19F 葬送行進曲
「プシィ──────ッ、ハッッッ‼︎」
「かますぜベイべェ────ッッッ‼︎」
べべべんッ‼︎ べんッ‼︎ べべんッ‼︎
マイクを通して響く
ゆらゆら揺れる歌の波間にポタポタ落ちては波紋を広げる三味線のリズム。音に乗って気分良さげに身を揺らし、エレキギターの鋭く尖った音色が水面を破り飛び跳ねた。
音と歌に合わせて踊る応援団の熱気を背に背負い、それを変換するように音を吐く。トテトテトッ、トテトテトッ、地面を踏み鳴らす足音の隙間を埋めるように。ジャカジャカと掻き鳴らされるギターの音色が応援団の鼓動を跳ね上げる。
『
りなっち氏また勝手に歌詞増やしてね? と思うも口端を持ち上げ、上気した顔で気持ち良さそうに高音域の声を張り上げるロックンロールガールを横目に見つめ、左手を滑らせ弦を振るわせて音を伸ばす。
聞く者によっては和ロックに聞こえるのかもしれないが、和ロックにしようと思ってこの形になっているのではなく、この形が和ロックという用意されていた枠に踏み込んでいるに等しい。
激しさを増す感情の発露を三味線のリズムで整え観客に岩梨梨菜の姿を叩き付ける。
───────ズギュゥゥゥゥゥゥンッ!!!!
「愛してるぜぇッ‼︎
べんッ! べんッ! べべんッ‼︎
演奏を終えてエレキギターと三味線の残響の
午前中の競技以上に疲れたわ……。
残響消えた静寂の中、僅かに瞼を落としていれば、拍手の音は聞こえず、先にグラウンドを実況の声が包んだ。
『…………あっ、えー応援合戦最後になります青組の応援でした。青組の応援団に今一度皆様盛大な拍手を。えー応援合戦で踊りと共に生演奏を披露するというぶっ飛びパフォーマンスでしたが、いやいや、まさかのギターと三味線のデュエット。色物かと出て来た当初は皆さん思ったでしょうが、パフォーマンスの質だけで言いますと、応援合戦ですし赤組と黄組と比べてしまうのは少々酷でしょうか。衣装や踊りは赤組が凝ってましたし、黄組も頑張っていましたが、いかがでしょうか生徒会長?』
『…………げに美味いスープぞな。
『あっ、はい。この勢いを次の騎馬戦に活かして貰いたいですね。次の競技は二学年の騎馬戦になりますので参加者の皆様は早急に移動をお願い致します」
午前中から早急に早急にって少しは休ませろや。そんな時間押してんの? 会長殿はようやく解説っぽい事言ったかと思えばなんか呆れてるみたいだし。褒めてくれよ誰か。拍手も実況に言われてようやくだし、褒めてくれたの癪だけど今のとこ実況だけだよ? これじゃあマスゴミが嫌いじゃなくなっちまうよ。
椅子に深く沈み込んでいれば肩に手を置かれ、顔を上げれば肩で呼吸している汗だくの
バチコンッ‼︎
賀東殿と手のひらの距離縮まり、スルリと賀東殿の右手は
「あんた達、ねっ、勝手にっ、音、増やしたでしょッ‼︎ 絶対っ、練習より長かったん、だけどッ‼︎ 最後の方、皆困惑してっ、マネキンチャレンジっ、だったんだけどッ‼︎ 唯一踊ってたのっ、
「ぶっ⁉︎
「もんじゃないからッ‼︎ この後騎馬戦なのに団子にダルカスさん五体投地してるんだけどッ‼︎ それに岩梨さんはッ。…………岩梨さん?」
振り返った賀東殿の先、ギターを手に恍惚とした表情で突っ立ち動かないりなっち氏。やべえ何処ぞにトリップしてやがる……。高笑いするゆかりん氏が何やら称賛の言葉を並べながら突っついているのに微塵も動かねえ。
さっさと場所開けろや、と言わんばかりの体育委員達の視線に晒され、急ぎ席を立ちりなっち氏に歩み寄る。帰って来いと肩に手を置きガクガク揺すれば、数度目を瞬き、トロンと目尻を垂らしたりなっち氏の顔がゆっくりと
「え……? ダーリン結婚してくれはるん?」
「いやなんでッ⁉︎ どんな魔境に旅立ってたんですかなお主⁉︎ 冗談言ってる場合じゃありませんぞ! 次騎馬戦‼︎ ゆかりん氏! 目覚まし‼︎」
「あらあら、もぅ仕方ありませんわねぇ?」
「ぶッ⁉︎ ちょッ⁉︎ 待ちぃ⁉︎ ゆかりんッ⁉︎」
「それ以上いけないッ」
あらあら言いながら往復ビンタするゆかりん氏鬼だな。右へ左へメトロノームのように揺れるりなっち氏の顔にドン引きし、肩に手を置きやめさせる。次騎馬戦だって言ってんだろうが‼︎ 始まる前の応援合戦でなんで何人も満身創痍になんなきゃいけねえんだよ‼︎
「はいはいはい移動移動移動! 勘助氏‼︎」
