30F 盗賊達の都 2

「ってなわけで、私は八界新聞だかの記者ふん捕まえてファッション部門の記者に話し通して貰ってみたいな感じ。修行だのなんだの人狼族ワーウルフだっけ? がウザったかったけど、オアシス渡り歩いてね」

「あちきは参加者の似顔絵バラまいて、情報売ったりとかね〜。祭り見に来てるお偉いさんに何枚かスケッチだけど売れたから財布もポカポカだぜ〜」

「俺はなんか旅の商人に気に入られて一緒させて貰ったな。駝鳥ダチョウの背に乗ってゆらゆらとな。ロドネーさんに色々教わりながら」

「……ソレガシ一発ぶん殴っていい?」

「……やめれ。ただ、うん、言いたい事は分かりますぞ。禿同」


 おかしくね? おかしくねえですか? それがしとギャル氏はサバイバル宜しく砂漠のど真ん中を十日以上掛けて歩き魔法都市に到着したのに、砂漠都市へ一直線、ぶらりオアシスで途中下車の旅みたいな感じの三人との差よ。それがしとギャル氏が蛇蠍スカベンジャーの肉むさぼってる間に美味しいもの食べてましたごめんねみたいな報告は要らない。


 クララ様はクフィン卿と、ずみー氏はイチョウ卿と、グレー氏はロドネー卿と一緒だったらしいが、既にその姿はなく、砂漠都市に着くや否や三人の騎士もチャロ姫君を目指し動いているらしい。チャロ姫君一行の動きも気にはなるが、人目を引いて囮役を買ってくれているチャロ姫君達との接触は宜しくない。


 ミスコン含めたミスター=ナプダヴィ=コンテストやカップルコンテストの参加者用の宿、『おどる砂嵐』の一室の中ベッドに仲良く三人並ぶギャル氏とクララ様とずみー氏に目を流し、それがしと共にソファーに座るグレー氏で目を止め親指の爪を噛む。


 再会を喜ぶも間もなく旅の軌跡の話をし合い数時間、宿泊費用割引に必要なコンテスト参加の書類も出し終わり、ようやく砂漠都市に至るまでの話を擦り合わせられた。結局それがし達がサパーン卿に魔力の扱い方を旅しながら教わったのと誰もが同じ。旅の内容は大分違うが……。


「お三方共、それがし達同様修行の旅だったようですが、内容の差に草しか生えない。それがしとギャル氏だけサバイバル味強くね?」

「強いどころかそれしかねえし! 全然良い思い出ないんだけど⁉︎」

「何を言うかと思えば、ワロス!買い物したでしょうが魔法都市で!」

「ほとんど置いてきたよね?」

「社交界出れましたぞ!」

「死にかけたよね?」

「蒸気機関車乗れましたぞ!」

「バレたら死んでたよね?」

「お前ら殺伐とした旅して来たんだな……」


 グレー氏が優しくそれがしの肩に手を置いてくれる。優しさが痛いッ。それがし達だけ隣り合わせの死の色が濃厚過ぎるッ。顔を青くしてギャル氏に抱き付き慰めているずみー氏とクララ様のそれがしを見る冷たい目よ。死に近付いたのそれがしの所為じゃねえから!


「ってかその旅の内容の差でずみー氏深度十とかッ⁉︎ それがしとの差よ‼︎ それがしが深度十に至る為にどれだけの地獄を見たかッ」

「そんなもんじゃないの? 私も深度十だかになったけど?」

「俺もそんな感じ」

「……教わった先生の差ですかな?」


 責任をサパーン卿に押し付けつつ、ガジガジと親指の爪をかじる。短命種故の深度の深まりやすさがあるとしても、深度の深まる早さが早過ぎる。逸早く深度を深める為には、種族差以外に、供物などを捧げ神に気に入られる必要があるが、何も捧げていないのに、それぞれ神に気に入られているらしい現状よ。


