3F 我ら青組!

 二年A組に続々と生徒が集まり暫く、その流れがぴたりと途絶える。一つの教室に二クラス分の生徒を集めるという暴挙。椅子の数がそもそも足らず、テーブルに腰掛ける生徒多数。これで学年の結束が固まるのか? それがしにはそうは思えない。


「はわぁ、大変なチームに振り分けられちゃったよショコラちゃんっ。みんないい面構えしちゃってるっ。私足引っ張っちゃわないかなぁ?」

「いや、そもそもお主誰ですかな?」

「ひぃッ⁉︎ 食べられるッ⁉︎」


 食べねえよ。賀東ガトー殿と仲良いらしい萌え袖振り回し、お団子に髪を纏めた背の小さな少女。座る椅子がないので賀東殿の机にダルちゃんと腰掛け視線を向けただけで怖がられるとか草。それがしはそんなに威圧的か?


 座るなとばかりに賀東殿は机の上に腰を下ろすそれがしを手で払うが、微塵も動く気はないと腕を組み座り続ければ諦めたらしく、ため息を吐きながらざっくばらんに切り揃えられた短かな金髪に染められた髪を指で掻き上げた。


「同じダンス部員の顔くらい覚えとけよソレガシ。対抗戦の時、梅園うめぞのさんとバトってたじゃん」


 そうだっけ? ギャル氏のダンスガチバトル的な蹴り技の印象しかねえから見る余裕なかったわ。そう言われれば居たような気がしてくる。だってダンス部員の人達と一日も顔合わせてないからな。賀東殿と部長、副部長しかそれがし覚えてねえよ。


「わ、私は……胡麻ごま団子だんこって名前で」

「胡麻団子? それはまた美味しそうな名前で」

「食べられちゃうっ⁉︎ だんごじゃなくてだんこだから美味しくないッ⁉︎」

「食べねえよ。腹壊すだろ定期」


 そうか……賀東ガトーショコラ殿は胡麻団子ごまだんこ殿と仲がいいのか…… それがしは何を言っているんだ? ここは甘味処かな? デザートの注文をしてる気分だ。歯を剥き出して威嚇するように縮こまる団子殿の小動物的な空気に悲しくなってくる。この気の弱そうな団子殿をギャル氏のダンスバトルの相手に送り出したダンス部の采配よ。そりゃ勝てねえよ。


「しかしそんなに青組の面子はやばいので? それがし全く親しい方がいないので」

「嫌やんなぁダーリン。うちがいるやん♪」

「お主一旦黙ろうか?」


 ダーリン言うな定期。その度に周囲から鋭い視線が突き刺さってんだよ。リア充の幻影を周囲に振り撒くのはやめれ。賀東殿の隣の席がりなっち氏という最悪の席順よ。さっきまで教室の中心でゲリラライブもどきしてた癖に席に戻ってくるんじゃない。


 こっちに座れとばかりにりなっち氏は机を手のひらでリズムよく叩いているが無視。団子殿と賀東殿の相手に集中する。教室の中心で高笑いを続けているゆかりん氏はもっと無視だ。


「うぅ……それはもうっ、なにせッ、はわぁ、我が学校の変人四天王が二人も同じチームにッ」

「変人四天王⁉︎」


 そんなの居たのうちの学校⁉︎ 学校の七不思議などはどんな学校にもあるかもしれないが、変人四天王なる輩が存在しているなんて初耳だ。しかも学年単位どころか学校単位での不名誉な四天王とやらが二人も同じ教室内にいるとかどんな蠱毒こどくだ? 邪神でも召喚する気なのか?


 いったい誰だと首を傾げ団子殿に目を向ければ、団子殿の目が向くのは教室中央。高笑いを続けるお嬢様へ。染めたのではない天然の金髪を幾つもドリルのようにロールさせているドレスのような改造セーラー服を纏った少女。丈の長いスカートの所為で一昔前の女番長スケバンに見えなくもない。


桃源とうげん=U=花鈴かりん嬢。桃源グループのご令嬢にして、演劇部の看板女優っ。人生とは一幕の舞台と口にしてやまない、観客を巻き込む暴君っ。彼女の手に掛かれば体育祭もまるで映画のワンシーンの如く使い潰されるに決まってるのっ。はわぁ、大丈夫かなぁ? 私全然仲良くないしぃ」

