16F 兎と亀と絡繰人形 2
「はわぁ、
なるほど。あの野郎がカースト裏で操ってる黒幕の一人か。よし、ぶっ潰そ。マスゴミ乙。『八界新聞』といい記者はどうにも苦手だ。変人四天王なる位からの降格を切に願うッ。耳鳴りの治まってきた耳を摩りながら親指の爪をガジガジ噛む。
「はわっ、はわわっ、
やめれ。なんで何もしてないのに切腹の練習なんてしなければならないのだ。縮こまり顔を青くしている
「団子殿から見た各組の分析はどうですかな?」
「は、はわぁ、単純な身体能力なら赤組が一番だと思うよっ、
「嘘乙」
くっそ詳しいよッ‼︎ 情弱の
兎に角、漠然と見た場合には、
「はーい、頭脳労働担当集合!緊急首脳会談ですぞ! これまで目前の事に全力を注いできたツケが来ましたぞ!話を聞くに黄組は
相手の主要戦力が二学年に集中している以上、
「オーッホッホ! ソレガシさんたらなにを言うかと思えば、今に全力で挑めぬ者には明日も来ませんわよ? 一学年末の学力テスト総合三位の
「おいおい、八位の俺を忘れてやしないか? 黄組には最初してやられたがっ、ふっ、
「…………ライバル多いですなお主」
「ちな、ダーリンは何位なん? うちは十五位やってん。褒めてぇな」
「
「あ〜んサディストぉ! でもそんなダーリンが好きやぁ〜」
恋愛感情ない癖にいつまでダーリン言う気なんだりなっち氏は。おかげで
くねくね身を
「ダルちゃんは学院での学力テストの順位とかあるんですかな?」
『あるよ。あたし参加した限りだと一位しか取ったことないね』
「……マジかぁ」
ダルちゃんが一番でした。流石魔法の天才。学力テストの内容こそ違うだろうが、魔法都市で半村八分状態の中学院に招かれるだけあるわ。学院行った事ねえけども。友人の中ではグレー氏やクララ様は高そうだが、ギャル氏とずみー氏は完全な特化型だからな。意外と言えばりなっち氏が思ったより高い。
「りなっち氏は勉強得意なんですな」
「そないなことあらへんよぉ? こうテストん時は近くの生徒の筆記音聞いてなぁ? 画数から答え割り出したりしてん」
「忍者かお主はッ⁉︎」
いやそれカンニングぅッ‼︎ 学力テストと全然関係ない技能だそれは‼︎ なんという羨まけしからんッ。ドヤ顔のりなっち氏を見つめギリギリ歯を擦り合わせていれば、視界の端に座っている動かぬ
「ちなみに賀東殿と団子殿は?」
「は? 言う必要ないでしょ別に? 趣旨変わってるんだけど? なに? 喧嘩売ってる?」
「はわぁ、私三〇位だよぉ、ショコラちゃんはね、一一六位」
「団子ぉぉぉぉッ‼︎」
賀東殿を生贄に捧げアイアンクローを受けている団子殿に心の中で祈りを捧げて視線を外す。兎に角主要な面子は揃った。大衆を動かす事に長けているゆかりん氏と勘助氏がいてくれれば、他の者への通達はどうにかなる。一学年の競技が終わり、三学年の競技に移るグラウンドを横目に見ながら小さくため息を一つ零した。
「しぃ──っ、赤組への対策は厳しいですな。単純なフィジカル差となると兎に角頑張れとしか言えませんし、戦術の使える競技は騎馬戦に棒倒しの二つのみ。借り物競走とかは運の要素も強いですしおすし」
「果たしてそうかしら? 借り物競走ならどうにかなるのではなくて? 例えばそう、くじを用意する体育委員を買収したり」
「……黒いですな」
ゆかりん氏盤外戦術得意系?
