39F ミス=ナプダヴィ=コンテスト前夜 ※三人称視点

 夜の砂漠都市ナプダヴィはダルカス=ゴールドンのお気に入り。


 街を漂う独特な音楽の音色。昼間程の派手さはないものの、少し肌寒い月が照らす世界は弱火でじっくり煮込まれているかのように、人々が内に秘めた情熱を滲ませる世界。魔法都市から出て久々に少しばかり軽やかにダルカスは足を繰り出すが、横に並ぶ人の気配にすぐ足取りは重くなる。


「しっかりなさいダルカス。もう聖堂に向かう許可は取ったのでしょう? お父様がどれだけこの日を心待ちにしていた事か。分からないはずもないでしょうに。トート=ヒラールの回し者共が生きていたのは驚きだけど、奴らの所為でとんだ貧乏くじよ‼︎ お酒でも飲みながらゆっくりしてたいのにッ‼︎」

「……一応はトート=ヒラールの持つ精鋭らしいからさ。超絶、脱出はお手の物なんじゃない?」

「冒険者ギルドなんかで油売ってるから脅されるんだよお姉様」

「お姉様ダサ〜」


 ダルカスの姉の一人、ミューシャ=ゴールドン、双子の妹ミクロ=ゴールドンとマクロ=ゴールドンからの小言に深い深いため息を吐き出し、ダルカスは僅かばかり空を見上げる。


 社交界に伴った冒険者二人。トート=ヒラールの間者であると嘘を吐き、逃したのに戻って来るなどという面倒くさい有様。魔法都市の思惑を知れば、砂漠都市に踏み入る事もなく計画はおじゃんだと思っていたダルカスの思惑は見事に空振りし、炎神の巫女がいる聖堂に向かってる今に果てしなく気が重くなる。


 が、結局は自業自得。


 友人と呼べるかも知れない異世界からの来訪者二人よりも、マロニー=ホルスバーンを選んだ結果。小さな頃からの唯一の味方。それをどうしても手放す事ができなかった。だからダルカスはこんな所にいる。


 己が契約した神である炎神を殺す為に必要な炎神の巫女の確保。そんなしち面倒臭い仕事の為に。


(なのになんでさ、グラッコ様。死ぬかもしれないのにこんな事が楽しいの?)


 服に隠されたダルカスの背に刻まれた炎神の紋章が、魔法都市で冒険者達と別れるやいなや勝手に深度を深めた。特別ダルカスは何もやっていないのに、今や深度十五。ダルカス自身意味が分からない。異世界の神はろくでもないってよく口にしている機械神の眷属の言葉の今は賛同者。


 力を分けてやるから、魔法都市とは手を切れというお告げなのか。ただ炎神が楽しんでいるだけなのか。それがダルカスにはどうにも分からない。


(なんでさっ)


 逃げずに追って来ている冒険者達の事も。魔法都市を挫く情報は与えたのに、砂漠都市は平穏で、『炎神戦盗団アバンチュール』もミスコンの警備に忙しく、魔法都市の侵攻計画などどこ吹く風。


 ソレガシが動いているだろう事はダルカスにも分かる。都市エトでも、城塞都市トプロプリスでも、なんだかんだとサレンに引き摺られるように問題に乗っかり、問題を紐解いていた男。だからこそ、意味が分からない。最善を投げ捨てる意味が。


「ちッ、やっぱ来たっぽいわねッ、ダルカス先行きな。もう腹は括ったんでしょう? 私達姉妹が本当に姉妹になれる日が来る。ここは私に任せなさいな」

「お姉様の護衛はしょうがないから私達がしたげるよ」

「お姉様より私達の方が魔法たくさん使えるし大丈夫大丈夫〜」

「……なんでさッ」


 短かな癖の入った赤髪を隣で揺らしながらの姉と、同じ色の赤髪を左右各々で結う妹達の声を聞き流しながらダルカスは顔を上げる。


 建物の屋上に立つ影が一つ。纏うローブのフードを脱ぎ、空に泳ぐ茶色い髪。月明かりに照らされる褐色の肌。見間違えるはずもない盗賊の姫の姿にダルカスは口を引き結ぶ。


 学院でどれだけ素っ気なく扱っても離れる事なく側にいたダルカスの学友の一人。変わり者であるとでも言えばそこまでだが。冒険者達を逃すのに勝手に名を使い、魔法都市の動向も知っているだろうに尚まだ姿を現す学友の姿が鬱陶しい。


