23F 冒険者らしく 2

「スライムだそうですぞ。最初この世界に来た時に遭遇した」

「うげぇ、あの変態とやるわけ? だってあれ蹴っても倒せないじゃん。ヤバみパないんだけど」

「あぁ、もう会ってるの。サレンのその服の肩の布がなかったのってそういう理由ね。超絶運がよかったね」

「そんな危険な魔物なんですかな?」


 スライムというモンスターは、だいたいの場合多くは雑魚であると、元の世界の知識的に相場が決まっていたりするが、そうでない場合も例外的にあったりする。


 そうだとするなら依頼を受けても死ねば復活できないし見送り濃厚なのだが、ダルちゃんはカウンターの上に乗せた頭を左右に小さく振った。


「そんな事もないけどね。一般人がやるなら叩いて四散しても死なないしめんどーだけども、神の契約者の攻撃なら通るから。眷属からしたらそう強くもないよ」

「神との契約にはそんな効果まで? じゃあそもそも契約する前は立ち向かっても意味ないってな感じなんですな」

「意味ないとまでは言わないけど、難易度は跳ね上がるね。それにスライムって数多いし、この時期繁殖期だからさぁ。男だったら殺されて養分だし、女だったら体内に侵入されて繁殖の道具にされるしで最悪なのさ。倒したところで使える素材になるような魔物でもないし」

「……今さらりととんでもない事言いませんでした?」


 男は養分で女は繁殖の道具ってなに? だからそれがしとギャル氏で全くダメージ違かったの? それがしは殺す気満々でギャル氏は苗床にする気満々だったって事? それなんてエロゲ? スライム生まれる世界間違えてない?


  ダルちゃんからもたらされたスライムの真実に目をまたたいていると、肩に手を置かれる感触が。ミシミシうめく骨の声に冷や汗が背を伝い、振り向くなと本能が叫ぶ。


「……アンタさぁ、あの時いいぞもっとやれ!とか言ってなかった? あーし普通に置いてってなかった?」

「……空耳では?」

「アンタあーしがあんなドロドロしたのにたかられてたかもしんないのにそーいうこと言う?」

「知らなかったんだからしょうがないですぞ……それにギャル氏の痴態ならちょっと見たいかも」


 ギャル氏ったら容姿はいいからな容姿は! 目の保養には最適ですぞ!


「って痛い痛い痛い痛い⁉︎ 肩がッ⁉︎ 肩から鳴っちゃいけない音が鳴ってるッ⁉︎ 武人の眷属の力でむしられるッ⁉︎ かったったったったッ⁉︎」


 痛いを通り越して熱いっていうかなんだろうこの感じ! 絶妙に砕ける一歩手前でもてあそばれてるようなこの感じ! しかも無言だからむっちゃ怖い!


「こんなのが居るからスライムなんて撲滅ぼくめつが安定だし! ダルちぃその依頼書受領印押しちゃって! 女の敵は撲滅ぼくめつ! さっさと殲滅せんめつ! ソレガシぶち込んで対消滅だし!」

「あれ? それそれがしも一緒に消えてね?」

「まぁ死なない程度に頑張ってね、成功報酬十万クルスだから」

「「高ッ⁉︎」」


 それがしとギャルの声が重なり合う。十万クルス、一人あたり五スエアとか、普通に仕事してるのが馬鹿らしくなってくるな。


 それだけ魔物討伐は危険なのか、そもそも討伐の仕事が少ないからかもしれない。なんにせよ安いよりはやる気は上がる。


  笑みを浮かべたギャルに改造学ランを投げ渡され、作業服を脱ぎ捨て袖を通す。改造セーラー服と改造学ラン。なんとも言えない冒険者スタイルだが、初めて形にはなった。


 やると決めたら決めたでテンションが自然と上がってしまう。だってここは冒険者ギルド。それがし達は冒険者なのだから。


「では行きましょうかギャル氏」

「足引っ張らないでよソレガシ」

「……おたくらさ、今は夜なんだけど? 仕事なら明日」


ギルドの玄関扉を開いた先の夜空には、綺麗な星々が瞬いていた。……ので、扉を閉めてギルドに戻る。






「そう言えばダルちゃん、なぜ十万クルスなのですかな? 普通に十スエアと言えばいいのでは?」

「そっちの方が報酬多く感じるじゃん」


 ……ああそうですか。







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