2F 学園ヘドロ 2
「ソレガシくん、なにか言いたいことはあるかしら〜?」
「それはもう大量にありますな」
朝の
其の一、何故に
其の二、何故ダルちゃんが
其の三、
「自分の意見がいっぱいあるのは先生も感心なのだけれど〜、ね? 優等生のソレガシくんが二年生始まってからちょっと……いや大分はっちゃけ過ぎてるおかげで先生の評価がやばいんです。先生に恨みでもある〜?」
「そうですな。先生はまず優等生らしい者の名前ぐらい覚えてくれますかな?」
「覚えてますよ〜ちゃんと。一年生の頃からテストの総合点も上から数えた方が早いし、問題も起こさなかったのに、まずは鏡を見たらどうかしら〜?」
「いや、これは全部ギャル氏が揃えてくれたものでして」
「あ〜ソレガシくんは付き合っている恋人に合わせて見た目から変えるタイプですかそうですか〜。なら仕方ない。私学生の本分は恋愛だと思ってまして〜」
おい大丈夫か担任の先生。学生の本分は勉強だよ。どこに生徒に勉強より恋愛頑張れって真面目に言う先生がいるんだ。今正に目の前にいるけどもッ。だいたい
「あのですな蒲生先生」
「冬姫先生です。冬姫先生って呼んでくれないと返事しませんよ〜? 蒲生なんて可愛くない。早く苗字変えたいわ〜、ね〜?」
「知らんわ」
婚活頑張れ、
目の前に座る蒲生先生────。
「冬姫先生です」
此奴直接脳内に……ッ⁉︎ エスパータイプかッ⁉︎ 怖いッ⁉︎
────冬姫先生は女性にしては身長高く、
「んんッ、冬姫先生、
「ソレガシくんより可愛いので無罪です。目の保養になりますし〜」
「なるほどですな! そうきましたか! はははッ!」
思わず膝をぺしりと叩く。そうかそうか
「……じゃあなぜ学校見学してるはずのダルちゃん……ダルカス=ゴールドン殿がなぜここに?」
「ソレガシくん、学校への無茶振りはやめてください。英語も喋れず、どこの国の言語かも分からない言葉を話す子をどう案内しろと〜? それに転入希望との話ですけれど、元の学校の名前すら分かりませんし。ソレガシくんが連れて来たそうなので呼び出したのだけれど〜?」
すげえ普通に怒られたわ。
「筆談すればいいのでは?」
「……できるんですかソレガシくん?」
おっとぉ〜? やっちまったなぁッ⁉︎
異世界ではない元の世界には『塔』がない為、言葉の翻訳魔法が働いていないのでダルちゃんとの会話は容易ではないが、冒険者ギルドで登録した眷属の紋章があるおかげで文字の翻訳機能は生きている。故に英語のテストで翻訳無双できるのだがそれは一旦置いておき、少しばかり頭を回して指を弾く。
「ダルカス殿は元の学校では文学部的なところ出身でして、喋れずとも文字は読めるんですぞ。ねぇダルちゃん?」
ぐっとダルちゃんに向けてサムズアップして見せれば、一秒、二秒、三秒……十秒後、ダルちゃんは小さくニヤけるとサムズアップし返してくれる。ほら言葉なくとも意思疎通できる! 何をどう受け取ったのかはさっぱり分からないが。
「う〜ん、ソレガシくんと一緒なら大丈夫かしら〜? ここだけの話、学校案内無理だって先生達早々に白旗降ってね〜、取り敢えず数学の問題用紙渡してみたのよ〜」
学校見学に来て早々コミュニケーション取れないからって数学のテスト渡すとか最悪だなうちの学校。転校生とか来なくなんじゃね?
