5F 青い日々
「では始めましょうか。第一回これからどうしようか会議を」
「そのダサみパない会議名どうにかなんねえの?」
ギャル氏の文句を聞き流し、駅近の喫茶店に集まった友人達に目を流す。ようやく学校も終わり放課後。武者修行疲れでヤバみパないと、
学校ではなく喫茶店にいるのは、初日から体育祭の練習を詰め込む気満々のゆかりん氏と、応援合戦の際のオリジナル曲を詰め込む気満々のりなっち氏から逃げる為だ。初日ぐらい勘弁してくれ。何故ならば、目下
「とりま、ソレガシのダサい会議名は置いとくとして、ダルちぃどうすんの?」
これである。円形のテーブルを囲むギャル氏、ずみー氏、グレー氏、クララ様と異世界から帰って来て即日集まっているのは、今正に一緒にいるダルちゃんの今後をどうするか。これに尽きる。
早速駅舎の
そうなってくると困るのが、ダルちゃん
「俺のとこはまず無理だな。家に急に女連れ込んだとかバレたら問答無用で血祭り開催だ。ってかただでさえ一週間音信不通でさっきからスマホの着信音がやばい。第一回これからどうしようか会議はいいんだけど、体育祭の前に第一回血祭りが俺の家でおっ始まりそうなこの状況……どうしよ?」
と言ったグレー氏の訴えには全員が一様に狸寝入りを決め込み全スルー。どうしようもなにもどうしようもねえよ。一度使った嘘であるダンスの武者修行で押し通すしかない。異世界への転移が不可抗力である以上、苦労するのは此方という訳で、異世界の神様はもう少し融通利かせろ定期という話である。
グレー氏の家は却下。そうなると残りは
「私の家は親が雑誌の編集者だし、忙しくしてるからダルちぃ家に泊めるのは厳しいかな? 悪いけど私は取り敢えず一週間の言い訳捻じ込むので精一杯かも」
「しずぽよは大丈夫なん? ダンスの武者修行で押し通せる?」
「押し通せるわけないでしょそんなゴミ屑みたいな理由で。学校でももう少しマシな言い訳考えなさいよソレガシさぁ。私の場合はコレね」
ゴミ屑みたいな理由を演技してくれたクララ様マジ感謝。テーブルの上に異世界から持って来たクララ様とベルベラフ殿が表紙のファッション雑誌。モデルの仕事を理由に一週間の言い訳をねじ込むらしいが、その雑誌見せたらコスプレして来たとしか思われないんじゃ……。
「あちきの家はめちゃんこ放任主義だから大丈夫だぜ〜? ただ絵画用品で足の踏み場がねえのがちょいと傷だけど」
「それは大丈夫って言わなくないずみー? あーしの家はどうだろ? 頼めばワンチャン? ただママがまたガンギレてる可能性が微レ存」
「……その可能性は皆無でしょうぞ」
「んでよ?」
「ダルちゃんは
その途端ギャル氏とずみー氏が口に傾けていたコーヒーを吹き出した。汚えなおいッ。軽く身を引いているとギャル氏に肩を叩かれる。
「ソレガシアンタねッ、女の子急に家に連れ込むとか最低だから! しかも泊まりとかなしよりのなし‼︎ はぁぁ、やっぱソレガシも結局油断も隙もないクソ野郎だった的なわけね。おけ」
「おけじゃねえですぞ。急なクソ野郎は草。あのですなぁ、ダルちゃんがいれば異世界の考察が
「そんなんあーしの家で預かってテルして話し合えばいいじゃんね? もうそれで決定‼︎ この話は終わり‼︎ ソレガシの家だけは絶対にナッシング‼︎」
「お主のスマホ魔法都市の地下水路で沈してますよな?」
「そだった……あぁ……マジないんだけど……ソレガシスマホ作ってー」
「無茶振りどころの話じゃねえ⁉︎」
スマホは無理だよ流石に。業者に頼め。何でも
ただ掃除と聞いてダルちゃんが非常に面倒くさそうな顔を浮かべているが。大丈夫? 明日ニュースでずみー氏の家全焼とか流れない?
