29F 冒険者の日常 3

仕事が急に切り上げられ昼の街。普段朝から夕方、時に夜まで『塔』の整備をやっているので、昼の街は中々に新鮮である。


 魔物討伐の依頼をこなした日は、ギルドに帰って早々にベッドにINであったし……。


 レストラン、本屋、床屋、花屋、武器屋、屋台とエトは都としては小さな方という話であるが、中々に賑わっている。面白いのは武器屋に防具屋や、眷属御用達の専門店がある事だろう。店員が人間ではない点も店の違い、売りとなっていて見ていて飽きない。


 床屋では人狼族ワーウルフが研いだ爪で同じ人狼族ワーウルフの毛先を裂いており、花屋では透明な虫のような翅を震わせて、妖精族ピクシーが小さな体で花の表面を目の細かい布で拭いている。


 そんな昼の街をジャギン殿と二人で歩くというのも悪くはない。



 プシ────ッ!



 ……機械人形ルンバも一緒だったわ。これ帰し方分からないわ。前回はスライム討伐が目的で、仕事を終えたから帰ったような感じだったが、なんでもない時に呼んだ時はどうすればいいの?


 それがしの横を蒸気を噴きながら並走している円盤機械ルンバに目を落とし肩を落とす。


「あのぉ、ジャギン殿?」


 帰って貰う時はどうすればいいのか聞こうと思いジャギン殿の方へ振り向けば、そこには六つ手の乙女の姿はあらず、探せば服屋の前にいた。……青髪の乙女を前にして。


 やっぱりギャル氏は凄いな。髪色のおかげで異世界でも超目立つぞ。


 それがしも足を向ければ気付いたギャル氏が手を挙げてくれるので、手を挙げ返す。スルーすると怒られるからな。


「ソレガシもジャッキーも珍しく早いじゃんね。よき事でもあったん?」

「いやぁ、その逆っぽいのでむしろ明日が怖いんですけどな。……それよりジャッキー?」

「ジャッキーっしょ」


 ギャル氏とジャギン殿が手を掲げ、言葉に続くハイタッチの音。


 ジャッキーってジャギン殿ね!仲良いな!何処ぞのアクション映画俳優かと思ったわ!ギャル氏空手やってるし出れる出れる!だってそっち界隈の人だもん。


「サレン、今日は新作が入ると言っていたダロウ?もう入ったのカ?」

「気になっちゃう感じ?ふふん、じ、つ、は、蜘蛛人族アラクネの伝統衣装取り寄せてみちゃった的な!どうよジャッキー!」

「イヤ、それはイラナイ」

「マ?」


 意気揚々と取り出した蜘蛛の巣のような紋様の入ったローブと浴衣を合わせたような服をギャル氏は広げるが、速攻でジャギン殿に首を横に振られている。駄目じゃないか。てかもう常連なんだなジャギン殿……。


 唇を尖らせて残念そうな顔をしたギャル氏が、今度はオーバーオールのような服を広げれば、今度はジャギン殿も頷く。故郷の服に似ているのは良くても、完全に故郷の服は駄目らしい。


「お買い上げありゃーっす! んで?ジャッキーとソレガシはどしたん?早く仕事終わって二人でデート?」

「お主の目は節穴ですかな?折角時間ができたので、先輩に機械人形ゴーレムの改造をレクチャーして貰おうと思いまして」

「先輩だからナ!」


 買った服を受け取り胸を張るジャギン殿のつつましい双丘そうきゅうを見つめていると、「ごーれむ?」とギャル氏のつぶやきに意識を引き戻され、足元の円盤機械ルンバを指差せば、納得したように頷かれる。


「あー、それごーれむてゆうんだ。ふーん」

「待たれよ」

「なんだし?」


 なんだしじゃねえし。


「お主今また勝手に名前を付けようと思いましたな?」

「は? なわけないじゃん」

「うっそだぁ」

「嘘じゃねえし、でもそれ普通に出せるようになったんだ」


 でも帰し方が分からないんですよ。だからジャギン殿に聞こうと思っていたのに、タイミングを脱した。


 今度こそ聞こうと思いジャギン殿へ顔を向ければ、「あっ‼︎」と叫んだギャル氏に肩を掴まれ引き戻される。痛ってえ肩ッ‼︎


「改造!改造!ちょっとソレガシ!マジで俄然がぜん改造じゃんね!」

「なに急に⁉︎ 服の改造ならちょっと前にやったでしょうが!今服の改造の話はいらねえだろ常考!」

「んじゃなくて!ゴーちんの改造だっつの!これ機械なんしょ?ならアレ付けられんじゃないのアレアレ!」


 アレアレなんだ⁉︎ てかほらもうゴーちんとかなんだよもう!轟沈?縁起悪いなあ‼︎ 勝手に名前を改造するでない‼︎


「アレったらスマホの充電器以外ないっしょ!改造してよソレガシ!はい、充電器付けて‼︎」

「最初の改造がスマホの充電器って⁉︎ もっと他にありますぞ絶対!だいたいカッコよくないですな!」

「なにゆってんの⁉︎ いつまでもスマホエンドらせてられないでしょうが!即改造、即充電、怪獣万歳だし!」

「怪獣? ……あぁかい造、じゅう電器で怪獣と。だいたいスマホが復活したところで連絡する相手いないですしおすし。電波も全滅で誰が得をするのか」

「はいソレガシ死刑!」


 なんでや。この裁判長理不尽に過ぎる。スマホの充電器付けるの反対しただけで死刑とか。そもそもそれ改造するのそれがしなんですけど? 


 肩がミシミシ痛い音を奏でる中、全くギャル氏は手の力を緩めずにらんで来る。


 こ、この野郎、腕力に任せて言う事聞かせる気だな!馬鹿め!これでも隅っこ孤独歴十うん年!それがしは力には屈さんぞ‼︎


 痛たたたたッ⁉︎ ぶ、武神⁉︎ 武神の眷属の握力半端ない⁉︎ 分かった振ろう!白旗を振ろう‼︎ 降参! はいこうさーん‼︎ 作るよ充電器!いんだろそれで‼︎


「よし!いやーやっぱソレガシなんだかんだで使えるわー」

「ぐッ、覚えておれよッ、このうらみ晴らさでおくべきかッ、スマホが復活したらギャル氏の痴態撮りまくってバラまいてくれるッ!」

「バラまく相手とかいないしー、マジうける…………マジうける」

「自分で言っておいて自分でダメージ受けるとかそれなんて自虐趣味?」


 しょんぼりしているギャル氏は髪色も相まって、余計にブルーに見える。普段やかましい癖に、しおらしくされるとそれはそれで鬱陶しい。冒険者に引き込んだ負い目もあるし、まあ最初の改造でスマホの充電器を作るぐらいやぶさかではない。


 ただ蒸気と魔力で必要なエネルギーをまかなっているこの世界で電力の活躍の場とかあるのだろうか。


「おいおい、中々決まってんじゃねえか姉ちゃん」


 新たな疑問に脳内が彩られる中、聞き覚えのない声が流れてくる。顔を向ければいかにもやからっぽい厳つい人狼族ワーウルフ


 ちょっとこれは……知らない人ですね。誰? 


 

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