「そうしたらパパッと数分で全問正解しちゃってね〜? 校長先生が学校の評判上げたいから転校認めるって〜、みたいな〜?」
「それを
真っ黒じゃねえかうちの学校ッ⁉︎ 嘘だろ校長先生⁉︎ 許されねえだろそんなのッ‼︎
「それにダルカスさんはとっても可愛いので先生も転校は賛成賛成〜、クラスには朝の
全然上手いこと言えてねえからなそれッ、要は先生達は意思疎通できないから
とはいえ、異世界からやって来たばかりのダルちゃんと一緒に行動できるのはありがたい。寧ろ異世界に落ちた
「そんな訳で教室に戻りましょうか、一時間目二時間目は体育祭の種目決め諸々だから都合よくて助かるわ〜」
先生にとっては都合良くてもこっちは別だ。一時間目からもうそんな感じなの? 異世界から帰って来て早速学校行事とか辛いわ。
席を立つ先生に合わせて立ち上がり、ダルちゃんと共に職員室を出て先生を追う。廊下を歩く道すがらダルちゃんに軽く袖を引っ張られ、光るダルちゃんの指が空に文字を描き思わず噎せた。授業がもう始まるからか、他の生徒が誰も廊下にいないのが救いだ。
『ソレガシ、体育祭ってなにさ? あたしはどうしたらいい感じ?』
「え、あぁ、紙は」
『ソレガシは普通に喋ってくれていいよ。あたし腐っても
マジかよ。じゃあ職員室での会話普通に分かってたんじゃねえかッ。ドヤ顔で耳を指で叩くダルちゃんの姿に小さく肩を落とし、一度軽く咳払いをして空の文字を払い、不審がって
「体育祭とは要は学校の皆で運動しましょうついでに競ってみたいな行事ですぞ。参加する事に意味があるので結果には然程意味はないのですがな。だからこそ勝利こそが勲章の催しとでも言うべきか。教室の隅に定住してる
これまではね。別に友達もいなかったし頑張る意味は特になかったのだが、今年は少しばかり違うかもしれない。この学校行事、ギャル氏やグレー氏が大人しくしているはずがない。
『あー、学院の競技会みたいなものか。めんどくさー。あれ結構評価に響くんだよね。魔法の撃ち合いとか、決闘の模擬戦とかさ』
「学院の体育祭物騒過ぎね? 絶対怪我人出るだろ常考」
それもう模擬戦闘訓練みたいなものじゃねえかッ。魔法の撃ち合いとか機械神の眷属ハンデ半端ないなッ。
やはり世界の常識が違えば競技内容が違うのは必然か。よかった元の世界の体育祭が平和で。
そう安心していれば、すぐに二年B組の教室が見えてくる。冬姫先生が扉の前で足を止め
「ソレガシくん、教室には先生が先に入るので、呼んだらダルカスさんと一緒に入って来てね〜? 一応今日は見学って名目だけど〜。それとあまり独り言は先生感心しないかな〜?」
そりゃそうだわ。ダルちゃん文字指で引いてるだけだから喋ってたの
「いやあの先生、実はダルちゃんリスニングも得意なんですぞ。聞けるだけで喋れませんが」
「そうだったの? ソレガシくんとは意思疎通できるみたいだし、頼むわね通訳」
そう言い放ち
「はーいみんな〜、朝話した学校見学の子がこれから一緒だから仲良くね〜。転校はほぼ決まってるから〜」
勝手に確定事項にしてんじゃねぇッ! ツッコミは冬姫先生に届く事なく、続けられる「どうぞ〜」の先生の声に合わせてダルちゃんと共に教室に入る。教室撃ち合い見回し小さくガッツポーズッ。
りなっち氏が居ねえ! 流石に体育祭の種目決め諸々で教室に戻ったらしい。出禁の紙を次から机の上にでも貼っておこう。
それにしても、教室の教卓の横に立つダルちゃんに向けられる好奇の視線。見た目身嗜みの甘い西洋人形みたいだから気持ちは分かる。服もドレスっぽい服のまんまだし。少しダルちゃんと離れ立っている
「それじゃあ自己紹介を〜」
冬姫先生に促され、ダルちゃんは小さくため息を吐くと緊張したからなのか懐に手を突っ込み細長い
いくら異世界の出身だからってそれはいけないッ。先生と幾人かの生徒の視線が今ので死んだぞッ。
「えぇっと、あの〜自己紹介を〜」
再び告げられた先生からの自己紹介の催促を受け、ダルちゃんが肘で
「あの〜自己紹介」
分かった分かったッ‼︎
「えー、とある大陸にある都市、ブダルーニュ出身、イージーと言う都市の学院から短期留学的に転校して来る予定のダルカス=ゴールドン殿ですぞ。好きなものは怠惰。嫌いなものは勤勉。あぁ……今なんか懐から
「ダルちぃぃぃぃッ‼︎ 同じクラスでマジ嬉しみがオーバーヒートッ‼︎」
「ダルダル〜ようこそだぜ〜‼︎ 同士共々大歓迎ってね‼︎」
ギャル氏とずみー氏とグレー氏が盛大な拍手で出迎えてくれる。うん……三人だけ。後は拍手は疎だ。ギャル氏の髪色のように顔を青くしているクラスメイト達はどうした? ダルちゃんの紹介を過不足なく終えたはずなのに、ウケが宜しくない。
「あの〜ソレガシくん? 宗教上の理由? その喧嘩を買うって言うのは〜」
「それも宗教上の理由ですな」
「あぁ……そうなの〜? 先生の評価が……うん、まぁ……席は……どうせすぐに移動なのだし〜それは後で。先生には手に負えないので、後はもう学級委員に任せるわ〜」
