7F 青い日々 3
いつぞやのギャル氏来訪の時にようにおかずを奪われぬ為に
怖えよ。引き絞られた目尻と言葉なき背中。痞えながらオムレツを飲み込み、ダルちゃんと顔を見合わせ食器を流し台に置き鞄を手にギャル氏を追う。家族一同首を傾げていたが、
そんなにダルちゃんが心配だったのか、また取立て人gy異世界からやって来たように不思議でもやって来たのか。玄関を出れば家の門の前で待っているギャル氏。「どうしましたかな?」と聞けば、返事もなくギャル氏は歩きだす。
『あー……サレンどうしたわけ? 超絶怒ってね?』
「
ダルちゃんと肩を
「あのぉギャル氏? 本日はお日柄もよく……」
「……そ。で?」
「ギャル氏の髪色のように晴れやかな空で……」
「……そ。で?」
「そでしか言わないとか語彙力が風前の
「……そ。で?」
何この無限ループ。そでそでお化けかな? 怒る事もなく視線さえくれずに歩き続けるギャル氏が意味不明過ぎてヤバい。ダルちゃんに目を向けても、ため息を吐かれるだけ。そでそで地獄に垂らされる蜘蛛の糸はなく、仏さえも見捨てているらしいこの状況を打開する手立てがまるで浮かばない。結果
会話の種も見つけられず、昨日ダルちゃんと調べた異世界関係のびっくり情報でも話そうかと口を開き掛けたところで、差し伸ばす足を少しばかり早め、ギャル氏がゆっくりと口を開いた。
「……ママから伝言、体育祭の次の日だって」
「ギャル氏の母殿から?」
ナンジャラホイ? 口を開いたかと思えばギャル氏の母殿から伝言? 体育祭は確か土曜日だが、次の日がどうした? 早められたギャル氏の足音に急かされるように記憶の海に潜航するが、上手いこと記憶を引き上げられない。ギャル氏の来訪と異世界のびっくり新情報が邪魔をする。そんな記憶の引き上げ作業に待ったを掛けるようにぴたりとギャル氏は足を止めた。
「……鈴芽に聞いたし。なんで黙ってたわけ?」
「えー……なにを?」
「誤魔化してんじゃねえしっ! 他流派との交流会あーしの代わりに出るから文句言うなつったでしょママに!」
あぁ……言ったね。言ったわ……。普通にギャル氏に伝言頼みやがったギャル氏の母殿。
「えー……それがなにか?」
「なにかじゃねえ! あーしアンタに出てって頼んだ? 頼んでないよね? うっざッ、なに出しゃばってんわけ? あーしがそれであざまるとか感謝すんと思ったの? あーしに一言もなく勝手にそんなこと……ッ、これじゃあーしいつまで……ッ、うっざ……ッ、今からでも断ってッ‼︎」
「嫌ですな」
「はぁぁぁぁ⁉︎ んでよ‼︎ きもっ‼︎ 断れし‼︎」
「嫌ですな」
断固拒否する。右の手のひらでギャル氏を制し、首を左右に大きく振る。一度大見え切ったのにやっぱやめますとかクソダセエわ。それに、空手は嫌と、やりたくない事を無理矢理やらせるのは
「別にもうあーし空手封印してねえから! アンタのおかげねありがとー! だからあーしが出んから‼︎ ソレガシは引っ込んでて‼︎ ママにももうそう言ったから‼︎」
「……それでギャル氏の母殿はなんと?」
「…………別に」
歯切れ悪いギャル氏に目を細め、親指の爪を噛まない代わりに顎を撫ぜようと右手を持ち上げる。が、それを目にしたギャル氏に右手を叩き落とされた。頭を回すなと咎めるように。だが、その反応こそが一種の答え。多分色良い返事をギャル氏は母殿から貰っていない。
ギャル氏の母殿は、可能と見ればギャル氏に空手を続けて欲しいはず。一度
「とにかくあーしが出んから‼︎ ソレガシはなんも考えんなよ‼︎ ダルちぃこっちの世界に来たばっかなんだからそっちだけ考えてて‼︎」
「嫌ですな」
「なん……っ、なんで……ッ」
「友人だから。ギャル氏はデザイナーになりたいのでは?」
そう聞けばギャル氏の肩が小さく跳ねる。それを見て確信する。ギャル氏の母殿のギャル氏への答えはおそらく後者だ。何も条件出されたりしていないのなら、ギャル氏がここまで突っ掛かって来るとは思えない。
だがしかし、時に暖炉の前で椅子に座り、時に
ギャル氏が心の底から空手の道に戻ると決め口にしているのならば、
「『絶対』に
「そ、それは……それは…………」
「ギャル氏が出てくれと言わずとも、
「ダメなのそれじゃあッ! ……それじゃあ……あーし借りばっかり……これ以上されたら……あーしもう……っ」
伸びて来たギャル氏の両手が
「……言葉でどれだけ言ってもダメなら賭けようよ。ソレガシにはその方が分かりやすいっしょ? 今度の体育祭、あーしら赤組が勝ったら引いて。交流会にはあーしが出る。それでおけ? ……あーし絶対勝つから」
「無論。絶対勝つのは
「例えこの先夢が叶わなくたって、アンタに負けるのだけは嫌。それだけは絶対嫌なの。じゃないとあーし……ッ、だから……ッ、体育祭終わるまでもう口聞かねえッ、絶対……勝つッ」
本当は出たくないのであれば、そうであるなら一言くれれば迷わず
静観していたダルちゃんが
『ソレガシってさ、なんて言うか……アレだね。損な性格って言うかさ、背負い込むの好きだよね。サレンももっと……いや、あたしが言えた義理じゃないけどさ。負ける気ないでしょ?』
「当たり前だろ常考。異世界のことは一先ず脇に置きましょうぞ。体育祭に負けられぬ理由ができましたからな。ギャル氏に諦めなど似合いませんとも。それを
『めんどくさー……とは言えないさね。うん。今度はあたしの番さ。サレンやスミカ達が相手ってのが厳しいけど、最強の敵じゃない?』
「えぇでも……きっと、厳しいだけでもないですぞ。我ら青組には他でもない、ギャル氏の信じるダチコ達がいるのですから。盗賊祭りの時と同様に」
眺めているだけでは友人などできないが、一歩踏み出せば友人ができる事をもう知っている。昨日の友は今日の敵でも、今日にはきっと新たな友を作る事もできる。幸いに青組は勝つ気である。ならば
冒険すべき先は決まった。後はどれだけ
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