしそんな学校に入学したあかつきには、教室の隅が住居となるどころか初日でゴミ箱にダストシュート安定のような陰の者、コミュ障、はみ出し者お断りの処刑場と相違ないが、持つべきものは友達である。


 警備員よりも物騒な憲兵地味た警備兵に不法侵入者だと連行されずに済んだのは、ひとえに学院には城塞都市トプロプリス、ラビルシア王家の姫君、チャロ=ラビルシアと、砂漠都市ナプダヴィ、ヒラール王家のトート=ヒラールが学院にいてくれたおかげだ。


 警備員数名をギャル氏が蹴り転がし、会長殿がぶちのめすという、お主らそれじゃあ暴漢じゃねえかマジやめて下さい案件という些細ささいな問題はあったものの、姫君二人の名と騎士称号を叩き付け、ダルちゃんの存在も相まって無事待合室まで通された。


 通された待合室の窓の外から見える世界都市の街並みは、あらゆる大陸、都市の輸入出の中継地でもあり、無数の文化の入り混じったそれこそが特色といった有様である。


 木、岩、鉄、あらゆる材質で造られたビル群と、その間を蜘蛛の巣のように張られた蒸気パイプが走っている。薄っすら蒸気漂う空の中を疎らな魔法の絨毯と、多くの『雲舟』が泳ぎ、空飛べる種族と眷属の配達人が忙しなく飛び交っていた。


 無数の蒸気パイプ繋がる世界都市の『塔』は言葉を統一する神話上のバベルの塔の如し、全貌を把握できぬ程巨大であり、チェス駒のポーンのように先細りの円柱状で、背の高いビル群の一画を完全に影で覆っていた。


 そんな景色を横目に見ながら、ギャル氏とずみー氏がゆかりん氏達、運がなかったね巻き込まれ組に話す異世界『エンジン』の概要の説明を聞き流しながら今日までの新聞に目を流す。


 圧倒的、圧倒的それがしは情報収集。多いんだよ新聞がさあッ。元の世界でおよそ二週間。およそ異世界では四ヶ月。見出しの変わりようが忙しい。『ウトピア財団』の大安売り。手に取った新聞に必ず『ウトピア財団』の名が入っている掴み取り状態で大草原不可避である。


「ごめソレガシ、ゆかりんが一応証明の為に眷属魔法見たいって」

「あぁはいはい、起動アライブ


 ギャル氏達に横に腰のホルスターから引き抜いた黒レンチを放り投げ、空に描かれた黄金螺旋の紋章から飛び出た機械人形ゴーレム、『黒騎士タランチュラ』が床へと蒸気を噴き出し伸ばした腕を床に着ける。


 ゆかりん氏とりなっち氏が吹き出す音と会長殿の笑い声を歯車の音が巻き込む中で、目を落とした新聞を見つめ眉間にしわを刻んだ。それと同時、唯一吹き出さなかった柚子町ゆずまち勘助かんすけ氏こと、まっちー氏が膝から崩れ落ち椅子に座るそれがしの前に倒れる。


「どうしましたかなまっちー氏⁉︎」

「ソレガシ……ふっ、やられたよ。俺は志津栗しずくりさんの美しさにやられたが、それ以上の衝撃を受けてしまった。一目惚れだ。ヤバイ。見たかこの雑誌? ソレガシは知ってるか? このパンプキンちゃんの名前をッ」

「……お主マジか、その方クララ様のご友人ですぞ」

「俺が追って来たモノは間違いじゃなかったぜ。美少女数珠繋ぎだ……サンキュー神様、異世界最高」

「……南無、クララ様判決は?」

「リサイクル不可のゴミ屑は処分でしょうが?」


 クララ様とベルベラフ=ベルベラフ殿が表紙の雑誌を胸に抱き床に転がるまっちー氏に降り注ぐクララ様の足の裏。やたらライバル乱造するまっちー氏の惚れ症は知っていたが、女子にもそれは適用されるらしい。グレー氏は一途なのにこの差よ。手のひらドリルか? そういうとこやぞッ。


「待ってくれっ、ぶッ⁉︎ 志津栗様⁉︎ 勘違いしているようだが、俺の志津栗様への想いは微塵も変わらない‼︎ ただそれ以上にパンプキンちゃんが俺の心を掴んで離してはくれないだけなんだぜ‼︎ 美しさってのは罪だよな?」

