27F 冒険者の日常

「それデ?ソレガシの言う冒険者らしい仕事にはもうりたのカ?」


 スライムの討伐依頼を終えて数日、普段と変わらぬ『塔』の朝の整備作業を終えて今は昼休憩の時間。


 活躍らしい活躍もできず、メンブレし掛けた話をしたくはなかったので特に討伐の時の事は話さなかったのだが、スライム討伐に行くと言っていただけに、ジャギン殿にせっつかれる。


 魔物討伐するよりも『塔』の整備こそ大事を掲げる機械神の眷属であるだけに、『塔』の整備よりも魔物討伐を選んだ話を余程聞きたいらしい。


 土産になるような話もないのに……。


 口をモゴモゴと動かし黙っていれば、結果があまり良くなかった事を察したのか、それがしの横に座るジャギン殿は肩に細長い腕の一つを回してくる。


「そう落ち込むなソレガシ。ソレガシが無事でワタシは安心したゾ。魔物討伐なんてもっと野蛮そうな者達に任せておけばイイ。見よコノ眺望ヲ。『塔』の整備も悪くはないだロウ?」

「別に嫌いとは言ってないですぞ」


 そう言えばジャギン殿に軽く叩かれ、足元に広がる小さな家屋の屋根達を目に慌てて上半身を引き戻す。


 今日は『塔』の外周の整備。と言っても汚れを取る清掃作業であるが、お陰で休憩も『塔』の壁から迫り出している見晴らし台のような所でだ。


 景色は良い。都市を取り囲んでいる城壁よりも高く、石造りのビルも全て足の下。遥か遠くに広がる森や山までよく見える。『塔』の展望台に行く以外、整備員にしか見れない景色。


 空神の眷属達が空を舞い、街の営みが小さく見える中で、肌を撫でる風を感じながらジャギン殿の心配には申し訳ないが否と応える。


「ム。『塔』の整備よりも魔物退治がお好みカ?髪型を変えて心変わりカ?」


 ジャギン殿は髪を後ろに流し、ギャル氏が強引にピン留めしてきた事でよく見えるようになったそれがしの顔を覗き込んで来る。


 視界を覆うみどり色の複眼が恐ろしくも綺麗だ。その綺麗さが曇らぬように、誤魔化したりせずに本心をつむぐ。


「好みは関係なく、魔物討伐の依頼を一度引き受けて確信したのですぞ。ギャル氏はまだしも、それがしはもう少しでも強くならねば」

「ソレはなぜダ?」

「元の世界に帰る為には必要だからですな」


 普通に生活するだけなら、日々『塔』の整備をしていればいい。給料もそう低くはなく、神との契約の為にした借金も、仕事を続けていれば普通に返せるだろう。


 普通に生活するだけならば。


 残念ながらギャル氏と立てている目標は元の世界への帰還。帰る為には、一先ず可能性のある『次元神』を探さねばならない。目撃情報のあった中央大陸に行く為には旅をする以外にない。


 が、多少なりとも鍛えなければタヒる事請け合いだ。


「旅をしなければならない以上、道中魔物と遭遇する事もありましょう。スライム相手に危うく死に掛けましたからな。弱いと満足に旅もできませんぞ」

「スライム相手にカ? それはマア……人族はやはりひ弱ダナ。最悪喰ってやればイイのダ」

「……それってなに対応?」


 アレ食べるの? アメーバみたいに動く生きた水溜りを? 蟲人族には可能なのかもしれないが、人族には多分厳しい。てか絵面がヤバイ。モザイク処理待ったなし。


 牙をカチ鳴らすジャギン殿に若干引いていると、「でなければ眷属魔法を使えるようになれば楽勝ダ」と眷属の先輩に口にされ、数度目をまたたく。


「一応あのぉ……ルンバみたいなのなら出せましたが?」

「るんば?」

「クフ殿から頂いたレンチが地に描かれた紋章に呑まれて出て来た奴ですな」

「ナンダ早いナ、ソレガシ魔法使えるんじゃないカ。機械神の眷属魔法。丸く平たい円盤状のアレダロウ?」

「……ファ?」


 ちょっと待って!もしかしなくてもそうなんじゃないかと思っていたけどアレ魔法?本当に?ルンバ呼ぶのが?


「あ、あのですな……アレが?」

「そうダ。機械人形ゴーレムの召喚魔法。機械神の眷属が唯一使える魔法だゾ。話によると召喚されるのは機械神が生み出した子供らシイ」

「ほえー、って待たれよ。今唯一と言いましたかな?」


 嘘だぁ、と言いたかったのに、間違いないとジャギン殿に強く頷かれる。アレが機械神の眷属が唯一使える魔法?