「その割には詳しいですなお主」


 情報めっちゃ出てくんじゃねえか。ゆかりん氏はハーフなのか? U=花鈴でゆかりん氏か。手に汗握り情報くれる実況者のような団子殿に感謝しつつ、目をゆかりん氏から賀東殿の隣の席に座るりなっち氏に移す。


「どうかしたんダーリン? そう熱く見つめられると火照ってまうわぁ〜。うちのことはハニーって呼んでくれてもよかよ?」


 何故か好感度パラメーター的なのがぶっ壊れているらしいりなっち氏に返事せずに一人静かに頷く。わざわざ聞かなくても分かる。分かってしまう。と言うか分からなかったらそれがしやべえ奴だ。


「そうですか……変人四天王の二人目は」

「あんただよソレガシ」

「……は? ん? ……聞き間違いですかな? ……変人四天王の二人目は」

「だからあんただって」


 賀東殿が断言し、それがしの隣でダルちゃんが噴き出す。ちょっと待ってくれよ。学年じゃなくて学校の? 変人四天王の一人がそれがし? ゆかりん氏とそれがしが同列でりなっち氏は入ってすらいないだとッ⁉︎ 基準がおかしいだろッ⁉︎ それがしのどこに四天王レベルの変人要素があるんだ⁉︎


「ワロス! 草しか生えませんなぁ! それがしが?」

「そうだって。だからあんたがそこに座ってると私達の評判まで落ちるんだけど? 桃源さんの近くにでも行きなよ。まぁ桃源さんはあんたと違って人気はあるけど」

「人気ってそれ容姿的な問題だけじゃねえの⁉︎ 待たれよ賀東殿‼︎ そもそも後の二人誰ですかな⁉︎ それがし全く微塵も存じ上げないんですけども⁉︎」

入柿いりがきさんと榴木ざくろぎってオカルト研究部の奴よ。全員二年」


 ずみー氏まで入ってんのかよ⁉︎ 変人四天王の半数が知り合いっておかしいだろ⁉︎ 学校の変人四天王らしいのに二学年が独占している現状に反逆しようという者はいないのか? 榴木ざくろぎって誰だそもそも⁉︎


「ギャル氏やグレー氏からそんなこと一言も聞いていないのにッ」

「その二人は美形四天王の二人だから住む世界がそもそも違うじゃん」

「対応の差に草‼︎ うちの学校そんなカースト区分⁉︎ 初耳ですぞそれがし⁉︎ 後の二人は、いやッ、聞かなくても分かりますぞ! クララ様ですかな?」


 当たりとばかりに賀東殿はため息を吐く。くっそぉ、これまでクラスメイトと交友を深めてこなかったツケがここで一気にッ。知らぬ間に謎の四天王の一人にされていたとはッ。しかも知り合い塗れッ。そんなのに組み込まれてたからそれがしハブられてたの? 誰だ四天王に推薦してくれた奴は‼︎ カースト操ってる黒幕がいるぞどっかにッ‼︎


 りなっち氏さえも選考漏れする変人四天王の超えられない壁はなんなの? 他にも聞き出せばぼろぼろと知らなかった新事実が発覚しそうであるが、生憎とそんな時間はないらしい。二学年の青組が全員集まったおかげで、高笑いをピタリと止め、教室の前に躍り出たゆかりん氏が黒板を強く叩き注意を引く。


「揃いましたわね青組の精鋭達‼︎ 我ら二学年の青組大将‼︎ わたくし様が見事率いてご覧にいれますわ‼︎ 異論のある方は前に出なさいな‼︎」


 リーダーシップがもの凄いな。これが変人四天王とやらに組み込まれていてもゆかりん氏に人気があるらしい秘訣なのか。それがしには無理ぽ。流石ゆかりん氏ッ、ゆかりん氏こそ変人四天王最強ッ。その称号は嬉々として譲ろう。だからそれがしを四天王から外して。


 高らかに二学年の青組大将には立候補するゆかりん氏に反対する者は誰も────いや、一人いた。席の最前列で腰掛けていた人影が立ち上がり、「待った」と口遊む一人の男の姿に団子殿が息を飲む。


