35F 異世界式ドロップス
「ちょっとソレガシ、急に走ってったと思ったら戻って来てどこに行くの? だいたいレンレンは? なんで学ランの上着てないわけ? なんかぼろぼろだし」
「最初に言いましたが、この先の作戦会議の為に『溶けた蜃気楼』とか言う店で食事会ですぞ。ギャル氏は先に店にいるはずですな。上着はギャル氏に預けましたぞ変装の意味でも。ぼろぼろなのはもう察してとしか」
裂け血に染まったワイシャツの上に布を巻き付け偽装しつつ、上げていた髪も下ろし簡易な変装。
「またやばい所に向かってるわけじゃないよね?」
「やばいのは寧ろ『おどる砂嵐』の方ですな。
「物騒過ぎんだろ……軽くは聞いたが魔法都市で何やったんだよお前ら……」
「それになんか一緒に付いて来てる
「うるさいのでございますよ透かし脳味噌共。騎士様、こんな連中とは縁切った方が宜しいかと」
「しかもめちゃんこ口悪いし」
なんでいるんだろうね?
「あのぉロドス大公? 機械神の眷属筆頭にあまり強くは言いたくないのですがな。
「同胞である騎士様を敬うのは当然なのでございますよ。それ以外は全く知ったこっちゃねえのでございますれば。特に貴様だチビ。騎士様を同志などと気安く呼ぶんじゃねえでございますよ空神の眷属風情が。慈悲深い騎士様が許そうがあっしが」
「はいはいはいはいロドス公離れて、ずみー氏はこっち来て」
「騎士様ぁ⁉︎ NOooooooooooッ⁉︎」
うるせえなッ‼︎ 悪いがロドス公からの友人関係の忠告など聞く気はない。機械神の眷属には
「これが機械神の眷属筆頭かよ……なんて言うかアレだな……そうほらアレだ……アレ」
「あられくん別に良い感じの例えしなくていいんじゃない? シンプルに頭おかしいわよねそれ」
それとか言わないで、喧嘩腰になっていい事なんてない。そんなでもロドス公深度二二なんです。全身機械塗れのロドス公と喧嘩などしたら間違いなく街の一画が吹き飛び目立つ。戦闘力も高いだろうロドス公が味方なのは嬉しいが、いつ何処で誰の怒りの導火線に着火するか分かったものではない。高深度の眷属の考えを読むのは難しい。だからこそ、もう一人付いて来ている高深度の眷属はなんで付いて来ているのか……。
クララ様の隣を歩くローブ。その隙間から見える黄色と白色の羽毛。鬱陶しそうにフードを弄る姿を目に眉間に皺を刻み、咳払いしながらクララ様に目でどうにかしてくれと合図を送れば、一度ウンザリしたようにクララ様は首を回し、フードを弄る翼を手で軽く払い落とす。
「ベラ、頼むから大人しくして。だいたいなんできみまで付いて来てるわけ? これ私達冒険者の仕事の話らしいんだけど?」
「ぶぅ、いいじゃなぁいクララ。『溶けた蜃気楼』にわたし抜きで行くなんて薄情者ぉっ。ナプダヴィの超高級店よぉ? 奢りだなんて最高〜♪ 素晴らしき〜は友情〜♪ 大丈夫よぉ〜♪ わたしは何も見ないし聞かないし〜♪ お店を出たら記憶は遠いお空の彼方〜♪」
「急に歌わないで貰えますかな? ってかフード脱ごうとしてんじゃねえ⁉︎ 人がッ、人が寄って来ちゃいますから⁉︎」
「ほぅらわたしってサービス精神旺盛だから」
知らねえよ‼︎ 急に歌う所為で必要ない視線が幾つかこっち向いてるしッ、「今のベルベラフじゃね?」とか聞こえて来てるよッ⁉︎ 歌手までこなしてるのか知らないが、有名らしい美神の眷属筆頭がホイホイ付いて来てんじゃねえッ‼︎ 部屋戻った時にクララ様達といて噴いたわ。
「機械神の騎士様なんだっけぇあなたぁ? 一緒に居た子は派手で面白かったけどぉ、あなたは地味ねぇ、もう少し着飾らないと
