43F ミス=ナプダヴィ=コンテスト 6
「ジャギン=ダス=ジャギン! 我が同胞よ! 遂に隠していた
「うるさいゾ、ワタシの世界の中で喚くナ」
ビィィィンッ。
細かな立方体同士を繋ぐ糸の振動音がロドス公を包み込む。右から左へ、上から下へ、立方体同士を繋ぐ糸へ飛び込み、
速い。
「大道芸は結構でございますが、追えぬのならそれはそれで撃ち落とせば済むのでございますよ‼︎」
「ワタシの巣の中でカ? 逆ダロウ?」
ひび割れた体から銃身を伸ばすロドス公の体勢が大きく崩れる。右肩に突き刺さった矢が一つ。高速移動し移り引かれた糸に己の代わりに矢を
「ソレガシこれってさッ」
「えぇ驚きですな。宙を舞う立方体達はおそらく射撃兵装を改造し圧縮した蒸気のみを噴き出す機能に改造しているのでしょうが。無数の立方体の操作など容易ではないでしょうに、不可能に近い無限の可動性を、ジャギン殿の蟲人族特有の複眼が可能にしている。
「超絶バグってるけど大丈夫⁉︎ そうじゃなくて今がチャンスじゃないってさ!」
「キキキキキッ‼︎ やべえでございますな‼︎ 宙を舞う立方体達はおそらく────」
本当だ。ロドス公が
「突っ込みますぞダルちゃん!
「あたしが埋めればいいわけね? お任せー! めんどくさい投げ捨ててやってやんよあたしもさ!」
ダルちゃんと拳を打ち付け合い、立方体の上からロドス公に向けて飛び降りる。身悶えるロドス公の瞳が
ひび割れているロドス公の肢体を見るに、元の頑丈さは既にない。それに加えてロドス公も
光属性の魔法の弾丸の雨を突き破るように放たれるロドス公の蒸気砲の雨。衝突し弾け軌道の変わった蒸気纏う弾丸が、立方体の幾つかを削り、
キリキリキリキリキリッ‼︎
糸が引っ張られる音が身を揺らし、糸に弾かれる前に体を転がし糸から逃れ地面に着地。残る鋼鉄の腕一本で大地を掴み身を放ちロドス公に突っ込むが、ひらりと横に避けられた。
「直線的過ぎるでございますよ騎士様‼︎ それでは動きを読むのも容易‼︎」
「でもそれはジャギン先輩も同じでは?」
ロドス公を過ぎ去り止まらぬ
「それはあっしにも同じことでございますれば」
落ちて来ずに糸を掴み宙に静止するロドス公の足先の虚空を魔法筒の腕が薙ぐ。キリキリキリと糸の巻かれる機械音が響き、ロドス公の顔の脇をジャギン殿が放った鉄矢が過ぎ去った。
そう、ロドス公の顔の脇。ジャギン殿の照準がズレた。
糸の張り詰めた音はジャギン殿が弓を引いた音にあらず。ロドス公が掴んだ糸を己が手の歯車で強引に巻き取る音。蜘蛛の巣の一画を力任せに引き寄せジャギン殿の巣を乱す。
「ただ身に受けるだけでは三流! その創造を比べ合い乗り越えてこそ二流! 掌握し己が創造に巻き込んでこそ一流でございますよ‼︎ この後は巻き取られた糸の切除でございましょうか? そうでなくとも、その先にあっしはもう踏み出した」
言葉を並べるロドス公の予告を証明するかのように、巻き取られていた立方体同士を繋ぐ糸が切除される。分かっていたように笑みを浮かべ、横に佇む立方体を、ロドス公の蒸気砲が穿ち弾く。吹っ飛ぶ立方体に引き摺られ、蜘蛛の巣の形が強引に変えられる。立方体を追い動く幾つもの立方体、その内の一つが地を削り
慌て身を伏せる
「キキキキッ! さあどうするのでございますか次は‼︎ さあさあさあ‼︎ 予想外などとは言って欲しくないのでございますよ‼︎」
「では予想通りと‼︎ おかげで蜘蛛の巣に引火する心配がなくなりましたな‼︎」
蜘蛛の巣の姿消えた
立方体の上で服の袖と背中の布を焼き落とし炎の蛇を
「この世界はもうあっしの手のひらの上でございますれば」
