14F 魔法使い達の街 3
「待てよヒラ―ル王家の姫様に受付の嬢ちゃん。喧嘩するにも時と場所を選んで欲しいもんだぜ。砂漠都市の魔神の眷属の姫様が率先して魔法都市で暴れていいものですかな? それもこの蟲毒の中で。悪目立ちが過ぎますぜ」
受付カウンターで怒れるダルちゃんとトート姫に挟まれながらも悠然と口を動かすサパーン卿
「は? 名も顔も知らない
おいやめろ馬鹿ッ! 姫様の癖に口悪いな、サパーン卿は直情的な性格の癖に繊細なんやぞ! 波打ってる口端見てやれ!トート姫が匂うとか言うからギャル氏まで自分の匂い嗅いで気にし出しちゃったじゃねえか! ギャル氏に抱き付かれても文句言わなかったダルちゃんを見習え! 砂漠のど真ん中に風呂なんてある訳ないんだから仕方ないんだよ!
「だいたい盗賊祭りの心情知らないわけじゃないでしょ? 奪われる方が悪なのよ。生きるとは奪うこと。ボクを祭りの舞台から蹴り落としたいなら蹴り落としてみたら?」
自信の
ただ一人を除いて。
ダルちゃんが火の灯る人差し指を緩やかに掲げる。眷属魔法の詠唱を大幅に破棄しても使えるダルちゃんの技量。『着火』の一言だけで火を飛ばす事さえできるデタラメ。それがトート殿に向けられる。ただ、間に
「よし、分かった降参ですぞ。このままじゃ
「貴方が燃えてもボクとしては全然構わないんだけど? 機械神の眷属。チャロの機械人形達なんてね」
当然だけどもチャロ姫君とも知り合いか。学院の学友だと言うならギャル氏ってずみー氏、クララ様のように仲良くしていて貰いたい。政治が絡んでるからか殺伐し過ぎなんだよ、ただでさえこの異世界殺伐としてるのに殺伐を重ねるんじゃない。
「……
「城塞都市の姫が己が都市の神の眷属でもない他神の眷属に騎士称号なんてやったら目立つでしょ普通に。女の方は馬鹿っぽそうだし、男の方は陰鬱ね。ボクの好みじゃないわ」
誰もトート姫の好みなんて聞いちゃいねえ。しかもダルちゃんどころかギャル氏にまで喧嘩を売るんじゃない。武神の眷属の目が鋭く細められているのを見ろ。だからこっち見んな。
「あーしに喧嘩売ってんなら買っちゃうけど? 組もうよダルちぃ」
「超絶賛成」
「いいけど? 来なよ」
「よくないんですけど? トート姫がなぜ
答えは
何よりも、
ズダン────ッ‼︎
トート姫が元立っていた位置、
「ボクを助けるメリットあった?」
「目の前で死体を見ずに済みましたな。それで……」
ナイフを投げて来た受付カウンターの反対の席に腰掛けている黒布纏った四人組。その内の一人が立ち上がり滑るように寄って来る。
見た事がある黒布だ。城塞都市で見た夜間都市の暗殺者御用達の一品。
腰のホルスターに手を伸ばし黒レンチの上に手を置けば、目前まで来た黒布は小さく頭を下げた。
「……失礼した。ソレガシ卿、貴殿は思ったより周りが見えているらしい。話をするだけの価値があるようだ」
「あーしらには話をする価値なさげなんだけど?」
禿同。全くギャル氏の言う通りではあるのだが、少し怒りのボルテージを下げよう。トート姫への喧嘩腰持ち越してるから。不必要に高まってゆく冒険者ギルド内の緊張感が居心地悪い。
それにしたって、黒布から零される若い男の声。城塞都市で会った黒布は女の声だったが……。サパーン卿に小さく目を流すが、何も言われないので黒布と向き合う。これも修行なのか知らないが、交渉や話し合いは
問題があったら流石に口を挟んでくれるだろう事を思えば、
「ロド大陸の怪盗騒動の件ですかな? 侵入者は夜間都市の黒布纏ってましたからなぁ。ただその話をするにしても、ちょっと手荒な挨拶では?」
「それは詫びよう。此方としても夜間都市の評判に関わる話でね。実際相対し撃退したという貴殿の技量が気になった。別に構わないだろう? なあヒラール様? ここはアリムレ大陸だ」
「ボクに聞く意味ある? ボクまで巻き込んでくれていつまでフードで顔を隠してる気なのかしらね?」
一番最初全方位に喧嘩売ったのによくそんな言葉が出てくるな。そのハッタリ地味た肝の座りようはなんだ。だが、格の高い者のその言葉が今は少し有難い。黒布は最低限の礼儀とばかりに黒いフードを脱ぐ。ただその下で待っていたのは、能楽で使われるような鬼の面。ふざけてんの?
「これは失礼姫様。私は夜間都市から来たパゴーと申します。盗賊祭りに参加はさせていただいておりますが、姫様を狙うなどとてもとても。私共が来たのは彼らと同じ理由でしょうから」
そう言うパゴー殿の仮面の奥に見える赤っぽい瞳が
即ち、城塞都市の神石狙ってやって来たのと同様に、砂漠都市の祭事の賞品、神の炎を狙いやって来ている可能性がある招かれざる参加者を狙っての参戦。本当にそうなのか分からぬ以上、
だが、
「それで夜間都市の暗殺部隊『
「……口を慎めルルス=サパーン。騎士に上がって偉くなったつもりか? 暗殺者としては落ちたな」
「……『
暗殺部隊『
「騎士と暗殺者が寄り集まっているにも関わらず気品が足りないと見える。息が詰まるねぇ、人数減らして換気したい気分だぞ?」
元の世界で言う大陸の武人衣装に身を包んでいる女性。頭から伸びるのは狐の耳。背後で泳いでいる大きな狐の尻尾が五つ。獣人属の中でも幾らかいる、尻尾の数で力量が分かると言う妖狐族。服の肩口に貼り付けられた団章を目に、目を細めているとトート姫が小声で呟く。
「…… 『
一応は助けてくれたお礼とばかりに、トート姫が途中から
『
自己紹介大会なのか知らないが、新たに冒険者ギルドにやって来た
幾人かが席を立ち上がり急激に緊張感が高まる中、
眉を
「あのちょっと?」
「なんか刺々し始めたから脱出脱出。久し振りに魔法都市に来たんだしボクの買い物に付き合いなさいよ。貴方は荷物持ち係。いいでしょー、チャロの物はボクの物なわけよ」
「よくねえよッ、おいおいおいッ⁉︎ だいたい
「ちょッ⁉︎ アンタソレガシ返しなよ! それあーしの荷物持ちだから‼︎」
違うんだわ‼︎ そもそも
空に泳がす
「ダルちゃん⁉︎ ダルちゃん助けて⁉︎ こ、これは死ねる‼︎
「はいはい超絶めんどくさー。あたし達ちょっと出てくるけど、オタクら全員冒険者ギルドぶっ壊したらゴールドン家にチクるからね。よろしくー」
ダルちゃんのチクる宣言に席を立っていた参加者達はそそくさと椅子に座りだす。ゴールドン家ってそんな魔法都市で権力あんの? 最初からやってよ……。
ようやく冒険者ギルドが静かになったのに、ダルちゃんが
なんでや。もう出て行く必要ないだろ。目でジャギン殿に助けを求めると手を振ってくれるがそうじゃない。察せ! 言葉ない
あぁ……
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