「……おけまる。スマホナッシングでも家電使えばできるっしょ? あーしの家でいいよ別に」
「でも異世界のこと話し合うんだろ同志? あちきも参加したいぜ〜」
「それなら後であーしが教えるって」
「……それなら
「「それはない」」
なんでや。ギャル氏とずみー氏に揃って却下されるとはこれ如何に。どんだけ
「あちきはお役に立つぜ〜? 今ならお安い‼︎ お買い得だってね?」
「あーしら良いコンビだもんね?」
「もうダルちゃんに決めて貰えばいいんじゃないですかな? これはダルちゃんにとっては冒険のようなものですしおすし」
「それだな〜、仕方ねえか〜、ダルダルにお任せするぜ〜」
「えー」
ギャル氏は何が不満なんだ。一人だけ唇尖らせてぶー垂れているギャル氏から視線を外してコーヒーを舐めているダルちゃんに顔を向ける。言葉交わせずとも話は通じているはずで、ダルちゃんは考えるように指先でテーブルを小突いていたが、少しするとその指先を上げる。
「ちょッ⁉︎ ダルちぃ⁉︎ ソレガシはないって‼︎ 襲われんよ‼︎」
「襲わねえわ
『同じ青組だしね。ソレガシなら夜這いに来ても燃やせばいいし』
「
「ソレガシにやけんなし、きもいんだけど?」
「きもいは余計。寧ろ
「それね。私としてはソレガシに調べて貰うのはありかな。ずみーやレンレンと違って私はそう何度も行きたいとは思えないし。寧ろあんな目に遭ってよくまた行きたいと思えるわよね」
「俺は
「そうね、また行きたいわね」
……あれ? 今なんかおかしくなかった? 次元でも歪んだ? ブーメラン綺麗にブッ刺さってね? クララ様を見つめるも、表情筋を殺し鉄仮面を被ったのか無表情でコーヒーを啜るばかり。表情筋どころかクララ様は手首まで鋼鉄製か? 手のひらなど返していないと言わんばかりだ。その胆力に乾杯。何も言うまい。
「だいたいソレガシはよくてもさぁ? ソレガシの家族は別じゃね? だってソレガシの家日本昔話じゃん」
「同志の家が日本昔話ってなんだ⁉︎ めちゃんこ見てぇ‼︎」
「あー……全然俺には分からねえわ。日本昔話ってアレか? 藁の家的な感じか?」
「そう言えばきみの妹大分アレだったね。なに? 実はタイムスリップでもして来てるわけ? 異世界なんてあるぐらいだし」
「お主達は
『ソレガシの世界はなんと言うか穏やかだね。人族しかいないのがなんか落ち着かないけど』
「あぁまぁ……
『スマホだったっけ? 稲妻で動く箱。皆持ってるし、魔法もないし、誰も神の眷属じゃないなんて変な感じだね。超絶びっくらぽんだよ。ソレガシ急に世界が変わったのによく落ち着いてられたね。魔法の絨毯や『雲舟』の代わりに自動車超絶走ってて、あれ高価なのに大量生産しちゃったわけ? 蒸気も噴いてないし』
「こっちでも大分高価ですぞ? 中古は別っぽいですけども」
『へー、ねーねーソレガシ、あの空飛んでる鉄の鳥っぽいのなにさ? ってか空に渡ってるワイヤーは邪魔じゃないの? 空飛ぶのに。ってか時折道に置いてある光る箱ってなんなわけ? 食糧? よく盗まれないね』
「空のは飛行機と電線で道にあるのは自販機ですな。あぁダルちゃん自販機叩いちゃダメですぞ⁉︎」
小さく笑いながら道を歩くダルちゃんの姿に少しばかり口端が持ち上がる。取り乱すよりも、何度か話をしてはいたからか、恐怖よりも好奇心が勝っているようで何よりだ。電線は街に巡る蒸気パイプの代わりだと説明しながら歩いていれば、見えてくる家の門。あそこが家だと指差せば、ダルちゃんはパチクリ目を瞬く。
『なんか浮いてるねソレガシの家……アレさ。夜間都市の屋敷に似てるんだ』
「日本の伝統工法で造られた和式の家屋ですからな」
『日本ね……本当にあるとは驚きだね。超絶。やっば……ちょっと顔にやけちゃうっ』
