手術室

ツヨシ

第1話

家の近くに廃墟となった病院があった。

小さな総合病院くらいの規模で、いつしか幽霊が出ると噂が立った。

だがまわりが住宅地で、心霊スポットめぐりの輩に対して苦情が出ていたために、僕は小さい頃から親に「あそこに近づくな」と言われていた。


ところがある日、同じクラスのひろ君が「昼間にこっそり行けばいいんじゃないの」と言い出した。

僕も興味がなかったわけではないので、ひろ君の意見に乗って、日曜の昼間に廃病院に二人で行くことにした。

その日、病院近くで待ち合わせをして、病院に向かった。

そして中に入った。

廊下は窓がないが、病室などは窓があって入り口が全て開いていたために、思っていたよりも明るかった。

中はほこりまみれで、ひどく湿気ていた。

なんともいえない変な臭いが充満している。

聞こえてくるのは僕とひろ君の足音だけだ。

そのまま進むと突き当たりの部屋に着いた。

そこだけ扉が閉まっている。

観音開きで、今までのどの扉よりも大きな扉だ。

ひろ君が迷わず戸を開け中に入り、僕も続いた。

そこはどう見ても手術室だった。

中央に手術台があり、上には大きなライトがある。

手術台に近くに、見たことがあるようなないような機械がいくつかあった。

手術台には白いシーツがかけられてあったが、そのシーツの中央付近が何かで染まっている。

――なんだ、あれは?

二人で近づき、同時に気付いた。

赤い液体。

どう見ても大量の血だ。

それもついさっき流れ出たばかりの。

――!

あまりのことに身動きできずにいると、聞こえてきた。

すぐそばから、はっきりと。

「痛い痛い痛い痛い!」

子供の声だった。

女の子の。

しかしここには僕とひろ君しかいない。

「うわっ!」

ひろ君が走り出した。

僕もつられて走り出す。

そして病院を出て、家に着くまで走り続けた。


あれから何年もたつ。

廃病院は取り壊されることなく、いまでもある。

しかし僕はあれ以来、あの病院には一度も行っていない。


       終

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手術室 ツヨシ @kunkunkonkon

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