41F ミス=ナプダヴィ=コンテスト 4

 さてさてさて、と。


 魔法都市の貴族達と向かい合い足を止める。砂漠都市への宣戦布告に加え、先に手を出してくれやがったおかげで、貴族達をメタメタにボコすだけの大義名分は既に得ている。問題は、会場周辺にいる未だ動かず『魔導騎士団ミステリーサークル』と睨み合っている『炎神戦盗団アバンチュール』。


 強引に突っ込み乱戦おっ始めるとしても既に腹は括っているのだが、苦虫を噛み潰したように顔を歪めるマクセル=ブラータン、周囲に目を光らせるグリス=フェッタにロダン=ナハースに目を流せば、一人の男が前に出て来る。


「また会うとはな。整備員」

「届けましたぞそれがしは確かに。トリロジー殿」

「我が不肖ふしょうの娘は寄り道ついでに大分変わった輩を拾ったらしいな。が、だ。なにをしたか分かっているのか整備員? 貴様は我が一族が揃う祝福の日を踏みにじった。どうだ?」


 トリロジー殿の問いに思わず笑ってしまう。向けられる鋭い目。魔法都市を出る前に言葉を交わしてから葛藤がなかったと言えば嘘になる。魔法都市の計画が成功していれば、ダルちゃんはきっと次は魔神の眷属になったのだろう。家族と同じ紋章を身に刻み、理不尽な後ろ暗さを背負わずに済むのかもしれない。だがしかしッ。


「ぷししっ、とびが鷹を生む。などと言うことわざがそれがしの故郷にはありますがな。鷹だろうが関係なく、例え敷かれた道から外れようがどうしようもなく家族は家族でしょうに。親の心子知らずなのかもしれませんが、その逆も然り。例え選んだ道の邪魔になったとしても、親子はどうしようもなく親子のようで」


 気に入らない事も勿論あり、親がそうであって欲しいという形ではいられない。ただ、これまでの己を振り返った時に、拭えぬ己の一部となってこれまではある。それがしの親父殿が御袋おふくろ殿と結婚する為に侍を目指したように、きっと根っこの部分は似た者同士。ギャル氏も、ダルちゃんも、きっと。


「炎神の眷属であるダルちゃんが気に入らないとしても、ダルちゃんが娘である事には変わりないでしょう? だからトリロジー殿には感謝を」

「なんの感謝だ?」

「トリロジー殿がいなければダルちゃんにそれがし達が会う事はなかったですからな。その感謝。ただそれとこれとは別ですぞ。ダルちゃんを縛る事がダルちゃんの為だと言うのであれば、それがしはそれを否定する。それがしにはない夢を抱くダルちゃんの背をそれがしは押したい。だから奪いますぞ。アリムレ大陸の理の通り」

「それほど我が哀れな娘が欲しいのか?」

「欲しいですぞ。それに哀れなどではないですなぁ」

「ならば黒騎士、貴様の相手は我が一族がしよう。殿しんがりは我らが務める。王をお連れしお前達は下がれ」


 トリロジー殿が手を緩く掲げると同時、ダルちゃんと同じ赤い髪を揺らす五人の姉妹達が前に並ぶ。二人程、背の高いダルちゃんの姉らしい者達は覚悟を決めたのかそれがしを睨み、三人の背の低いダルちゃんの妹らしい者達はトリロジー殿の言葉が意外であったのか、それがしではなく父親へと目を向けている。


 予想外なのはそれがしも同じ。おそらくマロニー殿の奴隷の枷を握っているのはゴールドン家の誰か。七人姉妹だったはずだし、残りの一人が枷を握る者か? いや、それだと分かり易すぎる。そうなると…………。


