魔法都市ブダルーニュ 編
12F 魔法使い達の都
多腕を動かす技術という点では
「弓の構えは悪くナイのに勿体ナイなソレガシ。ソノ分糸の扱いを教えて欲しいなどとドコで使うのダ? ソウいうプレイカ? ソレはアマリ感心できナイゾ。若い内から束縛プレイなどと」
「違うわ、なに言ってんですかな? 先輩マジ勘弁」
魔法都市で射撃兵装を追加するにあたり、電磁蒸気砲は『
折角多腕の動きの見本がいる為、魔法射撃兵装の為の腕を二本増設できれば、動きの幅も広がる筈だ。決め技以外の攻撃力が足りない分は手数で埋める。コレが
ずみー氏が居れば完成図を描いて貰えるのだが、いないのだから仕方ない。ずみー氏、クララ様、グレー氏は大丈夫だろうかとギャル氏と共に心配しながら、サパーン卿とジャギン殿と修行しながら獅子神の都市マザーズを出て二週間。これまで変わりなかった景色が遂に変わった。
砂漠に落ちる波打つ影。素早く動くそれはリアル空飛ぶ絨毯が落としたもの。遠目からでもよく見える無数の玉葱型の屋根と、三日月と太陽を長短二股の先端に取り付けたような『塔』の姿。
都市から溢れ出る魔力の所為で全体の景色まで歪んで見える巨大な都市こそ、
バンザイによって逆巻く風。いと恐ろしや。危ねえもう慣れたわ。魔法都市が見える気配感じてからギャル氏の近くに居なくて良かった。
「やっ──────とッ‼︎ お風呂入れんじゃん‼︎ すぐ行こ‼︎ ナウしか‼︎ 乗るしかねえしこのビッグウェーブに‼︎ お風呂とお食事ちょと詰めて! 柔らかなベッドにダイブイーン‼︎」
「はいギャル氏伏せて」
飛び出そうとするギャル氏に地に落ちた布を被せつつ砂の大海にダイブイン。魔法都市に近付いた事によって修行用の普通の布から取り替えた魔法都市製の魔力を覆い隠してくれる布。
「痛っ! なにすんし急に‼︎」
「ぶふぉ⁉︎」
横からギャル氏に蹴り飛ばされ、砂煙を巻き上げながら横に滑り転がる。痛てえ⁉︎ バンザイの時離れてた意味⁉︎ 結局ダメージ受ける運命なの? ふざけろッ、そんな運命認めんぞ!
「止めるのが意味不なんだけど! 魔法都市目指してやって来たんじゃん! 行くなら今でしょ秒で!」
「危機管理脳力ぶっ壊れ中ですかな? 今が盗賊祭り中とお忘れか? あれ程の大都市、待ち伏せいるだろ常考。目立つのは控えるのが安定」
「マ? だってこれまで待ち伏せとかなかったじゃん」
そりゃ他の都市全スルーして砂漠のど真ん中横断してたからな。道程はサパーン卿とジャギン殿に任せていたが、敢えて人通りのない道を通っていた筈だ。だからこそ道中魔物は多かったが人影を見る事はほとんどなかったし、人影を見ても参加者か住人か確認する事もなく身を潜め忍んだ。
だというのにギャル氏は鼻で一度笑うとこれ見よがしに肩を
「はぁ、ソレガシ、珍しく頭回ってないじゃんね? 暑さで遂にやられちゃった感じ?」
「何故に?」
「開会式とかでみんな最初都市マザーズに
「お主マジかっ」
凄いドヤ顔だ。自信に満ち溢れているが、残念無念また来年。いや、また五〇年。始まりは
「あのですなぁギャル氏。それこそありえませんぞ」
「はぁ? んでよ?」
「考えてもみなされよ? 祭事の範囲はアリムレ大陸全域ですぞ? 例えば魔法都市の住人が参加するとして、わざわざ情報も物資も集まりやすい大都市から開会式の為だけに獅子神の都市にまで行くと思いますかな?」
「たり前じゃん。お祭りの開会式だよ? 行かなきゃ嘘じゃんね?」
やめてッ。そんな純情無垢な顔で首傾げないでッ。
それもおそらく魔法都市の住人関係なく外部からも。
だがそれもここまでだ。
盗賊祭りが始まり既に二週間。
そのまま砂漠都市を目指すか、
つまり魔法都市は間違いなく待ち伏せや刺客、多くの参加者が潜んでいるであろう都市。警戒するに越した事はない。とは言え警戒したところで必ず城壁を潜らなければならないだろうが。それはもう仕方ない。
「だからサパーン卿、どうしますかな?」
「あぁ警戒はするが、真正面から正々堂々と行く」
「……マジで?」
「マジだ。と言うかそれが一番安全なんだよ魔法都市に入るのはな。特にこの時期は」
そう言いながらサパーン卿はニョロニョロ魔法都市目掛けて歩き出し、それを追い歩くジャギン殿を目にギャル氏と顔を見合わせ急ぎ後を追う。首元に下げていたフェイスマスクを口元に引き上げながら。
「盗みを正当化してる砂漠都市を魔法都市はそもそも良くは思ってねえし、この時期はより治安が乱れて魔法都市はピリピリしてんだ。下手に暴れりゃ最悪そこで処刑。魔神の都市の『
サパーン卿の言う通り、警戒しながら進みはするも、特に何もなく魔法都市まで近付ける。近付けば他にもちらほらと布を纏った歩く者の姿。鋭い目付きからおそらく他の参加者。遠巻きに横を歩く布達に顔を向ければ。
───────ドゴォンッ‼︎
「えぇぇ……」
急に爆炎を上げて布達が吹き飛ぶ。飛来する眷属魔法や攻撃魔法がなかったのを見るに、下からの攻撃? 急過ぎて間抜けな声が出てしまった。なにそれ?
