18F おいでませ冒険者ギルド 5

 いくつか宿の候補を思い浮かべているのか、ダルちゃんの瞳が揺れ動き、少しして諦めたようにまたため息を吐く。


「一応ギルドに宿泊もできるけど? 動くの怠いならそうしたら?」

それがし達まで気怠い地獄に落とす気ですかな? ご飯やお風呂は付くんですよな?」

「あっ……ベー超絶忘れてた。作んのあたしじゃん。やっぱなしで」


 なしじゃないわ。ってかダルちゃん受付嬢なのに料理まで担当とかどれだけ普段ここに人がいないんだよ。


 結構大きな街っぽいのに冒険者ギルド大丈夫なの? ってか職員の姿が来てからダルちゃん以外にいないんだけど。人材不足半端ないな。


「ちなみに他の職員の方は?」

「あたしだけだけど? 人件費削減とかで大分前に結構解雇されてさ。ここの所長ギルドマスターも別の街と兼任だしさ。実は結構ヤバめみたいな?」

「それでよく宿泊を却下したもんですぞ」


 絶対そのヤバめに拍車を掛けてるのダルちゃんだよ。ギルド結構ヤバめなのに登録しちゃったよ。もうどうしようもねえよ。


「いーじゃんもうここで。あーしお腹減ったし疲れたし限界なんですけど。一歩も動きたくない」

「一歩も動けないなんて可哀想に。ここでギャル氏の冒険はお終いなんて」

「お終いはやだからお願いダルちゃん! あーし達も料理なら手伝うし!」

「部屋の掃除も?」

「手伝うし!」

「受付の仕事も?」

「それはやれし!」


 なんでもかんでもぶん投げようとするんじゃない。料理を客に手伝わせる宿とかあるんだ。それでも尚「えー」とうめき、ダルちゃんはカウンターの上に上半身を倒し項垂れた。


「でも今宿泊部屋あたしの自室として使ってるんだけど」

「泊める気皆無‼︎ よくそれで最初勧めましたな!」

「断ると思ってたからさー。服も脱ぎ散らかしてるしやめない?」

「服あんの! 見たい見たい! 後アクセとかコスメも見たい!」

「あるにはあるけど……たまには整理しよっかなぁ」


 頭を気怠そうに掻き、カウンターからダルちゃんは出てくると、ボードの前を通り過ぎ階段を上って行く。


 宿泊部屋があるのは二階らしく、それを追って二階に上がれば待っているのは一枚の木製扉。ノックもせずにダルちゃんが扉を開ければ、雑魚寝の部屋らしく六つのベッドが置かれており、至る所に服や下着がほっぽって置かれている。


 わっほー、これはなかなか過激なお部屋。


「へー、ダルちゃん普段こんな服着てんの? この下着過激過ぎ! ほぼ紐じゃん! あっ、このジャケットいいかも! ソレガシどうかしたの? あぁ、ぼっちには刺激強過ぎって感じ?」

「いや、それがし元の世界で妹と同部屋だから見慣れてますぞ。ただ趣味が大変よろしいなと」

「アンタの妹かわいそー」


 あぁそうかい。脱ぎ散らかされたセクシーランジェリー達を三人で拾いながらさっさと一つのベッドの上に纏めていく。


 「手慣れた感じが無駄にきもい」とギャルの呟きを聞き流し、ある程度できた服の山の大きさよ。服を集め終えると、「持って来て」とダルちゃんに手招きされ、ギルドの外まで連れ出される。


「ほい、じゃあそれ置いてー」

「それはいいですけどな、これどうするんですかな?」

「あってもほとんど着ないし処分するのさ。最低限必要な分は残したし」

「うぇ⁉︎ ちょい待ち! ならいくつかちょーだい!」

「別にいいけど……」

「ダルちゃんマジあざまる水産!」


 服の山に手を突っ込み、幾らかの服をギャルが引っ張り出した後、気怠そうにダルちゃんは欠伸を一つして服の山に指先を突き出した。


「はい着火」

「ちょッ⁉︎」


 ダルちゃんの指先が瞬いたと同時。炎線が空を走り服が弾けて燃え上がる。火柱を上げて燃える服の山、舞い散る燃えた布の破片を前にギャルは目を点にして手に持った服を落とし、それがしの口が間抜けに開いた。


「あー肩凝るわぁ。超絶怠い。魔法使ったのひっさびさ」

「……威力がエグい。ダルちゃんって何の眷属なんですかな?」

「炎神グラッコ。疲れたぁ」


 指先向けただけで呪文も唱えず対象を燃やすとか何それ。モーションがやたら速いし威力は高いし、これがこの世界の魔法の基本なの?


