三.五章 ヴァルハラ日和
G 学園ヘドロ
考えろ、考えろ、頭を回せッ。
どうしてこうなったッ⁉︎
どれだけ考えても意味不明。異世界『エンジン』から帰って来て即日。教室に一歩踏み出した足が止まる。
隣のクラスであるクララ様の姿は既になく、ダルちゃんを校内に入れる為に転入希望の見学ですと先生方に取り敢えず預けたのがいけなかったのか。眷属の紋章を隠すフェイスマスクの位置を正しながら、廊下に掲げられた
眩い朝陽に照らされた窓辺の最奥に置かれた
異世界で一ヶ月と少しばかり過ごし、元の世界換算で三日どころか一週間いなかった所為でクラスメイト達が向けてくる居心地悪い視線から逃れるように
パンクファッションとでも言えばいいのか、ジャラジャラ鎖を垂れ下げた刺々しい改造セーラー服を纏いキャップ帽を被った女子生徒が
席の前で足を止め、一度咳払いをすれば緑のメッシュ少女は指で弦を一度弾く。二つ咳払いをすれば二度指で弦を弾く。なんだ此奴ッ。いや待てよっ、ギャル氏の仲良い五人組の一人。
「あー……りなっち? んでソレガシの席に座ってんの? 隣のクラスだよねりなっち」
ですよねー。軽音部に所属しているらしいギャル氏のダチコりなっち氏。もうすぐ朝の
「今ダーリンとセッション中やん。お静かに頼むぜぇベイベー」
「ダァァァァリンッ⁉︎」
ギャル氏の叫びに耳を抑える。全然静かにする気皆無だな。ってかダーリンて誰? よし分かった。此奴はやべえ奴だ。うちの学校おかしくね? 生活指導の先生ストライキですか? ギャル氏達で諦めてるのか知らないが、
よし逃げよう、と即座に決め身を翻そうとするが。静かにと口元で人差し指伸ばしていた腕が伸ばされ
「うちは
「それはりなっちが京都生まれだからっしょ⁉︎ ダーリンって、ちょッ⁉︎ 早まんなしりなっち⁉︎ 」
「レンレンたら、今うちはダーリンとお話中やん」
「
「分かっとるよ、ソレガシやん?」
「
待ち人間違えてませんか? 一度子供相談室にでも相談すればいいと思う。異世界から帰って来て朝っぱらから変人の相手をしなければならない意味。もうお家に帰りたくなってきたよ? どうして学校来ちゃったかな……。異世界から帰還しての時差ぼけを理由に早退したくなってきた。
「それよりあのちょっと
「うん、ほなセッションしよか?」
「なんでや」
しねえよ。話聞いてます? 朝の
「ようこそ軽音部へ」
この紙入部届じゃねえかッ‼︎ なんでそうなった⁉︎ 怖ッ‼︎ なにこの子怖い⁉︎ 入るとも何も言ってないのに入部届渡してきやがった此奴ッ⁉︎ 何故
隣のギャル氏へ目を向ければ、
ギャル氏が動くより早く、時間切れをお知らせするかのように鳴るチャイムの音。おぉい、朝の
手を伸ばせばりなっち氏が握手してくれる。触れるわ……、幻覚じゃないわ大草原。
「それでこそうちの見込んだ男やダーリン。組んでくれはるんやね、うちとのバンドッ‼︎ 目指すはドーム‼︎ 二人で世界を目指そうやないの‼︎」
「了承の握手じゃねえですぞ。ってかいつまで座ってんだお主⁉︎ チャイムの音は全スルー⁉︎」
「ここにうちが座っている限り、ダーリンは必ずここに来るというこの天才的発想。流石やねうち。逃しませんえ?」
怖えよこの子⁉︎ 先生もう教室に入って来てんだけど⁉︎ なんで座ってんの⁉︎ なんで
いいよもう、りなっち氏がその気なら
足を動かし教室を出る。「おはようおかえり〜」と背に掛けられるりなっち氏の言葉は全スルーし、隣の教室へ。りなっち氏はクララ様と同じ教室のはず。問題は二年A組かC組か。聞いておくんだった……。取り敢えず出た廊下から近い二年C組の扉を開ける。
扉を開け教室を覗く
「あらあらあらあら? 誰かと思えば
教室の扉を閉める。全員揃ってたわ。つまりりなっち氏は二年A組か。
なんかやたら派手な改造セーラー服を纏った女子が一人急にテーブルに片足乗せて叫んでいたが知った事ではない。ので、高笑い響く二年C組から足早に離れ二年A組を目指す。
クラスの前を通り過ぎればりなっち氏が手を振ってくれるので手を振り返し二年A組の扉を開ければ、再び
「……あのさぁきみ」
「りなっち氏に
「りなっち……遂にやったわねあの子……どうりでいないと……だいたいその席で本当にいいわけ?」
頭を抱えながら
「……あっれぇ?
「……部活の無断欠席一週間死ね」
名前と違って吐く言葉に甘さがねえなガトーショコラ殿。そういや
「勝ちを目指すなら本気云々言ってたよねあんた? 本気ねぇ? 本気で無断欠席頑張ったわけ? は?」
やべえなこれ賀東殿ガンギレてるわ。どうしようもねえわこれ。
「
「ちょ、ちょっとショコラちゃん。食べられちゃうよっ」
食べねえよ。フェイスマスクの魔法糸で紡がれた白い牙の紋様をカチ合わせながらため息を吐く。今賀東殿に助言してくれた女生徒顔覚えたからな。魔法都市の子供達と思考レベル一緒じゃねえか。
しかし、ダンス部二年の纏め役である賀東殿に嫌われると後が怖い。クララ様とダンス部対抗戦やった意味なくなっちまうよ。異世界の所為とか言っても通じないし、詰んだッ、とかそうはさせんぞ! ようやく教室に入って来た二年A組の担任を漠然と見つめながら腕を組む。
「ぷししッ、賀東殿よ、勿論この一週間いなかったのには理由がありますぞ」
「……なにそれ」
「驚かせようと思っていたのですけどな。
もうそういう事にするしかねえわこれ。アドリブで言い訳を構築するしかない。クララ様に顔を向ければ、表情死んだ無表情を返される。やめてよその顔。頼むから乗ってくれよ今は。じゃないと死んじゃうよ? 色々な意味で主に
「……きみね、そういうのは自分で言うものじゃないのよ、かっこつかないじゃないの。壊れた
クララ様が乗ってくれた‼︎ これで勝つるッ‼︎ 窓辺のおかげでポスターの様に絵になるクララ様の演技力の高さをギャル氏にも見習って欲しい。
「なにその演技臭いの……嘘っぽ」
全然騙せてねえわこれ。賀東殿の
「嘘っぽいけどまあいいや、どうせすぐ分かるし。ダンスの武者修行だか知らないけど、本当なら活躍できるでしょ?」
「……なににですかな?」
「いや、もうすぐ体育祭じゃん」
あぁありましたねそんな学校行事。
「おーい、岩梨は今日休みか?」
「はーい先生、居ますぞー(裏声)」
「岩梨は休みかー」
「居るって言ってますぞー(迫真)」
「ソレガシ、後で職員室来い。えー以上で
「そうはならんやろッ‼︎」
もっとツッコムべきところがあるだろうが‼︎
高校二年目にして強く思う。
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