14F おいでませ冒険者ギルド

「ここが……」

「ギルドねー?」


大きな木製の看板を、これまた大きな木製扉の上部の壁に張り付けた建物の前で、ギャルと二人看板を見つめる。


 木を売ることができ、手数料諸々引かれはしたが、『今日宿が取れるだけのお金は欲しい』と最低限の希望を伝えて手に渡された銭貨が十枚。幾らの価値があるのかも分からないが、ないよりはマシだ。


 ようやく街の中に入れたかと思えば、街の中を見回すような時間もなく外周の壁に無理矢理貼り付けましたというような煉瓦レンガ造りの歪な建物の姿に肩が落ちるばかりだ。


 なにこれは。城壁を作った煉瓦レンガの余りで作ったの?


 ただ大量に雑多に積み上げた煉瓦レンガの中をくり抜きましたというような見た目。その瓦礫の山から煙突が一本伸びており、白い煙を吐き出している。


 少し遠くに立つビルのような石造りの建造物と比べるとエラく稚拙ちせつだ。初め寄った廃村とは、天と地ほども離れているような文明度合いの中で、急に文明レベルが下がったように見える。


「大丈夫なわけ? 扉開けた瞬間ドチャクソ崩れそーなんだけど」


 ところどころ欠けた不揃いな外壁と、薄汚れた木製扉、ろくでもない生活感ありまくる空気に心配そうな声をギャルは出すが、こんな形でもギルドはギルドらしい。


 全く出て来る者や入って行く者がいない。どころか人気ひとけさえないが、建物があるという事は、一応は本当に冒険者という職業も存在するという事。


 「頑張りな」と道を教えてくれたワーウルフの衛兵が去り際にくれた怖い笑顔を信じ、ギャルに言葉で答える代わりに、入り口の扉を押し開く。


カラカランッ、と扉に付いているベルが音を上げて開いた奥から流れてくる暖かな空気。


 奥では暖炉だんろが口の中で炎を揺らし、部屋の中を照らしていた。


 雑多に積み上げられた外観とは裏腹に、壁は綺麗に歪みなく煉瓦レンガが積まれ、ドーム状の天井からは洋燈ランプがいくつか吊り下げられている。絨毯の敷かれた床と、空気感に馴染んだ使い古された木の調度品。


 品の良いホテルのロビーに勝るとも劣らない空間に、「うわぁ」と思わず感嘆の声が漏れる。それもそれがしと合わせて二つ。


「すっご……なにこれ。まだよく見てないけど街も凄いし、ここって夢の国かなにか? 鬼エモい!」

「まあ異世界ですからな……いやしかし、これだけでこれまでの悲惨な一日を帳消しにできますぞ」

「できるできる! ソレガシちょっと撮って撮って!」

「それは構いませんが、……うわぁ、服のせいで合成感が半端じゃない」

「マ? うわぁガチじゃん。ファンタジー風に制服改造しよっかなー」

「まだ制服着る気なんですかな?」

「ソレガシのも改造してあげよっか? そのままじゃダサいし」


 ダサいとかどうでもいいわ。異世界に来てしまったのにいつまでも学生服を着る意味。


 異世界からやって来た者の指標にはなるかもしれないが、この先ずっと帰るまで学生服で行く気?


 「どーせならもう肩出したまんまもいいかも」と改造案を口遊むギャルは放って置き、室内へと目を戻すが、人の姿が全くない。


 もっとギルドというのはにぎわってるものではないのか。閑散かんさんとし過ぎている。


 幾らかの椅子やテーブルはあるものの、座っている人影はなく、どうしたものかと首を捻っていると、受付らしい大きなカウンターから赤い煙が薄く立ち上った。


「らっしゃあせー……ん、見ない顔だね」

「……あ、どうも」


 気怠げに身を起こしたウェイトレスのような格好をした若い女性と目が合い、少し間を開け会釈えしゃくする。


 種族は同じ人間のようで少し安心したが、ぼさついた赤毛を纏めもせず、申し訳程度に頭にカチューシャを乗っけた眠たげな目の女性。カウンターから出て来た辺り受付嬢っぽいが、全くやる気を感じられない。


 受付嬢は面倒くさそうに頭を掻いてそれがし達を見回し、怪訝な表情を浮かべると、「なんか用?」と口にくわえている細い煙管パイプから赤い紫煙を吐き出しながら聞いてくる。


「あー……冒険者になるにはここに来ればいいと聞いたのですが。お姉さんが案内してくれるんですかな?」

「ぼうけんしゃー? そうだけどさぁ、見たところ若いんだからもっとマシな仕事探した方が身の為だって。じゃあそういう訳でお帰りはそっち」

「こんな事ある?」


  出だしでお帰りを勧められた。


 受付嬢が指差すのは、今まさに通って来た入り口の木製扉。「ちょっとソレガシ」とギャルにまで冷たい目を突き刺され逃げ場がない。

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