殿しんがりだとふざけるな! 私達をコケにしてッ、例え炎神を殺せなかろうがここまで来たらッ‼︎」

「冷静になれマルクスッ‼︎ この状況詰む一歩手前だぞ‼︎」

「黙りなさいグリス‼︎ 問題ないわ‼︎ 砂漠都市を制圧する為の援軍がもう到着するはずよ‼︎ それまで凌げばッ‼︎」


 内輪揉めとか救いがねえな。これは草。しかも大事そうな事をベラベラと。『魔導騎士団ミステリーサークル』の援軍が到着するとなれば確かに面倒だが、即制圧した方がいい後押しをしてくれちゃって。


 腕を伸ばそうとするマルクス殿はグリス殿の制止も聞かず、逃げる素振りは微塵もない。同じく静かに佇むロダン殿の姿に目を細め、さり気なく立ち去ろうとしている『魔導騎士団ミステリーサークル』の一団を見据えた。


 そういう事かッ。一団に紛れているマロニー殿の猫耳。マロニー殿の奴隷の枷を握る者はッ。


 頭を回す中、一髪触発の空気をぶっ叩くかのように視界の中、魔法都市の貴族達との間に落ちて来る緑色の影。握る歪んだ鉄パイプでステージを叩くブラン=サブローの姿を目に小さく舌を打つ。


「HEY! YO! 俺様抜きでゴチャゴチャと、いい加減退屈になってきたぜ不良共ヤンキース。俺様をぶっ飛ばすとは爽快な文句だ! 挑戦者チャレンジャーは一体どいつだ? 名も知れねえ盗人か? それとも機械神の騎士ってか?」

「いいやぁ? オレだなぁクカカカカッ‼︎」


 それがしに向けられる尖ったサングラスの視線を塞ぐように空から降って来る巨体。目の前で赤い三つ編みが揺れ、不意に口端が上がってしまう。これまでどこで観戦していたのやら、序列五位、鉄冠カリプスクラウン、ブルヅ=バドルカットの剛腕がブラン殿を観客席へと吹き飛ばす。


 舞い散る一枚岩の瓦礫とブラン殿の笑い声を、ブル氏の声が笑い飛ばす。


「我が友よ‼︎ なかなかの拡声器マイクパフォーマンスだったなぁ‼︎ おかげで飛び込みやすかったってもんだぁ‼︎ まだやる事があんだろ? ここは任せなぁ‼︎ オレんとこまで上って来たかぁ?」

「まだそれは道半ばッ、ただ絶対いつか必ずッ‼︎ ギャル氏! ずみー氏! クララ様! グレー氏! 分かりましたぞ‼︎ マロニー殿の奴隷の枷を握るのはキレスタール王で間違いない‼︎ 追うのならばッ‼︎」


 魔法都市の幼王、キレスタール王。ダルちゃんの人質を王に献上する事でゴールドン家は裏切らないという示しにしたに違いない。トリロジー殿達ゴールドン家の壁が前に出たのは目眩し。ここでゴールドン家相手に時間を浪費しては、マロニー殿は救えず、『魔導騎士団ミステリーサークル』の援軍に参戦される。


 悲鳴轟く観客席と向かい合うブル氏を一瞥する事もなく、背中合わせで別々の方向へ駆ける。炎冠ヒートクラウン鉄冠カリプスクラウンの激突が何を生むかは獅子神の都市で一度見た。乱戦の導火線に着火した。キレスタール王をどれだけ早く奪取できるかがこれからの勝負。炎冠ヒートクラウンの相手はその後だ。


「行かせると思う‼︎」

「こっちの台詞だぜ‼︎」


 それがしの動きに連動し手を伸ばすマルクス殿の足元に飛来した瓦礫が大きく弾けた。瓦礫を蹴り出した体勢で着地するグレー氏と並走し、その後に続く異世界冒険者組とダルちゃん。一足早くスルブゥア広場を脱しようと動いたキレスタール王達を追い二つの群れが動く。


「ソレガシ! でっかい夢とか勝手に言いやがって! そんなのあるか‼︎ 恥ずかしいだろこんちくしょう! お前の夢に一枚乗らせろよ兄弟ブラザー! 十冠目指すとか……ッ、じゃあ俺もそれ‼︎」

