27F 某の冒険 2
体の節々が痛い。新たな方針を叩き出してから既に五日。朝起きて、食事の時間以外はほとんどギャル氏達と手合わせしている。ボロボロの体を無理矢理回復させ動かす為に、回復薬を体に塗り込み、回復を助ける活性薬という大変不味いエナジードリンク的な物を
活性薬の瓶を口に咥えたまま、久方振りに部屋から出て、冒険者ギルドの
「……どうやったんだい兄さん。五日経っても冒険者ギルドに『
「……城塞都市の冒険者ギルドのギルドマスターが師匠だと言って、強引に協力を取り付けただけですとも。誰にも双方の情報漏らさなければ中立のままでいられましょう? その方が得だと口にしただけですぞオユン殿」
ソファーに座る
故に
「城塞都市のギルドマスター?……『不沈艦リゼブ』かい。どうりでそんな大戦仕込みな鍛え方してるわけだ。それ、寿命縮めるのもお構いなしとは、死に急ぎなことで」
「……今なんて?」
なんで異世界の住人は大事そうな事さらりと言うの? この鍛錬法寿命縮めてんの? ただでさえ人族短命種なのに寿命縮めてるとかッ。うっそだぁ、聞かなかった事にしようそうしよう。ただ一つ、
ダボついた白い着物のような武人衣装の袖で口元を隠し含み笑う黒髪の妖狐族の騎士。ここ数日ギルドの
「……この五日間、『
「考え中じゃ」
「トート姫が交渉した全員がですかな? 元々はお主達全員魔法都市側のはず。冒険者ギルドに常駐している理由もある程度予想できてますぞ。ダルちゃんが冒険者ギルドにいない今、その仕事を優先するべきなのでは?」
魔法都市に協力する腹積りの騎士達。冒険者ギルドにいる訳は、魔法都市と砂漠都市、どちらにも組していない邪魔な第三者を消す為に違いないのだ。
「それでも私らが魔法都市を良くは思ってないと見越して話を持って来たのだろう? うん? 迷うだけの価値はある話だ」
「魔法都市が勝利を手にした隙を狙って漁夫の利を狙うより、失敗濃厚なら砂漠都市に恩を売った方が得になると?」
「うん? ふふふふっ、私らの同胞を奴隷にする奴らなど好むはずあるまい? 損得勘定は得意のようだが、ソレガシ卿。まだ私らはお前さん達の手ではなく命を握っていたいんだよ」
オユン殿が
つまり、黒騎士、青騎士の正体関係なく、魔法都市に組していない
「ぷししッ、悪趣味ですなぁ。作戦決行直前まで命を
「くくくっ、謀略家気取りの癖に正直者だねぇ機械神の騎士。そう可愛いと力を貸しても面白いだろうが、足りないのう?」
「我々が知りたいのは、トート=ヒラールが何故貴様に手を貸す気になったかだ。あのおてんば姫はヒラール王族でも魔神の眷属。裏切るとは思わないかね? どうだね?」
翼のはためく音が背後から聞こえ、鋭い猛禽類の爪が
「損得で考えるなら、魔法都市の作戦が成功すれば砂漠都市は崩壊するでしょうが、魔法都市はそうではない。逆に、戦犯として力の落ちるだろう魔法都市をトート姫は好きにできるでしょうぞ。分かっている事を聞かないで欲しいですぞ。まぁそれを抜きにしてもトート姫が裏切るとは思いませんがな」
「それはなぜだ? なぜだね?」
「トート姫はダルカス=ゴールドンの友人ですから」
そう言えば、笑い声に挟まれる。どころか、背後に増える幾らかの笑い声。バゴー殿含めた『
「友人だから? 損得並べる貴殿がそれを言うのか? 城塞都市の怪盗の一件でルルス=サパーン含めた四騎士を
「なら冗談じゃないので笑わなくていいですぞ」
ぴたりと止まる笑い声に、少しばかり冷ややかな空気を感じてため息を吐く。城塞都市でブル氏と共にサパーン卿達をボコしたのは真実。同盟破棄の理由にサパーン卿達の動きは当然含まれているだろうから各王都の騎士達が知っているのは当然として、今
難癖付けられても堪らないので、沈黙が広がり中、逸早く自分でそれを破る。
「誰だって自分が得をしたい。得するということは誰かが損をするということでしょうがなぁ。誰がどう利益を享受するのか考えるのは簡単でいい。ですけども、
「お前さん意外とロマンチストかい? 夢物語なんて童子しか喜ばないぞ? そんな話で私らが納得するとでも?」
「さぁ? でもあるんです。損得で測れない『絶対』が。誰もが各々持っているだろう『絶対』がね。トート姫が裏切るとしても、