弾かれた立方体に引き摺られ、ダルちゃんの乗る立方体の動きが崩れる。地に落ちるダルちゃんの姿を追って鋼鉄の腕で走り、墜落させる事なくギリギリで身を滑り込ませダルちゃんをキャッチ。
「ソレガシ上ッ‼︎」
そにダルちゃんを追って歯車回る足を振り下ろすロドス公の一撃を身を捻り避けるが、そのまま振り上げられたロドス公の足が魔法筒の腕に引っ掛けられ、強引に手繰られる。
「さあ今一度拳で語り合うのでございますよ。そういうのも嫌いではございません‼︎ お荷物抱えたままできるのでしたらでございますがなぁ‼︎」
「ダルちゃん放しちゃダメですぞ‼︎」
首に腕を回してくるダルちゃんには目を向けず、突き出されるロドス公の拳を肘でカチ上げ捌くが、回る歯車に二の腕を裂かれる。もう一度。もう一度。もう一度。捌いただけ両腕が裂かれ血に塗れる。痛みと漏れそうになる叫びを噛み締め殺し、ダルちゃんを抱え前方に転がりながら
蹴りを追い回す魔法筒の腕が振り上げられたロドス公の腕に去なされ、弾けたロドス公の体の金属破片舞う中突き落とされるロドス公の足。頭で体を持ち上げ
「痛ッ⁉︎ クッソッ⁉︎」
考えろ考えろ考えろッ‼︎
真正面からの激突では、万全ではないロドス公にも及ばない。闇雲に突っ込んではただ死に近付くだけ。トリロジー殿の言う通り、今ある形から足りぬものを補うような即座の改造など不可能、ロドス公の言う通り、予想し組み上げた形の中で勝利を模索するしかない。
だが、負けが決まった訳ではない。
場に用意されている己が握るカードを上手く捌く事ができれば、できない事はないはずだ。諦めない事こそ冒険者の鉄則。複眼の兜のカメラ機能で周囲の景色を切り取り並べながら忙しなく瞳を動かす。
『
息を吸って、息を吐く、抱えるダルちゃんから手を離し身を屈める。
「べんべんッ」
頭の中でカードを弾き、ダルちゃんをを地面に残しロドス公に向けて突っ込む。地面を削るように下から上へと残る鋼鉄の腕を振り上げる。
「やぶれかぶれでございますか? そんなものは」
当たらない。横に避けたロドス公の元居た位置を抉るアッパーカット。蒸気噴き出す銃口の先に翳したクロスさせた魔法筒が弾かれ凹み背後に吹っ飛ぶ。逸れた弾丸が脇腹を掠め視界の隅で朱滴が散った。
「ヅァッ‼︎」
キリキリキリキリキリッ‼︎
糸の張り詰めた音が響く。蜘蛛の巣の糸が引かれる音ではない。鋼鉄の拳と腕の連結を緩め投げ釣りのように弧を描き宙を舞う鋼鉄の拳から伸びた魔法糸が引っ張られ伸びる音。
「先輩‼︎ 切除‼︎」
鋼鉄の拳が立方体をぶっ叩く。上に弾かれた立方体に繋がっていた魔法糸が切除され、上へ上へと吹っ飛んでいた立方体が張られた糸に突っ込み引き絞られる巣の弓。
「その角度じゃあ当たらないのでございますよ‼︎」
それでいい‼︎ 地を転がりながら背後にいたダルちゃんの横に地に指を這わせ削りながら静止し、割れた爪から溢れる血を払いながら、ダルちゃんの前に指を突き出す。ロドス公が開けた穴に向けて。
「一に蛇、二に」
そこまで口にし頭上に輝く太陽を指差す。
「超絶分かりづらいねそれってさ! でも分かった!
「やらせると‼︎」
「その為の
銃口を伸ばすロドス公を見据え、紫電走る蒸気を吹き出し急激に鋼鉄の拳を巻き上げる。腕を振り伸びる糸をロドス公の体に沿わせる
「
ダルちゃんの背から伸びた炎の蛇が弧を描き地に落ちる。炎の牙を覗かせる頭を地に這いずらせ弧を描き進む炎の蛇が、ロドス公の目に前で弧を描き跳んだ。地に向け落ちる炎蛇を追うように空で巣の弓に引き絞られた立方体が地に落ちる。
ズッガンッ!!!!
