11F 目指せ街! 3
「もーなんなのアレ⁉︎ なんであんなのばっかいんのよ⁉︎」
「弱肉強食のピラミッドの下層が強ければ、それだけ上にいる者も強い的な話じゃないですかな! 少なくともスライムよりは強そうですし! 今こそそのピラミッドに空手キックを打ち込む時ッ!」
サムズアップして見せると、その手を強く叩き落される。最高の案だと思ったんだけども。
「あんな鎧みたいな肌してん奴に効くわけねえから! アンタこそなんかないの? 昨日から逃げてしかないけどさ!」
「まったく、もう少し考えてから喋って欲しいですな。逃げなくていい手があったならそもそも逃げる訳ないと気づきませんかな?」
「んでそんなダサいこと偉そうに言えるわけ⁉︎ なんか腹立つ!」
「ではこういうのはいかがか? 取り敢えず二手に分かれて逃げるというのは?」
「却下ッ‼︎」
討論する暇もなくシャットアウトされた。掲げたVサインを力なく下げる。
二手に別れて逃げれば目立つ髪色から言ってギャルを追うと思ったのだが、
そんな言い争いをしている間に重い足音が背後から聞こえて来た。背後を確認する暇も余裕もなく、ギャルの腕を引っ張りながら緩やかな斜面に飛び込む。
体を舐めとるような風が横を流れ、それに続き響く轟音。
木の崩れる音を聞きながら、振り返らずに走り出す。
「……どうやら一度走り出せば急には止まれない様子。なら対応する手段がありますぞ」
「マ? アンタってやっぱ以外と──」
「つっかえ棒のように木を構えて待てばあっちから勢いのまま突っ込んで突き刺さるはず! そうすればお陀仏ですな!」
「確かに‼︎ で? 誰が待ち受けんの?」
無言で手を差し出せば叩き落とされる。だってあんなのに突っ込まれたら殺せても確実に待ってる側も死ぬし、お陀仏にできてもお陀仏する。
「一人一殺の大和魂を今こそ見せる時!」
「じゃあアンタがまず見せろって! さりげ生贄にしようとしてんじゃねえし!」
「あー、だったら。あー、うーん──ぷぇッ⁉︎」
何かないかなーと、思考の海に潜っている頭が、強く蹴り出され強制的に浮上。目の端に映る足を伸ばしたギャルの姿。
ゴロゴロ苔の中転がり木を見上げ、これしかないと指を弾き立ち上がった。
「ゴホッ、ゴホッ……上ですぞ! こうなったら木に登るしかありませんな!」
「いや、木って、アレ普通に木をへし折ってんだけど⁉︎」
「これだけ背の高い木だったら、倒れる拍子に飛び移れますぞ! それを繰り返せば結果的に逃げ切れるはず!」
「それいいじゃん! で? どうやって登るわけ?」
背の高い木は一番低い枝でもそこそこ高い。手を伸ばしてみるが
馬鹿を見るような冷めた目を向けて来るギャルに向けて、組んだ両手をバレーボールを受けるリベロのように差し向ける。
「カマーンッ! これで
踏み台にッ⁉︎
遠慮も何もあったものではない。後は足に力を入れ、バネのようにギャルを掬い上げるだけなのだが……膝が落ちる。
「重いッ!」
「重くねえしッ!」
上がらねえ! いや、重いわ!
ギャルが何キロあるのかは知らないが、全く上がる気配がない。歯を食い縛り唸っていると、顔の前にスカートが舞い、影が視界に落とされた。
「ぶッ⁉︎」
マジで踏み台にしやがった!