「レンレンパス!」

「ういっすー!」


 魔力の肉体強化解放されてサッカーボール代わりにサッカーされるまっちー氏の悲惨さよ。自業自得だし受け止めるの得意らしいからもう放って置こう。ちなみに名前は教えてやらん。自分で知れ。


 木造の壁に僅かにまっちー氏が身をめり込ませるのに合わせ、ようやっと待ち人が二人待合室の扉を開けて姿を現した。ダルちゃんが窓辺で吹き出していた赤い紫煙の尾を手で払いながらトート姫とチャロ姫が部屋に踏み入り椅子から立ち上がる。


「よく戻った我が騎士達よ‼︎ はっは! また数を増やしてやって来たな? 我をよくもまあドキドキさせてくれるじゃない? ダルカス、我が友よ! 貴方も格好を見る限りソレガシ達の世界を楽しんだようね?」

「まあね」

「久しぶりねボクの騎士達! チャロは我が騎士達とか言ってるけど放って置いていいわよ? チャロが騎士称号与えたの二人だけでしょ? ボクは五人にあげたものね? つまり貴方達はボクの騎士」

「トートの冗談は気にしなくていいわ。椅子に掛けなさいよソレガシ卿。顔を見る限り察しているだろうが、早速話があるわ。また貴殿が話の纏め役であろう?」

「お久し振りですぞ姫様方。では失礼して。ただ話を聞くのはそれがしだけでなく」

「あーしも一緒! ソレガシとあーしはコンビだかんね! チャロンもトトちんもマジお久って感じで嬉しみパないわ‼︎ 学院のローブ似合ってんよ! ダルちぃのセーラー服もあーしが後でドチャクソ改造イジっちゃうから楽しみに待っちゃってて‼︎」


 扉を閉め上座へと姫君達が移り、椅子に座すのを見送って横に歩き寄って来たギャル氏と椅子に座り直す。壁際に置かれたソファーに他の者達が座るのを見送りながら、並ぶそれがしとギャル氏を見比べて笑みを深める姫君達と向かい合う。


 お揃いのローブに身を包んだ姫君達は、ドレスや伝統衣装ばかりを纏った姿しか見ていないのでなんとも不思議だ。姫君が着ていると思えばこそ、学院に籍を置く者達誰もが着るローブも妙な高級感あるように見える(実際に王族貴族が多いので高級

なのだろうが)。


「さてソレガシ卿、貴殿達の世界の話やダルカスの土産話を聞きたいところではあるが、残念ながら積もる話がありまくるのよね。相変わらず来て早々『八界新聞』に目を通していたようだし、貴殿が聞きたいことと我が話したいことは同じと見ていいかしら?」

「まぁ他にもありますが取り敢えずは」


 それで構わない。チャロ姫の言葉に頷きながら、直近の新聞を一冊間に挟んでいる机の上に置く。『ウトピア財団』の事も気になるが、流し読みした限りさして重要な情報は転がっていない。寧ろ情報求むの広告の方が目に付く程だ。だからこそ気に掛かるのは、直近で『ウトピア財団』差し置いて一番上に飾られていた、ある見出し。


『対ウトピア財団の為に八大王都が同盟を発足』

『諸島連合ドルドロ、同盟を拒絶』


 この二つだ。足並み揃えねば意味なさげな中での諸島連合の同盟拒絶問題。新聞でも世論調査でも激しく非難されているこの一件。間違いなくチャロ姫の話にはこの件が絡んでいる。新聞を覗き込み眉をうねらせるギャル氏を目の端に捉えながら、腕を組むチャロ姫に目を流した。


「現状膠着しているようで。盗賊祭りから特別進展はありませんかな?」

「残念ながらな。なぜなら財団の本拠地が未だ不明でどこに潜伏しているのかも分からん。世間では魔神の眷属が姿を消し、終末論を唱える新興宗教まで出て来る始末だ。笑えるでしょ?」

「朗報があるとすれば魔法都市の内紛が終わった事くらいかしらね? とは言え魔神の眷属がいない以上半分廃墟みたいになっているけれど」


 手放しには喜べないが、朗報には違いない。盗賊祭り後の魔法都市ブダルーニュには思うところもあったが、一先ず安心。ポポロも安心しているといいが、残念ながら今回の話の肝はその部分ではない。それを誰より分かっているだろう姫君達は世間話もそこそこに、椅子に座り直したトート姫が指先で新聞の見出しを小突く。