「オーケー‼︎ じゃあ皆、午前中に話した通りのフォーマンセルに分かれてくれ! 騎手は女子なんだから騎馬の男子は落とすなよ‼︎ 桃源さん‼︎」
「えぇ参りましてよ勘助さん!」
「ダルちゃん騎馬戦の時間ですぞー! 起きてくだされ!」
『眷属の特典も使えないのしんどー。ソレガシおんぶしておくれよ』
「いやこの後どうせ乗せるんですけど⁉︎」
体育委員の鬼のような視線が怖いので、地面に指で描かれたダルちゃんの字を足で消し、仰向けに寝転がり両手を伸ばしてくるダルちゃんを抱き上げ、三味線を戻す為に一先ず青組の休憩所へと各々身を寄せる。
青組の退いたグラウンドを騎馬戦仕様にカラコーンで区切る体育委員達を漠然と眺めながら、ダルちゃんを椅子に下ろし学ランを脱いでさっさと体操着姿に戻る。
「ちっくしょうっ、応援合戦に得点ないのが悔やまれるぜ! 実況の
「私としては
「はわぁ、あったら順位ひっくり返ってたよねっ!」
「ないのだから仕方ないですぞ。それより遂に来ますな。騎馬戦は三つ巴」
「そうですわね。赤組と黄組の最高戦力が出て来ますわ。喜ぶのはその辺でお終いですわ。切り替えませんと飲まれますわよ?」
「……ダーリンとゆかりんそういうとこ本当にクールやんね」
応援合戦は応援合戦、競技は競技。見られる部分が違うのだから仕方ない。何より現状総得点数での差は僅差。午前中黄組の一位を阻めたおかげでここから先の独走を許さずには済んだが、どの組も最終的に勝てる位置にいる。
ただこの騎馬戦が鬼門だ。騎手の性能で言えば間違いなく、
対して青組は────。
「あらソレガシさんどうかしまして? 負ける気はなくってよ? 騎手の性能差は理解しているつもりですけれど、
「当然だぜ。騎馬の統率力なら負ける気しないさ! 事前の作戦の通り、三騎で一騎狙う感じで頼むぜ皆!」
勘助氏の掛け声に声を返し、各々騎馬を組む仲間と乗せる騎手に別れながらスタート地点へ移動する。我ら青組の最高戦力は、ゆかりん氏の乗る勘助氏の騎馬で間違いない。
「ダルちゃん、騎馬戦のルールは」
『頭の鉢巻き取られるか、騎馬から落ちたら失格でしょ? 覚えたさ。ただ騎馬戦中にノートに一々字は書けないね』
「それなんですよな。ダルちゃんとの意思疎通どうしましょうか?」
『あたしにお任せさね。魔法使っていいならだけど。身体強化に魔力割かなきゃルール違反じゃないしね。じゃあ騎馬組んで?』
会話用ノートをしまい顔をドヤらせて催促してくるダルちゃんに首を傾げながらも、
『やっほー! こちらダルカス=ゴールドンだよ! 翻訳魔法に幾つかの魔法を組み合わせて今ソレガシの脳内に直接語り掛けちゃってるよ!』
「すげえ‼︎ すげえけど怖い⁉︎ それ副作用とかないですよな?」
『ソレガシはそんなこと気にならなくなーる、ソレガシはそんなこと気にならなくなーる。超絶』
「いや気になりますぞ⁉︎ 洗脳しようとするのやめれ⁉︎ 洗脳魔法は条約違反‼︎」
『あたしの世界ではね』
なんだその不審な返事は⁉︎
「まぁ、それはそれとして出揃いましたな」
赤組からは騎手、ギャル氏、ずみー氏、クララ様。ギャル氏の騎馬にグレー氏。
黄組からは会長殿。黄組のブレインの一人らしい
『さぁ赤組、青組、黄組、三者三様の色を覗かせて午後第一番の競技となります騎馬戦が始まろうかというところ、赤組が点数の差を広げるのか、順位の変動はあるのか、会長が騎馬戦に参加致しますので、ここからの解説は冬姫先生…………と、あれ? 誰?』
『は〜い、男女揃ってくんずほぐれずなんてご馳走さま〜、はっきり言って私はもうこの景色を眺められただけで満足です。青組の応援で近隣からの騒音被害のクレームやばくて校長先生の顔から笑顔が消えました。まぁそれも最初からだけれど〜、先生としては女子達が可愛かったのであり寄りのありです!騎馬戦ではくれぐれもポロリだけはしないように頑張ってくださいね〜。これ以上学校の評判落ちたら先生泣いちゃう。それでね〜先生物騒な競技はよく分からないので〜、道場をやっているらしい
『
「なんでやッ」
おいやめろ馬鹿……ッ、ギャル氏の母殿は解説席に座らせちゃダメだろぉ……ッ‼︎ 冬姫先生はもっと頑張ってぇッ‼︎ 学校の評判落ちてるらしいの多分
『さぁ、騎馬戦の開幕だ』
「いやッ、ギャル氏の母殿が言うのそれ⁉︎ 草ァッ⁉︎」
これ以上学校の評判落ちるの不可避ッ、間違いないッ!
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