おい担任ッ。もう何も言えねえよッ。質問タイムもなく紹介を打ち切り冬姫先生は窓辺の椅子に腰を下ろし、バトンをぶん投げられた学級委員が前に出て来る。青い髪の乙女が。ギャル氏学級委員だったんだっけ? 四月から合わせて二週間学校にいない学級委員ってやべえなッ。
「うーい! んじゃまあ去年もやってんから説明は今更っしょ? くじ引きタイムスタート的な? 箱はもうあんから回してメリーゴーランド‼︎」
くじの入った簡素な箱を回し出すクラスメイト達を眺めていれば、ダルちゃんから引かれる服の袖。説明不足どころの話じゃねえな。ダルちゃん去年はうちの学校にいないし、ギャル氏は学級委員モードにでも入ったのか、どこから取り出したかも分からない伊達眼鏡をいつの間にか掛けている。
「我が高校の体育祭は少し特殊でしてな。クラスの仲は四六時中一緒だし文化祭とか他のイベントでも勝手に深まるとかの理論で、体育祭はくじ引きでまずチームを分けるんですぞ。学年分け隔てなく結束力を高めるためとかいう意味不明な理由によって」
だから一時間目から体育祭の種目決め云々の時間が割かれている。文化祭もそうだが、我が高校は学校行事に力を入れ過ぎる傾向にある。
ソースは
「ダルちぃ来て早速体育祭とかドチャクソ運良いし! 絶対楽しいよ! 応援団なんかもやっちゃったりしてー!」
「あのですなギャル氏。テンション上げるのは結構ですが、チームが違ったら草も生えない。
「そマ? まぁ大丈夫じゃね? これまでもずっと一緒だったんだし、なんだかんだで同じチームっしょ? ほら見てみ〜?」
ふわふわとした感じでフラグを建築してゆくギャル氏にジトった目を送れば、ギャル氏に顎先でクラスメイト達を見ろとしゃくられる。
「赤だったぜ〜」
赤色のくじを振り回すずみー氏。少し離れたところで無言で握り締めた赤いくじを天高く掲げているグレー氏。よかったねグレー氏……。そんな二人の姿に笑いながら、既に引いていたらしい赤いくじをギャル氏は
チームは、赤、青、黄の三種類。一学年六クラス。結束力云々の謳い文句を証明するかのように団体戦が競技としても多いが故の三チーム。三分の一を見事引き当てる運の強さが半端ない。呆然とそんな光景を眺めていると、くじの箱が
おいおいおいッ、コレってあれじゃね? 赤引けたら最高だけどそれ以外だと地獄じゃね?
肌から浮き出る汗が止められない。なんだこの緊張感はッ。今まで特にくじ引きとか適当に流していたが、間違いなく
目の前に来たくじ引きの箱に手を突っ込もうにも、緊張から手が震えて出すに出せない。鎮まれッ、鎮まれ
「なにやってんの?
「言わねえよ」
福があるんだよ福神漬けはない。くじ引きの箱に手を入れて福神漬け出て来たらホラーだわ。同じ赤色だからって喜ばんぞ。ただギャル氏の言う通り、引かずとももう結果は分かる。教室を見回しくじの色を数えれば、黄色はもう十枚出ていて、赤色ももう十枚出ていて…………。あれぇ?
くじ引きの箱を逆さにすれば落ちて来る青いくじ。目を擦る。床に落ちているのは青いくじ。目を擦る。……やってくれたぜ神様。機械神ヨタ様よ……神対応してよ……。
「……実はこれまで黙っていたのですけどな。
「いや誰が見ても青いくじっしょ。そっかー、ソレガシとダルちぃは敵かー」
「待たれよ‼︎ 残り物には福神漬けがあるならこれは最早赤いくじと同義ってか、軽いなお主⁉︎
「青組は二年A組に移動だってよ? マッハでゴー! 赤組は二年B組ね!」
「慈悲はないんですか⁉︎ おいおいおいおいッ⁉︎ 二人で一緒ソロ活なしの誓いは⁉︎ 裁判長‼︎」
「うっさいソレガシ! しょうがないっしょくじ引きの結果なんだから! ダルちぃいんだしソロ活でもねえじゃんね!」
慈悲の欠片もない裁判長に閉幕とばかりに教室から締め出される。目の前で閉じた扉の儚さよ。くじ引き絶対主義か?
げっそりと体から力が抜ける中、しかし、まだ救いは残されていると二年A組の教室の前に立てば、教室から出て来る見慣れた顔が。
「ソレガシじゃん。きみ青組? ダルちぃもなんだ。私は赤組だから今回は敵ね。きみと競うっていうのも少し楽しみ」
ちょっと待ってよ。……待ってくれねえなぁッ‼︎
二年A組の教室の前で立ち尽くす事しばらく、とは言えゴネたり我儘を言うのも違うので渋々二年A組の教室に入る。ギャル氏の言う通りダルちゃんが一緒なのが唯一の救い。
「オーホッホッ‼︎
「ダーリン待ってたわぁ〜、これこそ運命‼︎ うちの願いを神さんが叶えてくれたんやね! あぁいい歌詞浮かんだわ。応援団は任せとき! うちとダーリンでエラいエモい応援歌歌ったるさかい‼︎」
「チェェェェェェンジィィィィッッッ!!!!」
青いくじを床に叩きつけ叫ぶ。
誰でもいいからくじを交換してくれッ‼︎ 教室の中心でテーブルの上に乗っかりギターを掻き鳴らすりなっち氏と、高笑いしているゆかりん氏。
圧倒的混ぜるな危険ッ‼︎
教室を見回せば、頭を抱えて
「こっち来んなソレガシ……私まで同類と思われるでしょ」
「ちょ、ちょっとショコラちゃん。食べられちゃうよっ」
「誠に遺憾である」
どうしてこうなった? 誰でもいいから教えてくれッ。ただ一つ、
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