「余計なお世話ですな。だからフードを脱ごうとしてんじゃねえッ」
「ぶぅ、面白くなぁい。
よりにもよってロドス公に話振ってんじゃねえ‼︎ まぁたロドス公が刺々しく……ッ、刺々しく……ッ、ならねえな……。素知らぬ顔で歩いてるだけで口を開こうともしない。「ロドス公?」と声を掛ければ、返ってくる言葉は簡潔。
「巫女様がファンでございまして……あまり強く言えないのでございます」
「これは酷い」
機械神の巫女様立場強えなッ。ロドス公の弱点て機械神の巫女なんじゃないの? 機械神の巫女、会いたいようで会いたくない。
もう放って置こうと、ため息を零しながらロドス公とベルベラフ殿から視線を切り、目的地へと急ぐ歩く。いつまでも外になど居たら、いつ誰にバレるか分かったものではない。緩やかな坂を上り歩けば、見えて来るガラクタを寄せ集めたような砂漠都市ナプダヴィの『塔』一枚岩の最上部の一画。宮殿らしい玉葱屋根が薄っすら建物達の上に見える。
道端に増え始めた踊り子を横目に歩きながら、建ち並ぶ店達の中でも一際大きな店に向けて足を向ける。蛇の骨が巻きついたような円柱に囲まれた玄関口。扉の両脇に立つ
「お客様……その服ではちょっと」
服装の所為で止められたわ。貴族達と暴れて小綺麗な服になど着替える暇がなかったから格好はどうしようもない。「中にツレが」と口にしても二人の男に首を左右に振られる始末。塩対応不可避。突き刺さるクララ様の冷たい視線が痛い。ロドス公は舌打たないで……。
「わたしのツレよぉ? ダメかしらぁ?」
ついにフードを脱いで、窮屈だったのか軽く頭を振り、こてりとベルベラフ殿が小首を傾げる。固まる男二人。美人の笑顔の破壊力よ。「わたしが一緒で良かったわねぇ?」と零すベルベラフ殿の皮肉の破壊力よ……。
「フゥゥゥッ! やっべぇ〜、スケッチブック持って来るんだったぜ〜! あの踊り子服エッグッ! ほとんど裸じゃん!スケスケ〜、同志スケスケ〜!」
「その言い方だと
「騎士様があの服着るのでございますかッ‼︎ 鼻血が……ッ」
「そうはならんやろ。着ねえわ。着るならグレー氏の方が似合うんじゃ?」
「似合って堪るかぁ⁉︎ 通報されるわあんな服⁉︎」
「ちょッ、鼻血がッ」
クララ様とロドス公が並んで鼻抑えてる姿がシュール過ぎる……。薄く透けたベールやスカーフで着飾った踊り子達が舞い踊るフロアを横目に眺めながら、「青髪のツレが先に居るはず」と告げた従業員の女性に先導されて店内を進む。等間隔に店内に立つ骨の蛇巻き付いた円柱と螺旋階段。ドーム状の天井に描かれる蜷局を巻く巨大な骨の蛇。
瞳ない骨の眼孔が熱気を吸い込んでいるようで、店内の派手さとは裏腹に肌を撫でる空気が冷ややかだ。ただ一人慣れたように従業員と並び歩くベルベラフ殿の背を追って螺旋階段を上りきり、通された部屋の奥の窓から射し込む陽の光に目を細めた。
傾き掛かった太陽を背に、机に肘をつき手を組み座るギャル氏を中心に、両脇に並ぶ各王都の騎士達。影差した神妙な顔で誰もが座っており、思わず喉が鳴る。『
部屋に踏み入って来た
「ソレガシ、ずみー、しずぽよ、グレー……ヤバたん。ドチャクソヤバ谷園だよガチで。どしてこれまで気付かなかったかなーって」
そこで一度言葉を止め、ギャル氏は窓の外を見つめる。何か見逃した? 気付いていない何かがあったのか? 跳ね上がる鼓動が肌から冷や汗を滲ませ、呼吸の澱む中ギャル氏が振り返り告げる。
「あーしらの冒険者パーティーの名前決めてなくね?」
「どうだっていいわ」
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