 ……いや、凄いけど唯一? 唯一というのは他にはないって事? おいおい相変わらず不意打ちで容易く夢を壊してくれるじゃないか。ハハっ、ふざけろっ‼︎


「いや‼︎ 唯一なのだとしても!この先召喚できる種類が増えたりとか‼︎」

「イヤ、最初に出てきた奴だけダゾ」

「しょっぺえなッ‼︎」


 思わず叫んでしまったが、マジであれだけ? 想像以上と以下のバランス感覚ぅ‼︎


  いや、アレでも弱くはない。大型のスライムを瞬殺できる鋼鉄の弾丸を吐ける。ただ、それだけと言われると夢が広がらない。そりゃそれがしのイメージだと期待外れって言われるわ!


「そう落ち込むなソレガシ、アレが気に入らないなら改造すればイイ」

「改……造? え、そんな事できるんですかな?」

「無論ダ。レンチを出せソレガシ。蒸気機械をいじる為のソレが機械人形ゴーレム召喚の為の触媒ダ。触媒はドライバーでもスパナでもイイ。触媒を強く握り呼ぶのダ」

「えぇっと……」


 どう召喚したのか必死だったのでよく覚えていないのだが、呼べと言われても、名前さえ分からない。だいたいあの時呼んでないし。


 機械人形ゴーレムと呼べばいいのか? それとも召喚と言えばいいのだろうか?


 作業服の腰袋から黒いレンチを引き抜き首を傾げていると、「起動アライブ」と横でジャギン殿が口遊くちずさむ。


「……起動アライブ


 それがしがそう口にすれば、頬の機械神の紋章が熱を持ち、首、肩、腕と熱が動き体の内側を走った光の粒子がレンチに触れた途端、宙に機械神の紋章が描かれ黄金螺旋の集束する中央の穴へとレンチが消えた。


 紋章が消えると同時に、蒸気を噴き出し現れる家庭用自動掃除機械ルンバのような機械人形ゴーレムが膝の上に落ちて来る。


 重てえなッ⁉︎ 太腿ふとももが潰れる⁉︎


 そんな事を考えていると、それがしの考えでも分かるのか、小さく蒸気を噴き出しいそいそとそれがし太腿ふとももの上から機械人形ゴーレムは退いた。


 ……この感触、足は帯状キャタピラではなく球体ボールだ。大きな球体ボールが一つ。


「慣れれば『起動アライブ』と口にしなくても呼べるゾ。口にした方が確実だがナ。又は心で強く願えば呼べル。コレはワタシ達の分身も同じだからナ」

「コレが?」


 それがしの分身……。よく見れば可愛げが……ないな。直径三五センチ程の円盤機械ルンバ。ツルッとしている鋼鉄の装甲の内側には蒸気機関が詰まっているのだろう。


「構造を理解し、己が手で改造し知識と技術をはぐくム。これこそ機械神の眷属が捧げる信仰ダ。欲しい機能、能力がアルのナラ、己で作ってしまえばイイのダ!どうだ夢しかないぞソレガシ!」

「そうかもしれませんがそれは違う夢ですぞ⁉︎ まず構造の理解からとか無茶ですな⁉︎」

「なんダト⁉︎ 飛行ユニットを製作し取り付ければ飛べるシ、どれだけ巨大化しても召喚の労力は変わらないのだゾ! 始まりは誰も同じだガ、完成する頃には己が人生の結晶ダ‼︎」


 く、くそぉ、少しカッコいいじゃないか。己が人生の結晶だと?


 コレでもう完成とは機械神の眷属は誰も思わないのだろうな。それがしもコレで完成とは言いたくない。だってダサいし。


「自然の流れに任せる的な話はどうなんですかなこれ?」

「ソレはソレ、コレはコレダ! 浪漫ロマンの前には小さきコトダ‼︎」

「ジャギン殿て思ったより情熱的ですな⁉︎ だいたい改造と言われてもどうすればいいやら」

「部品を買って己で作り組み立てロ。高いが規格化されたユニットもアルゾ。己で一から作らないのは邪道だと思うがナ。機械神の眷属なら必要な部品、材料は割引きで買えるダロウ?」


 マジかよここで割引き要素出て来やがった⁉︎ 機械神の眷属の基本特典意味あったわ‼︎


 

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