「ソレガシアンタね! あーしの夢勝手にゲロってんじゃねえ‼︎ 恥ずかしいでしょうが! ふざけんなよマジ‼︎」

「あーもうッ! 結局またこんなッ⁉︎ 肌に傷でもできたら責任取りなさいよきみさぁ‼︎ ダンスバトルの万倍物騒だわ‼︎」

「せめてダルダルの絵描き終えるまで待ってくれよ〜‼︎ めちゃんこないぜ同士〜‼︎」

「めんどくさー、しかも初姉妹喧嘩プラス。これが冒険なわけ?」

「お主ら文句しか言わねえなッ⁉︎ それがしを労え寧ろッ‼︎ 」


 言うに事欠いて追跡中に言う事じゃねえ⁉︎ 走りながらバシバシそれがしを叩くな‼︎ 乙一言もなしか⁉︎ ほらそれがし見ずに横を見てぇッ‼︎ 魔法使い族マジシャン達が光る指先向けて来てるからよぉッ‼︎


「「「「魔力を矢にM→A」」」」


 口々に重ねられる貴族達の詠唱を耳に、複眼の兜を被りフェイスマスクを引き上げる。プシィ────ッ‼︎ と蒸気を噴き出し、背のゴーレムから伸ばす四つ腕。手のひらの歯車を大地に押し付け加速する。


 半球状に凹んだ広場の中一人加速し、凹みに沿って弧を描くように観客達を避けながら貴族達に肉薄。その手前で観客お構いなしに魔法矢の雨が降り注ぐ。


「べんべんッ、洞窟内ならいざ知らず、開けた場所なら仔細なしッ‼︎」


 魔法筒を二本伸ばし、降り注ぐ魔法矢を光の弾丸で撃墜する。機械の腕の根元で逃げ回る観客達をかわし右へ左へ。空も飛ばない魔法使い達よりはそれがしの方が速い。手のひらの歯車で地を削り突っ込む先、ロダン殿が飛び出し手を掲げる。


魔力を剣にM→S! 傀儡人形ごと掻っ捌いてくれる‼︎」

「馬鹿言え! 兄弟ブラザー先に行け‼︎ そいつは俺が引き受けた!眷属魔法チェイン深度十一ドロップ=イレブン、『向き合う事なき竹馬の友アップシート』‼︎」


 稲妻をほとばしらせるグレーでに右足が地に落とされ、紫電舞う瓦礫にグレー氏の左足が触れたと同時に弾丸となってロダン殿を大きく弾く。磁気を帯びさせ弾く即席電磁砲。再び地に落とした左足で己が身を弾き、それがしの横にグレー氏が並ぶ。


「行け! 気にすんな! なぜならあの中で一番あいつがぞっとした!」

「まぁ魔神の眷属筆頭らしいですからなマゾヒスト殿よ…………でも」

「同志受け取ってくれ〜い‼︎ 眷属魔法チェイン深度三ドロップ=スリー、『空飛ぶ儚さバブル』ッ‼︎ ダルダルをお届けだぜ〜‼︎」

「ちょッ⁉︎」


 ずみー氏の眷属魔法で軽くされ、クララ様にぶん投げられたダルちゃんを慌てて受け止める。貴族達の集団から少し離れ着地するそれがしの前に並ぶ三人の友。グレー氏、ずみー氏、クララ様の背を見つめ目を見開く。


「今度手を貸すのは私達の番でしょ! こっちはいいから先に行きなよ!」

「ですが、それがしとギャル氏だけ」

「レンレンはあっち‼︎」


 姿ないギャル氏を指差すクララの指を追って顔を向けようとした刹那、目の前を手裏剣のようにブン回った観客が横切る。思わず仰け反った顔の先を続いて過ぎる青い髪と橙の髪。


 青髪の乙女を掴もうと伸ばされる流浪の武人の腕を蹴り上げるギャル氏の奥歯を噛む音が響く。


「アンタね‼︎ 今アンタに構ってる暇はねえんだけど‼︎ ウザみパないわ‼︎」

「はっはっは! 健在で私は嬉しい限りだ‼︎ 蹴れよ‼︎ その分投げてくれる‼︎ 戦いこそ我が人生‼︎ 闘いたい相手は私が選ぶ‼︎」

「ちょ、あーしマジアンタりーむーだわ‼︎ ソレガシそっち任せたからあーしの分も殴って来いし‼︎」


 どうしようもねえなあの戦闘狂よッ‼︎ ギャル氏が抑えてくれなければ混沌は必然ッ、残る『魔導騎士団ミステリーサークル』と『炎神戦盗団アバンチュール』の混戦に他の騎士達も所属が違うだけに巻き込まれているとなると、マジでそれがししか動けねえッ⁉︎


 マクセル=ブラータン、グリス=フェッタ、ロダン=ナハースと幾数人を残し、追う準備を終えたのか幾人かの貴族達が魔法式を刻み終えた雑多な品々に乗り空を舞う。奥歯を噛み、『ミニミニカッ飛ぶ浪漫ロケットパンチ』で伸ばした腕をスルブゥア広場の縁を掴み巻き上げながら振り返る。


「任せましたぞここはッ‼︎」

「りょ‼︎」「お任せだぜ〜」「任せろ‼︎」「当然!」

「ベルベラフ殿も!」

「おーけー、まぁ友達の為ならねぇ?」


 空を舞う着飾ったベルベラフ殿に見惚れつつハイタッチを交わし、グレー氏達の援護を頼む。ダルちゃんを抱えたまま巻き終えた腕を地に付け加速。幸いに、空を飛ぶ魔法使い達のおかげで行き先は分かる。来た時と同様に壁を鋼鉄の腕で掴み飛ぶが。


「ソレガシ……あのさっ」

「あぁ感謝の言葉とかは要りませんぞ別に!」

「そうじゃなくてっ」

「追い付けないって? まさかまさか、ギャル氏の言う通り走ってみましょうぞ‼︎」

「そうじゃなくてっ、もうっ」


 首に腕を回してくるダルちゃんを抱え、力任せに鋼鉄の腕を壁に突き立て歯車を回す。壁を腕で走りながら空を飛ぶ魔法使い達の最後尾の魔導騎士を叩き落し、乗っていたアタッシュケースのような鞄を掴んだ。


「ダルちゃん操作は‼︎」

「あたしがやるよ。こっちは任せてソレガシは」

「撃ち合い上等‼︎」


 鞄を引き寄せダルちゃんに渡し、空を飛びながら魔法筒を魔法使い達に向ける。光る指先を泳がせる魔法使い達を見据え、呼吸に合わせ撃ち出す魔法の弾丸。空を飛ぶのはダルちゃんに任せ、撃墜するのに集中する。


 建物に沿い飛ぶそれがし達を追うように壁に穴が開く。舞う粉塵を掻き分け伸ばす魔法筒の照準を合わせ、スタント飛行するように視界が掻き混ざる中、カメラ機能で刹那を切り取り微調整。呼吸に合わせ弾いた弾丸が命中し、建物の外壁を削りながら魔導騎士が一人落ちる。


「ダルカス貴女ッ‼︎ 姉妹である私達まで敵に回す気‼︎ 巫女を攫って来た時はようやくやってくれたと思ったのに‼︎ ミクロとマクロに何かしたでしょ‼︎」

「お姉様の護衛とかもう絶対しないからぁ‼︎」

「大丈夫大丈夫〜痛いのは最初だけ、それより痛い思いする日が続くんだから‼︎」

「なにそれこわいッ⁉︎」


 ダルちゃんの姉妹怖え⁉︎ 降り注いでくる魔法矢と怒号が三つ。螺旋回転するかのようにダルちゃんは空飛ぶ鞄を操作し避け路地の中へと突き進む。ミスコンに合わせてか空を彩る飾りが貼り付いてきて鬱陶しい。適当に背後に魔法に弾丸を撃ち返しながらダルちゃんに顔を寄せる。


「ダルちゃんあの」

「あたしの姉妹だよ? しぶといさ。それに喧嘩を売られたら」

「買うのがルールですな。……了解。では少し速度を落として路地を小刻みに飛んでくだされ」

「おっけー、任せたまえよ。しっかり掴まっててよねお客さん!」


 速度を落とす代わりに路地の合間を縫うように揺れ動くダルちゃんに振り落とされぬように、ダルちゃんを抱える腕に力を込める。距離が縮まり数を増やす魔法矢は避け切れず、手の空いた鋼鉄の腕二本を振り回して叩き落し、近づいて来たダルちゃんの姉妹に顔を向けた。


「なんなのお兄さんは好き勝手してくれて‼︎ お姉様の彼氏⁉︎」

「おぉい⁉︎ 元の世界も異世界も変わりませんなッ‼︎ 付き合ってなきゃ助けちゃいけない法律とかないですぞ常考‼︎ 魔法の使い過ぎで頭お花畑ですかな⁉︎ 草も生えない⁉︎」

「お兄さんには聞いてない‼︎ お姉様に聞いてるの‼︎」

「そうだよ」

「違えわ‼︎ 即答する意味⁉︎ って言うかお主ら双子⁉︎ どっちがどっち⁉︎」

「どうでもいいでしょ‼︎ 教えてあげない‼︎」

「まぁそうですがダルちゃんの姉妹と言うならそれがしは教えてあげますぞ? 前方にご注意!」


 魔法筒に魔力蒸気を送りながら、弾丸は撃ち出さず、地下水路を照らした懐中電灯のように光を発しそれを強める。瞬くストロボがダルちゃんの姉妹の視界を塞ぎながら、勢いよく路地を飛び出した。


「ちょ⁉︎」「いぃ⁉︎」「ぶッ⁉︎」


 ───────ドゴォンッ‼︎

 

 そのまま三姉妹は対面の建物に激突する。撃たれると思ったのか魔力の盾作ってたぽいし大丈夫だろう多分。


「ダルカスッ‼︎ 貴女それが彼氏とか私は認めないからね‼︎」

「違うって言ってるんですけど⁉︎ ダルちゃんの姉君に言っときますけどな‼︎ それがしにだって女性を選ぶ権利くらい……見えなくなっちゃった……」


 三姉妹を置き去りに空飛ぶ鞄が止まる事はない。酷い誤解が生まれたままな気がするが、今は気にしていられない。口から零すため息を追って下を向けば、揺れる白銀の髪と、その横に並ぶ逸早く王に追い付いたらしいトリロジー殿の姿。それに並ぶマロニー殿。口を引き結び目を細める。


「ダルちゃん‼︎」

「突っ込むよソレガシ‼︎」

「了解なのでございますよ‼︎」

「はい?」


 急に増えた声を聞き、声のする方に振り返るよりも早くそれがしとダルちゃんを影が覆う。上から降って来たロドス公に巻き込まれ、キレスタール王目掛けて墜落する。ダルちゃんを抱き締め鋼鉄の腕を丸めて勝率の勢いを殺す。身に走る衝撃と周囲で湧き上がる悲鳴。


 援護にしても酷過ぎるッ。


「ロドス公ッ⁉︎ お主急に⁉︎」

「もう辛抱堪らないのでございます‼︎ 今こそ騎士様から報酬をたまわりたく‼︎」

「ハァ⁉︎ お主なに言ってんですかなマジで⁉︎ 状況見て⁉︎」

「全くだぞ‼︎ 急に何をしおるダルカスとその黒い従者‼︎ 我が都市の民の為に皆が頑張った結晶を砕くなど、悪い子だぞ‼︎」

「うるせえのでございますよ脳スッカラン」

「おまッ⁉︎」


 ロドス公のローブを引き裂き、その奥から無数の銃身が伸びる。歯車の音を響かせて蒸気噴く音を耳にしながら、ダルちゃんを抱えたまま立ち尽くすマロニー殿へ向け飛び込んだ。