 後ろ髪を引く何かを振り払うようにダルカスは少し小走りに前へと出れば、隠れて護衛していたらしい『魔導騎士団ミステリーサークル』の騎士達と各王都の騎士達。それに合わせて飛び出す棘の伸びた仮面を被るトート=ヒラールお抱えの『炎神戦盗団アバンチュール』。


 空で響く激突の音から逃げるようにダルカスは進む。


 なぜ? ナゼ? 何故?


 魔法都市で全てを裏切ると決めた時から渦巻く疑問の嵐。口をつぐんでマロニーも何も言ってくれず、ただ一人疑問を抱える毎日。ダルカスの思い通りに物事が進んだ事など何一つない。


 魔神の眷属でなかろうと、魔道を極めれば家族が振り向いてくれるかと思えばそんな事はなく、魔法都市を飛び出し、世界の中心である世界都市に座す学院へ入ればこれまでが変わるかと思えばそんな事もなかった。


 どれだけ勉学に励んだところで、全ては魔法都市に利用されてしまうだろうと勘繰る学院の者達のおかげで、ダルカスが評価された事など数少ない。論文が褒められたところでそれだけ。勝手に努力の裏にあるものを想像される。


 魔法都市でも学院でも一人きり。自分で決め動いているはずなのに、蓋を開けてみれば、己を形作っているものは、全てが勝手に周りが築き上げたもの。魔法都市からのスパイ。砂漠都市打倒の秘密兵器。


 だからもう期待するのはやめたのだ。ダルカス=ゴールドンの持ち得る熱に釣り合うモノなど存在しない。何をしようが賞賛より先に罵倒が差し向けられる。だから────ッ。


「はいはいそこまでよ魔法使い族マジシャン達。ボクの都市で好き勝手動くのやめて貰えるかしら?」

「ッ⁉︎」


 ダルカスの聞き慣れた声が風に乗って路地の奥から吹き抜ける。姿を現す見慣れた顔。茶色い髪に褐色の肌。見慣れぬ布を纏ったトート=ヒラールの姿を目に、目を見開いたミクロ=ゴールドンとマクロ=ゴールドンが背後へと振り返る。


 終わっていない戦闘。月明かりの下、変わらず空を駆けている盗賊の姫。トート=ヒラールが二人いる。その事実に理解追いつかぬ中、再び目の前のトート=ヒラールへと顔を戻したミクロとマクロがダルカスの前に躍り出た。


「お姉様は下がって! この距離で私たち二人より早く動けると思う?」

「いくら盗賊族シーフだって魔法詠唱の速さで私達に敵うはずない! いくよマクロ!」

「ほいきたミクロ!」

「ボクには詠唱の必要もないのよねえそれが」


 纏う布を取り払い、トートがミクロとマクロに向けて投げ付けた途端、一人勝手に布が広がり二人の少女を包み込む。布の正体は空飛ぶ絨毯。二人の少女を絡め取り、少女達は脱しようと魔力を振り絞るが、それはいけないと言いたげにトートは連続して舌を鳴らす。


「物に魔法式刻む技術を開発したのは魔法使い族マジシャンなのに分かってないわねぇ? それを破りたいなら魔力は切って、膂力で破るのよ。下手に魔力を吐き出せば魔法式が反応するだけね。結構頑張ったのよそれ? 二つの魔法式が刻まれてるの。一つは飛行の魔法。もう一つ、注がれる魔力量が多ければ眠りの魔法が発動するわ。ってもう聞いてないわね」


 暴れていた布はいつしか沈黙しており、やれやれとトートは肩をすくめる。無力化した少女達へと足を寄せ、布ごと重そうにトートは担ぐと、身動ぎもしないダルカスに舌を打ちながらよろよろ路地の奥に向かい歩く。


「手伝いなさいよダルカスッ、重ッ! ボク一人に運ばせないで、貴女の妹達でしょうにッ」

「トート……なんで?」

「いいからさっさと来なさいよ! 外にずっと出てたらバレるゥ! 貴女も傍観してないで動きなさいよねチャロ!」


 トートが口にした城塞都市の姫の名にダルカスは小さく肩を跳ね、路地の奥に消えるトートの背を覚束ない足取りで追えば、路地に入ってすぐ横の家屋の中で簡素なテーブルの上に腰掛け琥珀色の姫が待っていた。目を丸くするダルカスに緩やかに手を掲げて見せ、少女達を部屋の隅に置きトートは大きく息を吐き出す。


「疲れたわぁ、貸しだわね、大きな貸し。持つのは宝物だけにしたいわ」

「我は待ちくたびれたぞ。こんな狭い部屋の中で、我が騎士の気持ちも少しは分かってしまうというものだよ。なぁダルカス?」

「いや……えぇぇ? めんどくさー、どういうわけ?」

「ソレガシとボクが練った作戦よ作戦。予想通り、貴女が表向きは魔法都市のいい子ちゃんしてたおかげで、貴女一人でも仕事はやり切ると貴族達は思ってるんじゃない?って。裏切り期よ今」

「いや、待って待って。超絶面倒くさいんだけど? ソレガシが? なにする気なのさ?」

「魔法都市から全てを奪う気なのよ」


 深い笑みを浮かべ胸を張るトートの姿に、ダルカスはしばし静止し、すぐに再起動すると懐から細長い煙管パイプを取り出し口に咥える。火を点け、大きく息を吸い込み赤い紫煙を二人の姫に吐き出して、すぐにきびすを返した。


「おやどうしたダルカス? どこに向かうのよ?」

「分かってるでしょチャロ。聖堂」

「行きたくもない場所に向かってどうする友よ? いつもみたいに諦めなさい」

「そっちがね。分からないと思う? あたしがさ」


 魔法都市の作戦内容をソレガシ達に伝えたとマロニーからダルカスも聞いている。それを潰す為に動くとしたら、砂漠都市に魔法都市の貴族達の侵入を許した以上ここしかない。が、それが徒労に終わるだろうと予見するからこそ、ダルカス細長い身を翻した。


「無理だよ。『魔導騎士団ミステリーサークル』やあたしの姉を凌いだとして、失敗すればすぐに知らせが貴族達に届くだろうし、戦闘が下手に長引けば『炎神戦盗団アバンチュール』の本隊が動くさ。どうせ全部失敗するくらいなら」

「唯一の味方だった従者の為に良い子ちゃんのままでいるのか友よ? 問題はない。『炎神戦盗団アバンチュール』は動かんぞ。トートは砂漠都市に何も伝えていないし、この戦闘音は外に漏れてはいないのだから」

「……は?」

「砂漠都市は絶えず音楽に包まれた麗しい都市だ。我らがトプロプリスには及ばんが」


 弦楽器を引くようなチャロの仕草にダルカス細長い目を見開く。矢神の都市筆頭騎士、イチョウ卿の種族魔法である、妖精族ピクシーの音魔法の膜。自然に、気取られる事なく、作戦領域にダルカス達が踏み込んだと同時に構築された音魔法の檻の中。そう言わずとも告げるチャロの笑みにダルカスは一瞬呆けるが、すぐに左右に首を振った。


「だからってどうする気なのさ? 例え『炎神戦盗団アバンチュール』が来なくたって失敗すれば」

「失敗なんてしないわよ。ボクが成功させる。ボクは魔神の眷属よ? ずっと魔法都市の者達は知りたかったでしょう? 盗賊族シーフの秘奥。森妖精族エルフを先祖に持つボク達の種族魔法。使える者は数少ないけど、ボクこれ一番得意なのよね? 変装フェイク


 顔を両手で覆うトートの姿が、薄い魔力の膜に包まれ姿を変える。茶色い髪の色が変わり、顔の形、背丈さえ変わってゆく。見間違えるはずもない炎神の巫女の姿へと。チャロが足元の袋から取り出した巫女装束を受け取り着替えれば、本物との見分けなど付かない。


 外にいるトート=ヒラールも要は同じ。


 魔力の皮は被り終えたと同時に魔力反応も失せてしまい、違いの是非を下すのも容易ではない極少数の盗賊族シーフに許された秘法。


「それが……ッ、待ってよ、待ってッ、だからって入れ替わるなんて容易じゃッ、無理さッ、無理ッ。外にいるのはッ」

「隙を見て死んだフリをして貰う。アレは蛇神の都市の筆頭騎士ルルス=サパーンだ。己が魔法の皮をトートが貼り付けたな。貴奴は元暗殺部隊の出。蛇神の眷属魔法には身代わりの魔法があったはずだからな。トートの首を持って行かせるのだ友よ」

「できるわけないさッ、相手には『否死隊みなしご』や『空神飛空団バルーンフェスタまでッ」

「それならソレガシが寝返らせたからボク達の味方よ? まぁボクのおかげでもあるけれど」

「ソレ、ガシ……嘘……っ、で、でも、妹達が、眠らせただけじゃ」

「記憶改竄の魔法を使いなさいよダルカス。ボクは得意じゃないけれど、貴方なら使えるでしょう? 眠ってる相手には容易いはずよね?」

「でもッ、待って、まだ、まださ……」

「そう言っていつまで待たせる気だ友よ?」


 ダルカスが並べる作戦の穴がトートとチャロに埋められる。駄目だ。失敗。口にするどれもに解決策で蓋をされる。逆に突き付けられる問題があるとすれば、ダルカスにやる気があるかどうか。妹達に記憶改竄の魔法など掛けてしまえば、一発アウトで裏切り行為。


「あたしが……催眠魔法とか使われてゲロっちゃうかもよ?」

「催眠魔法も洗脳魔法も条例違反じゃないの。使ったのバレたら魔法省にパクられるわよ? だいたい貴女なら対抗策打ってるでしょ? 魔神の眷属以上に魔法の研究していた貴女なら」


 炎神の眷属でありながら、魔法の才能を認められて学院の入学を許された麒麟児。友人だからなどという中身ない理由で正解を射止めた機械神の眷属にトートは内心で笑う。


「なんで……? あたし裏切ったのに……」

「理由はダルカスが一番分かっているのではないの? ソレガシ、サレン、あの二人を冒険者に選んだのは貴殿だろうに? 釣り合う者を見付けたのだろう?」

「違うよ……だからアレは偶然で……ッ。なんで二人は」

「ボクは秘密。絶対に言わねー」

「我は本気の貴女が見てみたいからよ。いい加減不完全燃焼はやめろ友よ。張り合いがないわ、ドキドキしないのよ」

「なにさそれ……だってあたし……あの二人にはなにも……」

「そう思うなら自分で聞きに行け、その為の切符くらいは掴めるでしょう貴女にも。ダルカス=ゴールドン。今決めなさい我が友よ」


 決められるのは今だけ。口から煙管パイプを取り零し、ダルカスは拾う事もなく、足元で薄く赤い紫煙を上らせる煙管パイプを見下ろす。燃え尽きず緩く燃える煙管パイプの火と己は同じ。息を吸わねば激しく燃える事もない。


 選んだならば引き返せない。ただ、ダルカス=ゴールドンを待っている者達がいる。いつもいつも待ち続けていたダルカスのように、魔法都市を砂漠都市に入れる事なく撃退できる方法をわざわざ蹴ってまで面倒な道へとわざわざ進み、ただダルカスを待つ二人。


 魔法都市と組んでいた騎士達を寝返らせ、二大王都の姫達さえも協力している。


 その今が現実味なく信じられない。ただ一つ分かるのは、ダルカスがもう会う事ないだろうと思っていた二人に再び合わなければ、二人の冒険者は不完全燃焼のまま戦乱に巻き込まれて終わるだろうという事。燃え切れない時間を誰よりダルカスは知っているから。それでも。


「でも……マロニーがっ、ずっと、あたしの我儘聞いてくれたのにっ」

「ソレガシにでもぶん投げちゃえば? ボクならそうするわね」

「そんなのッ、だって成功したところでその先どうすればッ、魔法都市には戻れないだろうしさッ」

「ソレガシにでもぶん投げればいいだろう。我ならそうするな」

「そんなの、そんなのさ……っ」


 自分もそうすると言いそうになる言葉を飲み込み、ダルカスは手を握り締める。たかが一冒険者に何ができる? ぶん投げたところでどうにかできるはずもない。そう言いたいのに言葉が続かない。


 面倒くさいと言いながら、同じように絶対と言い。足りない足りないボヤキながら、青髪の乙女と並びながら暖炉の前で機械人形ゴーレムを弄る背中をダルカスは幻視する。そんな景色が自分のいない間にもまたあったのだろうと分かってしまう。


 僅かな期待が芽を出し、摘み取ろうにも摘み取れない。待っていた瞬間が、釣り合う者が、本当に待っているのだとしたら。今度こそ思い描く何かに並んでくれる者がいるのだとしたら。その時自分はどうするのか?


 身の内でくすぶる熱に当てられ、ヨタヨタとダルカスの足が布に包まれている妹達の方に向く。息を吸い込んだダルカスの口が記憶改竄の魔法の呪を紡ぐ。


 その背中をトートとチャロは眺めて小さく笑った。


 眷属魔法、種族魔法除き、大戦時に使用されていた魔法さえも使おうと思えば使えるダルカス=ゴールドン。魔神の眷属より魔神の眷属らしい炎神の眷属。そんな少女に誰より焦がれているのはトート=ヒラール。


 この世には奪えぬ物がある。その一つが才能。絶対の才覚。


 魔神の眷属の己より、魔法を研究し磨かれた才能の眩しさに嫉妬した。どれだけの時間を掛けたのか、奪っても奪い切れぬ知識の泉。だが、諦めたダルカスにトートがちょっかい出したところで揺れ動かない。孤独も奪えず、ろくに感情も奪えなかった。


 ただようやっと。


「諦めだけは少し奪えたかな? ダルカスは動いた、この賭けボクの勝ちってことでいいわよね?」

「いいわけあるか二枚舌。そっちに掛けてたのが我だぞ。流石は我が騎士が友に選んだ我が騎士達だ」

「いや、もうアレらはボクの騎士だから」

「あのさぁ……後ろで超絶うるっさいんだけどさ?」


 ため息を吐き振り返るダルカスから顔を背けて姫二人、顔を見合わせ肩をすくめる。馬鹿みたいに未だちょっかい出してくるおてんば娘達を眺め、煙管パイプを拾い上げると口に咥える事もなく、ダルカスは懐に戻しぐちゃぐちゃと頭を掻いた。やっちまったと後悔してももう遅い。すやすや眠る妹達が入っている袋の前に屈み込み、心の中で小さく謝る。


 そんなダルカスの肩に掛かる重さは拭えず寧ろ増えた。正確にはのしかかったトート=ヒラール一人分。そのままトートはダルカスの体をまさぐり、神の火の交換券となる品を掻っ払う。


「じゃあダルカス、これはボクが貰っとくわね。ダルカスが持ってたら変だし、ボクは気絶したフリ続けるから運ぶのはよろしく頼むわよ? 取り敢えず大通りまで出て妹たち起こすのが第一ステップ!」

「……超絶めんどくさーっ、無理だよそれさ、諦めない? トートクソ重いんだけど?」

「それこそ諦めろ友よ」

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