15F 魔法使い達の都 4

「魔法都市は五つの区分に分かれててね。ソレガシが大好きな魔王様の一族、キレスタール家は中央に、四つの大貴族がそれぞれ四方を治めてるのさ。魔法都市は広いからね。ブラータン家、フェッタ家、ナハース家、んで、ゴールドン家の四貴族。全部魔法使い族マジシャンの名門だよ。この五家の出身だって言ったら大抵はどこの大陸の都市でも重宝されるね」

「あらなに自慢? そんな常識一々ボクに説明してくれなくていいんだけど?」

「おたくには言ってないよトート。後ろの二人に言ってるの」


 言葉よりも先に後ろを振り返れ定期。ギャル氏は見なくてもいい、それがしを見ろ。魔法都市の冒険者ギルドを出てからぶらぶら散歩しながら説明してくれるのはありがたいが、買った物全部それがしに押し付けんじゃねえ。


 アニメでしか見た事ないような買い物箱の塔が建設されつつあるんだぞ! こんな事で魔力の扱い方の練習したくねえ! いくらそれがしが機械神の眷属だからって、この塔の整備は御免被る。いいの黒レンチでぶっ叩いても? それにそれがし別に魔王様好きな訳じゃねえよ。


「うわぁスッゴ、やっぱ本場のローブは違うわエモさが。折れ目の所為なんかな?」

「サレン気に入ったの? じゃあそれも買う?」

「それは流石に悪いっしょ、あーし全然お金出してないし」

「いいのいいの、ゴールドン家にツケちゃえツケちゃえ。精々困ればいいんだよあんな家」


 さっきから凄い勢いでゴールドン家への請求書が生み出されているが本当にいいのだろうか? あんな家とか言ってるよダルちゃん? ……マジで買ってやがる。それ持つのそれがしなんですよ? 服屋の女性店員も迷わず積み上げてんじゃねえぞ。


「まぁゴールドン家のお嬢様がお買いになられるなんて幸運だわ。頑張ってね奴隷さん」

「誰がや」


 それがし別に奴隷じゃないんだわ。首輪も腕輪も付けてねえよ。この店員失礼過ぎねえ? 初見で奴隷さんて言われたの初めてだわ。ギャル氏は爆笑してんじゃねえ。それがしだってキレ散らかすぞ。


 とは言え、間違われても仕方ないと言うか、魔神の紋章を刻んでいる住人の多くが首輪を付けた奴隷を伴って歩いている。勿論荷物持ちとして。荷物持ち=奴隷なのか知らないが、店員共はまずそれがしの首元見ろ。さっきからどの店でも奴隷見る目で見られてんよ。


「あのぉダルちゃん?」

「んー? あぁ奴隷? 魔法都市だと魔法上手く扱えない者達の一番の就職先だからね。魔神の眷属の研究手伝ったりとか、力仕事任せたりとかさ」


 それは奴隷ではなく助手と言うのではないのか? 荷物の影で首を傾げれば、ダルちゃんはまだ説明は終わってないとばかりに話を続ける。


「ちなみに魔法都市で魔法って言うのは眷属魔法じゃない魔法を指すんだよね。眷属魔法は神の力、普通の魔法は自分の力。眷属魔法自慢しても馬鹿にされるから気を付けなよ?」

「どころかそれがし眷属魔法一つしか使えないのですけど?」


 機械人形ゴーレムの召喚しかできないそれがしは眷属魔法さえ自慢できない。異世界に来た時はもっと色々魔法使えると思ってたのにヨタ様マジでやってくれたよ。


 眷属魔法と普通の魔法では使われる魔力と理論に差があるのか、この世界にとって異世界人であるそれがし達には使えない。ゴミ仕様だよ。


 顔を苦くすれば、これ見よがしにトート姫に笑われる。チャロ姫君とは別の意味でいい度胸だよこの姫様。


「機械神の眷属は魔法都市では評判悪いから尚更ね。ただ眷属魔法の数で残念がるなんて、それこそしょうもないわ」

「なぜですかな?」

「魔神の眷属には特有の眷属魔法が一つもないからよ」


 そうトート姫は言い放ち、思わずそれがしは足を止める。それがし以上に不遇な眷属がいるとか大草原! 流石やってくれるぜ異世界の神様は! 魔神の癖して眷属魔法が存在しないとか!


「ぷししっ、……ってあれ? でも眷属魔法ないのに各都市で重宝されるって矛盾では?」

「特典のおかげさ。魔神の眷属は特有の眷属魔法ない代わりに、他の神の眷属魔法でも完全詠唱すれば使えるんだよ」

「チートやないか‼︎」


 ふざけんなよなんだそれ⁉︎ そりゃ重宝されるわ‼︎ 眷属魔法は基本秘匿されてはいるが、詠唱全部覚えられれば使えるとか世界の法則が乱れている。機械神の眷属の特典と交換してくれ。この買い物道中こそ割引券が必要だとそれがしは思う。強くそう思う‼︎


「勿論自分の深度以上の眷属魔法はパクれないし、威力は落ちるけどね。魔神の眷属の特典は、正確には『あらゆる魔法の使用権』なのよ。この意味分かる? チャロの機械人形?」


 だからそれがしはチャロ姫君の玩具じゃねえ。しかし、『あらゆる魔法の使用権』とは穏やかじゃない。わざわざ言い直したという事は、眷属魔法だけではなく、間違いなく種族魔法も使用できるとトート姫は言っている。


「……魔神の眷属の研究とは、種族魔法や眷属魔法の解明ですかな?」


 そう言えば、トート姫は笑みを深めて指を弾いた。種族間、眷属間のみに伝わり、書物にさえ記されずに秘匿されている魔法達。その詠唱や理論を知れれば使えるなら、無数の魔法を扱う為に追うのが普通。