「団子殿、探れますかなそこら辺」
「はわっ、やってみるけど期待しないでっ」
いや多分大丈夫だわ。情報収集屋として超優秀だもん。自信は薄いが、それ以上に情報収集の腕が凄い。吸引力の変わらない掃除機並みに凄いもん。すぐに席を立ち離れて行く団子殿の背を見つめ、勘助殿の話を聞き顔を戻す。
「まぁ借り物競走なんかは俺達も外から協力できるからな。なるべくくじで当たりそうなモノを多く用意しとけばいいだろうぜ。それこそチームワークってやつさ」
「そうなると気になるのは赤組より黄組の動きですわね。ソレガシさんにはなにか予想がおありで?」
「漠然と……ですけどな」
「……間違いなく黄組最高戦力であろう会長殿は騎馬戦には参加するでしょうな。逆に言えばそれ以外の競技にはほとんど参加しないはずですぞ」
「大きな得点の競技だけ一位を取り、それ以外では最悪最下位になり続けなければいいの精神ですわね。つまり絶対一位を取らねばならない競技に全力を注ぐために会長さんはそれ以外には出ないと。そう言われればなるほど、その通りですわ」
『なら騎馬戦の他に男女混合リレーも出るんじゃない? それが一番得点高いしさ』
ひらがなで『だんじょこんごうりれー』と書かれたノートを掲げるダルちゃんに全員頷く。二週間でひらがな完璧に覚えるとかダルちゃんマジ天才。体育祭と関係ない部分で少々感動してしまうが、今は脇に置いておく。
「ってか多分そうなると黄組は騎馬戦と男女混合リレーで一位取れば勝てるように点数調整するんじゃねえかな? 何回まで最下位でも大丈夫かの
『ならあたしが計算して黄組が勝負に出そうな競技弾き出してあげるさね。運動は苦手だけどさ。そういうの得意だよあたし。超絶ね』
「えー……悪い俺なんて書いてあるか分からねえ‼︎」
「ダルちゃんが黄組が勝負に出るだろう競技選別してくれるそうですぞ」
「マジか⁉︎ 今すぐできんの⁉︎ すっげ、サンキューダルカスさん‼︎」
「ソレガシさんもよく読めますわね。喋る言葉は古代ラテン語に近く、文字はロンゴロンゴに似てますのに」
似てる言葉と文字がすぐに出て来るゆかりん氏の方がやべえよッ。古代ラテン語とか言われてもさっぱりだわッ。ロンゴロンゴって何だっけ? モアイ像のある島の文字じゃなかったっけ? イースト菌みたいな名前の島の。
ダルちゃんは少しの間ペンでノートを叩いていたが、すぐにペンを握り直すとノートにペンを走らせて
「最低でも、この後の二学年全員参加の綱引きと玉入れで二位を取る気らしいですな。どちらかを崩せれば借り物競走で一位を取るしかなくなると、つまり」
「綱引きと玉入れのどっちかで三位取らせて借り物競走で一位取らせなきゃ黄組は撃沈か?」
「今のところはですけどな」
「決まりですわね。では総合的に黄組より
『力はパワーってそれ同じ意味じゃない?』
「あかん、うちさっぱり話に入れへん。ダーリン後で優しゅう教えてぇ〜」
「ちょッ、
カンニングばっかしてるからだよッ! しな垂れ掛かって来るりなっち氏を押し返していれば、横からいそいそ手を伸ばしダルちゃんも少しばかり協力してくれる。残念そうに
「どうかしましたかな賀東殿?」
「どうもこうも、玉入れの前に次は女子の五〇メートル競走でしょ。黄組一位にさせないのもいいけど、私達一位になんなきゃ意味ないんだから。黄組勝たせない競技以外でも、赤組ボコしていいんでしょ? 岩梨さんも桃源さんも準備しなよ。打倒は黄組だけじゃないんだから……ま、いいけどね、難しいことはあんたらに任せるから、雑兵は雑兵なりに勝ちを重ねるから」
「……ツンデレですかな?」
「ツンデレですわね」
「ツンデレやんね」
「ツンデレだな」
『ツンデレってなにさ?』
「うっ、うるさいなぁっ‼︎ 勝ちたいんだから勝つって言っていいでしょ別に‼︎ ソレガシのバカッ、バーカッ‼︎」
「
「……サッカーってな、十一人でやる以上どうしても一人でも勝つ気なくした奴がいるとそこが穴になっちまうんだよなぁ。朗報だ。俺達青組にその穴はないぜ」
「……言われずとも」
「ちょっと早いが、午後の騎馬戦と棒倒しの戦術練るぜ。メンバー集めて来るわ。女子が頑張ってんのに男が廃るぜ」
『あたしもいることお忘れな感じ? 多分戦術、戦略論ならあたしの方が詳しいよ?』
「……なんて書いてあるか分からねえけど、心は分かるぜ。勝とうぜ一緒にな‼︎」
『ソレガシの学校……めんどくさくないね』
「……ですな。
何も見ていなかった去年の
だから去年の分も、これまでの分も全部乗っけて勝ちを目指す。
親指の爪を噛みながら走って行く勘助氏の背を見つめる。
誰もが前へ走って行く。
その背に置いて行かれぬように、頭を回そう。思慮と理性に溺れよう。
策も力も、真正面から打ち破る。それだけの力がきっと
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます