36F 異世界式ドロップス 2

「どうだっていい⁉︎ はいソレガシアウトッ!ユンユンに聞かれてドチャクソ困ったから! チームの名前ぐらいあって然るべきっしょ‼︎ 寧ろこれまでなかったのがおかしいんだっつーの‼︎」

「いや別に、もうダルちゃんが考えた『昇降機の双騎士エレベータヤンキース』とか言う呼び名がありますぞ。十分でしょうがそれで」

「それあーしとソレガシだけじゃんね!」

「どうでもいいけど料理はぁ? 蛇蠍スカベンジャーの油煮込みに、覇王樹サボテンのサラダがいいわぁわたし」


 欠伸をしながらギャル氏そっちのけで椅子に座るベルベラフ殿の自由さよ。マジで飯食いに来ただけだなこの人。一緒にいる理由考えるそれがしの身にもなれ。見ろ騎士達も目を丸くしてグーラ殿とか噴き出してんぞ。


「……ファンです。サインをいただいても宜しいですかね?」

「おーけー。名前はグーラ=グーラちゃん? 『空神飛空団バルーンフェスタ』なんだぁ」


 おいグーラ殿よ、お主冷静なタイプに見えてマジか。騎士相手でも躊躇なく即答でサインを了承するベルベラフ殿のプロ根性も流石だとは思うが、この集まりはサイン会じゃなくて作戦会議なんだよ一応さあ。だからパシルガス殿もサイン待ちして並んでんじゃねえ。


 従業員が部屋の外に出て扉を閉めるのを確認し、バゴー殿が口を開く。


「それが貴殿の冒険者仲間か大将。空神の眷属にあと二人はなんの眷属だ? 機械神の眷属筆頭に美神の眷属筆頭まで連れて来るとは驚いたぞ。急遽掻き集めた戦力としては申し分ない」

「風神の眷属と雷神の眷属ですぞバゴー殿。それにロドス公とベルベラフ殿はオマケ、期待は程々に。それにパーティーリーダーはこっち」

「話にもならん奴を頭に据えて死にたいのか? そのむすめファッションの事しか喋らんぞ? 各大陸の伝統衣装はどうだのこうだの聞くに耐えん。ないな」

「はぁぁぁぁ⁉︎ ダサい仮面付けてる奴に言われたくねえんだけど⁉︎ 『否死隊みなしご』とか自分はチーム名持ってるからって調子乗ってね?」


 どんな喧嘩の売り方だ。頭が痛くなってくる。幸い腕を組んだままバゴー殿は動かず全くギャル氏の相手をしない。「リムってんじゃねえし!」と喚くギャル氏を宥めながらそれがし達も椅子に座る。ギャル氏と相性悪そうなバゴー殿の隣に座り、反対側には全方位喧嘩しか売らないロドス公に座って貰う。一時的な同盟だとしても胃に悪過ぎる。


「バゴー殿、他の『否死隊みなしご』の方々は周囲の見回りに? 姿がないようですが」

「貴殿達を探している最中……という事になっているのでな。だからこそそこまでの時間は取れんぞ? 自己紹介の時間も必要あるまい。後で勝手に教え合え。今ここにいる顔を殺さなければそれでいいのだろう?」

「まあそうですが、だからってトート姫やチャロ姫君狙われては草も生えませんぞ」

「そう言えばトート姫の姿が見えないねぇ? どこ行ったんだい? この会議には不参加か? 今しか話し合いの時間なんて取れないだろうに」


 バゴー殿の会話にオユン殿が口を挟んでくる。マジで騎士達は自己紹介しない気らしい。ずみー氏達を置いてきぼりに話を進めるのも悪いのだが、時間がないのも事実。メニュー表を一人眺めるベルベラフ殿に料理の注文は任せ、それがしは話に集中させて貰うとしよう。


「トート姫には一番大事な作戦の要を任せていますからな。それがし達とは少し別行動を。魔法都市の計画を邪魔する一番の手は炎神の巫女を確保させぬ事。トート姫はその為に動いてますぞ。それがし達の役割はもう少し単純」

「魔法都市の貴族達を一網打尽にする事だろう? 私らだって分かってるさ。魔法都市を離れ数の減った『魔導騎士団ミステリーサークル』と貴族達ならまだどうにかなるからねぇ。事実明日はミスコンの本戦に合わせて貴族達は全員スルブゥア広場に集まる手筈になってるから私らも護衛を頼まれてるしね」


 オユン殿の話を聞きながら右手の親指の爪を噛む。という事はだ。わざわざ全員貴族達が顔を揃えるなら、報道関係者集まった会場で魔法都市の貴族達は宣戦布告するつもりなのだろう。炎神を殺すなどという前代未聞の行動も、ひっそりとではなく盛大に見せしめた方が炎神の眷属達の心をへし折る効果を見込める。


 巫女を捕らえ神を殺す手を打つとしても、それを行うのもおそらくその場。ダルちゃんが姿を現すのもミスコンの本番で間違いない。つまり、それがし達が動くのもミスコン本番になるだろう。マクセル=ブラータン達の前で機械人形ゴーレムの性能を少しでも見せてしまったのが痛い。


「ねえ同士、魔法都市が戦争仕掛けようとしてんのはあちき達も分かったけどさ。炎神の巫女を確保するってなんで?」

「炎神を殺すのに必要だそうですぞ。何故かは知りませんが」


 ずみー氏の質問に答えれば、グレー氏が口に含んだ水を吹き出す。……そう言えばそれはまだ言ってなかったですねはい。時間がなかったから仕方ないね。目を丸くするずみー氏と、理解が追いついていないらしく、ベルベラフ殿と並び首を傾げるクララ様。


「ごっほッ⁉︎ お前らマジで魔法都市で何やってたんだよ⁉︎ 神を殺すって方法は⁉︎ 可能なのかそれは⁉︎」

「さあ? それを探る時間も手段もなかったですからな。ただ不可能なら魔法都市の貴族達も砂漠都市にやっては来ないでしょうよ。オユン殿達に心当たりは?」

「ないさ。手軽に神を殺せる方法なんてあったら大戦時に乱用されてるよ。ただ『否死隊みなしご』、お前さん達はそれを探る為にも魔法都市と組んだんだろう?」


 城塞都市で神石ブルトープを狙いやって来た夜間都市の暗殺者を装った侵入者。巫女や高深度の眷属の行方不明。巫女を狙う魔法都市の動きがそれらと繋がっているからこそ、『否死隊みなしご』は魔法都市と組んでいるとオユン殿は指摘する。


 この中で唯一夜間都市に被せられそうな汚名を晴らしに来た暗殺部隊。仮面の下でバゴー殿は大きなため息を一つ吐き、組んでいた腕を解くと、指先でテーブルの天板を数度叩いた。話すかどうか迷っているのか、仮面の奥の瞳がロドス公とベルベラフ殿の間を泳ぐ。


「……まあな。とは言え此方とて多くを掴んでいるわけでもない。どう神を殺すのかはな。ただ、その発案者は魔法都市ではないのは確かだ。前キレスタール王が死に、幼王に王位が移った際に、外部から招いた者達がいるらしい。宮殿で使用人達がそんな話をしているのを聞いた。魔法都市が大きく動いたのはそれからだ」

「……キナ臭いですな。城塞都市にやって来た怪盗の一味?」

「可能性はある。魔法都市で幾らか追ったが尻尾も掴めなかった。ただ言えるのはおそらく」


 魔法都市は乗せられた? 裏で動いている何かの駒として使われている? 頭の中を泳ぎ回る疑問を噛み砕くようにガジガジ親指の爪を噛む先で、腕を組みグレー氏は唸る。


「そもそもおかしくないか? 魔神の眷属って他の眷属の魔法やら詠唱すれば使える特典があるんだろ? わざわざ使える魔法の数を自分で潰すかな?」

「いや……もしこれが上手くいけば、魔法都市はいつでも神を殺せるという一種の人質を得れますぞ。巫女や高深度の眷属を攫っている一味と組んでいるなら、それこそ脅して眷属魔法の呪文を知る事は容易いでしょうとも。だからこそ」

「その誰かさん達は魔法都市なら乗ると見て手を組んだんだろねぇ。本当に八大王都の一つである砂漠都市を無力化できる手があるのなら、私らだって静観はできない。うーん、頭目と組んだのは正解だったかもねぇ。裏に誰かがいるのなら」

「だからパーティーリーダーはそっち」


 それがしに目を流して来るオユン殿にギャル氏を指差して見せるが、誰もギャル氏を見てくれない。それがしは頭脳労働担当でも、方針はギャル氏に任せているのだが、騎士達は分かっているのか?