「まぁそんな中でウトピア財団の存在を重く見た各王都が手を結ぼうなんて大分思い切った手を打った途端にこれってわけね。まぁ言ってしまうと『海上都市ニアグラツ』の所為ではないんだけれど、その辺の話は分かるかしらソレガシ?」


 親指の爪を噛みながら小さく頷きを返す。


 王都の同盟を拒絶した諸島連合ドルドロは他の大陸と違って王都が絶大な権力を持っている訳ではない。一応の王都として『海上都市ニアグラツ』が存在してはいるが、実態は日本同様民主主義の商業連合郡。


 多数決で諸島連合の意思は決定される為、反対多数なら却下される。『海上都市ニアグラツ』が賛同したところで多数決に負ければ王都の意思は通らない。


「結論から言うと、姫様方、と言うよりも、各王都の面々は諸島連合内に『ウトピア財団』の本拠地が隠されているとお思いですかな?」

「んでそうなんわけ?」


 ギャル氏の問いに頷き、再び紙面に目を落とす。簡単な話同盟を拒む理由が見当たらない。


 神の力を奪うような財団だ。世界中に散っていた魔神の眷属が姿を消し、各大陸に多くの被害を与えた事に違いはない危険な存在に対して手を組んで対応しようというのは間違いではない。王都同士多くの溝がありはするだろうが、それでも尚同盟に価値があると考えての手であるのに、諸島連合だけ拒むのは明らかにおかしい。


 だいたいこういう話って裏ではもう事前に話通ってそうだし。


 拒む理由に考えられる事があるとすれば、同盟にそもそも価値がない場合か、同盟を組む事によって不利益を被る場合。もしくは第三者の横槍でもあったか。そんな話を交えながらギャル氏から組んでいた手を解いたチャロ姫へと視線を移した。

 

「その可能性は高いとどうしても勘繰ってはしまうがな、多くの都市が連合を組んでいるだけに決して断定はできないのよ。同盟内の騎士団による各大陸の自由調査を同盟規約に組み込んだのが気に入らないらしい」

「……『ウトピア財団』の為の調査で別にバレたくないものでもあるんですかな?」

「そりゃあるわよ。古い都市、力ある都市程ね。特に諸島連合は中小都市の寄り集まり、他の大陸と違って各々の都市の顕示欲が強いもの。ボクとしては忍び込み甲斐あるんだけれど、流石に趣味はお預けかしらね」


 唇を尖らせながらトート姫は机の上の新聞を他の新聞の束の上に放り投げる。


「あー……つまり王都が保有する騎士団では大規模な調査は不可能でも、冒険者なら各都市に踏み入り調査が可能、そんな感じの話ですかなこれは?」


 下手に騎士団が踏み入れば、宣戦布告と取られる可能性もない訳ではない。危ない橋をなるべく通らない為の依頼。仕事があるのはありがたいとしても、難易度を見れば別である。『ウトピア財団』の本拠地が本当に諸島連合内にあり、運良く見つけられたとしても現状勝てる気が全くしない。生きて帰れるかも不明である。


 そんなそれがしの心配を察してか、チャロ姫は笑みを深めて机に置いた右手の指で天板を小突いた。その笑みに僅かに口端が引きってしまう。


「そういった事は暗殺諜報部隊の仕事だ。ソレガシ、もっと簡単な話があるのだよ」

「悪い顔してますぞチャロ姫様」

「楽しそうな顔の間違いだろう? なぁトート?」

「そう? ボクにも悪そうな顔に見えるけど? ねぇダルカス?」

「悪どい顔してるさ三人共ね」


 三人? 一人多くね? ダルちゃんに目を向ければ細長い煙管パイプの頭がそれがしに向く。嘘やろっ。悪代官みたいに笑ってないぞそれがしはっ。


「うん、つまりだ。現状諸島連合は同盟を拒絶しているが、その最終的な是非はまだ決していない。連合内でも意見が割れているからな。現状反対票が多数派ではあるが、連合の最終的な意思決定は全体の七割がどちらかに偏った時に決する。現状反対六割強で大分危ういのだがなソレガシ、二週間前から始まった同盟参加への是非を問う連合会議、その第四回目となる会議内で暗躍し同盟参加を可決させてくれたまえよ」