地に突き刺さらず大地を砕き立方体が地の底へ消えるのに合わせ穴へと頭を突っ込む炎の蛇。一枚岩の下に巡っている洞窟網。その一端を地を抜け落ちた鋼鉄の立方体に塞がれ、ロドス公の足元の地面を砕きながら炎が噴き出した。砕けた一枚岩の破片を踏み台にロドス公が宙に跳ぶ。
「泥酔した蛇の骨、喉を掻き毟り肉を剥げ、渇き、渇く、虚空を呑み込み癒えぬ飢えを潤すは隙間風のフランベッ‼︎」
詠唱の言葉に乗って躍り出るように、ダルちゃんの背から伸びる炎蛇達が宙のロドス公を抜き出し浮かべる炎神の太陽。地に落とされるロドス公の大きな影が身動ぎ背の銃身から弾丸の代わりに蒸気を噴き出す。
「ぬぅ⁉︎ そうはいかないので」
「網とは待ち構えて張るモノダッ‼︎ トッタゾ‼︎」
「
蒸気を噴き出し空舞う立方体が地に向かい跳ぶロドス公を魔法糸で絡め取る。ぐるぐると巻き付く糸を体の歯車で巻き取りながら強引に地面に突き進むロドス公。
プシィ──────ッ!!!!
空が蒸気に染まり、大地もまた蒸気に染まる。
「ロドス公ォォォォオオッ‼︎」
「騎士様ッ⁉︎」
砕け千切れた魔法筒の残った腕から蒸気を噴き出し宙を舞う。突っ込んで来るロドス公に向けてただ一心不乱に。正面から突っ込み、響く硬い衝突音と破壊音。打ち合う頭同士が火花を散らし、兜が砕け散り額が割れた。
一瞬の静止。トンッ、と鳴る金属音。残る鋼鉄の拳を指し伸ばし、糸に絡まるロドス公の腹部に添えた。
「もう一発だッ‼︎
拳の付け根から蒸気が噴き出す。歯車の噛み合う音が響く。地と蒸気と紫電混ざった蒸気の色を目のレンズに映し、深く深く引き結んでいた口をロドス公は横に引き裂く。物理的に口が裂ける程に。口の端から蒸気を漏らして。
「キキッ、キヒキキキッ‼︎ 素晴らしいッ‼︎ この先もっとッ‼︎ もっともっとッ、磨き抜かれた結晶が見られるのでございましょうなぁッ‼︎ ただ、ただただ惜しむらくは、視察用のこの
「……は?」
蒸気を噴き出しロドス公の姿が消える蒸気の残骸を空飛ぶ鉄拳が穿ち抜き、弾き飛ばした宙に残ったレンチごと空に輝く炎神の太陽に突っ込んだ。炎の尾を引き空に溶け消える鉄拳に口を開けて呆けていると。
ゴンッ!
落ちて来た鉄鍵が頭に当たり、そのまま砕けた大地の破片の上に落っこちた。
いや……はぁ? はぁぁぁぁああ⁉︎
ドロドロと通報不可避な危険な考えが頭の中で暴れ回る中、走り寄って来たダルちゃんと『
「ソレガシあぁっと、大丈夫じゃあ超絶ないみたいだけどさ……」
「まぁ……やりましたな」
顔の横に転がっている鉄鍵を掴みダルちゃんに差し出す。受け取り大事そうに鉄鍵を握り込むダルちゃんに小さく微笑み、背負う
「やったなソレガシ、まぁ
「えぇまぁはい。ようやくこれでダルちゃんを抑え込んでいた問題はクリア……ですがなぁ」
痛む体を押して身を起こした先。スルブゥア広場のある方向から聞こえて来る戦闘音と、伸びる鉄壁と踊る炎の蛇の影。まだやるべき事が残っていると立ち上がれば、全ての手足を失くした
「残る
「お、おいソレガシ⁉︎」
「魔法都市の宣戦布告。ただ今なら、下手に時間を掛けず今の内に笛を奪い盗賊祭りを終わらせてしまえば、最悪全ては盗賊祭りの勝利の為の布石だったと言い張れますぞ。幸いにここは砂漠都市。盗賊祭りの実行委員会もここにいるのですしおすし」
「かもしれないけどさソレガシッ‼︎ もう無理だってッ‼︎ だってソレガシ……ッ」
マロニー殿の枷を外し勢いよく詰め寄って来るダルちゃんを視界の端に収めつつ、フェイスマスクを引き下げ、親指の爪を噛もうと無意識に持ち上げた血塗れの手の親指の爪が剥がれてない事に気付き腕を落とす。
眷属として深度十になったとは言え、『
「でも今しかないですぞ。この事態を治めるには日を跨いでは不可能でしょう。最悪この勢いのまま砂漠都市の一団が魔法都市に乗り込むまでありえますからな。魔法都市の援軍が到着せず、未だスルブゥア広場で混乱が続いている今が全てを終わらせる好機。ヒラール王さえいるスルブゥア広場で、魔法都市の宣戦布告さえもただの布石だったと宣言すれば、最低限の言い訳ができるのですし」
