17F CHANGE! 2
学校最寄りの駅で電車を降り、
「おい
綿毛頭が顎をしゃくる先、少しばかり顔を強張らせたクララ様。対抗戦での勝ちを得る事がクララ様の欲する『勝利』を得るのとは別という話をしたが、それでも勝負は勝負。入れ込む気持ちも分からなくはない。必要なのは対抗戦で負けようが、ダンス部員の頑固頭をカチ割る事。それが例え数人であろうとも。
とは言え
「問題ないですぞ兄弟。何も」
軽くギャル氏と目配せし、前を見ろと顎先で指す。見えてくる学校の玄関口。白い髪が揺れている。毒々しく改造されたセーラー服を揺らす落書きスト。
「ハロハロ〜‼︎ セイレーン! シーズー! 応援に来ちゃったぜ〜!」
「ハロハロ〜ずみー!絵はできちゃった感じ? 応援感謝!」
「
「ずみー……わざわざ来てくれたの? そんな気遣わなくても……」
「学校に昨日泊まったから待ってただけ〜、シーズーGET! 抱きしめてくれーい!」
「ぎゃああ⁉︎ 私じゃなくて風呂屋に行きなさいよ⁉︎ この黒ずみちゃんめ!」
クララ様に抱き付くずみー氏を横目に見ながら、頬を緩める。強張ったクララ様の顔が崩れたのを見るに、少しでも緊張が解れたのなら有難い。鼻先を過ぎる僅かな油絵具の匂い。今日の朝までに絵が完成するか怪しいとギャル氏のスマホに連絡があったそうだが、眠たそうなずみー氏の目元を見る限り寝ずに間に合わせてくれたらしい。
「同志も
「ボロクソは余計ですぞ」
「お、お、おぅ、お、ぉうっ」
壊れたテレビを直すが如くグレー氏の背を強く叩く。
「んじゃ、行くとしようじゃんね」
気取らずにそう言うギャル氏を追って校舎の中へと踏み込む。向かうのは校舎の二階、廊下の端のダンス部の部室。人の気配薄い廊下は冷ややかで、平日とも放課後とも這い回っている空気感が異なる。
防音性の高いダンス部室の鉄扉。決定事項である敗北の冷たさを漂わせる扉の取手をクララ様は握り締め、そのまま取っ手を引く事なく立ち止まった。握り締められる取手の音と、クララ様の深い呼吸音。クララ様は何も言わず、
直前になって入る事を躊躇っている訳ではないだろう。クララ様もやると言ったらやる者だ。勝負の舞台上から逃げる事だけはない。だから
「あのね……多分中に入ってからじゃ言えないから……」
「なら言わなくてもいいよしずぽよ。あーしら全員分かってんから」
ギャル氏の言葉にクララ様は振り向いた。少しばかり潤んだ瞳が向けられる。
本気の姿からもう言葉以上のものを貰っている。クララ様が本気だから
「先に言っておきますが、
「不可能を可能にってか
「いーねそれ。あーしもそれがよきかな。だからしずぽよ、言うこと違くね?」
まだ終わってもいないのに感謝の言葉は必要ではない。
「勝つよ。それ以外は死刑」
後半部分いらなくね?
笑い頷くギャル氏とグレー氏に挟まれて
一面鏡張りの壁。その手前に並ぶファンシーな運動着を纏った女子生徒達と、その身を薄く写す磨き抜かれたダンスフロア。見慣れぬ光景に小さく目を見開くが、丁寧に掃除されている部室を見るに、ダンス好きの看板に偽りはない。
が、整然とした空間に似つかわしくない音が響く。数多の舌打ちと細められた視線達。その多くが向くのはクララ様と……
準備運動をしていたらしい女子達の中から一人が立ち上がり、クララ様がその前に歩いて行くと小さく頭を下げた。染めた金髪を首の後ろで縛った背の高めの女性。彼女が部長殿で間違いない。
「部長、今日はありがとうございます。私の我儘ですいません」
「まー気楽にね。それで後ろの子達が……サレンちゃんに、あられくんに、ソレガシくんね」
ちょっと待てや。え?
「
「俺は一八一っす」
「あー……
「本当に『
言い方よ。気楽にできねえよそんなんじゃ。ノリが軽いな部長殿。
周囲から突き刺さってる尖った目の方を見てくれよ。
「それで部長、今日の勝負なんですけど、友人が一人観戦したいと」
「全然おっけー! ダンス部なんだし楽しくいこう! 準備運動終わったら早速始めちゃう? それとも少し踊ってからがいいかな?」
「それは」
「準備運動終わったらすぐで構いませんとも部長殿」
クララ様から言葉を引き継ぎ少し前に出る。此方の手の内を晒してなるものか。小さく目を見開く横のクララ様に目配せすれば、一歩後ろに下がってくれた。交渉を譲ってくれるくらいには信頼を得られているらしい。
珍しいものを見たとでも言いたげに唇を尖らせて部長殿は
「いやもう緊張で、できれば早く終わらせたくてですな。ぴゃっとやってぴゃっと終わらせましょうぞ。相手の方もそれでいいならそれで。
嘘ではない。ただ、個人戦では高確率でという話。
「ダッサ」と遠くから呟くような声が聞こえて来る。ダサくて結構。見下されている者にしかできない事もある。舐められている内が華。だからペロペロキャンディーのように舐めてくれ。
「みんながそれでいいならいいけど、相手が誰か分かってる?」
「先輩方ではないでしょう? 二年生が主でしょうからお伺いを立てているのですが、それと……できれば踊る順番だけでも選ばせていただけると嬉しいと言いますか……順番待つのも恐ろしく……」
「おいおいソレガシだっせえなぁ。すんません部長、俺一番でもいいっすか?
グレー氏が
「いいですよそれでも部長!
「サンキュー
グレー氏が拳を突きつけて来る。馬鹿野郎っ、
元から評判低い
掲げられるグレー氏の拳に拳を合わせれば、目の前に浮かべられているグレー氏のニヤケ顔。笑ってんじゃない。
ダンス部員達に愛想を振り撒けとグレー氏を一度肘で小突き、口元を手で覆いなるべく肩を落としてダンス部員達の方に顔を向けないようにしながら壁際まで歩く。
「ソレガシ……」
「……キタコレ。計画通り」
笑みをクララ様に返しながらダンス部員達と話しながら準備運動をしているグレー氏を肩越しに軽く見た。一番最初が最難関。これが全ての始まりだ。
「どゆこと? あーしはさっぱりなんだけど?」
「一番最初。
最初から反感を買っている
見たところ何人かグレー氏にお熱な者がいるようだし。グレー氏が一番手になってくれた以上、チームで踊るのは最後。グレー氏に相手が浮かれている間に二番手でギャル氏を差し込めるだろう。
「一つの
「あの日からずっとそれ考えてたの?……きみって……なんかきもい」
嘘だろマジか。言うに事欠いてきもいはないだろ。ギャル氏達って困ったらきもいって言う癖ない? 肩を落としため息を吐くとツンツン肩を叩かれる。誰かは知らんが慰めの言葉など薬にもならん。
「勝つ気だね」という言葉に「当たり前でしょうが」と吐き出し振り返れば、ギャル氏は目を
「面白いねー君達。クララちゃん、変な子達を集めたね。気楽は嫌? じゃあお手並み拝見だ」
染められた金髪が視界の端で揺れている。
おっとこれは……アレですね。やらかしましたね
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