 チャロ姫の話の内容に思わず吹き出す。数度咳き込み間を開けてくれるチャロ姫を見返して、椅子に深く座り直した。


「急に帰って来て会議に参加とか意味不明なんですが⁉︎ だいたい無理でしょうそれがしは⁉︎」

「あら大丈夫よ。ソレガシ、貴殿は一度城塞都市の評議会に立ち会ったな? 都市の代表は基本護衛を付けるものだ。諸島連合に与している『蒸気都市パープル』は第一回から第三回まで不参加の無効票であるが、貴殿が参席すると表明すれば蒸気都市も動くのではないかしら?」

「えぇ……それってロドス大公が? いやそうだとしても普通そういった護衛はその都市の筆頭騎士が……あっ、あぁぁぁ、オーマイ……オーマイガッ」

「どしたんソレガシ?」


 護衛は普通筆頭騎士。そこまで言ってニンマリ笑い並ぶ姫君達の姿に頭を抱える。


 どしたんじゃないよギャル氏。機械神の都市に騎士称号持ってんのそれがしだけらしかったわ……深度関係なく繰り上げのなんちゃって筆頭騎士だわ……。


「行けちまいますわぁ連合会議……、しかも機械神の都市に行けるなら帰る為の手段も手にできるかもしれませんし……チャロ姫様、依頼を受けるにしても幾らかのお願いとお話が」

「分かっているとも。人数増えた分の冒険者としての神との契約費用諸々だろう? 時世が時世だ。これまでは臨時で雇える外部戦力として雇用していたが、長期契約を結ぼうではないか。各王都の騎士団はもう個別に動いていてな。我もトートも王族ではあるが、使える手駒には限りがあり多くはない」

「それはお二方がそれがし達を雇うということで?」


 そう聞けばチャロ姫とトート姫は顔を見合わせ、より笑みを深める。美少女二人微笑み合う姿は絵にはなるが、微笑みと言うには姫君達の腹の色を思えばこそどこか肌寒いものを感じる。苦笑しかできないそれがしと首を傾げるギャル氏に向き直ると、トート姫が我先にと口を開く。


「この学院内には幾つかの派閥があったりするのよ。だいたいは各大陸ごとの集まりだったり、種族同士の集まりだったりするのだけれど」

「へぇー、ちょっち面白そう、サークルみたいな? トトちん達も入ってんわけ?」

「まぁねー、とは言えアリムレ大陸やロド大陸の集まりでもないんだけれど、その集まりの中にも古い歴史を持ち権威あるとか言っちゃってる派閥が幾つかあるの。ボク達が入っているのはその内の一つ」


 トート姫が笑みをより深めると同時、肩が誰かに捕まれる。思わず振り向けば窓辺から立ち上がったダルちゃんの手。それがしの前で顔をしかめ、小さく首を横に振る。


「ダメだね。ソレガシ受けない方がいいよその話。その派閥超絶めんどくさい奴しかいないからさ。チャロとトート見れば分かるでしょ?」

「酷いな友よ。まぁ聞けソレガシ、発足当時から男子禁制を謳う王女達の秘密倶楽部、『王女の冠ビーレジーナ』が貴殿達を長期で雇う。我ら八大王都の王族がな」

「ちょっとタイムでッ」

「姫達の秘密倶楽部⁉︎ おいおい男としては是非ともボッフォっ⁉︎」

「ちょっとタイムでぇぇぇぇッ‼︎」


 丸めた雑誌を握り締め勢いよく立ち上がったまっちー氏の頭を召喚していた機械人形ゴーレムで軽く叩きながら、ギャル氏を連れて立ち上がり、ダルちゃんも連れて冒険者仲間達の所へと一時避難する。ダルちゃんの言う通り、やばいな、『王女の冠ビーレジーナだか知らないが、ろくでもない奴しかいないだろう事が今からでも察せられる。


 忙殺される未来しか見えない。男子禁制という事は、間違いなく八大王都の姫様達。苦い顔をするグレー氏とクララ様、目を丸くするそれ以外……会長殿は何故かにやけているが無視……の前にギャル氏達と並び、ため息と共にダルちゃんを小突く。


「……姫君達の派閥とやらはよくご存知で?」

「まぁ……自分が楽しめればなんでもいいやみたいな集団だよ。我儘を絵に描いたような奴しかいないから……でもさ、資金は潤沢なんだよ間違いなく。トートやチャロはまだしも、他のが正直に協力するとは思えないねあたしには」