階段を駆け上がるように手から顔に足を伸ばし飛び上がるギャル。頭上の枝を掴み、振り子のように足を振って登り切ったギャルの腕が伸ばされる。
一般人の動きじゃねえ! このギャルマジで宇宙生物なんじゃ……。
「ソレガシ早く! 来てんから!」
「それよりももっと気になることが、お主なに奴?」
「バレては仕方ない……とか言ってん場合じゃねえし! 曲者に対して言う
地鳴りのような足音を聞き、顔を
がっちり掴んだギャルの手は、そのまま大根を引き抜くように
少し遠巻きの木が倒れる木の音を聞きながら目を丸くしてギャルを見つめていると、ギャルは恥ずかしそうに指でサイドポニーの毛先を弄りそっぽを向く。急にどうした?
「そ、そのさー、あーし中学まで空手やってたみたいな……」
「……でしょうな」
「ソレガシよく気付いたね」
あれだけ見事な蹴り放られて素人だと思う奴などいないよ。よく気付いたじゃないよ。バレバレだよ。ギャルが空手か武術やってるなんて名探偵じゃなくても分かる。
照れて顔を赤くするギャルの姿は、可愛らしいと言うか恐ろしい。これだけ自分を着飾っといて蹴りまで殺人級とか。逃げるように木を登っていると、「ちょっと!」という声が追いかけて来た。なんだ。
「なにさっさと一人だけ登ってんの? でしょうな、ってそんだけ?」
「他に何を言えと? 頼もしいからあの魔物を小石みたいに蹴って欲しいくらいですかな」
「それは無理だけど、ふーん、じゃさ、アンタはないのなんか?」
「何かとは? それ今聞くことですかな?」
「あーしの秘密教えたんだし言いなって、今聞かなきゃ逃げそーだし」
別に秘密でもない程にこれ見よがしに蹴りを放っていたように思うが、状況が状況だからか。魔物に狙われてる最中になぜ秘密など話さなければならないのか意味不明。だが、放って置いてもムクれられるのも確実。
仕方ないので、ため息を吐きながら、渋々口に出す。
「……
「……アンタ急に『
「別にそういう訳じゃ……まあ家の方針みたいなものですぞ」
「ふーん……どこもおんなじか」
「お主なに言って────」
ギャルは続けて口を開きかけたが、大きく揺れた木と衝撃に木からずり落ちそうになり、強引に口を閉ざされる。
枝になんとかしがみ付き、傾いて行く視界の中で、ギャルが「あっ」と声を漏らし指を伸ばした。
森の先、地に走る緑の境界線の向こう側。木の姿は消え失せ、伸びる河と道の先に繋がる城壁のような壁と幾らか見える鉄の門。その城壁の奥に立つ背の高い塔や四角い建造物の姿に目を見開く。
弧を描いている城壁の奥に広がる、巨大な建造物群。鳥ではない何かが都市上を舞い、道と城壁の下に見える
目指していた都市の姿が一枚の絵画のように佇んでいた。
ゲームや絵で見るのとはまるで違う、世界に息づく幻想都市。まだ幾分か距離がありながら、それでも伸ばした手に収まらぬ雄大さに吐息が零れる。
今朝出た廃村とは、規模も文明の度合いこそ異なる巨大さに心奪われ、何故木が傾き視界が開けたのかもう少し考えるべきであった。
傾いた木の先。晴れ渡る青空と、途切れた大地と眼下に広がる河の姿に、ギャルと今一度顔を見合わせた。
「……またですな」
「……それな」
河に落ちる。落ちるのもエレベーターの時から数えて三度目。
三度目ともなると、慌てるどころか先に諦めが来るようで、身に降り掛かる浮遊感を木に押し付けるように枝を握り締め、折角乾いた服が再び濡れた。
濁った視界と音を聞きながら、木にしがみ付き、柔らかな世界から這い出たところで、獣の叫びが崖上から放たれた。
それを耳にしながら太い幹の上でギャルと二人寝転がり、どんぶらこっこ流れる木に任せて都市に下る。
「……森から抜けたなう。はいソレガシ、ピース」
「それ、誰が見るんですかな……」
天に伸ばされたスマホの画面に、ギャルと二人濡れたまま並びシャッターが切られる。
小さく笑うギャルに釣られて
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