 それに加えて他の都市ではそう見ない奴隷制度。腕が塞がっているので足で隣を歩くギャル氏を軽く小突く。「目に魔力集めてあの奴隷殿見てくれませんかな?」と告げながら。


「んでよ?」

それがしの予想が正しいなら、首輪達から魔力を感じるはず。『魔神の眷属の研究の手伝い』とは、そういう事でしょう? 種族魔法や眷属魔法の秘密を売る訳ですかな? ダルちゃん」

「気にしなくていいよ、ソレガシにはそんなに関係ないさ。どうしても話したいなら今度話してあげるよ。今は、さ?」


 周囲に視線を流すダルちゃんに、小さく頷きを返す。確かに街中でする話ではない。何より一緒にいるのはゴールドン家のダルちゃん。要らぬ噂は立てぬに限る。が、おそらく知っておいた方がいい魔法都市の仕組みがある。


 進んで奴隷になりたい者は多いとは思えない。首輪や腕輪が奴隷の動きを制御する物であるなら尚更だ。種族魔法、眷属魔法の情報を売ってまで奴隷にならざる負えない仕組みが隠されていると予想する。奴隷達に繋がりがあるとすれば、目に見える奴隷達は全員深度一桁。嫌な予感がするなぁおいおい。


「それよりほらソレガシも、超絶怠そうな話は置いといて、今ならソレガシの欲しい物も買っていいけど?」

「マジで⁉︎ なら今度機械人形ゴーレムに魔法の射撃装置を付けたいと思っているんですぞ! 良い方法ありませんかな?」

「ふーん? ……うん、射出魔法式刻んだ変換器取り付けたら?」

「ふぅむ流石魔法都市、そんなものまで。ならあれをあーしてああすれば……ダルちゃん改造に協力してくれますかな?」

「いいよ、一つ頼み聞いてくれたらだけど」


 ダルちゃんの頼みとかくっそ面倒くさそう。だが背に腹は変えられない。魔法都市で魔法に詳しい職人を探す気だったが、ダルちゃんの協力を得られれば探す必要はなくなる。何より魔法都市で機械神の眷属の評判悪いとなると、城塞都市以上のお断り地獄に浸る可能性さえある。


「まぁギブアンドテイクということで。そうなるとどんな魔法の変換器にするかですけども」

「炎属性がオススメだね」

「折角なら複雑な魔法効果あるのが面白いと思うけど?」

「光属性以外ありえんてぃじゃね?」

「お主ら協調性のなさ半端ないですな」


 急に意見を分けてんじゃねえ! ダルちゃんは炎神の眷属だからか知らないが、炎属性は悪いがなしだ。相手炎冠ヒートクラウンだよ?炎冠ヒートクラウン以上の炎魔法を魔力変換器使ったところで出せるとも思えない。


 トート姫はアレだろ。お金出すのダルちゃんだからって高価な変換器買わせてゴールドン家の財布から絞ろうとしてない? 可愛らしく首を傾げようが騙されんぞ。下手に良いの買ったら盗まれそうだし。ってかいつまで一緒にいるんだこの姫様。


 ギャル氏のオススメは意味分からん。何故に光属性? 夜怖いからなんて理由じゃないよね? そうだよね? ギャル氏の顔を見つめるが全然表情が読めねえ。何も考えてなくね?


「ソレガシさぁ、しずぽよに頼まれたカメラ機能付けんでしょ? ならストロボ的な機能いるくね? あーし天才じゃね?」

「よう天才様よ、射撃装置だって言ってんだろ。いつそれがしが映写装置付ける的な事言いましたかな? 耳付いてます?」

「は? んじゃ夜どうやってパシャる気なわけ? ちゃんと考えろし」

「おま言う」


 そんな本気でカメラ機能取り付けなきゃならんの? おいおい、それがし機械人形ゴーレムどうしたいんだよギャル氏は。日常の便利機能大集合させるんじゃないよ。させるんじゃないよってそれがしが言う前に何故魔法道具店に走ってんの?


「ちょちょちょギャル氏? ギャル氏⁉︎ くっそッ、荷物が邪魔で走れねえし手が伸ばせねえ⁉︎ ウェイトッ、ウェイトギャル氏‼︎ 話を聞いてそれがしの‼︎ 話し合いましょうぞ一回‼︎ 買っちゃったら後戻りできませんから‼︎ おい武神の眷属ぅッ‼︎ 無駄に足速えぇ⁉︎」

「店員さーんこれ二つ買いで‼︎ 二つでいんだよね?」


 二つでいんだよねじゃねえよ‼︎ 嬉しそうな顔しやがって‼︎ 駄目って言いづらいだろ‼︎ いいよ分かったよやってやんよ‼︎ ストロボ機能取り付けて上手い事やってやんよちくしょう‼︎ その笑顔最初にパシャらせろ‼︎ ただその前にッ‼︎


「……写真機の魔法具も買って貰えます?」


 ガンガン行こうぜなギャル氏に気圧されて、今日もまたそれがしは諦める。肩をダルちゃんに手で叩かれ、背後で聞こえるトート姫の爆笑。笑ってんじゃねえぞ。いつまでいんだよトート姫。慰めてくれるダルちゃんが救いだ。


「んじゃソレガシ、これで交渉成立。三日後の社交界のお供よろしくね」

「はい?」


 救いの手は全然救いじゃなかった。社交界ってなに? それってあの社交界って事? 社交界さん? それはちょっとそれがしの知らない子ですね。

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