「そもそも他の姫様とやらに会ったことないですからなそれがし達」

「でしたらですけれど、他のプリンセス達にとってこの依頼とやらは雇用試験のようなものではなくて? 勿論多少の援助はしてくれるでしょうけれど、物は揃えるからどうにかしてみろと。駄目なら二度と機会は得られないと思いますわ。気にするべきはそちらですわね」


 ガチのお嬢様だからかゆかりん氏の説得力がやばい。それがし政略みたいなのは苦手だし。ずみー氏は異世界に来たらゆかりん氏はキレるとか言ってたが、キレるってそっちの意味? 怒るとかじゃなくて超頭回るって意味? 頼もしさが半端ないわ。もうそうとしか思えん。全然ゴネないもん。


 逆に楽しむと思う的な事をずみー氏に言われていたりなっち氏の方がぽかんとらっしゃるんですが? 来てからずっと口開きっぱなしだぞ。


「……ダーリンてほんまに騎士なんやなぁ……はぁ〜……ダーリン卿とか呼ばれとったやんね」

「ダーリン卿とか呼ばれてねえですぞ定期、今初めて呼ばれたわ」

「ヤバい素敵やん音の響きぃ、え? レンレンも? レンレンもレンレン卿呼ばれるん?」

「あーしはサレン=ウメゾノ卿的な? ウケんでしょ!」

「あちきはスミカ=イリガキ画伯だぜ〜! めちゃんこお気にっ!」

「うらやましぃなぁ〜ダーリンとお揃いー! うちも欲しいはそんな称号! しずぽよとグレーもなん? ドえろうずぅるぅいぃ〜! うちも今日からリナ=イワナシ楽士でいくわ‼︎」

「いや知らんですぞそんなん」


 気にするところが違うッ‼︎ 今言わなきゃ駄目だったそれ? 演劇部だからか知らないが、ゆかりん氏の順応力をりなっち氏は見習え‼︎ 楽士とかそれっぽい称号勝手に付けやがってッ、呑気か‼︎ クララ様とかお断りとばかりに横に首振ってるからな‼︎ そっちを見ろ‼︎


「話戻すけど、それってぶっちゃっけ受ける以外にないんじゃないの? だって右も左も分からないじゃない今。世界都市なんて私達まともに来たことないし、『雲舟』の港にさえ五分もいなかったじゃないの。元の世界に帰るのに神に会いに行かなきゃいけないなら、機械神の都市に寄れるのは丁度いいんじゃない?」

「……クララ様も大分染まりましたな」

「きみにだけは言われたくないんだけどソレガシさぁ、きみみたいに物騒じゃないから私」


 それがしだって物騒じゃないわ。やめてくれますクララ様? それがしを物騒側に置くの。チャロ姫やトート姫が物騒な話してくるんだからしょうがないじゃん。結論、それがしの所為ではない。


兄弟ブラザーとしてはどうなんだ?」

「そうですなぁ、取り敢えず、受けなきゃ増えたゆかりん氏達四人分の冒険者ギルドへの契約金合わせて二〇〇スエアなんて払えねえですな! それがし達と動く以上は眷属にならなければどうしようもないですしおすし!」

「それな! 受けなきゃあーしらまた借金漬けんなんじゃんね! りーむーだわそれ! マジない! コレはもう依頼受けナイト!」

「ギャル氏サクラ感半端ないですな草。疑いますぞ仕込みを」


 とは言え、金策が毎回最大の敵なのも事実。依頼を受けねば冒険者ギルドにくる雑務依頼をこなしいつ世界都市から出られるかも分からない。何よりパーティーリーダーが乗り気なら拒む理由も然程ない。ギャル氏のテンションに全てを察したのか、気怠げな目尻を垂らすダルちゃんの肩に一度手を置くそれがしの横で、ギャル氏が姫君達の方へと振り返る。


「受けんよあーしら! チャロンにトトちんよろ!」

「えぇではより詳細な話を」

「それよりおまんら表の出せぞな。あてと闘らせえ」

「おまァァァァンッ⁉︎ 言うタイミングよッ‼︎」


 ここまで大人しくしていたかと思えば何を姫様達に急にふっかけているのかッ。会長殿は初対面なんだからもっとへりくだれ!ノーガードで距離を詰めるのはギャル氏だけでももうお腹いっぱいなんだよ!