 神に気に入られるとか、深度が深まるのは有難いが、塩対応安定、問題投げっぱなしジャーマン基本、喋り方さえおかしくね? な異世界の神を思えばこそ素直に喜べない。だってそれって気に入ったTV番組みたいなもので、おもしれー奴認定されてるだけじゃね? 神に推されてどうすりゃいいんだ? それとも異世界からの来訪者だからなのか、疑問の答えは相変わらず出てくれない。


「とりま全員無事でよきって感じね! ずみーもグレーもコンテストへの出場決めてるし、コレはやるしかないねソレガシ!」

「おいおいおーいっ、宿を取ってしまった以上参加書類を出したのは最低限必要だとして、コンテストで勝つ必要性よ。ないですから別に。必要ないやる気を出さないで貰えますかな?」

「はぃ? ノリ悪くね? そんなんじゃ戦争にもノレなくね?」

「混ぜるな危険ッ⁉︎」


 ミスコンが魔法都市の貴族達が砂漠都市に乗り込む為の口実だとしても、ミスコン含めたコンテストの勝利と魔法都市が計画してる簒奪計画には何の関係もない件についてッ‼︎ どこぞのアニメ宜しく子供用玩具で全ての問題に決着つくような世界線じゃないんだよ! ミスコンで優勝すれば世界が平和になればいいな‼︎ ほら隣のクララ様の目が尖ってきてるからそっち見て‼︎


「あ〜……同志? 戦争ってなんなの的な?」

「はい? あぁ、ミスコンの応援にかこつけて魔法都市の貴族達が砂漠都市堕とそうと乗り込んで来てる件のことですぞ。ダルちゃんが人質取られてて魔法都市に協力させられてて大変みたいな」

「それな。マジヤバめ」

「いやそれヤバめどころじゃねえ⁉︎ お前らなんでそんな落ち着いてんの⁉︎ 祭りどころじゃなくないか⁉︎ 三週間足らずで何やってんの⁉︎」


 グレー氏の叫びを受けて、「あー」と適当な相槌を打ちながらギャル氏と顔を見合わせて小さく頷く。それがしとギャル氏にとってはもう今更過ぎて。獅子神の都市で離れ離れになってからおよそ三週間。正確には魔法都市の問題知ってから二週間経っていないのだが。


「めちゃんこやばたんじゃん。一旦砂漠都市から逃げた方がよくねえかそれ?」

「いやもうそれがしとギャル氏が喧嘩売られて受けた後なんで無理ですな。戦争ぶち壊す計画練り終わってて今夜ここで最後の作戦会議ですぞ」

「手が早えなんてもんじゃねえ⁉︎ そりゃ殺伐とした旅にもなるだろうさ‼︎ 何やってんだお前らマジで⁉︎」

「喧嘩を売られ、喧嘩を買った!」

「顔ドヤらせてるんじゃねえぞコラァッ⁉︎」


 横合いから伸ばされるグレー氏のグーパンを手のひらで叩き落とし、ドヤ顔を返す。甘いわッ! 喧嘩を買ってから毎日毎日組み手地獄。ジャギン殿の六本腕の戦闘術やギャル氏の蹴りと比べれば捌くのなど容易い。


「ふぁぶ⁉︎」


 そんなそれがしの腹部に乗せられるクララ様の足よ。物理的に空気読むのやめてッ。コマ送りされたように飛んで来る足裏がそれがしの腹部をぐいぐい押してくる。


「ソレガシきみはもう本当に頭発酵してんじゃないのかな? レンレンこんなのにたぶらかされちゃダメよマジで。戦争とかッ、はぁ? ミスコンどころじゃねえっつーの‼︎ しかももう計画練り終わってるとか⁉︎ 祭りはどうすんのよ! 賞品得るのが元の世界に帰るのに必要なんじゃないの⁉︎」

「ちょッ、待って足ッ、中身が出ますぞっ」


 ぐいぐいぐいぐい、クララ様は踏み付ける足を止めてくれず、圧迫されて喉元に胃液がせり上がって来る。見てるだけで誰も止めてくれねえッ。新手の虐めか? 帰ったら先生に言い付けんぞッ!


