9F 目指せ街!

「おはーソレガシー! ボーン! そいじゃあテンアゲで行こー!」

「……うぇーい」

「もっともっと! バイブス上げちゃって!」

「……ypaaaaaa」


 朝っからうるせえ! なんでそんな元気なの?


 未だ眠たい目をまたたきながら、乾いたセーラー服に着替え直した目覚まし時計に手を挙げ応える。


 昨日は「帰りたいきもい意味分かんない」と愚痴を並べ立てていたのに、寝て起きたら諸々がリセットされているようで何よりだ。


 「テンション低くね?」とギャルに顔を覗き込まれるが、それがしのテンションが低いのではなく、ギャルが高いのだ。異常な高さだ、大丈夫? テンションメーター壊れてない? 


「うっし! そいじゃあおっきい街目指して出発しよ!」

「待たれよ」

「えー……なにいきなり? テン下げだわー」


 テン下げじゃない。寧ろその調子でテンションを一先ず下げよう。手のひらを掲げ、『STOP!』と歩き出そうとするギャルを押し留める。


それがしも街に向かうのは賛成ですぞ、ただ、一先ず大きな方針を決めた方がよくないですかな?」

「方針?」


 首を傾げるギャルに大きく頷く。


 初日は初めての異世界、急激な世界の変貌に呆気に取られろくに頭を働かせる事ができなかったが、それがしも一日経って落ち着いた。


 目が覚めた時、それがしを揺り起こすギャルの顔があり、『あー異世界に来たの夢じゃないんだ』と少しばかり消化できた。


 起き抜けに「魔物?」と言ったら頭を叩かれ目も多少はえたし。


 だからこそ、先に決めておくべき事を決めておきたい。


 このままだと切り出すタイミングが行方不明になりそうであるし、一人でない以上目標の擦り合わせが必要だ。


 擦り合わせられるかが問題だが。


「何のために動くのかを決めておいた方がいいですぞ。街に行くのはいいとして、最終目標が何なのか」


 ぶらぶら散歩する為にこんな所に居る訳ではないのだ。犬も歩けば棒に当たるように、人が歩けば魔物に当たるかもしれない異世界で、漠然と動くのは危険が高いと見える。


 この世界で知っている存在など、悲しい事であるがお互いだけ。目的を共有しておかなければ、またギャルに蹴られかねない。


「まあギャル殿がこれからも二人で動くつもりでいるならですが」

「ハァ? 二人で動くって、そんなの当たり前じゃん」


 即答された。当たり前なの? いつ決まったのそれ。


 腕を組んでほとほと呆れたと首を振るうギャルの姿が鼻に付く。ギャルの中では何かが既に自己完結しているらしい。


 それを当たり前と言われても、それがしの中では全く当たり前ではない。


 誰か通訳をくれ。相手の心の声が聞こえるようになるだけでもいい。


「ここまで来たら、んだっけ? いちれん……いちれん……一蓮畜生いちれんちくしょうってやつ?」

「なんですかなその地獄絵図は。亡者の行進? それを言うなら一蓮托生いちれんたくしょうでは?」

「それそれ!」


 一蓮托生いちれんたくしょう、仲間として行動や運命を共にする事。


 『仲間』などと昨日の一件を踏まえて言えるものか怪しい、わざわざそれを言うという事は……いや、言えてないわ。一連畜生いちれんちくしょうだったわ。


 仲間は仲間でもなんか凄い悪友っぽい。ろくな末路を辿らなそう。地獄に落っこちそう。


 ……あぁ、もう落ちてたわ。


「それに最終目標って、元の世界に帰る以外になくない? でしょ?」

「まー……そうですな」


 訳も分からず落っこちて、自分の足で歩き辿り着いた訳でもない。


 死んで転生した訳でもなく、急に落っこちただけ。


 千切れた昇降機エレベーターのワイヤーを辿るように、元居た世界に帰る事。最終目標としてはまあ悪くない。


「じゃーそーゆーことで! 帰り道知るためにさっさと街目指して出発!」

「別に街に着けば帰れる訳じゃないのですが」

「そー言うこと言うなっつの!」


 ビシッ! と突き出されたギャルの指先を払うように手を振り、街を目指して一晩借りた廃村を出発した。


 

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