 ぬるりと立ち上がりそれがしの横を通り越して姫君達ににじり寄る会長殿の腕を慌てて引っ掴む。


「なんぞなヤマ?」

「なんぞなじゃなくて座っててくださいますかな⁉︎ 話を聞きたいんですぞそれがしはッ‼︎ 団体行動どうにかして会長殿ッ‼︎ お主生徒会長ッ‼︎」

「んぅ? ダメぞな?」

「可愛く言っても駄目なものは駄目ですぞ‼︎ だいたい表とか扉閉まってるのに誰がいると……」


 言いながら扉へと顔を向けて動きを止める。薄っすらと空いている扉の隙間から見える赤い三つ編み。引き止めた会長殿を置き去りに扉を開けて廊下へと首を伸ばせば扉の横の壁を背に見慣れた巨体が座っていた。三つ編みを揺らす落とされる双眸を見上げ、揺れる朱い三つ編みを一度叩いた。


「ブル氏ッ‼︎ 息災ですかな? 騎士団も忙しいようなのにまだ学院にいるとは‼︎ 姫君達の護衛で?」

「久しいなぁ我が友よぉ。そう忙しく質問してくれんなよなぁ。財団は神ん力吸うような奴らだぜぇ? 十冠クラスだろうが相手できんか妖しいってんでなぁ、どこにいようが一緒だぜぇ。オレは変わらず狭え学院で警備員よ。また弾けた奴ら連れて来たらしいなぁ友よ、相変わらずの趣味だ」

「おま言う。似合わないですな宮仕え」

「言ってろぉ」


 掲げられるブルヅ=バドルカットの巨大な拳に拳を合わせる。姫君達どころかブル氏まで学院にいるとは嬉しい誤算。そのままブル氏の隣に腰を下ろそうと動けば、ツカツカ歩いて来たギャル氏に待合室の中に引き戻される。


「ギャル氏なにをッ⁉︎」

「なにをじゃねえし! 詳しい話聞くんじゃないわけ⁉︎ んでマッハで駄弁ろうとしてんし⁉︎」

「だってブル氏が」

「ブルっちがじゃねえから! それじゃ会長とドチャクソ変わらねえんだけど⁉︎ ヤバみパないから! 話したい事あるみたいな事も言ってたじゃんね!なう!」


 ギャル氏からのマジレスマシンガントークが半端ないわ……、蜂の巣だわもう……。ギャル氏の言う通りダルちゃんのおかげで分かったそれがし達と異世界の繋がりとか積もる話がまだまだある。でもなぁ、盗賊祭りの時ブル氏とそんなに話せなかったんだよなぁ。今を逃せばまた話せる機会を逃しそうだ。


 それがし達の冒険者の誓いの一つ。楽しむ事こそ絶対である。


 よしっ。と、一人頷きブル氏の方へと足を向ければ、ギャル氏に頭をひっ叩かれた。


「はいっ、ありえんてぃッ‼︎」

「ブル氏はそれがしの人生史上初の男友達やぞッ‼︎ テン上げて悪いんかッ‼︎ ボーイズトークさせろやッ‼︎」

「んで逆ギレてんしッ⁉︎ ウッザッ‼︎ ソレガシまでそうだと話進まねーんだけど‼︎ 会長化やめろしッ‼︎」

「ハァァァァ⁉︎ 会長化はッ⁉︎ 会長化は言い過ぎでしょうがよッ‼︎ それがしすぐ服脱がないもんよッ‼︎ 分かりましたともッ‼︎ じゃあブル氏との時間作ってくれるなら話を聞いてやらんこともないですなぁッ‼︎」

「んで上から⁉︎」

「そうだソレガシ、魔法都市のキレスタール王が避難も兼ねて学院の初等部に入ったぜぇ?」

「ポポロまでもッ⁉︎ はいもうこっち‼︎ 可愛いは正義ッ‼︎」

「はいっ! ありえんてぃだからッ‼︎」


 ギャル氏の回し蹴りがそれがしの側頭部を捉えて床に転がす。廊下へと手を伸ばすもギャル氏に扉を閉められ慈悲の欠片もなく姫君達の前まで引き摺られた。


 ハァァァァァ……キレそうっ‼︎

 

 


 

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