「設置型の魔法か、地雷型の魔法兵器だな。都市内部での戦闘行為は目くじらを立てられるからこそ事前に仕掛けたんだろうが俺には関係ねえ。俺の後ろから外れんな」
急におっかねえな‼︎ ひょっとして道中他にもあったりした?
吹き飛んだ朱い布切は視界に入れないようにしつつ、魔法都市に近付けば近付く程大きく目に映る見上げるような城壁。アリムレ大陸の二大都市なだけある。と言うか城壁都市よりもデカくね? 重厚さなら城塞都市の圧勝だが、広さなら魔法都市の方があるように見える。
「アリムレ大陸は砂漠が大部分を占めル。厳しさ故に住人の七割は魔法都市、砂漠都市、玄関口でアル獅子神の都市にイル。魔法都市はソノ中で一番の大所帯ダ。ワタシはそう好きくナイ場所だがナ。入ってまずどうスル?」
「冒険者がいんだから冒険者ギルドが取り敢えずはいいだろうぜ。下手に宿取るよか安全だ」
ジャギン殿とサパーン卿の不審な会話を入れつつ、城壁の門まで差し掛かったが、軽く門の警備兵に二、三質問されただけで中に入る事はできた。盗賊祭りの参加者だと告げたら凄い勢いで舌は打たれたが、殴られたりしてないし別にいい。そんな反応慣れてるし。
「……わぉ」
「エモいわー鬼映え」
そうして踏み入った魔法都市ブダルーニュ。城壁の中は獅子神の都市以上に魔法器具に溢れており、
鼻先を掠める混沌とした薬っぽい匂いは魔法薬でも煮ているのか、蒸気の白煙以上に色付いた不気味な煙が至る所から伸びていた。そんな宙を埋める魔法の器具や浮いた看板に空飛ぶ絨毯。
「ちょ、ちょっとソレガシ」
ギャル氏に小突かれ目を向ければ、魔法使いっぽい住人に混じって街の中で動いている鎖の伸びる鉄輪を首と手首足首に付けている者達。見るからに奴隷といった風貌。ブル氏が冗談で『奴隷』の存在を口にしていただけに、いるとは思っていたが、実物を見ると感じ方は想像とは異なる。思ったよりは小綺麗な格好をしている。
特に感想を述べる事もなく奴隷達から目を外し街を見渡すが、普通に入る事ができたが緊張感が異常だ。盗賊祭り始まって間もないからか、稲妻模様の傷跡が疼くほどに魔法都市の中は張り詰めて感じる。ギャル氏もそれを察してか、パシャったりせず、シャワーだ風呂だと言わずに口数が減る程に。
何よりも、周囲から感じる見られているような視線。多種族の四人組が珍しいのか。それとも別の理由か。住人からの視線なのか、他の参加者からの視線なのかも定かではない。
サパーン卿に先導され、しばらく居心地悪いマジカルでアラビアンな道を歩き続ければ、ボロ屋敷としか言いようのない小さな屋敷の前でサパーン卿は止まる。今にも崩れ落ちそうな扉の上に掲げられた冒険者ギルドの看板。
知ってた。オワコンだもん冒険者ギルド。
立派な建物など期待していなかったが、冒険者ギルド以上最悪の外観だよ。見た目お化け屋敷だもんよ。見ろよギャル氏の顔を。マネキンより無表情だぞ。お風呂ともシャワーとも唇動いてねえぞ。
生気消え失せ、氷像より関節が凍結したらしいギャル氏を引っ張りながら、全く外観をものともせずに中に踏み入るサパーン卿とジャギン殿を追い中に入った途端、ギャル氏の時は再び動き出し、逆に
中に大鍋が置かれている暖炉。
加えて中に溢れる多種族、多種族、多種族。
異世界にいる種族がほとんど集まっているのではないかという程の大盛況。おいオワコンどうした? 冒険者ってこんなに存在してたの? 嘘ぉ……嘘だよ。幻覚? これ幻覚? それとも別の異世界に迷い込んだの?
よろよろ受付カウンターに背を付け寄り掛かれば、横から伸びて来た手が水の注がれたグラスを置いてくれる。視界の端に見える受付嬢の服の袖に礼を言いながら口元のフェイスマスクをズラして口に運び。
「ブッフォッ⁉︎」
勢いよく噴き出した。口に含んだグラスの中の水だと思った物に目を落とし、ゆっくりとカウンターの上にグラスを戻し口元を拭う。
「水じゃなくて酒ですぞこれ! おいぃ冒険者ギルドッ!城塞都市の冒険者ギルドといい受付嬢の中で流行ってるんじゃあるまいな‼︎ 許されませんぞ許されませんぞッ‼︎」
振り返った先で癖の入った赤毛が揺れていた。見慣れた服に身を包んだ見慣れた少女。眠た気な目元が細められる。
次に聞く事になるだろう言葉は予想どころか予告できる。
「めんどくさー」
受付嬢の言葉を奪い先に口にしてしまえば、声には出さず受付嬢は唇だけを動かした。声を出すのも怠がるんじゃない。
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