 使えるか使えないかだけで随分と格差がありそうなんですけど。


「そんな威力高いって使い勝手悪そー。でも魔法すごいね! ダルちゃん凄いじゃん! 実は相当レベル高い?」

「別に火力調整ぐらいできるしね、まああたしも眷属になって長いし? 炎神にそこそこ気に入られてるって訳さ」

「炎神氏ってそんな気怠い子が好みなんですかな?」


 炎神などと言われると熱血系が好きそうなのに意外だ。それとも熱血系に囲まれ過ぎたりして熱血系に飽きたりしたのか。怠惰の化身みたいな者達に囲まれた炎神とか……。


 大丈夫か炎神。ってか炎神の姿がイメージできねえ。大きな炎とかイメージすればいいの? 


「何考えてるのか知らないけどさ、炎神グラッコは炎を纏った大きな蛇さ」

「会ったことあるんですかな? じゃあ機械神と武神は?」

「知る訳ない」


 なんでや。眷属にしか会えないとか制約でもあるの? それとも祈れば頭の中に思い浮かぶとか? 手を組んで祈ってみるがまるで思い浮かばない。


 それがしの祈りはどこに飛んでったんだ。返して。


「炎神も、武神も機械神もそれぞれ治めてる土地がある。そこに行けば会えると思うけど?」

「次元神も?」

「次元神は神出鬼没な神様だからさー、聞いたことないけど。この街にはちゃんといるよ、犬神ゾルポス」

「ワン公が神様なの? ちょっと可愛い感じ?」


 犬神って、本当になんでも神様がいるんだな。だから衛兵がワーウルフだったりしたのか?


「聖堂に行けば会えることもあるかもね。じゃあもうさっさと料理作って、お風呂入って、寝るのがいいね」

「食事にお風呂! 待ってたって! よーやっとだし!」

「じゃあソレガシは湯沸かし器動かしてきて、機械神の眷属が触った方がかかりいいからさ」

「湯沸かし器? この世界ってどれだけ機械技術が発達してるんですかな? 魔法などがあるのに」


 文明度合いがちぐはぐだ。街の姿は中世や日本の大正時代の西洋建築物をごちゃ混ぜにした感じであるのに、便利そうな機械があったりする。不思議な世界もあったものだと首を傾げていると、ダルちゃんが怠そうに補足をくれる。


「眷属次第で魔法使えないのもいるし、全員が全員神々との契約者って訳じゃないしね。機械神の眷属の多くは蒸気機関だかの技術者だしさ、色々変なの作ってるのさ。あたしはよく分かんないけど」

「まさかのスチームパンク⁉︎ 色々突っ込み過ぎじゃないですかな⁉︎ この異世界どんな世界⁉︎」

「ソレガシ叫んでないでお湯沸かして来てって! スチームパンクだかなんだか知らないけど、そーいうのは後にして!」


 後に後にってこれまで大分後にしてきたよ! ようやっと色々知ってる人に会えたんだから今聞かずにいつ聞くのか! 


それがしだってそろそろ聞きたい事ありますぞ! 魔王はいるのかとか! スキルとか魔法の種類とか! この世界にいる種族の事とか色々と‼︎」

「魔王って魔族の王? そりゃいるけど、超絶怠いねその好奇心。確かにおたく機械神の眷属っぽいね。理屈っぽい」

「それな! ダルちぃ分かってんじゃん!」


 うるせえ! しかもダルちぃとか自分で付けた名前早速略してるし! 受付嬢は本当にそれでいいのか?


「じゃあサレンは料理よろしくー、雑多地獄煮込み気怠い風味ってな具合で!」

「気怠い風味は余計ですぞ」


 ギルドの中、カウンターの奥にあるらしい台所へと飛び込んで行く二人の背を見送り肩を落とす。暖炉脇の通路の先、風呂場横に置かれたやたら歯車が出ている機械のスイッチを押せば、呼吸をするように蒸気を噴き出しゆっくりと動き始めた。


 「うぎゃあ! きもい!」と台所から響いてくるギャルの叫び声を聞き流し、夕飯に出て来たのはなんかやたら目玉が浮いていたスープ。味は良かったが夢に出そう。


 初日と違い美味しい? ご飯にお風呂にベッド。湯から上がった後ベッドに倒れ込み、すぐに意識は夢の世界へ旅立った。

 

 二日目の夜に不満はない。あるとしたら宿泊料金一週間で一人一スエア。後で相場を知ったが高過ぎだろ常考、ぼったくりだ。

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