利益以上にトート姫が何故協力してくれる気になったのかなど、
ただ魔法都市を負かすだけなら、魔法都市から来る蒸気機関車全部街に入る前に落とせとでも砂漠都市に通達するだけで済む。だがそれを見送り動くのは、もっと大事な何かを奪う為だ。利益関係なく揺らがぬ『絶対』を。それが矜恃なのか、その場での感情なのかは今はまだ分からないが。
「だから損得で組むだけでなく、お主達ともできれば友人になりたいですな。そうすれば、
「お前さんそれは損な性格というやつだね。各王都の騎士や暗殺者を前に裏切られても気にしない? 死ぬ瞬間にも同じ事が言えるかい? 今この瞬間にも死ぬかもしれないお前さんが」
「今この瞬間死ぬようなら怨みますぞ。まだ名前しかよく知らないのですし、友人でもなく交渉相手。でも刃でなく握手を交わせたなら、神の火よりは頼りになると約束しましょうかね? 困った時に神の火は助けてくれないかもしれませんが、
剣の柄に手を置くオユン殿を前に微笑み肩を
「存外甘いな機械神の騎士。機械神の眷属らしく頭が固いと思えばそうでもないらしい。武神の眷属とも組んでおるわ、その上我々とも友人になりたいなどと。分かっているかね? どうだね? 我々はそれぞれ各王都の騎士団、暗殺部隊に属する者。もし我々の王都同士が戦を起こしたらどうする気だね? どちらに味方する? その理論は破綻している」
「そうなったらなったで、なんかこういい具合の落とし所でも探しますかな? 『絶対』に不可能はないですとも。そもそも武神の眷属どころか、ここにはいませんが空神の眷属と風神の眷属、雷神の眷属も
「はぁッ、欲張りだねお前さん。なんの神の眷属かもお構いなしかい? まるで全盛期の冒険者だぞ」
「知らぬのか貴殿達。その男とあの青髪の女は神喰いから都市エトを防衛した変人共だ。まぁ私達が思うよりずっと偏屈らしいがな」
変人偏屈と好き勝手言いやがって。異世界の者達には慈悲の心が足りてないんだよ。余計なお世話だ。単純にやろうと決めたからやっただけに事を変人変人と。フリークショーにでも出れそうな勢いだ。もう許してくれよッ。
薄く冒険者ギルドの中を満たす笑い声に肩を落としていると、
これまで静観していた
「諸島連合に都市がある者同士仲良くて結構なことであるが、パシルガス卿、お前さんが組むと決めたなら私らも組まねば足並み揃わないぞ?」
「相変わらず海人族は何考えているのか理解不能だね? 何とか言ったらどうだね?」
…………何も言ってくれねえわ。パシルガス殿、グーラ殿が呼んでるよ? ってかいつまで
「まぁいいか。魔法都市よかお前さんと組んだ方が今後楽しそうだしね。盟友になるのも一興かい? ソレガシ、私を誘ったからには期待してるよ頭目」
「いや、それは嬉しいのですけどな。頭目って
「はぁ……我も乗ろうかね? 二人も
「いやあの……だから
「仕方ない。負け戦に乗る趣味もない。それなりに功を上げている貴殿に今回は乗ってやる。私達四人の仕事もその方が捗りそうだからな。頼むぞ大将」
「いやッ、だからですなッ!」
握手してくれる四人と握手し終えソファーから立ち上がれば、宿泊部屋に続く階段から聞こえて来る足音。
「
「はぁ? なんだしソレガシ急に? さっき蹴り過ぎてあたま逝っちゃった? …………てゆうか、ふふっ、なにアンタら黒い集団の集まり的な? 暗いわぁ空気が、ウケるッ」
「ウケてんじゃねえ‼︎ 交渉期間終えて今友人になったところなんですけど‼︎」
「はぁ⁉︎ 早く言えしそれを‼︎ じゃあお祝いじゃん‼︎ ダチコ増えたなら秒で言いなって! パーティーパーティー! 今日はパーティー安定ね‼︎ バイブス上げて! テン上げバリナイトまでフィーバー! 面子見るにぃ、コスプレパーティーに決定! ソレガシ仮装どうする?」
「どうするじゃねえわバイブス下げてぇぇぇぇッ‼︎」
「アレがリーダーはないぽよ」
「お主普通に喋れんじゃねえかッ‼︎ てか語尾どうした⁉︎」
もうどうにでもな〜れッ!!!!
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