足を止め押し殺したように笑うダルちゃんの姿を見下ろし目を細める。未だ行った事のない夜間都市の街並みがどうなのか知りはしないが、此度の異世界道中で知った一番の情報。
「……サブロー=コウガ殿ですか」
『そそ。御伽噺だと思ってたんだけどね。やばいね思ったよりテンション上がるね。こっちでもやっぱり有名なの?』
「
『遥か昔に突如としてパングリ大陸に降り立ち、数々の眷属を打ち破り夜間都市を築いたらしい伝説の軍神の眷属。うん千年も前の話だよ。その後眷属達を率いて姿を消したって話だけど』
「……この世界に帰って来たと?」
『だったんだろうさ。うっわ、論文書いたら夜間都市から表彰ものだよきっと。なんか怖くなってきた』
そうして玄関の引き戸を開け、フェイスマスクを引き下げ「ただいま」と声を出せば、居間からにゅっと妹が顔を伸ばしてくる。特に怒る事もなく、『またか』と言いたげな呆れ顔で出迎えてくれる妹の姿が今はありがたい。
「ようやく帰って来たのか兄者? 一週間とは長かったのう? どうせまた刺青を増やして来たのじゃろう? ぷくく、今回ばかりは母上もお怒りじゃぞ? 今正に居間で角を生やしておるからの」
「それを聞いてもう出て行きたくなってきた件。なにが可笑しいのですかなお主? それよりしばらく家に泊めたい者がいましてな? 少しばかり訳ありで」
「なんと⁉︎ あの兄者が遂に他人を家に泊めたいなどと⁉︎ まさかあのハイカラな
言いながら頭に刺している
「黒船じゃぁぁぁぁ⁉︎ 黒船のご来航じゃぁぁぁぁっ⁉︎ 兄者が遂に南蛮の
「いかん! いかんぞ‼︎ 愚息よッ、ふらんす料理には目を瞑ってもそればかりは許し難し‼︎ 南蛮の風に毒されおって‼︎ お前は侍になるのだぞ‼︎ 文明開化になど負けては」
『侍? ソレガシもう騎士だよね? 夜間都市の騎士になりたいの? 確かあそこも騎士を侍って呼んでたような』
「ちょ⁉︎ ダルちゃん魔法は」
「ぐぉぉぉ⁉︎ 指で宙に文字を⁉︎ これが南蛮の面妖な術か⁉︎ 奇天烈な⁉︎ その妖術の魅了に掛かったか⁉︎ 愚息よッ、腹を切れ! 介錯は愚生がしよう‼︎ 南無阿弥陀仏ッ‼︎」
「なんでや」
やって来たかと思えばダルちゃんを見て同じように居間に転がり戻る親父殿。魔法見ても面妖な術で済ませるってどうよ。だいたい
『ソレガシの家族ぶっ飛んでるね。道化師の一族?』
「違いますぞ」
親父殿も妹も道化師だと思われてんぞ。動きは確かに道化師っぽいけども……ってか親父殿刀握ってね?
「あぁ親父殿? 武士の情けですぞ。家なき流浪人に宿を貸すのは侍の道理では?」
「む……家出娘か? むむ……それは一理あると認めようだがしかしッ、南蛮の
「実は旅に出ていた間お世話になった方の一人でしてな。
「遂にか愚息よッ⁉︎ む……それ程の覚悟があると言うのであれば」
「お待ちなさい」
「姫ッ⁉︎」と親父殿が声を裏返し居間に振り返る。
「息子殿よ、久しく顔を見ないと思えばなんたる無様。恩を受けたばかりか、それを未だ返さずにいたとは、そのような無頼漢に育てた覚えはありません。南蛮の娘さんお名前を聞いても?」
『あー……ダルカス=ゴールドンだけど……どうしよソレガシ?』
「……ダルカス=ゴールドン殿ですぞ
「ではダルカスさん。このような時代に置いていかれた家でもよければお上がりなさい。受けた恩を返さぬ恥知らずと伝わっては末代までの恥。ねえ旦那様」
「……姫がそう言うのであれば」
「ダルカスさんのいる間の
「…………
「……はてなんのことですやら? はてはてぇ?」
首を傾げて
『なんとか会話できるようにあたしも頑張った方がいいっぽいね?』
「じゃあその間、
袖を巻くって靴を脱ぎ家に上がる
今度は
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