「あの方はッ」

「知っているんですかな団子殿⁉︎」

「美形四天王最後の一人ッ、柚子町ゆずまち勘助かんすけくんっ。言わずと知れたサッカー部の名将ッ。去年の県大会で一年生ながらレギュラーを勝ち取り優勝に導いた立役者っ。はわぁ、演劇部の看板女優とサッカー部の名将の激突っ、これは嵐の予感っ⁉︎ 目が離せなくなっちゃうよっ!」

「……団子殿はなんと言うか楽しそうですな」


 癖の入った染められた短かな金髪の毛先を弄りながら前に歩み出る勘助殿の姿を青組の面子は見つめ含み笑う。教室の空気が体育祭に挑むそれではない。手を組み静かに見つめる者。片目を瞑り顎を手で撫でている者。ここは二学年のアンダーグラウンドか? ならず者みたいな仕草をする者達ばかりが二年A組に集まっている。


 それがしも乗るしかねえのかこのビッグウェーブに? 乗れなかったからこれまでハブられてたの? それはいくない。教室の隅から歩み出ると決めた手前、この程度の波くらい乗りこなして見せようッ! 魔法都市で組んだ騎士達に比べれば……ッ! いや……騎士達の方がある種まともじゃね?


 それがしの隣ではダルちゃんが面倒くさそうに欠伸を一つ。まあいいッ、それがしもこれ見よがしに足を組んで腕を組み含み笑う。見せて貰おうじゃないかッ。


「ふっ、そうはいかないぜ桃源さん。体育祭では一致団結が欠かせない。チームプレイだ。舞台の上じゃワンマンで通ってもスポーツではそうはいかないぜ? そうだろ皆! 俺達青組の魂はクールに決めてこそ輝くってもんじゃないのか?」

「あらあらなにを言うかと思えば、甘々ね貴方? 体育祭‼︎ それは肉体同士のぶつかり合いだわ! 優雅に美しく完全勝利‼︎ これこそ覇道‼︎ 革命を起こすのにクールでは物足りなくてよ‼︎ でもチームプレイこそが必要なのも事実。やるじゃない。どうかしらここは? まずはわたくし様達が手を結ぶと言うのは?」

「チームプレイ。甘美な響きだ。オーケー、その案に乗っちゃうよ俺。ただこの握手は俺だけの想いじゃない。皆の想いだ。そうだろう? 今ここに青組同盟の結成を宣言するぜ!自分の意思で皆ここに来たんだ! 反対する野暮な奴なんていやしないぜ! なあ?」


 ゆかりん氏と勘助殿がぐっと握手を交わせば沸き立つ歓声。なんだこの茶番はッ。反対意見する為に立ったんじゃねえのかよッ。皆自分の意思じゃなくてくじ引きで集まったんだよ。青組大丈夫? 横を見れば団子殿が拳を突き上げ他の生徒共々叫んでおり、賀東殿までニヒルに笑って拍手している。


 この空気に乗れないそれがしがおかしいの? 熱狂している周囲を見回し、ダルちゃんと顔を見合わせ小さく頷く。もういいやそれがしも取り敢えず叫んでおこう。もうどうにでもな〜れ。


「ypaaaaaaaaaaaaッ‼︎」

「はい、それじゃあ出る種目を決めようかしら? 全勝できる編成にしますわよ?」


 叫ばせた癖に手を叩き合わせ、ゆかりん氏が冷めた調子で黒板にチョークを走らせる。ノリについていけねえよそれがしッ。ダルちゃんが隣でまた一つ欠伸を零す中、一人静かに肩を落とす。その更に横ではりなっち氏がそれがしの為にか悲しげな歌を口遊んでくれた。


「では先程お話した通り、りなっちさんとソレガシさんに応援団は任せましたわ‼︎」

「待たれよッ⁉︎ いつ話した⁉︎ よし分かった今が革命の時ですぞ‼︎ 打倒独裁者‼︎ 反逆の狼煙を上げるは今‼︎ 青組万歳‼︎」

「えーでは種目決めの方に」

「まずそれがしの話を聞け」


 それがしの中でのゆかりん氏の株の大暴落を誰か止めてくれ。大恐慌不可避。


 

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