11F 新たなる一歩 3 ※三人称視点
獅子神の都市マザーズを出て一週間が経過した。吹き荒ぶ砂煙を見つめ、ルルス=サパーンは目を細める。砕ける骨の音。砂を湿らせ舞い散る蒸気。砂漠を歩き始めて何匹目かも分からぬ魔物
きもいから触りたくないとブー垂れていた癖に、目的地を決めサパーンと一度手合わせした後、くるりと手のひらを返した
機械神の眷属と武神の眷属の二人組。異世界の中で組み合わせとしてもありえない組み合わせ。それが戦闘の中で意気揚々と呼吸を合わせている姿に絞り出されるため息が二つ。
サパーンが軽く目を横に流した先、胡座で座り頬杖つく
「……ソレガシが騎士称号を授かるとはナァ。組合でも一時噂になったガ、それがソレガシとハ。ソレガシは戦士にはならナイと思っていたのに当てがハズレタ。ワタシを蹴るとは困った後輩ダ」
元々は攻撃をただ這いずり転がり避け、相手を引き摺る為の動きの中で、
歳若い機械神の治める都市には騎士団は存在しない。大戦が久しくない異世界で、機械神の眷属の戦士は全て組合に所属している。派遣する技術者を守る護衛団が騎士団に近いくらいだ。その中で一王都からとしても騎士称号を授かった機械神の眷属。
「異常ダナ」
「……あぁ異常だ。奴ら頭がぶっ飛んでるぜ。機械神の眷属風に言うなら、頭の大事なネジが二、三本絶対元から足りねえ」
ジャギンに言葉を被せながら、サパーンは渇いた唇を長い舌で一度舐めた。冒険者達の出来を確認しながらの世間話……のように外からは見えるが、その実ジャギンもサパーンも独り言を言っているに近い。見ている視点が異なる為だ。それに気付いていながらも、お互いにツッコマない所為で辛うじて会話の程を成しているように見えてしまう。
「
蛇神の都市、筆頭騎士であればこそ、何より諜報能力に長けた元暗殺部隊に居たからこそ、ルルス=サパーンは十冠との差を他の元同盟都市の筆頭騎士より理解している。
ある程度の実力差は環境や相手、やる気によって変動する。とは言え、それでも埋まらぬ差があるのも事実。
何より次の相手は、怪盗騒動の際無意識にでも手を抜き先に勝負の舞台から降りたブルヅ=バドルカットではなく、遊ぶでもなく手を抜くなら自爆するを選ぶお祭り
「異常だぜ。他の参加者達には目もくれねえか。『
「……機械神の都市『パープル』の大公爵『
「いいや、おかしいね。おかしいんだよなぁ」
一度決心したからなのか、
何より魔力の扱い方の練度がバグっている。獅子神の都市マザーズから出た時には素人レベルであったにも関わらず、一週間でただ砂漠の中歩くだけなら既に一日保つ。必要最低限の魔力消費。新しく覚えたと言うよりも、思い出したに近い。まるで錆び付いていた動きの無駄を削ぎ落とすかのよう。
さしてサパーン達が助言しなくても、相棒である機械神の眷属は己で己を調律し武神の眷属の後を追う。
急にやって来ては消える異世界からの来訪者。鍛えれば鍛えた分立ち止まらずに強くなる。己が契約した神に愛されているとさえ言える才能と資質。
「偶にいるんだあんなのが。怪物。怪童。誰もが知る二つ名、忌み名持つよう奴らはだいたいそうだぜ。惜しいよなぁ」
五〇年周期に開催されるアリムレ大陸の祭事、世間に潜む諸事情の所為で参加を余儀なくされたが、そんな必要なく時間を掛ければ勝手に強くなるだろう原石。それが磨き終わらぬ所為で失われるかもしれない可能性。
二つ名を持たず、長年暗殺部隊に身を置き筆頭騎士まで上り詰めたルルス=サパーンであるからこそ、己にはない眩しさに目を細める。手にした地位も所詮は一大陸の一地方、中規模都市最強の地位。軍を相手にできる十冠クラスと違い、サパーンは己が限界を知っている。
「だから
「……昔々の話ダ。ソイツは死んだヨ。森ではなく都市に憧れてナ。文献にさえ残されてイナイ噂をよく知ってル。ソレにワタシがソレガシを気に入っているのは才能がアルからじゃナイ」
眉を
「ワタシは先輩デ、ソレガシは
「はい終わりー! あーもぅシャワー浴びたーい! せめて水浴びしたいんだけど‼︎ どうにかしろしソレガシ‼︎」
「どうにもならない定期。蒸気に塗れますかな? スチームサウナ的な?」
「サウナは最早日常だし! アンタの横であーしに裸になれっての⁉︎」
「ハッ⁉︎ こんな時にクララ様に頼まれたカメラ機能があればッ‼︎ クソッ‼︎ カメラ機能は必要でしたな‼︎ 次の改造で実現せねば‼︎」
「はい死刑‼︎ マジないんだけど‼︎ 脱ぐわけねーから‼︎ バカじゃないのきもいソレガシ! ソレガシッ! ソレガシッ‼︎」
「
「運動不足なら戦闘訓練といこうかね。一対一ならまだ俺の方が強えしな。あの嬢ちゃんの底引き出してやる。
「ワタシは……」
腰の道具袋に刺さっているレンチを一度撫ぜるもののジャギンはそれを掴む事なく、手を伸ばすのは岩に立て掛けられている弓と矢筒。それを冒険者達に構えるジャギンを一瞥し、サパーン卿は視線を外した。
「めんどくさー」とどこぞの怠惰魔人お得意の文句を口にしつつ、原石を磨く為にニョロニョロ足を伸ばす。磨けば磨くだけ光る原石の中身を覗く為に。
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