「でも方法がッ⁉︎」
そう、方法が思い付かない。魔法都市の計画を挫く方法は考えていたが、
「いや──────、あぁ……うむ、一つ思い付きましたぞ?」
「なにさそれ?」
「それはですな」
首を傾げるダルちゃんに思い付いた突貫作戦を告げる。口を動かし言葉を並べてゆくごとに歪み顔をギャル氏の髪色のように変えるダルちゃんとジャギン殿。これしかないと深く大きく頷けば、飛び付いて来たダルちゃんに体を強く揺さぶられる。めっちゃ痛いッ‼︎ 傷に響くッ⁉︎ ここでノックダウンしちまうよ⁉︎
「痛たたたたッ⁉︎ ダルちゃん痛いんですけど⁉︎
「ごめんっ、じゃないさ‼︎ ダメダメダメッ‼︎ ソレガシ死んじゃうよそれは‼︎ お願いだからやめてよ‼︎ 上手くいっても絶対無事じゃ済まないよぉ‼︎」
「ソレガシ‼︎ ワタシもソレには絶対に反対ダ‼︎ 体が死なずとも心が死ぬゾ‼︎ 却下ダ‼︎」
「いやぁ、でも
「要らないってそんなのさぁ‼︎ いいよ留年ぐらい喜んでするよぉッ‼︎ マロニーも自由になったんだ‼︎ ソレガシがそこまで懸ける必要ないからッ、お願いだからぁ‼︎」
「……キレスタール王、鉄鍵を渡してくれた約束を果たしましょうぞ」
「ソレガシッ‼︎」
「ダルちゃん。駄目だ。ここで魔法都市を見捨てたら、それは友人になったキレスタール王を見捨てるのと同じ事。ダチコは見捨てない。それは
「そんなのッ、命より大事なわけないさ‼︎」
「いいや、命より大事だ。ここで行かねば、結局これまで塗り重ねて来た
「ずるいよッ、そんなのさぁッ、そんなの……ッ、そんなこと言われたらッ、あたしッ、あたしはッ‼︎ ソレガシィ……ッ」
ダルちゃんの肩に手を置く。頬を伝うダルちゃんの涙を拭えば、爪の剥がれた指先に
「ダルちゃん、冒険とはきっと、できることに挑むことではなく、不可能にこそ挑むことと見たり。ダルちゃんが無理だと言うのなら、これこそ本当に冒険ですな。
ただ座り眺める景色には飽きた。
「ステイ‼︎ ちょっと待ってくだされよ? 今のは別にダルちゃんの柔らかさを確かめたりとかそういうことではなくッ‼︎ ほらこうあれ、それ、どれ? ファァァァッ⁉︎ ダルちゃんのセコム超怖い⁉︎」
今マロニー殿からセクハラだパンチをくらったらリアルに死ぬるッ‼︎
「なにを言っているのですか? はぁ、感謝の言葉を引っ込んでしまいますよもぅ……心の底から感謝を。お嬢様が選んだ皆様を信じてよかった。ありがとうございます。恩の全てを返す事はできないでしょうが、すぐにでも少しはお返しさせていただきたい。これでも私も魔神の眷属。微力ながらお使いください」
「黒騎士‼︎ 余も力を貸すぞ! 魔法都市を! 我が民を助けてくれるのだろう‼︎ 余は賢くはない、知らぬことも多いが、民の為ならば動かねばならぬことは知っている! これが間違いであるならば、謝罪する機会を余に与えて欲しい! 魔神の眷属の、
頭を下げてくるマロニー殿に目を丸くし、手を伸ばして来るキレスタール王と握手を交わす。魔神の眷属二人が協力してくれるのであれば、多分きっと
「ダルちゃん」
「もぅッ、もう分かったよ‼︎ だから絶対ッ、超絶絶対約束して‼︎ きっと、きっとさッ」
「無論、『絶対』大丈夫ですぞ。ぷししッ、うん。ちょっと
立ち上る火柱を見つめてスルブゥア広場からやって来た道に足を落とす。一歩一歩出す足が震える。超怖い。帰りたい。やっぱやめたい。未練がましく振り返ろうとする頭を奥歯を噛み締め押し殺しながら、出す足を早め、握り締める拳で恐怖を握り潰す。
「……
その言葉を口に出して繰り返し、不必要な情報を削り落とし、必要な事だけに目を向けて。思慮に
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