10F 新たなる一歩 2
獅子神の都市マザーズを経ってから早五日。マザーズから最寄りの都市を目指し歩いていたらはずが、そこでどう姫君に雇われたのか、待っていた筈のジャギン殿が待ち切れずにやって来て逸早く合流できてしまった為、全く次の都市に辿り着かない。
理由は単純。目的地が変わったからだ。最寄りの都市には立ち寄らず、目指すは目と鼻の先ではなくもっと先。
「都市に寄る理由など飲み水と食料の確保ぐらいダロウ? なら安心ダゾ!
「マ? ジャッキー頭沸いてね?」
と、ジャギン殿の大変サバイバル的な行動方針、もとい修行方針のおかげで、ブー垂れるギャル氏と共にずっと砂の上しか歩いていない。なにこれ? だいたい
おかげで初日、二日目より一日の移動距離が縮んでいる。理由は単純。速攻で
「いやぁ⁉︎ 何アレ鬼きもいんだけど⁉︎ ランチがアレはありえんてぃ⁉︎ ソレガシさっさと撃っちゃって‼︎ 蛇なの⁉︎ 蟲なの⁉︎ どっちでもイヤァ⁉︎」
「
「いいから撃てし‼︎」
「あっ」
肩を強くギャル氏に叩かれ、鋼鉄の手のひらから蒸気を纏い飛び出した鉄飛礫が、蛇の頭に無数の足と尾に針を持つ
新たな魔力量の指標、蒸気砲は一日に四発が限界。稲妻纏わせ魔力消費量を増やせば二発。
お昼ご飯の確保と同時に今日の移動はもう終了。砂漠都市ナプダヴィにはいつ辿り着けるかも分からない。しかも連日続く訳分からん魔物焼き。きもいだのなんだの言いながら結局食べるんだからいい加減自分で狩れ定期。
「いい加減
「……いいじゃないですかな別に。共喰い楽しそうで」
「共喰い言うなボケ。そもそも蛇神の眷属の俺は蛇系の魔物の相手は深度落ちる可能性あるしやりたくねえ」
「
ジャギン殿の言う通り、ブル氏と喧嘩した時のように、
「せめて岩陰から出ろお主ら」
寝転がる砂の大地から顔を上げ、睨む先、大岩の影で寛いでいる先生と先輩二人。千切れ飛んだ
「俺達が手を貸したんじゃ特訓になんねえだろうが。いい加減魔物相手に出会い頭ブッパはやめて戦えよ」
「ソウだぞソレガシ。ソレガシの
「ならそれを先に」
「駄目だそりゃ。先にもっと魔力の扱い方をお前達は上手くなれ。置いてかれてんぞソレガシ。あの嬢ちゃんはもう深度八に上がったぞ」
岩陰に歩いて行くギャル氏をサパーン卿が顎で差す。ギャル氏は五日で深度が一つ上がった。人族は眷属としての成長速度が速いのは知っているし、その理由ももう分かっている。
神の持つ力は分割できる量に限りがある。故に、短命種と早く深度を深めようが、だいたい人族なら百年も経たずに死ぬ為、割いた分の力を回収できるのも早いから深度が深まるのが早い。後はおそらく神の気分。神が気に入った相手はより早く深く深度が深まる。
這いずりながら岩陰に入り大きく一息。
「深度の件は
修行も大事ではあるが、今はアリムレ大陸の盗賊祭り真っ最中。ブル氏がある程度遊べば今回の祭事勝利の為の物を持っている
そんな中で
「砂漠都市ナプダヴィはアリムレ大陸の中央、東寄りにある。このペースだとここから歩いてだいたい三ヶ月ってとこかね?」
「三ヶ月ぅ⁉︎ 無理無理ありえないからマジで⁉︎ 三ヶ月も経ったら元の世界じゃえーっと……ソレガシ何日‼︎」
「……だいたい二週間ですかな?」
「はいダメぇ! ぜぇったいそれはナシ!出席日数ドチャクソピンチになんから! せめて一週間! それでよろ!」
「となるとこっちでは一ヶ月半?」
「そりゃ厳しいだろ今のペースじゃよ」
「ならペース上げんし!」