 ゴゥンッ‼︎ ゴゥンッ‼︎ ゴゥンッ‼︎



 重々しい銃撃音に合わせて砕け散る建物の外壁と舞い散る肉片。砂混じりの蒸気含む空気に血の匂いまでもが混ざる。ザラついた口内の砂の感触を噛み締めながら機械人形ゴーレムの視界で周囲を見渡せば、崩れる建物が巻き起こす砂煙の中、立っているのは機械神の眷属筆頭が一人。


 キレスタール王を守るように覆い被さり地に伏せるトリロジー殿を一瞥し、腕の中のダルちゃんとマロニー殿に怪我がないのを確認する。弾け飛んだのはトリロジー殿とキレスタール追うを除いた『魔導騎士団ミステリーサークルの魔法使い達と幾数の通行人。


 破壊音を心底愉快そうな『蒐集家コレクター』の笑い声が追った。


「創造とはッ‼︎ 想い描くだけにあらず、体感してこそでございますよ‼︎ 騎士様の創造をこの身に刻むそれこそがあっしが望むべき報酬‼︎ お預けはこれまでッ‼︎ あっしの記憶領域に騎士様の創造を並べさせてくだせえませでございます‼︎」


 なんじゃそりゃ⁉︎ それがし機械人形ゴーレムとの戦闘経験こそがロドス公の蒐集とか⁉︎ 大した『蒐集家コレクター』だなクソッ⁉︎ 協力してくれたのはこの為か‼︎ ダキニ=パー=グレイシーと変わらねえじゃねえか‼︎


「プシィ────────ッ‼︎」


 頭を回せ、情報として全てを処理しろ‼︎ 我儘な高深度の眷属に交渉しようにも、この状況では間違いなく知ったこっちゃねえと我慢などせずロドス公は暴れる。必要なのはマロニー殿の枷を解く事。最悪ロドス公が暴れキレスタール王が死ねばクリアだが、それでは魔法都市の貴族達に待つのは虐殺だけ。


 戦争がしたい訳ではない。ぶん殴るはぶん殴るが、マロニー殿の枷を解き、キレスタール王を確保できれば降伏させる事ができるはず。狙うはそれだ。


 だから今ここで一番邪魔なのは。


「べんべん……ロドス公、今喧嘩を売りますかなそれがしに。ギャル氏だけでなくダルちゃんにまで銃口を向けてそれがしが怒らないとでも?」

「いやいや騎士様は変わったお方でございますからなぁ? あっしとしては騎士様がやる気になってくれた方が嬉しいのでございます‼︎」

「……仲間割れかね機械仕掛けの鼠共? 結構だ。王は後ろに」

「ダルちゃんとマロニー殿はそれがしの背後に」


 カチリッ、カチリッ。ロドス公の機械の体から歯車の噛み合う音が響く。


 鋼鉄の腕と魔法筒。四つの腕を広げ身を屈める。ロドス公を中心に時計回りにトリロジー殿と足を運び、ロドス公とトリロジー殿の姿が重なり合うと同時に地を蹴った。同時に飛び出したトリロジー殿を目に鋼鉄の拳を握り込む。


 突き出す鉄拳。伸ばされる魔法剣。


 二つのケンを掴み取り、小さく静かに『蒐集家コレクター』は含み笑う。両脚を地にめり込ませても崩れる事なく、カチリッ、カチリッ、鳴り響く歯車のリズムは歪まない。


「さぁショータイムでございます。あっしの麗しの蒐集品コレクション。並べ比べ楽しみましょう?」

「一人でやっていろ」

「ソロ活してろですぞ」


 



 

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