12F 目指せ街! 4

 河に揺られ幾数時間。


 初め落ちた河と別の河なのか、繋がっているのか、それさえ分からない。何故なら地図が水没してご臨終したからだ。


 開いた瞬間離れ離れになり、河底へと大事な部分が沈んで行った。


 だが問題ない。全く問題ない。地図など明後日の方向へぽーいだ。


 地図を投げ捨てた先に広がる背の高い城壁。目指していた都市は目と鼻の先。


 背の高い見上げるような……見上げるような……マジでデケェな。


「鬼高ぇんだけど……、いくつあんのこれ……」

「さあ? 五〇メートル程でありますかな? 分かりませんが」


遠巻きに見た時は多くの高層建築物の姿が見えたが、近付くとほぼ城壁しか見えない。


 壁から僅かにせり出た見張り塔が一定間隔に並び、覗き窓のような丸い穴が同じく並んでいる。材質は煉瓦レンガに近いのか、赤っぽい外壁の肌は歳月に削られ、黒っぽくすすけている。


 それでも大きな欠けやへこみがないあたり、細かく補修しているのか、それとも襲うようなモノがいないのか。


魔物が闊歩かっぽする世の中にあって、これだけ巨大な都市を築ける技術力から言って、文明のレベルは低くはなさそうだ。


 強靭な生物がいるだけに、それだけ知恵を持つ者も技術を磨いているという感じか。


 これ無双とかそういうレベルの話じゃなくね? と持ち得る異世界の知識との相違に感心していると、ギャルに肩を小突かれた。


 今度はなんだ。


「それでさ、これどーやって街に行くわけ? 河渡らなきゃダメな感じ?」


 河の水面へ目を落とし、河底の見えない河の流れに目を這わせて肩をすくめる。


 河渡れって? また鰐魚わにざかながいるかもしれないのに? 木が太いだけにここまで無理なく流れて来れたのにここでドキドキ度胸試しとか勘弁。


「なにその顔! 腹立つ! んな顔されても河渡らなきゃ行けないし!」

「何を言うかと思えば、アレを見るといいですぞ」


 河の先は城壁の中へと伸びている。街の中を横断しているのか、このまま流れに乗るだけで自動で街の中へご案内という訳だ。


 これだけ文明が高ければ、野蛮人でもあるまいし、住人と出会って早々に首を刎ねられる事もないと思う。へし折れた大木は正に夢の世界への遊覧船という訳だ。


「わざわざ何が出るか分からない河の中へ足を落とすなんて事しなくても、このまま行けば万事無問題という訳ですぞ。それがしの作戦通り!」

「嘘くせー。絶対行き当たりばったりっしょ。でも確かにこのまま行けば安全って感じ?」


 納得したように頷くギャル。良かった、つまり後はただ待てばいいという訳だ。


 寂れた廃村でもない文明の輝きが強い都市の城壁を、二人体育座りしながらぽけらーっと見つめる。大地の上に居たなら走り駆け寄りたいところだが、残念ながら河の上。それでも幾分も肩の荷は下り、そうするとむくむく押さえ付けていた欲求が顔を出し始める。


 そしてそれはギャルも同じであるらしい。


「お腹減ったー、服も着替えたいしお風呂入りたいー。あんよね? こんだけおっきいならあんよね?」

「あるでしょう。そりゃあるでしょう。ただ問題はお金がないでしょう」

「あー……ないわ。U吉ならあんけどさ」

「それ多分ティッシュ紙より無価値ですぞ」

「うげー、マジありえんてぃ……頑張ってたバイトの意味。どーすんのよ」


 どうするも何も、お金が必要なら働く以外にない。だからこそこういう場合、異世界なら、先人達の築いた法則の通り冒険者になるのが手っ取り早いのだろうが、それさえ無視してお金を得るなら手持ちの物を売るしかない。


 制服か財布かスマートフォンか。


 一度ならず濡れたぐしょぐしょの服や、財布がそう売れるとも思えないが。スマートフォンならワンチャンある気がする。


「スマホ売りますかな?」

「それだけはないっしょ。なきゃ困るくない? 絶対ないわ」

「そこで絶対と言い切る勇気。電波もなければただの光る箱ですぞ。だいたいもうバッテリーも少ないですし」

「ならアンタが売って、あーしは売らないから。これだけは手放さないし! ダチコ達との写真とかめっちゃ入ってんから!」

それがしのスマホそんなのないわ」

「よかったじゃん」


 よくねえわ。他人のスマートフォンを生贄にする気満々過ぎる。


 なくても困りはしないが、それがしだけ売るとか癪ではある。


 ただ、軍資金が必要なのは事実。


 売れるようなら仕方ないかと唸っていると、「困るよー」と心の声が漏れ出たような声が響いた。それがしの声でもギャルの声でもない。実際に響いてる訳で心の声でもない。


 聞こえた声にギャルと共に目を向ければ、長い槍を担いだ生き物が腰に手を当て眉を波打たせそれがし達を見つめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る