「待たれよギャル氏」
先へ進もうとぐいぐい服を引っ張って来るギャル氏の手を叩く。言うのは簡単だが実際厳しい。だいたい祭事の勝利まで三ヶ月ではない。辿り着くまで三ヶ月だ。
故に地図を見ながら親指の爪を噛み頭を回す。必要なのは戦力の強化がまず一つ、全然揃う日取りが分からずとも、砂漠都市にはなるたけ早く着いた方がいい。
地図の上に指を這わせ、一つの都市を指差す。アリムレ大陸の中で砂漠都市と対を成す大都市。
「魔法都市ブダルーニュ? ダルちぃの実家があるらしいとこじゃん。それがどしたん?」
「
「あーしもベッドとかは恋しいけど、んで魔法都市?」
ギャル氏の疑問の声を受け、地図上の都市から指を動かし、魔法都市ブダルーニュから伸び、砂漠都市ナプダヴィに繋がっている黒い線をなぞる。横に砂漠急行と書かれている黒線を。
「蒸気機関車を使う気か? 確かにそれなら歩くよか早く着くが、そりゃ悪手だ。ナプダヴィ行きの蒸気機関車なんて他の参加者達も使うだろうし、狙われる的。ましてや魔法都市は砂漠都市をよくは思ってねえ。アリムレ大陸全域巻き込んでる盗賊祭りもよく思ってねえ連中の巣窟だぜ? 魔法を上手く扱えない奴を下に見る都市でもある。安全に修行しながら砂漠都市目指した方が」
「もうこの祭事はただ勝利を目指す祭事ではありませんぞ。それ以外の目標が既にある。この五日で既に
二つ目は遠距離に対する手の薄さ。普通なら機械神の眷属の戦士は遠隔操作での射撃特化の
威力は高かろうが
その二つある弱点を補う為には、何より
「だからこそ、魔法都市にこそおそらく
「ナンだソレはソレガシ?」
「蒸気機関の射撃装置ではなく、魔力を消費して使える魔法射撃装置。魔法都市で
元々鋼鉄の腕以外に別で射撃装置は必要だと思っていた。魔法都市程の大都市なら間違いなく廃れていようが冒険者ギルドはあるはずだ。冒険者ギルドがあればギルドを通じて城塞都市にいるラザース爺に必要な部品も送って貰える。後は魔法を撃ち出す砲身さえ作れれば、魔力を扱う訓練をしている以上、撃ち出す魔法の強弱は蒸気砲を扱うより簡単なはずだ。
「魔法都市に辿り着ければ、情報収集、加えて魔物は気にせず戦闘訓練もできる。
時間を掛ければ掛けるだけ、
「例え悪手だとしても、その悪手、握り潰せぬような実力なら
それだけは間違いない。聞けば
「間違いじゃねえ、間違いじゃねえが地獄行きの道が好きだなお前は。そりゃいいがお前達の実力がそれまでに追い付くと思うか?」
「やるしかないならやるだけじゃね? あーしもソレガシも実戦タイプだから。いい加減テクって魔物狩ってんだけじゃひまたんだし、そろそろ相手してよサッパリン。いい加減ストレスパないわ」
ちょっと待とう。笑みを深めるギャル氏を茫然と見つめ手のひらを差し伸ばし制しようと試みるが、全くこっちを見てくれませんねはい。何より
そんな
「ソレガシも手を挙げて賛成か。ま……なら仕方ねえ。嬢ちゃんの相手は俺がやる。ソレガシは
「ム。ソレガシは相変わらず無茶が好きダナ。ウム、だが先輩として胸を貸ソウ。コレでもワタシも百年以上機械神の眷属の組合に籍を置き世界中を回ってキタ。ソコらの冒険者よりも腕は立つゾ?
「サパーン卿お主謀りおったなぁ⁉︎」
クソ腐れ蛇卿ォォォォッ⁉︎ 何も察してねえじゃねえか‼︎ ジャギン殿がなんか凄いやる気になっちゃってるよ⁉︎
六つの拳が
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