「待たれよッ、待てれよクララ様ッ!言いたい事はよく分かりますぞッ、よく分かりますぞですがここは一度ッ、それがしの話にそのお耳を傾けてッ‼︎ クララ様のちょっといいとこ見てみたいッ‼︎」

「いや意味不でしょ! 祭りと戦争に何の関係があるの? 急に異世界だかに落とされて戦争って名前のお祭りまであるとか聞いてないし! アリムレ大陸だか来て早々に花火代わりの火球まで見せられてんのよこっちは‼︎ 私達には関係ないでしょうが異世界の戦争なんて‼︎ だいたいただの高校生でしかない私達が戦争なんてできると思ってるわけ⁉︎」


 痛たたたッ、踏まれてるお腹以上に降り注いで来るマジレスの雨の鋭さよッ。その意見に大賛成! 本当ならそれがしだって知らねえよボケッ!と部屋にでも引き篭もっていたいッ!戦争なんて知識として知っているだけで経験したいとも思わないッ! だがしかしッ‼︎


「でもダルちぃがピンチなんだよねしずぽよ。戦争とか関係ないけどさ、大丈夫だってソレガシがもうくるくるパーっと頭観覧車みたいに頭ガン回した後だから。ね?」


 膝の上に頬杖つき零すギャル氏の言葉を受けて、身を強張らせたクララ様がそれがしの腹から足を引き、よろよろ後退った後ベッドの上に再び腰を落とす。その衝撃にギャル氏とずみー氏はベッドの柔らかさを表すかのように軽く上下に跳ねた。


 くるくるパーとかギャル氏言ってくれるぜ。選ぶ言葉の威力よ。それがしが考え過ぎて壊れたみたいに言いやがる。


 踏まれていた腹部を軽く摩るそれがしの前で、クララ様は額に手を置き深い深いため息を吐く。誰も声を掛けず無言の空間の中にしばらく浸り、ゆっくりとクララ様は俯けていた顔を上げる。


「……レンレンがその調子じゃ、反論しても意味なさそうね。一度でも協力するって言っちゃった手前、文句も言いづらいじゃないの」

「う〜ん、セイレーンも同志も調子変わんねえならあちきが気にすることはないかなって。前もこんな感じだったし」

「うっそッ、よく保ったわねずみー……。私は肌荒れそうっ」

「それがクセになってくんだって! ねぇ同志?」

「そこでそれがしに振る勇気」


 別にクセになどならないってか、クセになったらそれこそやばいッ。こんな事一生に何度もあって堪るかッ。ずみー氏もそれがしに振らずさっきから静かなグレー氏にでも……あぁ駄目だ。ドMモードに入ってるのか震えてる……。ぞっとしたようで良かったね。


「んじゃまあさ、ちゃっちゃと説明しちゃっておくれよ。ダルダルの現状と、あちき達はどうすりゃい〜い?」

「まぁ簡潔に言うとですな、それがし達は魔法都市の貴族達に強く当たって後は流れで」

「殴ってもいい?」

「それな」


 拳を握り締めるクララ様とギャル氏う目に両手を上げて降参のポーズ。ダルちゃんの現状と作戦の詳細をどう説明したものか。ダルちゃんの心は未だ分からず、貴族達の動きにも不明瞭な部分がある事実。どこから話していいやらと頭を回しながら咳払いを一つするのと同時、外から聞き慣れぬ声が飛び込んで来る。


「参加者の皆様は会場にお越しください! 本戦参加者のお披露目と飛び入り参加の予選通過車の発表を致します!」

「あっ、はい」


 タイミングの悪さ半端ねえなッ!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る