7(完)
一ノ瀬がトリプルキルを決めた事で戦況が大きく変わった。
生存者各々一名ずつ。
一ノ瀬 残機2。
ロイ 残機1。
「おらぁあああ! どこに隠れてやがる! クソったれがぁあああ!」
ロイは咆哮を上げながら、ガトリング砲を狂ったように乱射していた。
その様子を離れた家屋の三階から覗く一ノ瀬。
――クズなりに頭が働くようだな。
やつは半狂乱に陥っているように見せかけて実は冷静だ。
ステルスで接近されないように建物からは距離をとっているし、ガトリングで遮蔽物を破壊しながら行動範囲を広めつつ炙り出しを行っている。
二人がキルされてしまったのは誤算。ここからはアドリブが必要だった。
一ノ瀬は一旦落ち着いて使用可能なスキル、手元に残された武器やアイテムを確認した。
スキルはステルスとカバーディフェンス。
銃器はアサルトライフルと弓……
――弓? そうだ……弓は火炎瓶などのアイテムを装着し飛ばす事が可能だったはず。俺の残りのアイテムは……
その頃ロイは内心焦っていた。
このまま時間切れで逃げられるのではないかと。
だから矢が飛んできた時はとても嬉しかった。
例えそれがスモークグレネード付きであっても。
「うっぜえなあ! どこから投げてきやがったぁ⁉」
それも芝居。
グレネードが炸裂する直前の地面に突き立った矢の角度と方向を視認していたロイは心の中で標準を定めていた。
それはまさしく一ノ瀬が潜伏している建物。
スモークが煙る方に銃口を向けて後退しながら、本当は背後の建物に獲物がいると知っていた。
――やつの描いているシナリオはきっとこうだ。
スモークに気を取られている間に限界まで近づき、ステルスを使ってさらに接近してナイフでグサリ。
――でも、そうは行かねぇよ! 死ねえ! バカがぁ!
ロイは引き金を引きながら振り返り、扇状に一帯を掃討した。
しかし一ノ瀬の骸が転がることは無かった。
「何い⁉ じゃあ、やつはどこにッ⁉」
背後に冷たい殺気めいたものを感じ振り返った。
スモークの煙が揺らめき、ふわっと霞から浮き出でるようにナイフを手にした一ノ瀬が現れた。
「来るなぁああ! 死ねえぇええ!」
わけも分からず乱射。
弾は一ノ瀬の体に吸い込まれるようにして消えて行った。
ロイは死を悟る最中、一ノ瀬の残機が減っている事に気づき確信を得た。
一ノ瀬はリスポーンチェンジャーを矢に装着してスモークの中に発射。そして自ら命を絶って煙の中から現れ、リスポーン後の無敵時間を利用して特攻を仕掛けたのだ。
そして一ノ瀬の最後の一撃が喉を掻っ捌いた。
確実に仕留めるために自害までする異様な執念にロイは恐れ、その言葉を口にした。
「どうして……そこまで……」
「お前らは俺たちを怒らせた。理由はそれだけで十分だ」
完全に戦意を喪失したロイは返事もできず事切れ、空にはVictoryの文字が浮かび祝福の花火が上がっていた。
それからほどなくしてパッチが入り、戦闘準備中の装備スコア変更はできなくなった。
例の三人組は名前と顔がネット上で晒され社会的に死よりもつらい目に遭ったと言う。
まあ、たった1キルでは腹の虫が治まらなかった誰かさん達がやった事なのだがそれは機密事項だ。
自衛官を怒らせてはいけない 和五夢 @wagomu
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