第22話 夜の花し

「あらっ、いらっしゃい」

 私はジャネットの言葉が胸に引っかかり、一人で彼女の家を訪れた。


 ———今度来るときは、夜にきてもらえるかしら。


「どうぞ、お入りなさい、ミロ」

 彼女は前と同じように扉を抑えてくれているので、一礼をして中に入る。ドアから入ってきた夜風でろうそくの炎がゆらゆらと揺らめいている。

 この前の明るい印象のだった部屋が、どこか不気味に感じる。花々もおどろおどろしい。空気も重く感じる。息もしづらい。


 私は植物たちが飾っている部屋ではなく、奥の部屋へ案内される。そこには暖炉があり、暖かい。

「じゃあ、なるべく手短に話をしましょうか。あなたは疲れているみたいだし、もっと身体を大事にしないといけないわ」

 ジャネットはにこりとする。


「ねぇ・・・話してくれないかしら、あなたの闇を」

 目を合わせていると見透かれそうになる。いや、すでにわかっていて、聞いているような気がした。

「うっ、あっ・・・」

「ゆっくりでいいから。深呼吸をしてごらんなさい。ミロ」

 私は言われるがままに深呼吸をする。

 

 あまい・・・香り。

 心が落ち着き、なんだか少し眠くなる。


「さぁ、なにが起きたの。話してくれるかしら」

「えぇ・・・実は———」




 私はハッとする。

 気が付くと、ジャネットは紅茶を注いでいる。

「どうぞ、ミロ」

「あぁ・・・えぇ」

 私は息を吹きかけながら、紅茶を口に運ぶ。

 

 やはり、ジャネットの入れてくれるお茶はおいしい。

 目が覚めるというわけではないが、頭と体が少し寝起きのようなだるさがあったが、少し軽くなった。


「やっぱり、あなたと私は似ているわね」

「んっ」

 私は飲んでいる最中だったので、吹きこぼしそうになる。

 

 私はなんとなくだが、エヴァレットの話や、自分の研究の話をしたのを覚えている。ただ、夢の中で話しているような感覚だったが、どうやらジャネットのリアクションを見るに事実だったのだろう。

 私がそんな風にするなんて、信じられないが———。


「じゃあ、今度は私の番」

 ジャネットは扉の方に行く。

 そして、ゆっくりとドアを開ける。

「いらっしゃい。キュタイン」

 すーっと、正装した男が入ってくる。色白で均整的な顔だが、目は虚ろ。そして、傷を大きく縫った跡があるので、私は思わず口を覆う。

 

 出てきそうな声を抑えて、飲み込む。

「・・・初めまして、私はミロと言います」

「・・・」

 男は答えない。

 私はどうしていいのかわからずに、ジャネットの顔色を伺う。

 そうすると、ジャネットは彼を愛おしそうに見て言う。


「うぅぅぅっ、うがあぁああ」

 だらしなく、開けっぱなしになる口。

 そんな彼をジャネットは愛おしそうに抱きしめる。

「彼は、キュタイン。私の夫。一度死んだ人よ」

 



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガラクタでいさせて 西東友一 @sanadayoshitune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