「あのぉ、それより聞きたいんだけどぉ?」

「あぁ注文決まりましたかな?」

「いやぁ、そうじゃなくってぇ……」


 眺めていたメニュー表からおずおずとベルベラフ殿が顔を上げ、口端を苦くしてそれがし達に目を流す。話をさえぎられ集中する騎士達の視線を受けてベルベラフ殿は肩を縮こめながらも、唇を動かし小声ながらも言葉を紡いだ。


「今の話ってわたし聞いてもよかったのかなぁって……」

「「「「いいわけない」」」」


 騎士達と顔を見合わせ口にした言葉が揃う。勿論良い訳がない。それが分かっているからバゴー殿も言い淀んだ。だが、口にしたという事はそういう事。下手に話を漏らせば誰に命を狙われるか分かったものではない。口をつぐみそれで済めばいいが、残念ながらベルベラフ殿はミスコンの本戦出場者。つまり。


「ベルベラフ殿もここまで来たら協力して貰いますぞ?良かったですなぁ、これで本当に料理は奢り。情報漏らさないです宣言とかもう関係ないですぞ」

「あなた最初からそのつもりだったでしょ⁉︎ どうりで帰れって言わないと思った‼︎ クララぁ、わたしアレ嫌いぃ‼︎ 」

「ソレガシきみ腹黒くなった? 異世界でのきみは私もちょっと苦手だわ」


 馬鹿言え美神の眷属筆頭だぞ。逃す訳がない。ただでさえ戦力がどれだけ必要かも分からないのだから、使えるものは使う。元々無いような評判だ。今更落ちても気にしない。多少は……。クララ様に泣き付くベルベラフ殿から視線を外せば、ただすぐにベルベラフ殿はケロッと顔色を変えてクララ様から離れ、「じゃあ好きなだけ注文しよぉっと」と口にし開き直る。


 流石眷属筆頭とでも言うべきかたくましい。それがしより泣き付かれていたクララ様の方が面食らっている。異世界ではしたたかじゃなければ生きていけない。おそらくベルベラフ殿の中でも、知らぬ間に争いに巻き込まれるよりは、協力した方が安全そうという打算があったと見える。

 

「まぁ全ては明日になれば分かるでしょうとも。なので後は」

「おけまる! んじゃ後はもう」

「ギャル氏、チーム名とやらは置いておいて」

「そじゃなくて! とりま面子結構揃ったんだし記念にソレガシ一枚パシャってよ! あーしのスマホの代わりにさ! カメラ機能の使い所っしょ!」

「同志改造やっちゃった系⁉︎ 見せてくれちゃってくれよ〜!」

「ここで⁉︎ いやその前に魔法都市の動向を」

「早く撮りなさいソレガシ、私の準備はできたから」

「わたしもおーけー。撮るなら綺麗に撮りなよぉ? どう撮ってもわたしは完璧だけどねぇ」


 なんでクララ様とベルベラフ殿は颯爽とポーズ取ってんだッ‼︎ 撮るとは一言も言ってねえよ‼︎ それより魔法都市の動向知りたいんだよ‼︎ まだパーティーのチーム名考えてる方が有意義だわ‼︎ 今はパシャる時間じゃあねぇ‼︎ だいたい下手に写真など撮ったら魔法都市の地下水路で撮ったギャル氏の写真が……ッ。あっ。


「ファァァァァアアッ⁉︎ なんてこったクソッ‼︎」

「どうした兄弟ブラザー⁉︎ まだ何か問題あるのか⁉︎」

「魔法都市の地下水路で撮ったギャル氏のヴィーナスの誕生写真が消えちまったッ⁉︎ 現像まだしてねえッ⁉︎ 魔法都市の貴族共がッ‼︎ やってくれたぜこんちくしょーッ!!!!」


 洞窟網での逃走戦の際何枚写真を撮った事か。十五枚などあっという間。どこかで現像しようと思っていたのに儚く夢が散っちまったッ。「ヴィーナスの誕生⁉︎ 見て〜‼︎」と寄って来たずみー氏に袖を引っ張られるが、もう見せる事はできない。ってかそれがしも見たい。


 がっくり落とした肩に置かれる手が一つ。顔を上げれば青い髪を逆立てた武人が立っている。おっとこれはサンドバッグの予感。


「ギャル氏タイム。暴力はいくないッ!」

「盗撮はもっと良くなくね? パシャんなって言ったよね? ソレガシ死刑」

「執行猶予は?」

「あるわけないっしょッ‼︎」


 回し蹴りがそれがしの側頭部を綺麗に弾く。宙を数回転し叩き落とされる床の絨毯に手を這わせ、混濁した意識の中、ただでは転ばんと顔を上げて親指を立てた拳を掲げる。


「き……いろ……っ」

「パシャんなきゃ覗いていいなんて言ってねえんだけど‼︎」


 スカートで回し蹴り放つ奴が言っていい台詞ではない。スカートの裾を抑えるギャル氏の姿を最後に、逃走戦の疲れも相まって完全に意識が旅立った。後の会議はずみー氏達に任せる。それがしはちょっと休ませて下さい。

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